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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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絆の島12-キンとクロ

 前回まで:キンとクロが落ち込んでいます。


 クロは、暫く落ち込んでいたが、ふと思い出して、キンに訊ねた。


「オレ、何で呼ばれたんだ?」


同じく、密かに落ち込んでいたキンは、その声で我に返り、


「あ……ああ、確かめたい事が有ってな」


キンは、クロの正面に座り直す。


「先日、長老会から、正式に王太子に、との打診があった。

勿論、ハクにもだ」


「受けたのか?」


「いや、時期尚早と留保した」


「どうして?」


「長老会には、深刻な危機を察知しており、今、人界から離れる事は出来ない為、と回答したが……

本当は、アオが儀式に出席できない為だ。


特級儀式の欠席は、王位継承権の放棄と見なされる。

王族としての地位も危ぶまれるのだ。

そうなってしまうと、無論、国としても大損失だが……


……我が儘だとは解っているが、私自身が、アオ抜きの統治など考えられない……


いや、まだ、正直では無いな……


私は…………皆、揃っていなければ嫌なのだ」


「キン兄……」


「すまない……

皆を自由にさせてやりたい気持ちと、ずっと共に居たい気持ちが、いつも(せめ)ぎ合っているのだ」


キンは、フッと自嘲の笑みを見せた後、俯いた。


クロが初めて見る、そんな長兄の表情に、戸惑いながらも近寄ると、キンの頬に涙が伝った。


「ありがとう、キン兄」

ぎゅうっと抱きしめた。


「オレ達……皆、将来、キン兄とハク兄を補佐したいから努力してるんだ。

王家を離れて気儘に生きたいなんて、ぜんっぜん考えたことないよ!

だから……ひとりで抱えないでよ……」


「クロ……ありがとう……」



 暫く、そうして浸っていたが、キンは話が途中である事を思い出した。


「クロは、人界(こちら)で殿様に――」

「ならねぇし!」間髪入れないクロ。


「あの姫を娶るのかと思っ――」

「いやいやナイナイッ!」

クロが首をブンブン横に振る。


「まあ聞け。

これから、私達は、人と接すると決めた。

竜としてな。まぁ、少しずつだが……

人と接していれば、クロに限らず、誰かが人を娶るかも知れぬ。

だから、一応、長老会には確認しておいた」


「……それで?」


「現状の、竜と人との関係では、王太子には許可されない。

いずれ、変えるつもりではいるが……

残念ながら、現状では覆せない。


つまり、私とハクが、何らかの事情で王に即位するか、王太子でなくなれば、アオとクロが王太子だ。

そうなった時の事を、互いに、よく考えて話を進めるよう――」


「だ~か~ら~、そんなんじゃねぇって!」


「そうは言うが、人の一生は短い。

子を産める期間を考えれば、早急に決めねばならぬと思うが?」


「ったく! みんなして、そんな風に――ん?

なぁ……キン兄……

竜と人の子って、卵で産まれるのか?」


「人が女性なら、赤子だと思うが……

自分で確かめたらどうだ?」


「んなことできるかっ!!!」


一拍あって――


キンが吹き出した後、爆笑した。


クロも、つられて笑いながら、


 キン兄、どうしたんだろ?

 こんなに大声で笑うの、初めて見た。


と思っていると――


「初めてだ! クロが私に……

皆と同じ言葉遣い……でっ」また笑う。


「そこかよっ」あははははっ♪


「嬉しいから仕方ないだろ」あははははっ♪


さんざん笑った後、

「何て言ったらいいのか、わかんねぇけど……

なんか……そうだっ! 卵に戻れた感じだ!♪

みんな一緒に並んで、寄り添ってた頃に……

みんな、おんなじだった頃に戻った感じだよ」


「わけわからんが……なんだか、わかる」


夜明け近くまで二人は話し、笑い続けた。



♯♯♯



「あ、オレ、そろそろ戻らねぇと……」


「そうか」


「寂しい?」


「それは……当たり前だろ」


「できるだけ戻るようにするよ。

ん~ なんか違う……


ここが家だから、帰りたい場所になったから、ちょっと行ってくる!

んで、すぐ戻る!

って、これも何か変だ~」あはははは……


「気持ちは、よく解った」


「うん!」立ち上がる。

「じゃ、行ってき――」描きかけの絵が見えた。


「キン兄……これ……」


「ああ、だから、また話を聞きたい。

行ってもいいだろうか?」


「もちろんっ! 二人も喜ぶよ!」



 黒輝と金華の竜は、楽しそうに絡みながら、明けに向かう空へと舞い上がった。




♯♯ 天界 ♯♯


 その頃、天界の最果て、天亀の湖では――


「――と まぁ、儂が知っておるのは、だいたい、こんな所じゃ。

儂の話は、お前さんらの役に立ちそうか?」


「もちろんです!」ハクとフジ。


「そうか……それならば良しじゃ」


「翁亀様……もしや……」ハクは、やっと気付いた。


自分達に話した事で、今後、翁亀が命を狙われるであろう事に……


「今、魔界を支配しておる者の情報網を侮ってはならん。

お前さんらも、覚悟はしておろうが、おそらく、まだまだじゃ。

話を始める前にも言うたが、これから『知る者』として、命を狙われる。

常に、その事、心せよ」


「俺は、ここに残り、翁亀様を護ります!」


「ハクよ、その言葉は嬉しいが……

それでは、儂が話した事が活かされん。

儂が『知る者』となってから、どれだけ生きてきたと思うとる?

心配は要らんよ」と、笑う。


「翁亀様……」


「まぁ、そんなに来たいなら、団子の運び屋にでもなってもらおうかの♪」


新たな覚悟を胸に、三人は清々しい明けの空を見上げ、笑った。





凜「これまでは、キン様と話す事って?」


黒「無かったなぁ。

  天界じゃ、全然だったし、

  人界に来てからも、たいして……

  ん~、まともに話した記憶が無ぇよ」


凜「他の兄弟とは?」


黒「やっぱ、あんま無ぇな」


凜「人界に来てからは、みんな洞窟で一緒に

  居たんでしょ?」


黒「洞窟に戻っても、各々、部屋に居たし……

  だいたい忙しかったからなぁ。

  サクラなんて、部屋から出なかったしなぁ。

  だから、天界に居た時と大差なかったよ。

  アオが洞窟に現れてからだな。

  フジやサクラと話すようになったのは」


凜「天界では、他の兄弟とは?」


黒「ハク兄とは、けっこう会ってたし、

  話してたよ。

  アオとも、まぁまぁ会えたかなっ。

  アカは、会っても、ああだし~

  フジには滅多に会えなかったなぁ。

  サクラには全然だったよ。

  あ、そういや、サクラが生まれてからは、

  アオには会ってなかったな」


凜「じゃあ、七人兄弟でも、各々ひとりっ子?」


黒「そんな感じだなぁ。

  屋敷には蛟達しか居ねぇし……

  両親とも……父上とは、たま~に話したが、

  母上とは…………覚えが無ぇ」


凜「王子様って……かなり可哀想なのね……」


黒「今は、だからこそ楽しいぞ♪」


凜「うん。良かったね~」


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