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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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霧の島10-舞踏練習

 前回まで:命懸けの歌舞が続いています。


 アオが奏でる笛の音が、爽やかで優しい春風となって、やわらかく吹き抜けていた頃――


霧の森を飛ぶクロは、やっと慎玄を見つけ、背に乗せ移動しながら、草地で起こっている事を話した。


そして慎玄は、森での出来事を話し始めた。

しかし、すぐに草地の近くとなり、話は後程ということになった。


草地の手前でクロは人姿になり、

(サクラ、戻ったぞ。厨の裏だ)


(わかった~♪ 待っててね♪)


蛟が駆けて来て、

「アオ様が魔笛を奏でておりますので、魔に魅入られないよう『御守』をお持ち下さいませ」

クロと慎玄に『御守』を渡した。


 蛟、考えたな……魔笛を渡すとはな。


クロは、ただ、アオに笛で繋いでもらえれば、と思って、サクラに伝言を頼んだのだが――


 魔笛なら、この状況、

 打破できるかもしれねぇ!


 それじゃ、たっぷり聴いてもらおうか……



♯♯♯



 三人は草地に入った。

慎玄は、紫苑が休んでいるであろう小屋に向かった。


入れ替わりに、十左が、装飾を施した槍を持って、戻って来た。


「この装飾は……?」蛟が問う。


「お嬢さん達が、付けてくれたんだよ。

なかなかいいだろ♪」


そこに棟梁が来た。

「御家老様、いいもん見させて貰うばかりじゃあ申し訳ねぇ。

何か、お手伝い出来る事、有りやせんかぃ?」


「それなら、職人さんの中に、太鼓が叩ける人、いないかい?」

十左が尋ねた。


「いるが……太鼓なんかねぇぜ」


「丸太なら有るよなっ。

槍舞するから、それを叩いて欲しいんだ」


「分かりやした。すぐに準備させやす!」


棟梁が戻って行き、暫くして、船大工達が大きな木箱や丸太を担いで、やって来た。



 アオの演奏が終わる。


静寂……長い沈黙……


アオは、また天を仰ぎ、言葉を待った。



【もっと聴きたいが……】


【褒美として、暫しの休息を与える】


【次は誰ぞ】


 十左が頷き、船大工達が木箱と丸太を運び上げる。


十左が足で拍を刻む。

船大工達は頷き合うと、拍に合わせて叩き始めた。

木箱は意外と重厚な音がし、丸太のうち幾本かは、くり抜かれており、良く響いた。


 十左は槍を回し、払い、突き――

動作の一つ一つを、豪胆にビシッと決め、装飾をキラキラさせながら力強く舞った。


「十左、格好いいね~♪」


「……そぅじゃな……」


くノ一達が、剣を手に、舞台に駆け上がった。


手首と腰に、ひらひらした長い布を着け、可憐に舞いながら、十左の槍と剣を交え、勇猛さを華やかに彩った。


「くノ一さん達も、キレイだね~♪」


「……ぁぁ……」ため息……


「姫? どぉしたの? 元気ないよ?」


姫は無言で立ち上がり、厨の方へと歩き始めた。


サクラが姫を追いかける。


姫は、厨の壁にもたれ俯いた。


サクラも並んで壁にもたれた。


無言の時が流れる……



【見事であった。とても即席とは思えぬ】


【次は誰ぞ】


着替えて戻っていた踊り子が舞台に上がる。


曲を頼んだらしく、また、どこからともなく美しい楽曲が響いた。


「いつまで続くんだろね~」


「…………」


「そぉいえば、朝ご飯、食べてないよね?」


「…………」


「ねぇ、姫、ホントに どぉしたの?」


「何でもないのじゃっ!

