絆の島12-キンとクロ
前回まで:キンとクロが落ち込んでいます。
クロは、暫く落ち込んでいたが、ふと思い出して、キンに訊ねた。
「オレ、何で呼ばれたんだ?」
同じく、密かに落ち込んでいたキンは、その声で我に返り、
「あ……ああ、確かめたい事が有ってな」
キンは、クロの正面に座り直す。
「先日、長老会から、正式に王太子に、との打診があった。
勿論、ハクにもだ」
「受けたのか?」
「いや、時期尚早と留保した」
「どうして?」
「長老会には、深刻な危機を察知しており、今、人界から離れる事は出来ない為、と回答したが……
本当は、アオが儀式に出席できない為だ。
特級儀式の欠席は、王位継承権の放棄と見なされる。
王族としての地位も危ぶまれるのだ。
そうなってしまうと、無論、国としても大損失だが……
……我が儘だとは解っているが、私自身が、アオ抜きの統治など考えられない……
いや、まだ、正直では無いな……
私は…………皆、揃っていなければ嫌なのだ」
「キン兄……」
「すまない……
皆を自由にさせてやりたい気持ちと、ずっと共に居たい気持ちが、いつも鬩ぎ合っているのだ」
キンは、フッと自嘲の笑みを見せた後、俯いた。
クロが初めて見る、そんな長兄の表情に、戸惑いながらも近寄ると、キンの頬に涙が伝った。
「ありがとう、キン兄」
ぎゅうっと抱きしめた。
「オレ達……皆、将来、キン兄とハク兄を補佐したいから努力してるんだ。
王家を離れて気儘に生きたいなんて、ぜんっぜん考えたことないよ!
だから……ひとりで抱えないでよ……」
「クロ……ありがとう……」
暫く、そうして浸っていたが、キンは話が途中である事を思い出した。
「クロは、人界で殿様に――」
「ならねぇし!」間髪入れないクロ。
「あの姫を娶るのかと思っ――」
「いやいやナイナイッ!」
クロが首をブンブン横に振る。
「まあ聞け。
これから、私達は、人と接すると決めた。
竜としてな。まぁ、少しずつだが……
人と接していれば、クロに限らず、誰かが人を娶るかも知れぬ。
だから、一応、長老会には確認しておいた」
「……それで?」
「現状の、竜と人との関係では、王太子には許可されない。
いずれ、変えるつもりではいるが……
残念ながら、現状では覆せない。
つまり、私とハクが、何らかの事情で王に即位するか、王太子でなくなれば、アオとクロが王太子だ。
そうなった時の事を、互いに、よく考えて話を進めるよう――」
「だ~か~ら~、そんなんじゃねぇって!」
「そうは言うが、人の一生は短い。
子を産める期間を考えれば、早急に決めねばならぬと思うが?」
「ったく! みんなして、そんな風に――ん?
なぁ……キン兄……
竜と人の子って、卵で産まれるのか?」
「人が女性なら、赤子だと思うが……
自分で確かめたらどうだ?」
「んなことできるかっ!!!」
一拍あって――
キンが吹き出した後、爆笑した。
クロも、つられて笑いながら、
キン兄、どうしたんだろ?
こんなに大声で笑うの、初めて見た。
と思っていると――
「初めてだ! クロが私に……
皆と同じ言葉遣い……でっ」また笑う。
「そこかよっ」あははははっ♪
「嬉しいから仕方ないだろ」あははははっ♪
さんざん笑った後、
「何て言ったらいいのか、わかんねぇけど……
なんか……そうだっ! 卵に戻れた感じだ!♪
みんな一緒に並んで、寄り添ってた頃に……
みんな、おんなじだった頃に戻った感じだよ」
「わけわからんが……なんだか、わかる」
夜明け近くまで二人は話し、笑い続けた。
♯♯♯
「あ、オレ、そろそろ戻らねぇと……」
「そうか」
「寂しい?」
「それは……当たり前だろ」
「できるだけ戻るようにするよ。
ん~ なんか違う……
ここが家だから、帰りたい場所になったから、ちょっと行ってくる!
んで、すぐ戻る!
って、これも何か変だ~」あはははは……
「気持ちは、よく解った」
「うん!」立ち上がる。
「じゃ、行ってき――」描きかけの絵が見えた。
「キン兄……これ……」
「ああ、だから、また話を聞きたい。
行ってもいいだろうか?」
「もちろんっ! 二人も喜ぶよ!」
黒輝と金華の竜は、楽しそうに絡みながら、明けに向かう空へと舞い上がった。
♯♯ 天界 ♯♯
その頃、天界の最果て、天亀の湖では――
「――と まぁ、儂が知っておるのは、だいたい、こんな所じゃ。
儂の話は、お前さんらの役に立ちそうか?」
「もちろんです!」ハクとフジ。
「そうか……それならば良しじゃ」
「翁亀様……もしや……」ハクは、やっと気付いた。
自分達に話した事で、今後、翁亀が命を狙われるであろう事に……
「今、魔界を支配しておる者の情報網を侮ってはならん。
お前さんらも、覚悟はしておろうが、おそらく、まだまだじゃ。
話を始める前にも言うたが、これから『知る者』として、命を狙われる。
常に、その事、心せよ」
「俺は、ここに残り、翁亀様を護ります!」
「ハクよ、その言葉は嬉しいが……
それでは、儂が話した事が活かされん。
儂が『知る者』となってから、どれだけ生きてきたと思うとる?
心配は要らんよ」と、笑う。
「翁亀様……」
「まぁ、そんなに来たいなら、団子の運び屋にでもなってもらおうかの♪」
新たな覚悟を胸に、三人は清々しい明けの空を見上げ、笑った。
凜「これまでは、キン様と話す事って?」
黒「無かったなぁ。
天界じゃ、全然だったし、
人界に来てからも、たいして……
ん~、まともに話した記憶が無ぇよ」
凜「他の兄弟とは?」
黒「やっぱ、あんま無ぇな」
凜「人界に来てからは、みんな洞窟で一緒に
居たんでしょ?」
黒「洞窟に戻っても、各々、部屋に居たし……
だいたい忙しかったからなぁ。
サクラなんて、部屋から出なかったしなぁ。
だから、天界に居た時と大差なかったよ。
アオが洞窟に現れてからだな。
フジやサクラと話すようになったのは」
凜「天界では、他の兄弟とは?」
黒「ハク兄とは、けっこう会ってたし、
話してたよ。
アオとも、まぁまぁ会えたかなっ。
アカは、会っても、ああだし~
フジには滅多に会えなかったなぁ。
サクラには全然だったよ。
あ、そういや、サクラが生まれてからは、
アオには会ってなかったな」
凜「じゃあ、七人兄弟でも、各々ひとりっ子?」
黒「そんな感じだなぁ。
屋敷には蛟達しか居ねぇし……
両親とも……父上とは、たま~に話したが、
母上とは…………覚えが無ぇ」
凜「王子様って……かなり可哀想なのね……」
黒「今は、だからこそ楽しいぞ♪」
凜「うん。良かったね~」




