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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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絆の島1-聖霊と男

 こんな時に、こんな投稿をしていて良いのだろうか……

そういう迷いや悩みは、当然ながら有ります。

しかし、読み続けてくださっている方々は、現実から離れ、別世界を望んでくださっている筈と信じて、続ける事に決めました。

一日も早く平穏が戻られます事を祈りつつ……


 くノ一達とクロと蛟が、大急ぎで作ったご馳走が、草地に並んだ卓に所狭しと並べられ、遅い昼食が始まった。

皆、好きなものを皿に盛り、わいわいと楽しく空腹を満たしていく。



「慎玄様、あの歌は何という歌なのですか?」


珊瑚の問いに、慎玄は、

「あれは、浄化の術の文言に、適当に節をつけただけのものです」

と笑った。


紫苑と珊瑚は、顔を見合わせた。

そして、僧侶の方を向き、

「とても、適当などとは思えません!」

相変わらず、全くズレない二人だった。


「お二人の舞は、いつも見惚れてしまいますが、笛までもとは、驚きましたよ~」

蛟が膳を持って来て、座った。


「いえ、アオ殿の足元にも及びません」


「いえいえ、素人の私ですら魅了される程でございますから、どれほど凄い腕前でありますのか、十分に想像できます」


「それは、おそらく、あの笛が妖笛だからですよ」

紫苑が爽やかに笑う。


「アオ殿の魔笛のような、大きな力は無いとは思うのですが……

音を重ねて、魔笛の力の足しになれば、と稚拙ながら奏でた次第にございます」


その時、珊瑚が何かに気付いて、辺りを見回し、つられたように紫苑も見回す。

「アオ様が、いらっしゃらないようですが……」

「ご兄弟揃って、いらっしゃいませんね」


「アオ様の記憶が戻りまして、お話しする為に飛んでいらっしゃいましたのに、

落ち着く暇なく色々とございましたので……

今は、ご兄弟水入らずかと……」


蛟の言葉に、三人は頷き、兄弟の小屋を見た。



 食事を終えた慎玄は、掌を合わせた後、

「聞いて頂きたい話が有るのです。

後程……夜にでも、お集まり頂けませんか?」


「では、夕食後、アオ様の小屋で如何でございましょうか?」


「皆様のよろしい時で……

私は森に居りますので」

立ち上がり、掌を合わせて頭を下げる。



♯♯♯♯♯♯



 その頃、霧が晴れた森では――


木々の隙間から、陽の光が射し込む中、


ボサボサに伸びた髪も髭も、ほとんど白くなった男の掌に、小さな聖霊が、ふわりと降り立った。


聖霊は、潤んだ瞳で男を見つめていたが――


【この島に閉じ込められ『闇』に囚われ……自分を失ってしまっておりました。

一度は、あなたに助けて頂いたのに……】


男が首を横に振る。


「助けて頂いたのは、私の方だよ。

あなたがいなければ、あの時、私は命を落としていた……」


【でも……私は、あなたの足を……】


「私の命を救うために、そうしてくれたんだ。

恨むなんて、とんでもない。

命さえ助かれば、いくらでも希望は有るのだから、感謝しかないよ」


【そう……いつも、あなたは……

私を責めることなく……

あたたかく包んでくださいました】


【あなたの優しさで……

一度は『闇』を拒絶できたのに……

私の欲で……再び『闇』に……】


「私が、せめて歌えたなら……」


今度は、聖霊が首を横に振る。


【私が『闇』に堕ちてもなお、あなたは、私を優しく慰め続けてくださって……】


【それなのに、私は、たくさんの人を……】


「それは『闇』のせいだ。

あなたが悪い訳ではない。

そんなに自分を責めてはいけないよ」


【ありがとう……ございます……】


 その時、木々から漏れる光の中に、天から一筋、虹色に煌めく光が加わった。

小さな聖霊達が、その光の道を通って降りて来る。


「さあ、お帰りなさい」


【でも……あなたは、これから……】


「私の事は、心配要らないよ。

霧も、あなたを囚えていた、あの恐ろしい『闇』の気配も、すっかり消えてしまった。

だから、もう、この島は人にも見える筈だ。すぐに助け出して貰えるよ」


 聖霊は、男を見詰めていたが、小さく【あっ!】と声を漏らし、


【私を救ってくださった皆さんにお願いして参ります!】

男の掌から、飛び立とうとした。


男は、もう片方の掌で、聖霊の行く手を塞いだ。


「いいや、迎えに来てくれた仲間を待たせてはいけないよ。

大丈夫。自分の事は、自分で何とか出来るよ」


聖霊は、それでも、草地に向かおうとしていた。


男は、掌の聖霊に向かって、首を横に振り、そして、顔を上げ、聖霊の仲間達に微笑んだ。


「彼女を迎え入れてくださいますよね?

