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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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絆の島4-竜ヶ峰へ

 船が直るまで、まったりな話が続きます。


 クロは、蛟の作業小屋に向かおうとしていたが、味噌の量を再確認する為に、厨に寄っていたのだった。


そして、姫から逃げ――


クロが作業小屋の扉をバタンと閉めると、蛟がパタパタと道具類を片付けていた。


「朝のミソ、足りる?」

アオから笛を教わっていたらしいサクラが、振り返った。


「あ……ああ、朝は大丈夫だ。

昼だけなら、すまし汁にしてもらえばいい。

だから、朝食の後、行ってくる」

言いながら、サクラの横に座る。


「そういえば、リリスさんって、人界(こちら)では、珍しいお名前でございますよね」

片付けを終えた蛟も座る。


「そぉだねっ♪

でも……どっかで聞いたコト、あるよぉな~」


「大婆様のお婆様だね」


 !?


「アオ!?

そんな事まで思い出したのか!?」


「あ……」しばらく考え、「無意識だった……」


(サクラ、王族史、覚えてるか?)


(もっちろ~ん♪)


(リリス女王の事もか?)


(トーゼンでしょ♪)


(教えてくれ。ちょい、うろ覚えなんだ)


(うん♪)



 大婆様の祖母の名はリリィホワイト。

愛称はリリス。

リリス女王の治世の頃、人界では、竜の存在が否定され、架空の生物とされてしまった。

それを憂いたリリス女王は、自分の子の名を、人界風にすることで、未来への希望の光とした。

以降、王族も貴族も、こぞって代々、人界風の名を付けるようになり、民衆にも、その風潮は広まった。



 ああ、そうだったな……そんな事を

 随分前に、王族史で習ったような……


 記憶を失ったワケじゃねぇオレでも、

 その名を聞いても、全くピンと来なかった。

 そんな事を思い出すなんて……


 てか、んな事より!

 もっと大事なこと思い出してくれよ~


 早く一緒に、空 飛びてぇなぁ……


と、クロが押し黙っていると――


「思い出す順番なんて、決まってないんだろうね……」

アオは自嘲気味に笑い、

「それより、明日は、どうやって誤魔化すんだい?」


「あ……」


「十左も、連れて帰るんだよね?」


「あ……どうしよう……

アオ! 考えてくれっ!!」


「味噌の事は、クロしか分からないんだから、クロは戻るだろ?」


「ミソ、取りに戻るんだって~って、十左に言っちゃった~」


「やっぱり、どっちかが竜になって、ひとり乗らないと不自然だよね……」


アオが、クロとサクラを交互に見る。


「また、サクラやんねぇといけねぇのか……」


「逆でもいいでしょ~」ぷぅ~


「お前がオレする方が嫌だ!」


「なんでぇ~???」ぶぅぅ~


「別に、サクラの竜に、クロが乗ってもいいんじゃないか?

クロの竜は出掛けてる、とでも言えば」


「それだっ!」


「俺は、どこにいるコトになるの?」


「あ……」


沈黙の後、アオに視線が集まる。


「髪の色っ、無理だからっ!」アオが焦る。


「少々お待ちを~♪」蛟が作業卓に向かう。


フッフッフッ♪ クロが妖しく笑っている。



♯♯♯♯♯♯



 そして、翌朝――


クロ達が、船大工達に見つからないよう、少し森に入った場所で待っていると――


サクラが、綺桜の竜に乗って、手を振りながら現れた。


「お待たせ~♪」


そして、綺桜の竜に、空龍、十左、クロが乗り、サクラが竜の鼻先をポンポンして、

「ゆっくり飛んであげてね~♪」


竜が小さく鳴いて返事する。


「お父さん、行ってらっしゃい♪」

リリスが微笑む。


そして、飛ぼうと、少し浮いた時、


「暫し待て! 待つのじゃっ!!」

姫が、全力で走って来た。


(ゲッ!)(えっ!?)(あらら~)


息を弾ませながら、

「これをっ、城に……家老か志乃に、渡して欲しいのじゃ」

書簡を差し出す。


「分かった」クロが受け取る。


「竜ヶ峰の黒之介(クロノスケ)と名乗れば、通して貰えるからの」


「何だ!? それはっ!?」


「良い名じゃろ?♪」


「なんだかなぁ……」恥ずかし~っ!!


「文句があるのか?」ギロリ


「ないないっ! 早く飛べっ!」

竜の背をポンッと叩く。


楽しそうに、ひと声 鳴くと、綺桜の竜は、天高く舞い上がった。


三人は、竜が見えなくなるまで、大きく手を振った。



 そして――


「教えてもらった事、忘れないうちに書き留めなきゃ♪」

リリスが駆けて行った。

幸せの花を撒きながら――


姫が、リリスの後ろ姿を見ているうちに、サクラは、そぉぉっと立ち去ろうとしていた。


「アオ――」背を向けたまま、姫が言った。


ビクゥッ!!


サクラ(アオ)は、後ろを振り返る事なく、一目散に走った。


姫は振り返りながら、

「――は、如何したのじゃ?」


サクラの後ろ姿が、小さくなっている。


「また逃げおって~」ギリリ……


その走り方は、サクラそのものだったが――


「あっ!」


――カツラがズレた。


「そういう事じゃったか……

では、あの時のサクラはクロじゃな」ニヤリ



♯♯♯♯♯♯



 竜の背では――


「アオが見送れなくて、すまなかったな」


「いや、昨日あれだけ頑張ったんだから、臥せっても仕方ねぇ。

それに、小屋で挨拶したしなっ。

それに……

また、連れて来てくれるよなっ」ニカッ


「もちろん! また会わせるさ!

ちゃんと養生しろよなっ」


「世話になるぞっ♪」わはははっ♪


「世話してやるさっ」あはははっ♪



そして、空龍に声をかける。

「大丈夫ですか? 乗り心地とか、高さとか」


「楽しいです。

私、子供の頃から、竜が大好きだったんです」


「えっ!?

竜に会ったことがあるんですか!?」


「いえ、母の寝物語に出てくる、白い竜が大好きで……

娘の名前まで、その竜の名前にしてしまったんです」


「リリィホワイト……」


「あなたも、あの話をご存知なんですか?」


「あ……」つい、言ってしまった……

「これでも『竜使い』ですから」あはは……


「本物の竜に乗れるなんて……

昨日、このコに会った時は、とうとう幻が見え始めたのかと思いましたよ」


鱗を撫でなから、穏やかに笑う。


「えへへ……」


「えっ?」

撫でている手は止まったが、そっと触れている。


(おいっ! 声出すなって!)


(だって~ くすぐったぁい)


(鳴き声にしろって!)


(わかったよぉ)

竜が楽しそうに鳴く。まるで笑い声だ。


「竜が大好きだって、言って貰えたからなっ♪

嬉しいんだよなっ♪」十左が笑う。


「だなっ♪」クロも笑う。


「そうなんですか♪」空龍も笑った。





桜「アオ兄♪ 笛、貸して~♪」


青「吹けるのかい?」


桜「アオ兄直伝だも~ん♪」


青「ああ、そうか。なら、一緒に吹こう」


桜「うんっ♪」


 サクラが奏で始めると、アオも合わせて奏でた。


桜「思い出した?」


青「俺は駄目だけど、体が覚えているらしいよ」


桜「じゃあねぇ、次コレ~♪」


 サクラは習っていたのではありませんでした。


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