……放っておいてくれぬか……」


「でも……」




【なかなかに腕の立つ者の集まりだな】


【次は……最初に舞った御主と……】


【御主で舞踏せよ】


踊り子は舞台に留まり、クロが舞台に上がる。


華やかで軽やかな円舞曲が流れ、クロと踊り子の舞踏が始まった。



 姫は舞台を凝視していたかと思うと、急に走り出し、厨の裏手に回り込んだ。


サクラが追って、厨の裏に行くと、姫は、しゃがみ込んで両手で耳を塞いでいた。


「……姫?」


姫は泣いていた。


「どぉしたの? ね……なんで泣いて――」


姫は泣きじゃくりながら、

「胸が……苦しぃ、の、じゃ……

ワラヮ……っ……もっ、

クロ……とっ……踊り、たぃ、の……じゃっ」

絞り出すように、必死で訴えた。


サクラは、姫の頭を撫でた。

「姫、練習しよ。俺が教えるから」


「サ……クラ……?」


「うんうん。だいじょぶだから立って♪」

姫の両手を握って、立ち上がらせる。


手を取り、腰を引き寄せると、姫が真っ赤になって縮こまる。


「ダメだよ~、背筋は まっすぐ。

うん♪ 気持ち、反り返る感じで~ そぉそぉ♪」


姫は必死でサクラの言葉に従っている。


「俺の目を見て~

絶っっ対! 下向いちゃダメだよ~

それでぇ、姫の爪先で、俺の爪先を追いかけて」


 姫、すっごく一生懸命だ……

 そんなにも、クロ兄と踊りたいんだね……


 この色って……

 クロ兄もだけど……

 どぉやって気づかせたらいいんだろ……


「じゃ、今度は、手をちゃんと組もうね。

えっとぉ、姫は右手伸ばして、左手、俺の腕、肩の辺りね。

でね、肘、しっかり上げて~」


背中にサクラの手が添えられて、姫はビクッと震えた。


サクラが、だいじょぶだよ♪ と微笑む。


「こやって、目で お話しするから、見ててね。

でも、恥ずかしいかなぁ。

ん~と、高い位置――進んでる方の、手の先とか、見ててもいいよ。

足だけはダメだからねっ」


サクラは姫に、足を運ぶ方向を指示しながら――

(クロ兄、まだ踊ってるよね?)


(ああ。()めさせて貰えねぇ)


(ねぇ……

今、姫が練習してるからぁ、後で一緒に踊ってあげてねっ♪)


(何でっ!?)


(それは……わかんないけど……

すっごく一生懸命なんだ。

踊ってあげてよ~)せめて、ここで一緒に……


(わかったよ!

魔物に命取られないくらいに教えろよ!

で、お前ら、どこにいるんだ?)


(厨の裏~)舞台で一緒のつもりかなっ♪


(終わらせて貰えたらな)


(うん♪)


「足の運びは決まってるから、覚えてね」


微かに流れてくる曲に合わせて、足を運ぶ。

サクラの指導は、曲が止まるまで続いた。


続けて流れていた曲が止まり――

【褒美として しばしの休息を与える】

という声が聞こえたが、


姫は、足を運ぶ事に必死過ぎて、曲が止まった事にも、魔物の声にも、気付いてはいなかった。


「じゃあ、手が上がって、俺の手が離れたら~

くるっと回って~ 戻って~ 目を見る♪」


一瞬、目が合ったが、すぐに姫の視線が外れる。


「ダメだよ。ちゃんと目を見て♪

それ以外、上出来♪ 上手になったよ」にっこり


「最後のお辞儀は、こう♪」

女の子のお辞儀をサッと可愛く、して見せ、


「姫、がんばってねっ♪」

サクラは、逃げるように去って行った。


姫が、ひとり残され、呆然とサクラが去った方向を見ていると――


背後から、

「あれ? 姫、ひとりか?」

(お~い、サクラ~)


(あとは、クロ兄、がんばってねっ♪)


(何をだっ! おいっ! サクラ!)


サクラの返事は無い。


 しょ~がねぇなぁ……


「練習の成果、見てやるよ」





凜「サクラも踊れるんだ~」


桜「あったりまえでしょ」


凜「クロもサクラも、やっぱり王子様なのね~」


桜「なんだと思ってたの?」


凜「ん~~~、王子じゃない何か、かなっ」


黒「そーいや、オレが最初に踊った時!

  『意外な事に』とか書いてたよな!

  オレが一番上手かったら、おかしいのか!?」


桜「おかし~でしょ♪」

凜「うんうん♪」


黒「アオ! 何とか言ってくれっ!」


青「いや、思い出してないからね」くすくす♪


黒「オレの扱い、どーなってんだよぉ」


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