絆の島3-ぬくもり
前回まで:島には踊り子の父親が住んでいました。
姫がクロに引っ張られて、皆が居る小屋に入ると、リリスと空龍が、
「姫様、ありがとうございます」
「あなたのおかげで、娘と再会できました」
深々と頭を下げた。
姫が叫ばなくても、朝になれば、
再会しただろうけど……
姫は気を良くしたのか、照れ笑いしながら、リリスに海図を渡した。
「あ……」
「落としたからのぅ」
「ありがとう、姫様」満面の笑み。
「これは?」空龍が覗き込む。
「この辺りの海図なの。
航路への戻り方が難しくて、皆さんに相談しようと――」
「見せておくれ。私も考えよう」
幸せ全開で、楽しそうに海図を見る父娘を、その幸せをお裾分けしてもらいながら眺めていると――
蛟がアオに耳打ちした。
「小屋が足りませんので、大至急、建てて参ります」
「その必要はないよ。
俺達、作業小屋を使ってもいいかい?」囁く。
「えっ!? そんなっ!
王子様方に、そのような――」
「狭かったら、オレは厨でいいぞ」
「作業小屋で遊んでいいの?♪」
「寝るだけだっ」
「決まりだね」アオが笑う。
そして、立ち上がり、父娘に向かって、
「まだ、船が直るまで数日あります。
ゆっくり、ご検討ください。
これから、宜しくお願いいたします」
アオは深く礼をした。
皆も続いて礼をした。
父娘は慌てて、もっと深々と礼をした。
二人の涙が海図に落ちた。
(アカ兄~♪ 義足、もひとつねっ♪)
(いつ来る?)
(クロ兄に聞いてみる~)
(クロ兄、義足の測るの、いつ連れてく?)
(明日、味噌を取りに戻るから、そん時だな)
(うん♪)
(アカ兄、明日だって~♪)
(ん)
(ね♪ 姫の剣、どぉ?)
(もう出来る)アカは、鎚を振るい続けた。
「では、今宵は、ゆっくり おやすみください」
アオは、そう言って出て行った。
男達も続いて出て行く。
珊瑚が姫の手を取り、空龍に頭を下げ、リリスに微笑みながら、手を振って出て行った。
リリスは暫く呆然としていたが、やっと意味が解り、皆を追いかけようとした。
扉に手を掛けると、
「皆の好意じゃ。たまには甘えよ」
扉の外から、姫の声が聞こえた。
「ありがとうございます……」
止めどなく溢れ流れる涙。
父の手が、震える肩に、ぬくもりを与える。
「私達は、あたたかい……本当に良い人達に出会えたね……」
リリスは頷き、振り返って、父の胸に顔を埋めた。
♯♯♯
姫と珊瑚は、並んで、自分達の小屋に向かっていた。
「姫様も、たまには素直になって下さいね」
そう言って、珊瑚は軽やかに駆け出した。
「そっ、それは、如何な……」
珊瑚は振り返って、
「お分かりでしょ?」また、駆けて行く。
姫が、立ち止まっていると――
「なんかなぁ、調子狂うから、元に戻ってくんねぇか?」
後ろから声がした。
声の主は分かる。
恐る恐る振り返ると、厨の前にクロが立っていた。
クロが、あのよぅな事をしおったから、
ワラワが、これほどにも苦しゅうなって
おるといぅのにっ!
なんじゃ、その言いよぅはっ!
だんだん腹が立ってきた。
姫は、そもそも自分が二択を迫った事など、すっかり忘れていた。
くるりと背を向け、わなわなと震えながら、
「クロが……」
「?」
「クロが……悪いのであろっ!?」
バッと、振り返ると、目の前にクロの顔があった。
「わわっ」
後退ろうとした時、クロの掌が、頭に優しく乗った。
そして、ポンポンとした後、
クロは、ズザッと一歩下がって、腰を直角に折り、頭を下げて、
「悪かった! 元に戻ってく――ださい!」
何が悪かったのか解んねぇが……
元に戻ってくれねぇと、
気持ち悪くて、しょーがねぇからな……
クロが、他の者が聞いたら、総ツッコミされるような事を思いながら、頭を下げていると――
姫は、呆然としつつ……
頭の上の掌が去った事に、寂しさを覚えつつ……
もう暫し、待ってやる!
しかし、いずれは婿になってもらうぞ!
そう決めて、下げているクロの頭をポコッと叩いて、
「ぜ~ったい! 赦さぬっ♪」わはははっ♪
弾むように数歩離れて、
「悪かったと申したな♪
これから、ワラワの為に、存分に働くがよい♪」
もう数歩、弾んだが、何かに気づいたらしく、クロに駆け寄り――
「そうじゃ!♪
何故、サクラが二人おったのじゃ?♪」
「うっ……それは…………」ジリジリ後退る。
「聞くんじゃねぇーーーっ!!」
脱兎の如く、宵闇に消えた。
姫は、クロの後ろ姿を見送り、
確かに……この方が良いのかもしれぬな……
今暫しじゃがなっ♪
弾みながら小屋に向かった。
小屋に入ると――
「仲直りできたのですね?」にっこり
姫は、大きくコクンと頷いた。
♯♯ 竜ヶ峰 洞窟 ♯♯
「シロお爺様、アオ達の方、ご覧になれますか?」
『おお♪ 見えるようになっておるのぅ
アオが笑顔じゃな。うんうん♪
おや? 船が壊れたのか?』
「はい。ですが、修理は進んでおりますので、ご心配には及びません。
ただ、その、魔獣に襲われた際に、千鐸器が壊れていたようです」
『じゃから、見えなかったのじゃな』
「そうです。
サクラと爽蛇殿が修理しましたので、ご安心を」
『そうか。爽蛇殿には、世話になるのぅ。
よろしゅう伝えておいてくれ』
「はい。それでは――」
扉を叩く音がした。
アカが顔を出す。
『おお♪ アカ、順調かのぅ?』
「あ……はい」ぺこり
『三眼の玉は、城の蔵にも有ったからの。
ハクかフジが、帰りに寄るじゃろうから、待っておれよ』
「はい。ありがとうございます」
『うんうん。では、またのぅ』切れた。
「アカ、どうしたのだ?」
「明日、クロが来る」
「何かあったのか?」
「味噌……」出て行こうとする。
「悪い事でなければ、それでいい」
「うむ」出て行った。
クロか……確かめておかねばならぬな。
キンは、もう一度、千里眼を繋いだ。
凜「そういえば……」
桜「どしたの?」
凜「蛟は、舞台に上がらなかったね」
青「ああ、そうだね」
皆の視線が蛟に集まる。
蛟「いえっ! 私は、裏方として忙しくっ!」
凜「じゃ、今、歌う?」
蛟「い、今!? でございますかっ!?
サクラ様!? その木箱はっ!?」
桜「舞台~♪ 踊るなら、いっぱい運ぶ~♪」
蛟「あのっ! いやっ! そんなっ!」
青「何か思い出せるかもしれないから、
お願いね、爽蛇」
蛟「アオ様までっ!? あっ! サクラ様!?
押さないでくださいませっ!
無理――いえ、今更などとっ!
終わってから歌うなど、
何の罰でございますか!?」
黒「何が始まるんだ?」
桜「蛟が歌うの~♪」
黒「お♪ そうか♪」
蛟「え……クロ様まで…………いやーーーっ!!」
桜「あ……逃げちゃった~
クロ兄、嫌われてるの?」
黒「何でだよっ!」




