霧の島11-練習の成果
土日祝は全て予約投稿です。
「練習の成果、見てやるよ」
そう言って、クロが近付いて来た。
「クロ……」
「何だ?」
「ワラワ……」
「ん?」
ずっと何か様子が変だけど、
グズグズしてる場合じゃねぇんだよな……
クロは姫と向かい合い、跪き、姫の手を取り、見上げる。
「踊って頂けますか? 姫……」
クロは、ただ、儀礼的な開始の挨拶をしただけだったが、
姫は何も言葉が出せず、ただただ頷いた。
円舞曲が流れてきた。
思わず舞台の方を見る。
厨の裏窓――その向こうの扉が開いていて、舞台が見える。
サクラと踊り子が舞っていた。
曲を流すためか? 姫のために?
手を組み、足を踏み出す。
へぇ……凄いな。こんな短時間で、
別人みたく踊り易くなってる。
流石、身体能力は、ズバ抜けてるよな……
必死でクロに付いて来ようとしているのが、痛いほど伝わってくる。
そんなに緊張すんなよ。
上手く踊れてるからさ……
クロは、そう伝えたかったが、視線が合わない。
なかなか目を合わせてくれない姫が、進行方向を変えた時、視線を移す瞬間を捕らえ、大丈夫だから緊張するな、と微笑んだ。
それが、姫目線では、優雅で艶やかな最上級の笑顔に映る。
しかも、何やらキラキラした華を伴って――
そんな事とは、つゆ知らず、クロは姫を誘い、踊り続けた。
曲が、もうすぐ終わる。
姫の背に添えていた手が、少し離れた時、姫は手を離し、くるくる回って――
草に足をとられた!
よろけた姫を受け止め、抱き寄せると、姫は、顔から火が噴いたように真っ赤になり――
――気を失った。
「おいっ! 姫!?」
曲が終わる。
(サクラ! 頼む! 助けてくれっ!)
(どぉしたの~?)
(アオを厨の裏に寄越してくれっ!)
(は~い♪)
すぐに、アオが走って来た。
「何か分からんが、気絶した!」
アオは笑いながら、姫の額に手を翳した。
姫が、ゆっくり目を開ける。
が――
クロに抱き抱えられていると判るや否や、逃げ出そうと、もがいた。
「おとなしくして。足、挫いてる」
アオは、今度は、足首に手を翳す。
「もぅ……立てる……」
両手で顔を覆ったまま、姫がモゴモゴ言った。
聞き取れねぇよ、とクロが言おうとした、その時、
(アオ兄、クロ兄、ご指名だよ~
姫も連れて来てね♪)
クロは、サクラと話し続けながら、歩き出した。
姫を抱えたまま――
どちらかと言うと、話すことに集中していて、姫を抱えている事を忘れていたのだが――
厨の横からクロが姿を現した時、皆、響動めき――
くノ一達は、きゃあきゃあ はしゃぎ――
如月が、気を失って崩れ落ちた。
「何だぁ?」
「クロ、そろそろ降ろしてやらないかい?」
アオが笑っている。
「あ……」慌てて、姫を降ろした。
【ふむ……揃ったか……】
【円舞曲に合わせ、奏でられるか?】
「やってみよう」
【二組で舞踏せよ】
「着替えても よろしいですか?」
踊り子が申し出た。
【では、待つ間……笛を聞かせよ】
アオが舞台に上がる。
踊り子が、姫の手を取って、小屋へと走り出す。
この魔物……
そんなに悪いヤツじゃねぇよな……
クロは、そう思い始めていた。
クロだけでなく、皆、既に、そんな気になっていたが、先程、クロが現れた時の衝撃で 、そんな思いは、どこかに吹っ飛んでいた。
慎玄が、クロの横に並ぶ。
「先程の話の続きですが――」
クロと慎玄は、皆から少し離れた。
♯♯♯
小屋では――
「これをワラワが着るのか!?」
「きっと、お似合いですよ」にこにこ♪
「それに、舞踏は、裾が花のように広がってこそ、華麗な舞になるのですよ。
着物ですと、はだけてしまって、恥ずかしい状態になるだけですから」
渋々着替えた。
――が、
扉から顔だけ出し、
「恥ずかしゅうて、出られぬ~」
昨日までの姫様でしたら、
きっと大はしゃぎしたことでしょうに……
クスッと笑って、踊り子は姫を迎えに行き、姫と手を繋いで、軽やかに駆け出した。
途中で手を離して、くるくる回り、
「いかがです? 美しく広がるでしょう?」
姫の瞳は、驚いた後、嬉しそうに煌めいた。
「さあ、参りましょう♪」
二人は、弾むように舞台に向かった。
♯♯♯
笛の音が止む。
たっぷり、静寂があった後――
【揃うておるな。では、始めよ】
四人が舞台に上がり、華やかな円舞曲が流れ始めた。
アオが音を重ねる。
美しい音色が、寄り添い合い、交わっては、少し離れ、また交わり――
可憐な妖精達が、追いかけ合い、じゃれ合うように、キラキラと響いていた。
クロとサクラは、その音を体に吸収し、それぞれの相手に、目で合図して、同時に踏み出した。
衣の花が咲く。
巧く位置を入れ替わりながら、二組である利点を最大限に活かし、華麗な花を咲かせ続けた。
♯♯♯
珊瑚が小屋に戻ると、蛟が配っていた『御守』が落ちていた。
今、笛が鳴っている!
姫のものか、踊り子のものかは不明だが、珊瑚は、二人を探そうと小屋を飛び出した。
二人は、舞台の上!?
珊瑚は『御守』を握りしめ、
ここで妖狐になるわけには……
舞台に向かって走り出した。
厨の裏で、アオが治療を終えた時――
桜(アオ兄、クロ兄、ご指名だよ~
姫も連れて来てね♪)
黒(『姫も』って事は、姫も踊るのか?)
桜(ご指名だから、そぉなんでしょ?)
黒(どう組むんだ?
極上なら、オレと踊り子さんか?)
桜(クロ兄と姫でしょ)
黒(それで、極上しろだと!?)
桜(できるでしょ。クロ兄なら♪)
黒(う……しゃあねぇなっ!)
桜(がんばって~♪)
黒(ん? 騒がしいな……)「何だぁ?」
青「クロ、そろそろ降ろしてやらないかい?」
(サクラ、計画的犯行かい?)
桜(どぉだろ♪)きゃははっ♪




