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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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西航行4-魔鯨

 舞台が海になったとたん、なんだか寒くなってしまいました。

これから暫く寒々しくて、すみません。

「こんな感じでしょうかねぇ……」

蛟は、十左の義足の細かい金具を、締めたり、緩めたり、付け替えたり、暫く卓上でカチャカチャとしていたが、

「あとは、着けて調整いたしますね」

立ち上がった。


卓の縁からキラキラした瞳で、その作業を見ていた姫とサクラが、蛟の後を追う。


十左に義足を取り付け、数ヶ所、ほんの少し触って、

「歩いてみて下さいませ」顔を上げた。


十左は立ち上がり――


「おっ♪」


ゆっくり数歩……


「凄いなっ! これは♪」


その場で二度三度、跳ねると、軽やかに走るような足踏みを始めた。


「走るなんて何年ぶりだぁ?」

十左は笑い声を残して、甲板に出て行き、付いて行った姫とサクラと一緒に、ぐるぐる駆け回った。


「よかったですぅ~♪

義足を触るのは初めてでしたが、上手くいったようでございますね♪」

蛟は楽しそうな笑い声を聞きながら、微笑んだ。


作業卓の下に置いてあった、サクラが運んで来た背高の提桶を引き出し、三つの提桶のうち二つに、とろっとした半透明の液体を流し込んだ。


そして、卓上を片付け、木を削り始めた。



「いや~、こりゃぁいい! ありがとなっ♪」

十左が上機嫌で戻って来た。

手には、何故か(ほうき)を持っている。


「お礼はアカ様に仰ってくださ――」


「十左殿っ♪ 手合わせ願おう!」

姫が弾んで現れた。


姫も箒を持っている。


「よぉし! 手加減はせぬぞ!♪」

再び、笑いながら甲板に出て行った。


蛟は、木を削るのを再開したが、

「あ……昼食の支度をしなければ――」

言いながら立ち上がった時、


ドッ! グググッ――ゴガッ!!


船が突き上げられたように軋み、激しく揺れた!


蛟は壁に叩きつけられたが、なんとか立ち上がり、廊下に出た。


「今のは!?」

アオの部屋から、クロが飛び出て来た。


「わかりません!」

言いながら、蛟は甲板に向かった。

クロとアオも続く。



 三人が甲板に出ると――


くノ一達が飛び込もうとしているところだった。


「何があった!?」クロが呼び止める。


「姫様達が飛ばされました!」


ガッ!! ギギギ……

その時、再び船が突き上げられた。


「鯨じゃ!! 船を壊そうとしておる!!」

海から姫の声が聞こえた。


(クロ兄、俺、竜になってもいい?)


(十左は!?)


(一緒に落ちた……と思う……けど……)


クロとアオは、ハッとして顔を見合わせた。


 十左は義足の重さで泳げない!


船が傾き始める。


「私が行きますっ!」

蛟が聖獣に戻り、飛び込む。

アオも続いて飛び込んだ。


(サクラ! 船底を見てくれ!)


(うん!)


クロは、巨大な魔鯨の影を目で追いながら、サクラの声を待った。


(大きな穴があるっ! すぐ沈んじゃうよ!)


(船を持ち上げるぞ! 竜になれ!)飛び込む。


(うんっ!)


クロとサクラが光を纏い、竜になった。


二竜は船の下に回り、背で支え、宙に浮かせた。


船底の穴から勢いよく海水が溢れ出す。


(このままじゃ、なんにもできないよぉ~)


クロは辺りを見回した。


遠くに島が見えた。

(あの島に置くぞ)



