絆の島2-リリス
サブタイトルは変わりましたが、同じ島でのお話です。
アオ達の小屋には、アオ、クロの他に、夕食を終えた蛟、紫苑、珊瑚が居た。
「たっだいま~♪」
森に、慎玄を迎えに行っていたサクラが帰って来た。
慎玄を待つ間に、笛の話で盛り上がり、魔でも妖でもない笛での三重奏が始まった。
♯♯♯
姫は、その笛の音を、アオ達の小屋の裏手の森で聞いていた。
小屋の窓から、クロの後ろ姿が見える。
夕闇の中、姫は、暫く佇んでいたが、ため息をひとつ残して、森を出た。
もちろん、珊瑚は姫を誘っていたが、姫は、クロの顔を見るのが怖くて、行くことができなかった。
「如何な顔で会えばよいと言ぅのじゃ……」
独り言ち、また、ため息……
姫が、とぼとぼと自分の小屋に向かって歩いていると、慎玄と見知らぬ男が、アオ達の小屋に向かっているらしく、ゆっくりと近付いて来ていた。
姫は食卓の陰に身を隠し、二人が通り過ぎるのを待った。
姫が小屋に入ると、踊り子が海図を広げて、考え込んでいた。
「如何したのじゃ?」
「あら 姫様、お帰りなさい♪
いえ、大したことではないのですが、予定していた航路を、随分と外れているので、海流を読みながら、どう進もうかと考えていたんですよ」
「リリスは凄いのぅ。
こんな図で海流までも分かるのか……」
「父が航海士だったんです。
子供の頃、よく、海の話を聞いていたんですよ。
父が、いつも見ていたから、海図にも興味を持ってしまって……
ということにしてますが、父と話がしたかっただけなんですよね」
そう言って、踊り子――リリスは照れたように笑った。
「ご病気なのは、お母上じゃったな?
お父上は、如何にしておるのじゃ?」
「父は……航海に出たまま行方不明に……
もう、十年以上も前の話です」
「そぅじゃったのか……すまぬ……
悪い事を聞いてしもぅたのぅ」
「いいえ……」微笑み、
「もう、すっかり諦めてますから」
「さよぅか……」話を変えねばっ!
「いつも読んでおる書物は、航海のものか?」
「ええ、何かお役に立てればと……
でも、それもあるのですが……
今更ですが、父と繋がっているような気持ちになりますので……」
リリスは、海図を撫でていたが、不意に、その手を止めた。
「ここは……」一点を見詰めた。
「如何したのじゃ?」
「航路に戻る道筋が、とても難しいんです。
ここが通れるかどうか……
でなければ、かなり迂回しなければならないんです。
アオさんに相談しないと……
私には決められません……」
「今ならば、皆、アオの小屋に居るぞ」
「姫様は、どうしてここに?」
「ワラワは……その……眠くなったからじゃっ」
あら、また、そんな分かりやすい嘘を……
きっと、クロさんとご一緒なのが
恥ずかしいのね♪
「姫様、皆さんは、魔物と戦うための打ち合わせかもしれませんから、私が入っても構わないのか、一緒に いらして中の様子を見て頂けませんか?」
リリスは海図を丸め、強引に姫の手を取り、アオ達の小屋に向かった。
姫は、離してくれ、嫌じゃ、行かぬ、などと、ずっと ごねていたが、リリスに、しっかり手を握られ、引きずられるように連れて行かれた。
♯♯♯
一方、アオ達の小屋では――
慎玄が連れて来た男の話を、皆で聞いていた。
男の名は、空龍。
大型商船の航海士だったが、嵐の海に放り出され、足に怪我を負い、この島に漂着した。
空龍が漂着した時には、聖霊が、ただひとり、この島に閉じ込められていた。
島には、空龍と聖霊が『闇』と呼んでいた、恐ろしい気配が漂っていて、『闇』は、様々な感覚を狂わせた。
『闇』から発せられる霧に因って、光も射さず、景色も見えず――
島は、何日も何日も、白い世界に閉ざされた。
晴れている日は『闇』の気配は、然程ではないが、霧が出ると、気配が濃くなり、感覚も狂い易かった。
空龍は、助けを待つばかりではなく、幾度も、筏を作り、島を出ようとしたが、霧に阻まれ、出ることはできなかった。
晴れた日ならば、と挑んでも、少し沖で、見えない壁に阻まれてしまった。
