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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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霧の島4-霧の朝①

 前回まで:島は霧で覆われました。


「こりゃあ、外で食べるのは無理だな……」

クロは厨の外に出てみたが、霧は、ますます濃くなっており、もはや自分の足元すら見えなくなっていた。


「蛟、飯、どこで食う?」


「それぞれの小屋しかございませんねぇ」

くノ一達の方を向き、

「運びましょう」


「足元、気をつけろよ。何も見えねぇ」


「ありがとうございます。クロ様♪」


蛟とくノ一達が出ようとした時、

「ふう~ 、やっと着いた」

棟梁が現れた。


「あ、棟梁さん。

今から朝食をお持ちしようと――」


「ほおぉ。これは、旨そうですなぁ♪

弟さんは料理人だったんですかぃ?」


「ええ、まぁ」


蛟が、くノ一達に頷くと、彼女らは、積み上げた膳を船大工の小屋へと運び始めた。


「ところで、船主さんは、どの小屋にいらっしゃるんで?」


「隣の小屋ですが、足元も危のうございますので、お話は私共が伺ってもよろしいでしょうか?」


蛟が申し出、棟梁が応えようとした時、


「ミズチ、ワラワも運んでしんぜよぅぞ♪」

姫が くノ一達を伴って現れた。


くノ一達が、一斉に礼をする。


「これを、如何に よそえばよいのじゃ?」

早速、鍋の味噌汁をジャブジャブかき混ぜている。


「あっ! 姫!」

棟梁が来ているので、

『触んじゃねぇっ!』を飲み込んだクロは、

「人数、多いん――です。

向こうで配膳し――て下さい」

運び易そうな鍋に、味噌汁を移し始めた。


くノ一達が、それを引き継ぎ、クロは棟梁の側に戻る。


「今、『姫』と――」棟梁が驚き固まっている。


「ええ、声を大には出来ませんが……

外交の為、速やかに渡航したいのでございます」

蛟が声を潜める。

その必要は、当然、無いのだが――


「そうでございやしたか……お急ぎと……」

棟梁も声を潜める。

なんだか、口調が急に丁寧になった。


「ですが、この霧でございやす。

晴れるまで、外での作業は出来やせん。

三つ、充てがって貰ってる小屋のうち、ひとつを、作業場にしても構いやせんですかぃ?」


「皆さんが休む場所が狭くなりますよ」


「ひとつ有りゃあ十分でさぁ」豪快に笑う。


「それならば、ご自由にお使いくださいませ」


「では早速、作業場にさせて貰いやす」

棟梁は、くノ一達の後に付いて出て行った。


「意外と真面目な方のようでございますね♪

さて、私も皆さんに配って参りますぅ」


蛟は、膳を積もうとして思案し、

「小屋ひとつひとつ回りましょ♪」

二段で止め、出て行った。



♯♯♯



 棟梁は、微かに見えている、前を歩く背中に訊ねた。

「私とお話ししていた方は、何方なんですかぃ?」


「家老じゃが、如何した?」

前を歩いていたのは、姫だった。


「ひ、姫様でございやしたかっ!?

とんだ失礼を致しやした!!」


「構わぬ。もしや、アレか?

報酬の事ならば、心配無用じゃ。

存分に働くがよい」


「はは~っ! 有り難き御言葉!」



 こうして――

棟梁にも、『蛟=家老』が公認となった。



♯♯♯



 一方、ひとり厨に残されたクロは――


厨の裏手で佇んでいた。

「この霧……何か妖しい気を含んでるよな」


正体を探ろうと試みてはいるが、

探りの手を巧く(かわ)されているようだった。


 真っ白な霧のクセに、気は闇なんだよな……


 あーっ! クソッ! 掴めねぇっ!

 何なんだよっ! 今度は鰻の魔物か!?


