霧の島2-サクラ?
書き忘れていましたが、『提桶』はバケツです。
オレ達『竜使い』って事でいいのか?
それで不都合は無いのか?
と、クロが考え込んでいる間に――
サクラはアオに近付き、
「アオ兄♪ なぁに真剣に話してるのぉ?」
「あ……サクラ……」アオは海図から顔を上げた。
「この島が海図に載っていないらしいんだよ」
アオの言葉に、踊り子が頷く。
「あの小さい島が、これらしいんだ」
アオが島を指し、続いて海図を指す。
「向こうの、もっと小さい島が、この点なんです」
踊り子が、それぞれ指す。
「ふぅん……
あ♪ 空から確かめてみる?」
(サ~ク~ラ~)クロが睨んでいる。
「やばっ」
サクラは逃げ出そうとしたが、クロに捕まった。
「蛟を待たせてるんだ。行くぞ!」
サクラを引っ張って行く。
「後でね~♪」
クロに引っ張られながら手を振った。
クロは、まず、蛟の小道具袋を取りに船に向かった。
「あっ……クロ兄、ちょっと待ってぇ」
「何だよ」むっ
「アカ兄が……え? なぁに?……」
(予備の剣、置いている。アオに渡せ)
(わかった~♪)
「たぶんね~
アカ兄、予備の剣、持って来る途中のどこかで、キン兄に捕まって~
それで、船、押して来ることになったんだよ~
剣、『アオに渡せ』だって~♪」
「ふぅん。で、何処に有るんだ?」
「あ……」(アカ兄、剣どこ?)
(……船)
「船? あ♪ あれじゃない?」
サクラが指す方を見ると、甲板で何かが陽の光を反射している。
その時、
「船主さん、なんか用ですかぃ?」
船の方から声がし、船底の穴から棟梁が出て来た。
「船主さん……じゃないようだな……」
「あ……兄なら向こうに――」アオを指す。
たぶん、棟梁が言う『船主』は、
キン兄なんだろうけど……
「弟さんですかぃ。よく似てやすなぁ。
で、なんの用ですかぃ?」
「荷物を――船室から荷物を出したいんだが」
「ああ、そうだな……不便させたなぁ。
気が利かなくて すまねぇな。
上の方は、好きに出入りしてくれ。
底の方は、危ねぇから近寄るなよ」
そう言って、棟梁は船に戻って行った。
クロは、誰も見ていない事を確かめ、高く跳び、甲板に降りた。
サクラが続く。
甲板には確かに剣が有り――
「この剣は……そうか……見つけたのか……」
だから 『後で聞かせろ』って言ってたのに、
わざわざ持って来たのか……
クロは、ひとり納得した。
サクラが縄梯子を持って弾んで来た。
「コレ~♪」
「そっか、それなら、皆も出入り出来るな」
サクラが布に何か書き始めた。
「何だ?
『上は出入り自由、船底に行くのダメ』
おい、なんだよ、その文言はぁ」
「じゃ、クロ兄、書く?」
「いや、いいよ」ぷいっ
「ニガテだもんね~」くすくす♪
「んなんじゃねぇよっ!
布がムダになるからだっ!」
結局、サクラが書いたままを、縄梯子に結び付けた。
クロは、剣と小道具袋を持って、蛟が居る草地に向かった。
サクラが、その後を軽やかに弾んで行く。
(これ渡したら、皆から見えない所で竜になれ)
(なんで?)
(お前、『後でね~♪』って言ったろ?)
(乗せて飛んでいいの?)
(仕方ないだろ!)サクラを睨む。
(ただし、オレも乗せろ)
(いいよ~♪)
サクラは調子に乗りやすいから、
一応、怒っておいたが、
この際、乗せるって話を利用して、
『竜使い』を『真実』にするのも
悪くねぇよな……
草地に着いた。
「蛟、小道具袋だ」
「ありがとうございます。クロ様♪」
「一人で大丈夫か?」
「もちろん大丈夫でございます」にこにこ♪
「んじゃ、任せた。宜しく頼む」
「はい♪」
「あ、それと……これ」
アカが持って来た剣と、蛟が人界に来た日に預かった革袋を渡した。
「この剣は……アオ様の……」
クロは頷き、
「近いうちに、どっちも使えるようになるだろうからな」
「はいっ♪」
「サクラ、行くぞ」「ん♪」
クロとサクラは、森深くに入って行った。
♯♯♯
(この辺でいいだろ。着物、貸せよ)
(え~~っ!? なんで~??)ぃやんっ
(いいからっ)
クロとサクラは、着物を取り替え、サクラは竜になる。
クロは、綺桜の竜の背に乗り、髪を結い直した。
目を閉じ、一瞬、気を高める。
前髪を摘まんで確かめ、
「これでよしっ」と呟いた。
(お前、ぜっっったい! 喋るなよ!)
