表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
55/429

霧の島6-究極の選択

 前回まで:クロは厨で料理したいんです。


♯♯ 上空 ♯♯


「キン兄も来ていたのか」


「ああ、アカは何故ここに?」


「サクラと話が出来ぬからだ。

ここは、島の辺りの筈だが……」

アカは、そう言うと、目を閉じた。


キンは静かに待った。


「ふむ。確かに島は在る」目を開けた。


「何故、見えぬのだ?」


「何者かが隠している。

牆壁の如き強い結界が有り、その内は闇の気で満たされている」


「サクラは居るのか?」


「クロとサクラと……妖狐の気を感じる。

おそらく、皆、無事だ」


「如何にして見ているのだ?」


神眼(シンガン)――天性だ。

目には見えぬモノが見える力だ」


「そうか。

アカは全ての天性を見つけているのか?」


「三つ……おそらく、全てだ。

キン兄は、もっと多いらしいが――

サクラから聞いていないのか?」


「いや、己で見つけるよう言われただけだ」


「ならば、ここで開けばいい。

無事と判ったから、俺は工房に戻る」


「アカ……私の天性を知っているのか?」


「神眼持ちだからな」ニヤリ


アカは飛び去ってしまった。



♯♯♯♯♯♯



「だあぁぁぁ~っ! 無理だぁ~~~っ!

やっぱ、どんなに考えてもダメだっ!

厨でなけりゃ、まともな仕込みなんて出来やしねぇっ!」


クロは大の字で天井を睨み、考え込んでいたが、叫んだ後、ごろんごろんと、疲れて眠ってしまったサクラの横まで転がり、また、天井を睨みつけた。


 道具や設備を移せば、そこに姫が来るだろな。

 道具も材料も無しに料理なんて出来ねぇって!


「考えても仕方ねぇ! 出たとこ勝負だ!」

ガバッと起き上がって胡座(あぐら)をかき、真っ直ぐ蛟を見る。

「付いて来てくれるか?」


「はいっ、もちろんでございます!」


小屋から出て行くクロと蛟を、心配しかない眼差しで見送るアオだった。




 厨を覗くと、案の定、姫が仁王立ちで睨みを利かせている。


厨で立ち働いている くノ一の数が、いつもより多い。

おそらく、姫がイライラピリピリしているので、何事か有らば、と待機しているのであろう。


クロは深呼吸した後、両頬をパンッと弾き、気合いを入れて厨に乗り込んだ。


「クロ! よぅも来られたな!」


「ここはオレの仕事場だ!

姫こそ何故ここに居る!」


蛟はハラハラしながら見守り、くノ一達は手を止めることなく無表情で調理しているが、聞き耳はシッカリ立てている。


「先程は、何故、逃げたのじゃ?

素直に教えてさえくれれば、このよぅな事などせぬわ!」


「竜族の名誉と威信に懸けて、それは絶対に言えねぇ!」


 『竜族の』ではなく、

 『オレの』でございますよね?


「クロ、ワラワは、ただ真実が知りたいだけなのじゃ。

聞いたとて、誰にも話しはせぬ」


「姫の事は、共に戦う仲間として信頼している。

それでも! 竜には、人に話せない事があるんだ。

解っては貰えないだろうか……?」


 何故、竜は人に壁を作るのじゃ?

 人を信じておらぬからか?


 何故、人から隠れて生きようとするのじゃ?

 人が信じておらぬからか?


姫は歯噛みし、

「ならば……選んで頂こぅぞ」キッ!


深く、ひと呼吸し、

「ワラワの問いに答えるか――」


もう一度、深呼吸し、真っ直ぐクロの目を見、

「ワラワの婿になるかじゃ!」ビシィッ!


「うっ……」言葉に詰まる。


 姫様……その二択は……

 悲し過ぎは致しませんか?


