霧の島1-竜使い?
前回まで:魔鯨に船を壊されました。
姫、慎玄、陰陽師達を乗せた黒輝の竜と、くノ一達を乗せた綺桜の竜と、アオと十左を乗せた蛟が、鯨に壊された船を置いた島の浜辺に着くと――
船の近くに、沢山の材木が整然と積まれており、見知らぬ男達が、忙しなく動いていた。
クロ達は、船から離れた岩陰で皆を降ろし、竜と蛟は、息を潜め様子を窺った。
姫とアオが、船の方に向かう。
「あの男衆は何者じゃ?」
姫が、船と共に運ばれていた くノ一に訊ねた。
「船大工でございます」
「この島の者か?」
「いえ、ここは無人島のようです」
「船大工達は、向こうの船で参りました」
材木を載せるには小さ過ぎる船が、少し離れた入江に有った。
その時、棟梁らしい男が近寄って来た。
「船主さんよぉ、ありゃあ、どう頑張っても十日は掛かるが、いいのかぃ?」
棟梁らしき男は、アオに向かって言った。
アオは、よく解らないまま、
「宜しくお願いします」
いいも何も、このままでは進めないので、とりあえず、そう言った。
棟梁は「はずんで下さいよぉ~♪」と
片手を上げ、人差し指と親指で丸を作ってヒラヒラさせながら、船に戻って行った。
「アオが頼んだのか?」
「いや……」
「では誰じゃ?」
「金色の竜さんが、材木を運んでいらっしゃいましたよ」
海図を手に踊り子が現れた。
右足を庇いながら歩いている。
「今まで何処におったのじゃ?」
「船が揺れた時、足を挫いてしまって、自室で動けずにおりました。
くノ一さんに手当てして頂いて、外に出たら、金色の竜さんがいらっしゃって、『船大工を手配している』と仰ってましたよ。
あれは、竜使いさんが、竜を通じて、お話しされてるんでしょ?
ですから、その竜使いさんが依頼して下さったと思いますよ」
そこまで聞いてクロは、問題無いと判断し、
(行くぞ。ついて来い)
サクラに言い、蛟に視線を移すと、蛟が頷いたので、
「アオさんのご兄弟の どなたかですよね?」
という声を聞きながら、そっと岩場を離れた。
♯♯♯
三人は低く飛び、島の反対側で人姿になった。
「クロ様、これから如何いたします?」
クロは、飛んで来る途中で切った丸太を指し、
「あれ担いで浜に戻る。
お~い! サクラ、行くぞ~!」
サクラは少し離れた所で、誰かと話していた。
そして――
「やっぱり、キン兄だった~♪」
「何でキン兄が、この状態を知ってんだ?
そういえば、オレが洞窟を出る時、居なかったけど、どこ行ってたんだ?」
「それは教えてくれなかったけどぉ、キン兄が木を運んで、アカ兄が船大工さんたち乗せた船、押して来たんだって」
ケラケラ♪
「それで~
『船が直るまで手伝え』だって~♪」
サクラは、両手で目尻を吊り上げ、キンの声色を真似る。
クロと蛟は吹き出した。
(ん?)(あれっ?)
三人は、微かな人の気配を感じた。
しまった!
人姿になるのを見られたか……?
クロは辺りを見回したが、その気配は一瞬で消え、辺りは木の葉のざわめきばかりとなった。
確かに人の気配だったが……
「ここは小さな島だし、魔物がいる海に出るような手練の気じゃなかったしな。
後で、ゆっくり調べよう。
とりあえず戻るぞ」
クロとサクラは、それぞれ丸太を担ぎ、三人は木々を縫って走った。
森を進んでいると、木々の間から船が見え、泉が湧く広い草地を見つけた。
「ここに小屋を構えたく存じます。
地面と水を確かめます」
蛟は、クロとサクラに恭しく礼をし、そこに残った。
♯♯♯
「おお♪ クロ、サクラ♪
何処に行っとったのじゃ?」
「家賽じゃ足りねぇからな。
向こうの草地で小屋作ってたんだが、こっちにも木が要るかと思ってな」
「木なら、たんまり有るぞ。ほら」
岩に腰掛け、水を張った背高の提桶に、義足を浸けている十左が、材木の山を指した。
「もう起きて大丈夫なのかよ」
「ああ。
ちょっと息が出来なかっただけだからなっ」
そう言って、十左は笑った。
「何してるの?」
サクラが提桶を指す。
「こりゃあ真水だ。
錆びるから塩抜きしろってさ」
傍では、踊り子とアオが海図を広げ、立ち話をしている。
「これ、椅子にすっか」
丸太を木陰に置き、
「アオ~
こっちで座って話したらどうだぁ?」
手招きした。
サクラは、十左をヒョイっと抱え、提桶を抱えた姫が続く。
「陰陽師と坊さんは?」クロが見回す。
「修行すると言ぅて、森に行ったぞ」
「もぉ元気になったの?」
「なぁ……話の邪魔して悪いんだが……」
「何だ?」「何じゃ?」「なぁに?」
「あ、いや……気になって仕方ないから聞いてみるんだが――」
十左の視線は、アオに向いている。
「何で、アオの髪は青くないのに『アオ』なんだ?」
今度は、クロとサクラの頭を見る。
「ワラワも、前から気になっとったぞ♪」
「あっ♪ それねっ♪
俺達、シロ爺に怒られて、髪を名前に合わせたんだよ。
その時、アオ兄は十左のトコに居たからぁ、アオ兄だけは元のまんまなんだ~
あ♪ キン兄も、まんまだけどねっ」
「染めてるのか?」
「ううん♪ 気合ぃ――んぐっ」
「そっ、染めてるんだっ」
クロがサクラの口を塞いで答える。
「ふぅん、そうだったのか~
髪、すぐ伸びるだろ。大変だな」
「爺様も来ておるのか?
ならば一度、挨拶に行かねばのぅ♪」
「来なくていい!」
「シロ爺は上に居るよ。
だから『上から見たら区別つかんじゃろぅが』って怒られたんだよ」
きゃはははっ♪
「上?」
「あ、解ったぞ♪
竜ヶ峰の頂上に居るのじゃな?」
(サクラ! これ以上、喋るなっ!)
(は~い♪)
「そうか! 竜使いの師匠なんだなっ!
ちゃんと修行してるか、見張られてるんだろ」
「そ、そ、そ~なんだっ」あはははは……
十左には、本当の事を話すべきか、それとも、一刻も早く洞窟に帰すべきか、悩むクロだった。
ん?
オレ達『竜使い』って事で
納得されてるのか?
う~ん……それでいいのか?
桜「ヒトデって、食べれる?」
凜「食べたことないからっ!」
桜「ふぅん」
凜「クロなら何でも美味しくするんじゃない?」
桜「うんっ♪」とっとことっ♪ ざぶん♪
青「サクラに何を吹き込んだんだい?」
凜「べつに~
竜って、ヒトデも食べるの?」
青「俺に聞くの?」
凜「そこまでは思い出してないのね……」
青「でも、天界には生息していない筈だよ」
桜「いっぱい獲れた~♪」
青「それ、たぶん、食べ物じゃないからね」
桜「そぉなのぉ?」
青「生き物なんだから、逃がしてあげてね」
桜「うんっ♪」ざぶん♪
凜「いい子だね~」
青「うん。だから、変な事を教えないでね」
凜「う……はい」
 