彼女は、これから、また幸せになれますよね?」


聖霊達が一斉に頷く。


「行きなさい。

美しい音楽の国に戻って、幸せに暮らしなさい。


私は希望を捨てていないんだ。

だから、私の事は心配要らない。さあ……」


男は微笑みながら掌を掲げ、聖霊を、仲間達がいる煌めく光の方へと(はな)った。


仲間達に迎えられ、導かれて、聖霊は、光の道を昇って行った。


何度も、何度も、男の方を振り返りながら……



 聖霊達が見えなくなり、虹色の光が、足元の方から消えていく――


男は、いつまでも、聖霊達が去って行った天を、穏やかな眼差しで見詰めていた。



♯♯♯



 慎玄が 男の元を訪れた時、男は、掌の聖霊を光射す天へと放っていた。


そして、聖霊を見送り、天を仰ぎ佇む男が心ゆくまで――


慎玄は瞑想した。



♯♯♯



 陽が傾き、やがて、辺りがやわらかな茜色に染まった頃――


男が、住み()としている洞穴に向かおうと、振り返ると、慎玄が瞑想していた。


慎玄は、微笑みながら立ち上がり、

「何度か、お見掛け致しておりましたが……

今日は、お話を伺いたく、参りました」

掌を合わせ、深く礼をする。


その時、


「ご飯だよ~♪」


綺桜の竜が、茜色の光を反射して、煌めきながら飛んで来た。


そして、男に気付き、

「うわわっ!」隠れようとした。


「もう、遅いかと」慎玄が笑う。


「この方なら大丈夫です。

乗せてあげて頂けますか?」


「うん♪ いいよ~」

サクラが、男を驚かせないよう、ゆっくり近付くと、男には片足が無かった。


「十左と、おんなじだねっ」


慎玄が頷く。


サクラは二人を乗せ、草地に戻った。



♯♯♯



 草地では、夕食が始まっていた。

慎玄は男を、一旦、自分の小屋に連れて行き、二人分の食事を持って、小屋に戻った。


「人らしい食事が頂けるなど、いったい何年ぶりだろう……」

男は涙を流した。


食べながら、男の話を聞いていると、十左が食事を終えて戻って来た。


十左は、男の足を見るなり、男に駆け寄り、

「ちょっと、これ見てくれよっ!」

袴の裾を上げた。


 十左の義足は、十左の肌の色に合わせて染めた鞣革(なめしがわ)で覆われていた。

十左が、膝の横辺りを押すと、覆いがパカッと開き、鋼の本体が見えた。

覆いの鞣革の内側は、木で出来ていた。足首から先は、何やら半透明の素材で出来ている。


「凄いだろっ♪

これで、なかなかに軽いんだよ。

走れるしなっ♪ 跳んでも大丈夫だ!

アイツら、いい奴だから、お前さんのも、すぐに作ってくれるよ!」

十左は、男の肩をポンポン叩き、笑った。


慎玄も微笑み、頷いた。




 そして、十左は、

「お前さん、この島に住んでたのかい?

そりゃあ、大変だったなぁ。

そんじゃ、風呂に行こう!

旨いもん食って、湯に浸かれば、人心地つくってもんだ!」


そう言って、豪快に笑い、男を連れて風呂へ行った。



♯♯♯



 風呂から戻った男の顔には、髭は無く、優しく穏やかな笑顔があった。


「では、参りましょうか」

慎玄が立ち上がった。





 昼食の準備が整った時――


黒「アオ、小屋に行くぞ♪」


青「え? 昼食は?」


黒「運ぶからなっ」


桜「アオ兄♪ 行こ~♪」


黒「サクラは来なくてもいいんだよっ」


青「一緒に行こうね」


桜「うんっ♪ アオ兄、大好き~♪」


黒「しゃあねぇなぁ。静かにしてろよ

  大事な話が有るんだからな」


桜「慎玄さんのお話でしょ?」


黒「知ってたのか!?」


桜「うんっ♪」


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