「……わかったよ」(うつむ)き、目を閉じる。


「話してくれるのか?」ぱぁぁぁ~♪


 姫様……大層、嬉しそうでございますが……

 それは、フラれたって事でございますよ……



 クロは、辛そうに目を閉じたまま長く俯いていたが、意を決して顔を上げた。

そして、真剣な眼差しで姫を見詰めた。


「姫の婿になろう」


「え!?」姫を含め全員、一斉に固まった。


クロは、一歩また一歩と、姫に向かって進み、姫は、間合いを保つかのように後退った。


そして、とうとう、姫は壁に追い詰められた。


クロは、姫の瞳から視線を外すことなく、壁に右手を突いた。


至近距離にクロの真顔が有り、恥ずかしさに耐えきれなくなった姫は、身を(よじ)り、クロが手を突いていない側から逃れようとした。


が、クロの左手が、姫の右手首を捕らえ、壁に押し付ける。


クロは、右手を壁から ゆっくり離し、優しく姫の髪の乱れを整えた後、


恥ずかしさで俯く姫の顎に、下から指を添え、ゆっくり顔を上げさせた。


そして、涙で潤む瞳に向かって、

「ここに居る者、全員が証人だ。

今から、夫婦って事で、いいな?」


初めて聞く、優しく諭すような口調。

心が、とろけそうになる甘く低い声……


そして、一瞬だけ真顔を崩し、優しく微笑む。



 傾げたクロの端麗な顔が迫って来る。

姫は、目を見開いたまま固まっていたが――


唇が触れそうになった瞬間、あらん限りの力でクロを突き飛ばし、脱兎の如く厨から逃げ出した。


「クロのバカーーーッ!!!!!

婿など願い下げじゃーーーっ!!!!!」


遠くから聞こえる姫の絶叫を反芻し、クロは、ホッとして へたり込み――


項垂れ、長く、長く、息を吐いた。



 そして、バッと顔を上げ、

「蛟っ! 何で止めてくれないんだよっ!!」


「え!? あ……

お止めした方が、よろしかったのでございますか?」


「もう少しで……ヤバかっただろうがっ!!」


「見入ってしまいまして……」あはははは……


「オレ……

もう、終わったかと思ったよぉ。

姫、なかなか逃げてくんねぇしぃ」


必死で無表情を保ち、笑うまいとしていた くノ一達が、とうとう堪えきれずクスクスと笑いを漏らし――


次第に声を上げて笑い始め、クロも蛟も、つられたように笑った。


緊張から解放された厨は、安堵感と愉しげな笑い声で満ちた。




 やっぱり心配で心配で仕方なく、窓から様子を窺っていたアオは、そぉぉぉ~っと離れ、自分の小屋に戻って行った。



♯♯♯



 姫は、まだ早鐘を打つ胸を、両手で押え、霧で真っ白な世界に佇んでいた。


「クロ……先程のは、本心か? それとも……」


 からかわれただけなのか……?

 いつものクロならば、後者じゃが……


クロの端麗な真顔が脳裏から離れず、クロの言葉が心の中で木霊(こだま)する。


サクラが二人いた事など、もう、どうでもよく、逃げ出した事を、後悔し始めている姫だった。


そして、願い下げてしまった事を、今になって激しく後悔していた。

「逃げるだけに留めておけば……」ため息……


『姫の婿に……』『婿に……』『婿に……』


『今から夫婦……』『夫婦……』『夫婦……』


「め……お……と……」

声に出してみて、更に恥ずかしさが増し、赤く染まった頬を両掌で包んだ。




 姫様? ご自分が究極の選択を迫った事、

 すっかり、お忘れでございますよね?


 そして、クロ様?

 昨日より、ず~っと恥ずかしい事を

 なさってしまったのではございませんか?



♯♯♯♯♯♯



 その夜――


くノ一達は、ひとつの小屋に集まっていた。

くノ一といえど、年頃の彼女らにとって、あまりに衝撃的な出来事に、ただの娘に戻っていたのだった。


厨で目撃した葉月と神無月が、それぞれクロ役、姫役となり、長月が解説を加えて何度も実演し、


その後、役を入れ替わりながら、夜が更けても尚、きゃあきゃあ騒いでいた。


ただ一人、早々に気絶していたが……





凜「あれ? サクラ、どこ行ってたの?」


桜「森を散歩~♪」


凜「クロの真似?」


桜「うん♪ 楽しぃかな~? って♪」


凜「楽しかった?」


桜「紫苑さんと珊瑚さんに会った~♪」


凜「楽しかったみたいね」


桜「うんっ♪」


凜「じゃあ、クロと姫のは見てなかったのね……」


桜「なにかあったの?」


凜「なんでも~

  あ、アオが探してるよ」


桜「あ♪ アオ兄~♪」たったかたっ♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