旅立ち5-山賊
アオは竜ヶ峰の大滝に行きたいんです。
「のぅ、アオ。
城下でウロウロと何をしておったのじゃ?」
「もしかして、付けて来ていたんですか?」
「城下はワラワの庭じゃからの♪
後ろをコソコソぜずとも、先回りして物陰で様子を窺ぅておったのじゃ♪」
「俺達は、魔物退治の旅に出る前に、僧侶を仲間にしたいんだよ。
それで、竜ヶ峰の大滝で修行をしている慎玄様に会いたいんだ」
「竜ヶ峰の大滝に行かねばならぬのに、何故、城下なんぞに居るのじゃ?」
きょとん。
何方様が引っ張って来たんでしょうねっ!
ため息……。「成り行きですよ」
「ならば、山登りに向かおぅぞ♪」
「大滝まで、どのくらいかかるんですか?」
「ふ~む……ワラワならば三、四日かの」
姫様の脚力は並外れているのに、
そんなにも……。
「やっぱり、山賊を探します」
「山賊とな? 何故じゃ?」
「近道を知っているらしいんですよ。
姫様、山賊の居場所をご存知なんですか?」
「山賊の知り合いは居らぬからのぅ」
「では、町衆から聞くしかありませんよね」
「ならば、此方じゃ♪
ナラズ者が集まっておる場所に行くぞ♪」
姫の後に続く。
「ならず者の知り合いなら居るんですか?」
「ワラワは姫じゃぞ。
どぅして其のよぅな者と知り合う機があろぅか」
ぷんっ。
どうして、って……
城で、おしとやかにしていないからですよ。
知り合う機なら、わんさか有りそうだし――
「海賊なら居るんですか?」
「親が海賊であった者達ならば、よ~く知っておるぞ♪」
「海……遠いですよね」
「我が国の南端に海賊の砦が有ったのじゃ。
ワラワが諌め、今は、まっとうに働いておるぞ♪」
「諌め……」力ずくで?
「アオ、ワラワの事、誤解しておらぬか?」
いえいえ、誤解なんて滅相もございません。
「話をする為に勝負しただけじゃ」睨む。
「勝負……どんな?」
「剣も合わせたし、漁もしたぞ。
獲った魚を料理したらば、感服したらしゅうてな。
皆、降参したのじゃ。
もぅ暴れる気は失せた、とな♪」えへん♪
何を食べさせたんだか……。
皆の命を護る為には、
姫様に料理させてはならない。
そう、心に刻んだアオだった。
「ほれ、アヤツらがナラズ者じゃ」
♯♯♯♯♯♯
町衆の話では、城下から竜ヶ峰への近道は山賊しか知らない、との事だったが、
ならず者達の話では、大滝への近道は、山賊しか知らないどころか、山賊に連れて行ってもらわないと行けない、と聞いた事が有る、という程度の情報しか無かった。
そして、山賊達は城下町外れの賭博場に、よく現れるらしい。
♯♯♯♯♯♯
「賭博場ならば此方じゃ♪」
姫が弾みながら進み、皆、付いて行く。
「それにしても、アオは見かけに依らずバカ力なのじゃな♪」
後ろ向きに弾む。
そうなのかなぁ……?
「あのような大男共を、腕相撲でブン回して、投げ飛ばしてしまうとはのぅ~」
「お陰で、すんなりと話が聞けましたね」
「急に大人しくなりましたものね」
「如何にすれば、その細い腕でバカ力が出るのじゃ?」
知らないよ。出しているつもりも無いし……。
「何処で鍛えたのじゃ?」
「この五年は、東の国で十左という男に、剣や槍を教わっていたけど……。
……それ以前の記憶は無いんだよ」
「さよぅか……あ! 十左とやらは強いのか?」
「強いんじゃないかな……戦で片足を失っていたから、本当の強さは知らないんだよ」
「さよぅか……して、その十左は何処じゃ?」
「十左は……」
「アオ殿は、十左殿を探しているのです。
魔物に村を襲われ、行方知れずとなってしまいましたので……」
「さよぅか……アオ、ツラいことばかり遭ぅたのじゃな。
……聞いてしもぅて申し訳ない……」うるうる。
「いいよ、謝らなくても」ぽふっ。
「あ……」立ち止まる。
姫は、頬が熱を帯びるのを感じつつ、アオの掌が去った頭を両手で押さえた。
「置いて行くよ?」「ま、待つのじゃっ!」
♯♯♯
賭博場に着き、引戸を開けると――
それらしき男達が顔を上げハッとし、
「かっ、頭っ!! 御許しをっ!!」
脱兎の如く走って逃げた。
山に向かっているのは明白だが、岩の隙間を抜けたり、茂みに突っ込んだり、道でない所をひた走っていた。
男達がしたように、木の虚の縁に手を掛け、足から飛び込むと、地下道が在った。
地下道を駆け抜けると、洞窟の入口が見え――
ちょうど男達が、洞窟へと駆け込んで行くところだった。
洞窟の入口で足音が去って行くのを確かめる。
そして、男達を追いかけ洞窟に入った。
湿り気は無いんだな……岩窟か。
どうして暗くないんだろう?
不思議に思いつつ仄かに光る岩肌に身体を沿わせ、足音を立てないよう慎重に進んで行った。
あ……分岐だ……おや?
一方の奥から、微かに話し声が聞こえる。
さっきの男達なのかな?
響く事も有り、話の内容までは判らないが、声のする方に向かった。
洞窟の奥には――
広くなった場所が有り、何から発しているのか判らなかったが煌々と明かりが灯っていた。
え……?
まさか……大きな鏡でも有るのか?
金色の髪……赤褐色の瞳――
アオに瓜二つな男が、驚きの表情でアオを凝視していた。
しかし、その着物は……見た事も無い……
いや、そうなのか?
見覚えが……分からない……――
目眩を覚え、それに耐えていると――
金髪の男とアオの間で、アオに背を向けていた銀白色の長い髪の男が、金髪の表情に気付いたらしく、金髪に声を掛けた。
二人は二言、三言、小声で言葉を交わし――
金髪の男が頷くと、銀髪の男はクルリとアオ達の方を向き、ニヤリ。
また、俺と同じ顔!?
「よぉ♪ 兄弟♪」酒を差し出してきた。
どうする!?
凜「姫様、この島の名前は?」
姫「竜ヶ島じゃ。鬼ヶ島ではないぞ。
古来より竜ヶ峰には、竜が住んでおると
言い伝えられておるのじゃ。
じゃから、島の名も竜に因んでおるのじゃ」
凜「竜をご覧になった事は?」
姫「見たいのじゃがのぅ……。
ワラワは、見るだけでのぅて乗りたいのじゃ」
凜「もうすぐ乗れますよ。きっと」
姫「さよぅか♪ 楽しみじゃのぅ♪」
会話中や心中の補助的使用の言葉の、
漢字と仮名の使い分けに関しましては、
話し方の硬軟を表す事を優先しています。
気になる方、すみません。 m(__)m