表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
57/429

霧の島8-極上の歌舞

 前回まで:霧の魔物から歌舞を要求されました。


 アオ達は魔物の声を聞き、舞台に駆け寄った。


「姫! 聞いた通りだ!

極上の舞が舞えなければ、命を取られる!」


【早く舞を見せよ。それとも、歌か?

奏でてもよいぞ】


「ったく!」

クロがヒラリと舞台に上がる。


「ひとりでなくてもいいんだよな?」


【構わぬ。極上であればな……】


クロが頷く。

そして、舞台の下に向かって、

「時間は稼ぐ! 後を考えてくれ!」



 なんだかんだ言っても、クロは王子なので、舞踏は必須。

しかも、意外な事に兄弟の中で一番上手い。


姫の手を取り、腰を引き寄せ、

「力を抜いて、オレに任せろ」

安心させようと優しく微笑んだ。


 そうだっ!


(蛟に、アオに笛を渡せ、と伝えろ)


(うん♪ ソレ、いいねっ♪)


「音楽無しで踊らないといけないのか?」


【流す事は可能だ】


「何でもいい。円舞曲を頼む」


 流石、極上の歌舞を要求するだけあって、美しい楽曲が、どこからともなく流れ始めた。


華麗で煌やかな楽曲にも、クロの舞踏は負けてはいない。

むしろ、負けるどころか、魔物任せの楽曲までもがクロのものとなり、相乗効果を起こして、夢のような世界を醸し出している。


見つめ合い、くるくると着物の裾を(なび)かせて舞いながら、

「もうすぐ曲が終わる。

オレが止まったら、着物の腿辺りをちょっと摘まんで、膝折って、お辞儀しろ」


曲に合わせ、姫の耳元に顔を寄せ、早口だが、姫が緊張しないよう優しく囁いた。


「終わるぞ。

摘まんで~、膝折って~、お辞儀っ」


 なんとか凌いだ……か?


【ふむ……最初にしては上出来だ】


【次は、誰ぞ】


 舞台の端に階段が現れた。

クロは姫を引きずるように、大急ぎで舞台から下りた。


紫苑と珊瑚が上がる。

二人が位置を定めると、階段が消えた。


安定の美しい舞が始まる。

魔物も喜んでいるのか、舞に合った曲が流れ始めた。



♯♯♯



「ったく! 上がるなって言ったろ!」


「聞こえなかったのじゃ……

クロ……怒っておるのか?」


「しゃ~ねぇなぁ、もう上がるなよ」


姫が素直にコクンと頷き、そのまま俯いた。


 なんか……調子狂うなぁ……


「あっ! こんな事しちゃいられねぇっ!

次を何とか……そうだっ! 慎玄どこ行った?」


 おそらく、紫苑と珊瑚は、舞い続ける気だ。

 あの舞は、元々、術を放つための舞だ。

 回復の術が必要なハズだ。


クロは森へ入り、竜になって慎玄の気を探した。



♯♯♯



 アオと蛟は、蛟の作業小屋に来ていた。


蛟は、クロから返してもらった革袋に入っている物を卓に出した。

その中から、青い石の首飾りと、数本ある笛のうちの一本を取り、アオに渡した。


そして、アカが持って来た剣と、宝剣をアオに(かざ)した。


首飾りの青い石が光り、紋様が浮かび上がる。


「その石は、アオ様の力を増幅します。

僅かでも戻った今なら、使える筈でございます」


蛟は、翳した剣から手を離した。


二剣は宙に浮き、青い石と共に呼応するように輝き始め、その輝きは、アオの体を包み込んだ。


「その笛は、アオ様の笛でございます。

ただ……それは、魔笛でございますので、相応の力がなければ、音が出ないのでございます。

今は、剣の力を借りて吹いて下さいませ」



 アオが剣の力を吸収している間に、蛟は、別の袋から三色の結晶石を取り出し、それぞれを砕いた。

小さな巾着袋に、その欠片を少しずつ入れ、今、この島に居る人数分の『御守』を作った。


魔笛に魅入られ、魂を奪われないように――




 剣の光を、これでもか、というほど吸収し、アオは笛を口に当ててみた。


美しい音が流れ出す。


 指が覚えている!


