絆の島10-鏡写の術
前回まで:キンも弟達が大好きです。
綺桜の竜は、キンを乗せて飛び立った。
見送った後、蛟と航海士父娘は、砂浜で六分儀の調整を始めた。
「後で、迎えを寄越しますから」
アオは、そう言って、草地へと向かった。
(サクラ、クロに、昼食の支度はいいのかい?
って、伝えて欲しいんだけど)
(わかった~♪)
少しして――
クロは、アオを追い越し、全力で走って行った。
竜に戻ればいいのに……
クロの姿が見えなくなった時、姫も駆けて来て、アオに並び、
「もぅ、ワラワから逃げずともよいぞ♪
ワラワも協力するからのぅ♪」
「ありがとう」
アオは、心底ホッとして笑った。
♯♯♯♯♯♯
上空では――
「もう、自分で飛ぶので戻って構わない」
「でも、俺、キン兄 乗せて飛びた~い♪
夕方、義足 持って戻ればいいよねっ♪」
「そうか……なら、頼む」ぽんぽん
「うん♪」
♯♯♯♯♯♯
昼食時――
(お~い、サクラ~ どこだ~? 飯だぞ~)
(キン兄の部屋だよ~♪)
(はぁ?)
(夕方まで、ここで遊んでるねっ)
(義足、持って来てくれるのか?)
(うん♪)
(それまで、人のサクラは、どこにいる事になるんだ?)
(あ♪ そぉだね~)楽しそうな笑い声が響く。
(ま、いいや。テキトーに考える。
気をつけて戻って来いよ)
(うんっ♪)
そして、黒輝の竜が航海士達を迎えに行った。
♯♯♯♯♯♯
その頃、工房では――
アカが、背高の提桶を運び込んだ部屋にいた。
窓の無い、その部屋を閉め切り、大きな鏡の前に、提桶をひとつ置き――
アカは、黒い長手袋を着け、仮面を着け、黒い長衣を纏い、その頭巾を被った。
鏡の前、提桶の後ろに立ち、気を放ち、蝋燭の焔を消した。
暗闇の中、右手で鋭く空を切り、低い声で何事かを唱え始める。
鏡が赤く光る。
その光は、提桶を取り込み――
白く変わり、一瞬だけ輝きを放ち、消えた。
アカは、再び気を放って蝋燭を灯し、鏡の前に屈み込み、両手を鏡に差し込んだ。
鏡の中には、アカの体に遮られ、そこには映っている筈の無い提桶が有った。
アカの両手は、ずぶずぶと鏡の奥へと入り、鏡の中の提桶を掴み、引き出した。
アカは、ひとつ頷くと、纏っていた長衣と仮面を取り、鏡に掛け、扉を開き、自然の光を入れた。
そして、二つの提桶、各々に『右』『左』と書いた。
♯♯♯♯♯♯
夜になり、サクラが義足と三つの提桶を背負って、戻って来た。
蛟は、三つの提桶のうち、ひとつに、何やらゴソゴソとし――
そして、アカが書いた紙を見ながら、カチャカチャと義足を調整し――
義足と、ぷるんとした薄い板と、道具を少し持って、航海士の小屋に行った。
入れ替りに、夕食の片付けを終えたクロが戻って来た。
「サクラ、食うか?」おにぎりを見せる。
「食べる~♪」パクッ♪
(クロ兄、キン兄が『近いうちに来るように』だって~)
(ふぅん……)何だろ?
「んじゃ、今から行ってくるわ」
「何処へ? また――あ、いや……」
アオが口ごもる。
「キン兄が呼んでるらしい。
オレ、夜の方が紛れて飛べるから」
確かに……
「んじゃ、行くわ」
昨日も寝ていないのに、クロは元気に出て行った。
これが、『愛の力』ってヤツなのかな?
もぐもぐしていたサクラは、クロが姫に、剣を渡していない事に気付いた。
(クロ兄、姫の剣、渡さないのぉ?)
(渡しといてくれ)
(クロ兄が渡さなきゃ~)
(別に……サクラが頼んでくれたんだろ?)
(アオ兄だよ~)
(どっちでもいいよ。渡しといてくれよ)
(でも……)
(また、いつ何があるか分かんねぇからな。
頼んだぞ)
(うん……)仕方ないなぁ……
「姫んトコ、行ってくる~」
剣を掲げて、駆けて行った。
サクラは、駆け出してすぐ、姫が、こちらに歩いて来ているのに気付いた。
そのまま駆けて行き、
「姫~♪ コレ、あげる♪」剣を渡し、
「じゃねっ♪」踵を返した。
「まっ、待つのじゃっ! サクラ!」
「なぁに?」振り返り、「クロ兄、出かけたよ~」
「ち、違うっ! そぅではなくっ!
これは、如何したのじゃ?」
「アカ兄に作ってもらった~♪」
「ワラワの為に……か?」
「うん♪ 折れた、って聞いたから~」
「……さよぅか……かたじけない」
「うん♪ じゃ、また明日ね~」駆けて行った。
いつの間に、アカ殿に……?
そぅいえば、先日、アオの小屋に居ったな。
時々、剣の手入れをしに来ておるのじゃな……
姫が小屋に戻り、灯の下で剣をよく見ると、鞘や柄や鍔など至る所に、微に入り細に穿った装飾が施され、全体的に可愛らしく仕上がっているが、瀟洒な雰囲気も醸している逸品であった。
剣を抜いてみる。
灯の暖かな光を青白く照り返す、その刃は、どんな金属で、できているのか、想像もつかなかった。
鞘に収め、外に出る。
抜刀、即、斬! 斬、斬、斬!!
「なんと、扱いやすい……」
森に入り、大木の前に立つ。
「試すなどと……すまぬのぅ」
木をひと撫でして詫び、構える。
「はあっっ!!」
スパッ! へ?
……あっけのぅ切れおった……
「そぅでなければ、魔物など切れぬわな……」
まったく、竜といぅのは……
ズズ~ン!! わわっ!!
「何事ですかっ!?」
妖狐達が、矢となって跳んで来る。
「姫様、ご無事ですか!?」
「あ……すまぬ。試し斬りじゃ」ペコリ
緊張が解け、二人は人に戻る。
「ご無事で何よりです」揃って、にっこり。
「新たな剣が出来たのですね」
「素晴らしい剣ですね」
「アカ殿が作ってくれたそぅなのじゃ」
「竜のご兄弟は、いずれ劣らぬ極めた技をお持ちですね」
「そうじゃのぅ……あ!
サクラに礼を申さねばっ!
サクラがアカ殿に頼んでくれたよぅなのじゃ」
そう言って、姫は、慌てて草地に向かって駆けて行った。
紫苑と珊瑚は、それを見送り、
私達も己が技を極めてみせる!
と、決意を新たにした。
凜「アカ、何してたの?」
赤「複製……」
凜「鏡で?」
赤「術だ」
桜「有る方の足で型取ったから~」
凜「鏡面コピーして、無い方の足型にしたの?」
桜「そ♪」
凜「どうして、あんなにオドロオドロしく?」
赤「あの鏡は光を嫌う」
桜「真っ暗じゃないと失敗しちゃう~
他のモノが写ってもダメ~」
凜「で、真っ暗で真っ黒かぁ」
桜「そゆこと♪」




