旅立ち6-兄弟
お読みくださり、ありがとうございます。
全ての前書きに書きたいくらいなのですが、
ここ一発に全てを込めます! m(_ _)m
山賊と盃を交わすなんて……
しかし、相手が友好的なのに攻撃するのも――
アオが躊躇していると、
「毒なんか入ってねぇよ」飲み干した。
銀髪の男は、笑みを浮かべて、更に近付いて来た。
アオの背後では、身構える陰陽師達と、わくわく零れまくりの姫。
「なんにもしねぇって。
ただ……腕、見せてみろよ」
アオの左上腕を指した。
そこには変わった形の痣があるが……
何故、この男が――
「そう言うなら、己からだろってか?」袖を捲る。
銀髪の腕にも似たような痣が有った。
アオは自然に袖を捲り上げ、肩を寄せていた。
呼応するかのように淡く光る二つの痣。
俺……今、何を?
これは、習慣なのか?
「なっ♪ 兄弟♪」
愉しげな笑い声が洞窟内に響く。
やけに響くな……ん?
そこでやっと、更に奥にも同じ顔の男達が居ることに気付いた。
金、銀、黒、赤、紫――いや、淡いから藤色か?
髪の色が異なるだけの、アオと同じ顔の男達が嬉しそうに笑っている。
奥に居た三人が、ゆっくり近付いて来た。
各々が左の袖を捲り上げると、肩近くには、やはり同じような痣が有り、寄せると仄かに明滅した。
……まさか……本当に兄弟なのか!?
これだけ似ているって事は……六つ子!?
♯♯♯
アオの後ろの三人は――
「のぅ、占術など出来ぬのか?」
「占術などせずとも、見る限りご兄弟ですよ」
「それにしても多いのぅ♪」キョロキョロ♪
ど・れ・に・し・よ・う・か・の♪
「殺気も邪気もございませんので」
「ゆるりと拝見致しましょう」二人、にっこり。
「さよぅじゃな♪」
♯♯♯
囲まれているアオは――
「なぁ、今まで何処に居たんだ?」黒髪。
「随分と探していたのですよ」藤髪。
「元気なら……それでいい……」ボソッと赤髪。
「何とか言えよ~」つんっ。
「兄貴が言った通りだな……お前ら、来い」
銀髪が、黒髪の襟首を掴んで奥に行った。
赤髪と藤髪が、アオを見ながら銀髪に続く。
四人は奥に陣取り、アオに背を向け、小声で話し始めた。
♯♯♯
入れ替りに金髪が歩み寄った。
「アオ……」
「えっ!?」
俺の名を……何故?
……兄弟だから、としか――
「何が有ったのだ?」
他の四人には、ここまでの威厳は無い。
この男が山賊の頭領なんだろうな。
ああ、だから賭博場に居た山賊達は、
俺を見て『頭』と言ったのか……。
でも……この人になら、話してもいいのかも――
「知らない……記憶が……無いから……」
「記憶が……そうか」目を閉じた。
さっき、銀髪が言った『兄貴』が、この人なんだろうな。
あとの三人を連れて行ったってことは、
三人は銀髪にとって弟なのかな?
兄弟だとして、俺の位置は?
考えていると、金髪が目を開けた。
「確かに、そうとしか思えぬ状況だな。
あの時、何かが有った。
それだけは確かなのであろう」
「あの……時?」
「この五年、何処で何をしていたのだ?」
「東の国で……十左という男に保護されて……畑仕事とか、農具の修理とか……」
「何故、保護されたのだ?」
「森で倒れていた、と聞きまし――何故、倒れていたのか、ですよね」
「そこから過去、全てを覚えていないのだな?」
「……はい。目が覚めたら、十左が居て……自分がアオという名だという事しか……何も……何ひとつとして覚えていなくて……」
「ふむ。自分が何者で、何の為に人界に来たのかも、全て失ったのだな……」
金髪は再び目を閉じ、考え始めたようだ。
俺は……いったい何者なんだ?
何の為?
目的が有った、ということなのか?
『人界』に……『来た』?
『人界』って……
人が住む、この地を指しているのか?
他にも何か『界』が有るのか?
『来た』ってことは、
その……他の『界』から俺は『来た』のか?
また目眩を感じ、岩壁に手を突いた。
「無理はするな。
いずれ思い出せるであろう」
金髪はアオの肩を優しく叩き、微笑んだ。
♯♯♯
姫は、こそ~~っと、奥の四人に近付いていた。
四人は話すことに夢中なのか、振り向かない。
「何を話しておるのじゃ?♪」
「うわっ!」「えっ!?」「のわっ!」「……」
一斉に振り返った。
赤髪が立ち上がり「何の用だ?」見下ろす。
「こそこそ何を話しておるのか気になっただけじゃ」負けじと睨み上げる。
「お前には関係ねぇだろ」黒髪も立つ。
「関係など大有りじゃっ!
アオは仲間じゃからの!」ふんっ!
「兄様方、女性に そのような……」藤髪。
「確かになっ♪
よく見りゃ可愛いじゃねぇかよ♪」銀髪。
「かっ、可愛いなどと、おだてよぅが、そのテには乗らぬぞっ!」頬染まる。
「で、嬢ちゃん、俺達に用なんだろ?」
銀髪は立ち上がり、黒髪と赤髪を座らせた。
「ワラワは姫じゃっ!」
「んじゃ、姫様♪ 何の用なんだ?」
「じゃから、何を話しておったのか申せ!」
「残念ながら、それは言えねぇな」ぽふっ。
「気安く触るでないっ!」真っ赤!
「そっか♪」わしゃ、ぽんぽん、なでなで♪
「や、やめよっ!」真っ赤っか!!
「やっぱ可愛いなっ♪」ニヤッ♪
「う……」頭を両手で押さえ、後退る。
姫は真っ赤なまま後退り、距離が空いた所で駆け、陰陽姫の後ろに逃げ込んだ。
「そっちの嬢ちゃんも睨まないでくれねぇか。
今は兄弟だけで話したい、それだけなんだ」
「解りました……失礼致しました」
陰陽師達は構えていた御札を仕舞った。
♯♯♯
「アオ、大丈夫なのか?」
「はい。少し目眩を感じただけですから」
「ここで休むといい。
話したいのなら、座って話そう」
とても落ち着ける声だ……
きっと俺は、この声を知っている――
白「アイツら、また城下で遊んでたんだな。
ったく! で、話を戻すが、
もう誤魔化しは効かねぇよな?」
金「方法は考える。だが――」
白「どうした? 兄貴……なぁ――」
金「アオだ……」
白「えっ!?」
金「待て。様子が、おかしい」
白「確かに、アオの気が感じられねぇな……」
金「力を封じられている可能性が高い」
白「だから、見つからなかったのか……」
金「おそらくな」
前回の、アオが踏み込む直前からの、金髪と銀髪の会話でした。
ここでは、ハクの略は「白」で表します。
父がギン、祖父がシロにしてしまったので、
カタカナの「ハ」にでもしようか……と思ったら、
なんだか漢数字の「八」みたいだし~。
困った挙げ句です。(笑)
白「笑うなっ!」