蛟は、薄衣(うすぎぬ)を差し出した。

「最も魔笛の近くで、その音を聞く事になりますのは、アオ様でございます。

この薄衣を被り、耳をお護り下さいませ」


アオは薄衣を羽織り、外に出た。



♯♯♯



 舞台では、紫苑と珊瑚が舞い続けている。

舞い始めて、もう一刻を越えている筈だ。


踊り子が小屋から出て来た。

隣の小屋から、十左も出て来た。


「これは……何事なのですか?」


蛟は二人に説明し、『御守』を渡した。


「魔物に見せるための舞いですか……

私が怪我をしていなければ……」


アオは、また右手を見詰めていた。


 剣の力を吸収している今なら……


そして、踊り子の挫いた足首に翳した。


アオの右手が光を帯びる。


「あ……痛みが……消えました!」


踊り子は笑顔を咲かせ、小屋へと走り出した。


振り返って、

「着替えて参ります!」


走り去った踊り子を見て、十左は目を丸くし、

「アオ、凄いなっ♪

銀の髪の兄さんだけじゃないんだなっ!

アオもソレ、出来るのか~」


「出来ているのかどうなのか……

実は、まだ記憶が、ちゃんと戻っていないから、自分でも何が起こっているのか、よく分からないんだ……」


「そうか、まだなのか……でも、凄いぞ!」

アオの肩をバシバシ叩く。


そして、十左は少し考え、

「それはそうと……

剣舞や槍舞でもいいのかなぁ」呟いた。


【構わぬぞ。極上であればな】


「なら、皆で、あの二人を休ませられるなっ♪

槍を作って来るから待ってろよっ!」

十左も小屋に向かって走って行った。




 紫苑と珊瑚の舞が、ひと区切りついた。


【素晴らしい舞だ】


【褒美として、暫しの休息を与える】


【次は、御主。その笛、奏でてみよ】


『御主』と指名されると、ごく弱い雷撃のような感覚が走る。


 これは一種の呪縛なんだろうか……


そう思いながら、アオは舞台へと向かった。


そして、舞台から下りた紫苑と珊瑚に、

「皆で時間を稼ぎます。

しっかり休んでください」微笑んだ。



 アオは舞台の欄干に腰掛け、薄衣を被り、笛を構えた。


呼吸を整え、魔笛に剣の力を吹き込んだ。




♯♯ 上空 ♯♯


 私の天性とは、一体……

 アカの言葉からすると、

 私にも神眼が有るようだな。


 『有る』と信ずれば、開く筈だ。

 開く為の土台は出来ているとサクラは言った。

 あとは見つけるだけだと――


キンは目を閉じ、気を高め、澄ませた。



聞こえていた波の音が遠ざかる――


 光? これか!?


キンは、己が内に見つけた光を掴み、引き出した。

内なる光が、連なり続き、次々と引き出される。

そして、続けざまに炸裂した。


 見えた!!

 確かに島が在る!!


 やはり、神眼であったか……

 見つけて、開くことが出来たのだな……


 しかし、まだ明瞭ではない。


 次は、伸ばさねばならぬ、という事か……





桜(ヒスイ、力、使ってるよね? 大丈夫?)


翡【大丈夫だよ。

  アオの中も、サクラの中と同じだから】


桜(無理しないでね)


翡【ほんの少し力を足しているだけだから……

  私が、そうしたいのだから、大丈夫だよ】


桜(でも、ずっとは無理なんだから、

  時々、アオ兄から出ないと駄目だよ)


翡【アオが眠っている間は出ているよ】


桜(起きてる方が長いでしょ?)


翡【そうだけど……心配しないで、ね?】


桜(……うん。ヒスイだもんね)


翡【ありがとう、サクラ】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