霧の島5-霧の朝②
少しだけ加速して、5話/2日にしようかと……
多いでしょうか……?
濃い霧の中、蛟は姫を追いかけていた。
姫は、昨日、サクラが二人いた真相を確かめようと、アオ達の小屋に向かっていた。
「姫様、先に、お食事をなされては?」
「そぅじゃな……確かに空腹じゃ。
今頃、サクラも食べておろぅな。
膳を持って行くぞ♪」
どうしても、サクラ様から、お聞きになる
おつもりなのでございますね……
しかし、クロ様のために、なんとしても
阻止させて頂きます!
「サ~クラ~♪ たのもぉ~!」
扉に向かって姫が叫ぶ。
少し間があり、アオが顔を出す。
「サクラ、まだ寝ているんだけど」
「しょーのないヤツじゃのぅ。
ミズチ、ワラワが食べ終わるまでに起こすのじゃ」
姫は、その場に膳を置き、正座して掌を合わせた。
「アオ様、如何いたしましょう……」
小屋に入り、扉を閉めた蛟が、心底困ったという表情で囁いた。
「来るだろうとは思っていたんだけど……」
(サクラ、さっきも言ったけど、昨日の事を話したら、クロに こっぴどく怒られるからね)
(わかってるよぉ。
なんで言ったら悪いのかは、わかんないけどぉ、言ったらクロ兄に殺されるのは、わかる~)
流石に殺されはしないだろうけど……
(髪の色って、簡単に変える事が出来るのかい?)
(うん♪ カンタンだよ♪)
姫と殆ど接していなくて、
真似しやすいのは、アカだよね。
アカなら、黙って座っていればいいんだから。
(アカの髪に出来るかい?)
(うん♪ できる~♪ やっていい?)
(うん。今すぐにね)
サクラは、ガバッと起き上がり、イタズラな光を宿した瞳を閉じ、一瞬、気を高めた。
ふわっと光を帯びた長い髪が舞う。
美しい桜色の髪は、深紅に染まった。
(どぉ? 凄い?♪)
(見事だよ)
「これとか、アカっぽいかな……」
アオは呟き、地味な着物を出して、サクラに渡した。
(アカの振りをして、部屋の隅で、黙って座ってるんだよ。
いいかい? 喋ったら終わりだからね)
(うっ……わかったよぉ~)
サクラは、泣きそうな顔で地味な着物を着、髪を低い位置で結んだ。
(大丈夫だよ。喋らなければ、どこからどう見てもアカだからね)
アオは、サクラの頭を優しくポンポンとした。
サクラは小屋の隅に移動し、そこにあった剣を退かそうと手に取った。
(ちょうどいいね。それを手入れしていてね)
(うん……)
(これから何が起こっても無視して、剣の手入れをしているんだよ。
絶対に姫を見てはいけないよ)
(わかったよぉ~)
サクラが座って、剣の手入れを始めたのを見て、アオは蛟に耳打ちした。
蛟は頷き、窓を開けた。
一旦、窓から離れ、ダダダッと窓に突進し――
「あああっ! サクラ様っ!!」
「何じゃ!? サクラが如何したのじゃ!?」
姫は、勢いよく扉を開けたが、入っては来ず、小屋の中を見回し、
「サクラは何処じゃっ!?」
「窓からお逃げにっ!」
「クッ……逃げられたか……」
「姫様、如何いたしましょう?」
「この霧の中、飛ばれては仕方ないじゃろ!
次に会ぅた時に聞くまでよ!」
姫は、開けた時よりも力強く、バンッ!! と扉を閉め、足音が遠ざかって行った。
「ふぅぅぅぅ~」アカが崩れ落ちた。
(アオ兄ぃぃ 、怖かったよぉぉぉ……
俺が姫に何したっていうんだよぉ~)
(サクラは何も悪くないよ)
また優しくポンポンする。
「これからの対策を考えなければなりませんね」
窓を閉めながら、蛟が言う。
「あの竜は、サクラそっくりな鱗の竜だった、ってのはどうだろう?
『竜使い』だと信じている二人に見せる為に、竜の友達に来てもらった、とか……」
「竜がお友達で、乗っていたのがサクラ様という事でございますね?」
クロ様にとっては、良い策ですね♪
ですが……
「もう少し詰めないと、弱いかもしれません。
姫様は、こういう時、かなり鋭うございますので」
「そぉだよね~ 時々すっごく鋭くて怖い~」
俯せで大の字になって、のびていたアカが、顔を少しだけ上げた。
その時、
(サクラ、起きてるか?)
(うん♪ クロ兄、今、どこで何してるの?)
(ん~と……森を……散歩……)
(なんで?)
(んなこといいだろっ!
それより、姫、そこにいるのか?)
(いないよ~ さっき来てたけど)
(昨日の事、喋ってないだろな)
(ないないないっ! 怖かったんだからぁ~)
(そっか……ありがとな。小屋に戻るわ……)
(うん♪ でも、なんで『ありがと』なの?)
(んなトコ、気にすんなっ!)
(は~い♪)
アオと蛟が話し続けていると、扉がサッと少し開き、即座に閉まった。
そこには――クロが身を低くして、外の音を窺っていた。
(忍者みた~い♪)きゃはっ♪
(うっせぇっ)クロが振り返る。
「何してんだ? サクラ……」思わず声が出た。
(アカ兄に見える?♪)
(…………喋らなければな)
(やっぱりぃ♪ 俺もムリだと思ったんだ~)
(でも、それで姫から逃げられたんだな?)
(うん♪)
「アオ、蛟、ありがとな」
アオと蛟は、クロに微笑んだ。
♯♯♯
その頃、姫は――
厨でクロを待っていた。
「必ずや、クロは戻って来る!
ここはクロの本陣じゃからのぅ」
腰に手を当て、仁王立ちし、鋭い眼差しで、扉を睨み続ける。
サクラは、あのまま、洞窟に帰るやもしれぬ。
じゃが、クロならば、仕事を放り投げ、
帰るなど、有り得ぬからの。
そのヨミは、確かに的中しており――
クロは、アオと蛟の会話を聞きながら、
どうやったら、姫に姿を見せずに
夕食を仕込めるんだ?
そればかりを悩んでいた。
♯♯ 上空 ♯♯
島が……無い? どういう事なのだ?
だが、確かに、この位置だ。
何やら、禍々しい気だけは感じるのだが……
キンは、島が在ったと思しき場所の上空で、海面を見詰めていた。
もっと低い位置から確かめるべきだな。
キンは降下した。
凜「姫は、どうしてアオ達の小屋に
入らなかったの?」
姫「そ、それは……じゃ……
お、男臭い部屋などに、
高貴なワラワが入れるとでも思ぅたか!」
凜「あ~♪ 真っ赤になっちゃって~♪
ウブなんだからぁ♪」
姫「違うぞっ! 断じて、そのよぅな事では――」
凜「うふ♪ 解ってるから~♪」
姫「うぬぬぬ……
じゃからっ! 違うのじゃっ!!」
凜「だったら、今から、もう一度――」
姫「ワラワは厨で待つのじゃっ!」ぷいっ
凜「はいはい♪ 楽しみに見てるからね~♪」
姫「ぐぬぬぬ……覚えておれっ!」
凜「はいは~い♪」