(わかったよぉ)
(笑うなよ!)
(う……うん……)自信ないけど……
(アオの所に飛べ。岩に隠れながらだぞ)
(うん♪)
そして――
「アオ兄~♪」
サクラを乗せた、綺桜の竜が、低位置を保ち、岩に隠れながら飛んで来た。
「乗って♪ 乗って~♪」
アオと踊り子も竜に乗る。
「しっかり掴まってね♪ いい?」
(一気に上昇だ)
(は~い♪)
綺桜の竜は、船大工達に見つからないように上空へと舞い上がる。
(サクラ?)アオは呼び掛けてみた。
(なぁに~?♪)
(どうしてサクラが二人いるんだい?)
(乗ってるのクロ兄だよ♪)
(え!?)アオが固まり――
(ゆっくり降下して、陽の光を背に受けるんだ)
クロの指示が届いた。
竜は位置を調整し、船と陽の間で止まる。
「海図、俺にも見せて~♪」
「解るのかい? サクラ」
笑ってはいけない……笑っては……
「どぉだろ」ケラケラ♪
「島だけ見て、こういう線は無視すれば大丈夫ですよ」
踊り子が海図を広げ、指で なぞりながら言う。
そして、サクラに微笑み、海図をくるりと回し、
「これで、同じ絵になりました」
見比べ易くした。
「ホントだ~♪
やっぱり、あの島だけ無いね~」
サクラ――ではなく、クロが、海図の島が有るべき場所をツンツン突っつく。
アオは踊り子に気付かれないように、必死で笑いを堪えていた。
♯♯♯
その頃、浜では――
「やっぱり、あいつら、竜使いだったんだな!
そっかぁ。
乗って来た竜は、サクラのだったんだな。
だから一緒に乗って来たのかぁ」
十左が、うんうんと一人合点していた。
「……そのよぅじゃな……」
このカラクリ……
クロに訊ねたところで、
はぐらかされるに決まっておる。
サクラなら、簡単に喋りそぅじゃな……
姫は、そんな事を考えていた。
聞き出す策を練らねばと、竜に乗らなんだが、
乗って観察した方が良かったかのぅ……
「なぁ、サクラの竜がアレなら、クロの竜は黒いのか?」
「あ? あぁ、そぅじゃな」
クロが、黒い竜なんじゃがな。
「そっか……
俺は、クロの竜に助けられたのか……」
後で、きちんと礼を言わねばな。
海風が心地よく頬を撫でていく――
「俺が、倒れているアオを見つけた日……
長く尾を引く青い光が、落ちるのを見たんだ。
さっき、サクラの竜を見て、あの青い光がアオの竜だったんじゃないか?
と、思ったんだよ。
あの竜……今、どうしてるんだろな」
「アオの兄弟が面倒を見ておるのではないのか?
それとも、爺様の所に居るか――
後で、クロにでも尋ねてみればよかろ?」
「そうだな……」
十左は空を仰ぎ見たが、空の眩しさで、綺桜の竜は見えなかった。
「実は、この世には竜が沢山いるんだろな……
人が知らないだけなんだろな」
言われてみれば……
「おそらく……そうなんじゃろな……」
何故、竜は隠れて生き、
人は、竜の存在を否定するのじゃろ……
「あちこちに竜神様が祀られてるってことは、昔は、そこぃらじゅうに居たのかなぁ」
「そぅやもしれんな……」
十左と姫は、竜の戻りを待って、空を見上げ続けた。
♯♯♯
「ところで……」
「ん? なんじゃ?」
「姫様は、誰が好きなんだ?
クロか? アオか? それとも他の――」
「ばっ!! 何を申すのじゃっ!!
す、す、好きなどとっ! 馬鹿も休み休み――」
綺桜の竜が急降下して来た。
「わわっ!」
姫は、真っ赤になった顔を両手で覆って、走り去った。
凜「あの小屋、家賽って名前だったのね~」
蛟「はい♪ 量産型の竜宝でございますぅ」
凜「量産型?」
蛟「竜宝には、神様にしか、お作りになれない物と
天竜の皆様が、お作りになられる物が
有るのでございます」
凜「その天竜が作れる竜宝が量産型なのね?」
蛟「そうでございますぅ」
凜「あの壺も? いっぱい入るヤツ」
蛟「はい♪ 集縮の壺でございます♪」