 暇にまかせて昼の仕込みもしてしまったし……

「森に入ってみるか……」


一歩踏み出した、その時――


「クロ~、何処に行ったのじゃ~?」


 チッ、戻って来ちまったのか。


「クロ様~、どちらでございますかぁ?」


 蛟も戻って来たのか……


クロが厨の窓を叩くと、蛟が開けた。

「蛟、ちょっと――」手招きした。


森の方を睨んでいると、蛟の気が近付いて来た。

「なぁ、何か気を感じねぇか?」

聞きつつ振り返ると、蛟ではなく、姫の顔が間近に有った。


「うわっ!」尻餅をつく。


「酷いのぅ」

霧で顔は見えないが、たぶん膨れっ面だろう。


「なんでだよ!?」


「霧で見えぬのじゃ。仕方ないであろ?」


「じゃなくて! なんで付いて来てるんだ!?」

立ち上がる。


「いかんのか?」


「……いや……そんなことは……」


「ならば、よいではないか。

また、内緒にするつもりであったのか?」


「『また』って何だよ~

人聞きの(わり)ぃ」ムッ


 シメタッ♪ キラ~ン

「ならば、何故、サクラが二人おったのじゃ?」


「何でございますか? それは?」

蛟が加わった。


「それは――」

クロは、至近距離で自分を見上げる四つの瞳に、たじろぐ。


「う…………」後退(あとずさ)る。


「それだけは言えねぇっ!!」

クロは、くるりと向きを変え、森の奥へと 走り去った。


 せっかく忘れてたのにぃ~っ!!!




「行ってしもぅた……」


「姫様、一体 何があったのでございますか?」


「昨日、竜のサクラに、サクラが乗っておったのじゃ」


「は???

……見間違いではございませんか?」


「いいやっ!

あれは間違いのぅサクラじゃった!

姿だけではなく、話し方も、笑い方も、全てがサクラじゃったのじゃ!


竜もシカリじゃ!

あの淡くて美しい色合いと、絹の如き輝きは、正真正銘サクラの鱗じゃ。

塗ったものなどでは有り得ぬのじゃ!」


「はぁ……」

相槌を打ってから、蛟は気付いた。


 あ……

 クロ様が乗っていたのでございますね♪

 お疲れの原因、解りました~♪

 私も拝見したかったですぅ♪


「何か心当たりが有るのか?」

蛟が黙っているので、姫が(いぶか)しげに聞いた。


「あ、いえ、考えておったのです」

 霧で表情が見えなくて助かりましたぁ。


「ミズチでも分からぬのか~

仕方ないのぅ、サクラに聞いてみよぅかの♪」


 あ~っっ!

 それは、おやめ下さいませ~っ!


蛟は大慌てで、弾んで行く姫を追いかけた。




♯♯ 竜ヶ峰 洞窟 ♯♯


『キン、()るかのぅ?』


「はい。シロお爺様、どうかしましたか?」


『アオの姿が見えんよぅになったんじゃが、

渡した竜宝を回収したのか?』


「いえ、回収など――

もしや、海に落としたのか?

確かめますので、一旦、切ります」


『無事ならば、急ぎはせんからの』


「サクラも一緒ですので、直ぐに確かめます」


キンは千里眼を切った。


(サクラ)


 まだ寝ているのか?


(サクラ……サクラ!)


キンは島へと飛んだ。





 クロが森に逃げ込んだ頃――


青「それで、昨日は何で、クロがサクラを

  していたんだい?」


桜「んとね~

  俺が桜竜の『竜使い』なの♪」


青「ああ、踊り子さんが言っていた……

  あの言葉を真実にしようとしたんだね?」


桜「そ♪」


青「姫は、どうして乗らなかったんだろう……?」


桜「乗ってくると思ったんだけどねぇ」


青「…………絶対、突き止めようとする筈だな。

  サクラ、姫には、話してはいけないよ」


桜「うん……なんか、怖い……」


青「姫も怖いだろうけど、クロも、たぶん

  物凄く怒るだろうからね」


桜「クロ兄が、やったことなのにぃ」


青「秘密にしないといけないんだよ」


桜「うん……」


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