聖霊は、美しい音楽に満ち溢れた国で、歌い、舞いして暮らしていたが、時々、仲間と人の世に来ては、美しい音楽や舞を、拾い集めて楽しんでいた。
ある時、美しい音に惹き寄せられ、気付いたら、仲間から、はぐれてしまっており、さ迷っていると、見えない手に捕まり、この島に閉じ込められてしまった。
音の無い、霧ばかりの狭い島で、聖霊は、気が狂いそうになりながら、必死で仲間に助けを求め続けていた。
偶然 『闇』に触れた時、聖霊の記憶にある音楽が、霧の中に響き流れ、聖霊は、ひと時だけの幸せを味わってしまった。
そして、音楽を求める気持ちに負け、度々『闇』に触れるようになっていった。
しかし、まだ、その時点では、聖霊は自分を失ってはいなかった。
そんな時、空龍が流れ着いた。
聖霊は、空龍が来たことで、孤独から救われ、『闇』を頼ることはしなくなったが、やはり、音楽は恋しかった。
空龍の足が壊死し始めた時、聖霊は、空龍の命を救う為、『闇』の力を借り、空龍の足を切断した。
その、『闇』に頼った時に、『闇』は、聖霊が恋い焦がれる音楽を流した。
我慢していた音楽を聴いてしまったことで、聖霊は『闇』に囚われ、やがて『闇』と一体となり――
近くを通る船を引き込み、歌舞を要求し、できなければ、生気を奪うようになった。
時折、正気に戻り、苦しみながら――
空龍は、住み処とする洞穴から、殆ど動くことができなかった。
その為、聖霊に引き込まれた船の乗組員達に、直接、会う事はできなかったが、彼らの話が、洞穴に居ても、稀に聞こえることがあった。
それらを繋ぎ合わせると、どうやら、この島は、普通に航行していると、船からは見えず、近付いて初めて見えるようだった。
ただ……島が見える位置まで来てしまうと、もう二度と出られないのだが――
そうして、十数年――
空龍は、この島で生き抜いた。
助けを求める事も、脱出する事もできない、この小さな島で――
♯♯♯
さて、リリスと姫は――
姫がジタバタするので、時間がかかったが、どうにかアオ達の小屋の前に着いた。
踊り子が扉を叩き――
扉が開き始めると、姫を押し込んだ。
「わわっ! リリス! 何をするのじゃっ!」
「リリス!? 今、リリスと言ったか!?」
半開きの扉から、確かに、その声は聞こえた。
リリスは、動けなくなった。
……まさか……そんな……
嗄れてはいるが、その声は、間違える筈もない、大好きな父の声だった。
姫が扉を全開にして、飛び出て来た。
白髪を後ろで束ねた男がいた。
その顔には、十数年の時が刻み込まれてはいたが、間違いなく父の顔だった。
「お父……さ……ん……」
海図が滑り落ち、広がる。
踊り子の目から、涙が溢れ出た。
「お父さん!」駆け寄り、抱きつく。
「リリス……本当に、リリスなんだね?
なぜ、この島に……?」
♯♯♯
感動の父娘の再会の陰で――
姫は感涙に咽びつつ、そぉぉぉ~っと、その場を離れようとしていた。
「どこ行くんだよ?」襟首を掴まれる。
「うっ……」
今度は、クロの手で、小屋に引き込まれた。
前話、後書きの続き――
黒「――ってことで、やっぱ、この島には
人が住んでたんだ。
もちろん、船に乗せるよな?」
青「当然だよ。こんな無人島なんかに
置き去りになんてできないよ」
黒「よしっ! じゃあ、夕食からは
ひとり増えるなっ♪
最高に美味いモン、食わせてやっからなっ」
青「そっちは頼んだよ、クロ」
黒「任せとけって♪
でも、アオ、こうやって人が増えたら……
護れるのか? お前ら」
青「それも、クロ頼みだね。
これからも、居てくれるよね?」
黒「そっか?♪
アオに頼まれちゃあ、断れねぇよなっ♪
よぉし! そっちも任せとけって♪」
桜(アオ兄、いいの? クロ兄ってば
すぐに、調子に乗っちゃうよ)
青(うん。乗せているんだよ)
桜(そっか~♪)
青(でも、事実、クロ頼みだからね。
そこは、ちゃんと認めているよ)
桜(うんっ♪)
黒「黙って、何だよぉ。遠慮か?
んなモン、要らねぇからなっ♪」
青「うん。ありがとう、クロ」
黒「おう♪」