♯♯♯



 アオと蛟が、海底に沈んでいた十左を連れて浮上すると、遠くに、船を運ぶ黒輝の竜(クロ)綺桜の竜(サクラ)が見えた。


「十左さんを船に連れて――アオ様!?」


蛟が、己が背で、意識の無い十左を支えている筈のアオの方を振り返った時、アオは、仄かに光る己が右手を見詰めていた。


アオは、恐る恐る十左の心臓辺りに、光る右手を当てた。


十左が薄く目を開ける。


「……ア……オ……」


アオは、十左に向かって微笑み、蛟に、もう大丈夫だと頷いた。


蛟は船に向かって飛んだ。



♯♯♯



 紫苑、珊瑚、慎玄は、島ほどもある魔鯨と対峙していた。


「大きな鯨じゃのぅ~」姫が合流する。


「くノ一さん達は?」


「竜が戻るのを待てと、水面に置いて来た」

姫は魔鯨を目で追いながら、珊瑚に答えた。


魔鯨は巨大なのに素早い。

遠ざかっていたが、反転し、向かって来た!



 浄化の光を確実に当てるには、旗魚(カジキ)の時のように念網で捕らえ、動きを止めたいのだが――


紫苑と珊瑚は頷き合い、向かい合って、互いの掌を合わせ、目を閉じた。


二人の体が光を帯びる。


強い輝きを放った後、二人は半妖狐――狐の耳と尾が有る人になっていた。


念網の端を持ち、二人は、ぐんぐん離れて行く。


念網が、大きく、大きく、拡がる。


慎玄は、気を高め始め――


「オトリは任せておけ♪」姫は水を蹴った。


魔鯨は、突然、見えなくなった船を探しているようで、突進しては、ぐるぐるうろうろと泳いでいる。


姫は、魔鯨の進行方向に先回りし、その眼前で剣を構えた。

「ワラワが相手じゃ!」


魔鯨に向かって突進し、切りつける!


――振りをして、ヒラリと魔鯨の頭に乗った。


魔鯨は振り落とそうと、速度を増す。


姫は剣でツンツンと突っつく。

魔鯨が鬱陶しそうに頭を振り、身を(ヨジ)る。



 そして、徐々に魔鯨の進行方向が変わり――


「今じゃ!!」

姫が魔鯨の頭を蹴り、一気に浮上する。


紫苑と珊瑚は、光の矢となり、魔鯨の尾鰭に向かって念網を引いた。


浄化の光が魔鯨を包む。



光が去り、静寂が訪れる。



 鯨が元に戻った事を確かめ、念網を解除した紫苑と珊瑚は、安堵して気を失い、人の姿に戻った。


そこに黒輝の竜(クロ)が現れ、四人を乗せて浮上する。


宙には、くノ一達を乗せた綺桜の竜(サクラ)が浮いていた。


アオと十左を乗せた蛟も、船に向かうのを止め、竜達を追って飛んで来た。


「終わったぞ♪」姫。

「紫苑さん!? 珊瑚さん!?」蛟。

「十左!!」クロとサクラ。


――全員、顔を見合わす。


「こちらは大丈夫でございます」蛟と慎玄。


「とにかく、みんな無事って事だなっ♪」

クロの言葉で、皆、安堵し、笑った。





桜「凜♪ 見て見て~♪

  海の底で、生きてる星さん、見つけた~♪」


凜「いや、それ、ヒトデだから」


桜「ヒトデ? って、魚?」なでなで♪


凜「魚じゃないけど、海洋生物よ」


桜「ふぅん」


凜「海に帰してあげないと、死んじゃうから」


桜「えっ!? そぉなのっ!?」慌てて海へ。


凜「天界には、海って無いの?」


桜「あるけど~

  こゆ水じゃなくて、あんなの♪」空を差す。


凜「雲?」


桜「そ♪」


凜「しょっぱい?」


桜「食べたことないから知らな~い」


凜「『飲む』じゃなくて『食べる』なんだ……」


桜「人界の海、しょっぱいの?」


凜「飲んでみれば?」


桜「うん♪」顔ごと「んけっ!?」けほっ!


凜「海に入ってたのに、口には入らなかったの?」


桜「だってぇ、息できるもん」


凜「へ?」ぱちくり「じゃ、なんでアオは気絶?」


桜「俺とおんなじ。力、使ったから~」


凜「そっち!?」


桜「うんっ」


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