西航行3-再会
前回まで:アオは魔蛸との戦いで気絶しました。
魔化した旗魚、蛸と戦った翌々日――
蛟が仙竜丸を手に、アオの部屋に向かっていると、
眠ったままのアオの様子を見ていた踊り子が、扉から顔を覗かせた。
「あ、蛟さん。今、起きましたよ」にっこり
「えっ!?」
アオに駆け寄り、抱きつく蛟。
「ご無事で何よりでございます! アオ様ぁ♪」
アオは笑いながら、
「心配かけてしまったようだね。
すまなかった」
なんだか口調が、少し……
この、穏やかな声と気は……
もしかして……
ごく小さな変化に気付いた蛟が、顔を上げた時、
踊り子が本を手に、
「皆さんにも伝えて参りますね」出て行った。
「アオ様、仙竜丸を――」
「ありがとう、爽蛇」
えっ!? まさか……本当に?
「思い出されたのでございますか!?」
「爽蛇という名だと……いうことだけ……」
アオは、そう言って恥ずかしげに俯いた。
「あ、あ、あ……アオ様ぁぁぁ~♪」
真っ先に思い出したのが自分の名だと知り、蛟は天にも昇る幸福感を心の内でヒシと抱きしめた。
実際、蛟はアオを、ぎゅ~~っと、抱きしめていたのだが――
そこに、
「アオ兄♪ 起きたんだねっ♪」
扉が勢いよく開き、サクラが顔を出した。
が、アオに抱きついている蛟を見て止まり、
「・・・後にするねっ♪」バタン
引っ込んだ。
あ…………あっ!!
「お待ち下さい! 誤解ですっ!
サクラ様ぁ~っ!!」
蛟は慌ててサクラを追いかけた。
(眠っている間、ずっと名を呼んでくれていたのは、サクラなんだね……)
(アオ兄? 話し方――)それよりも気が――
(うん。ありがとう、サクラ)
(アオ兄♪ もしかして、戻った!?♪)
(少しだけ……たぶん、ほんの少し……)
(兄貴達っ!♪ アオ兄が戻った~!!♪♪♪)
扉がバンッと開く!
「アオ兄ぃぃぃ~♪」
今度は、サクラが抱きつく。
(こっちに来てからのコト、覚えてる?)
アオは笑いながら、
「大丈夫だよ。思い出した記憶の代わりに消えてはいないようだよ」
「良かったぁ」ニコニコ♪
「アオ兄が、絶っっ対! 会いたいと思ってるヒト、連れて来たんだっ♪
入って~♪」
扉に向かって手招きする。
入って来たのは――
「まさか……十左、本当に!?」
十左は、ヨォと片手を挙げる。
「お互い、無事で何よりだなっ」ニカッ
アオは頷き、二人は笑った。
「それで、今まで何処に?」
「お前さんの兄弟の所で厄介になってる」
「洞窟に!?」
「あ、いや、洞窟の周りに何人か住んでて、小さな村みたくなってんだ」
ああ……そうか。
キン兄さんを頭って呼んでた人達か……
「村で、お前さんと別れて、魔物の相手してたら馬と義足をヤられてなぁ。
炎と魔物に囲まれて、どうにも身動きとれなくなっちまった所を、黒い竜に助けられたんだよ。
竜だよ竜! ……信じてくれるか?」
アオは頷いた。
「運ばれてる途中で、気ィ失っちまって……
何日も眠ってたらしいんだな。
気がついてからも暫く声が出なくてな~
喉を火傷してたらしいんだよな。
お前さんソックリなのが、入れ替り立ち替り来るんだが、話しもできなくてよぉ。
もどかしいったってありゃしねぇ。
やっとこさ声が出てな、飯 運んで来た奴に『アオ』って呼び掛けたら大騒ぎになって、アレヨアレヨって間に、新しい義足が出来て、調整してもらいに行ってこい、って、竜に乗せられて……
んで、ここだよ」
十左は、アオの肩をポンポン叩きながら大笑い。
二人で、また再会を喜びあっていると、
「十左~♪ 義足の調整してくれるって~♪」
サクラが入って来た。
十左は立ち上がりながら、
「そういや、サクラは、いつ来たんだ?」
「一緒に来たのに~」きゃははっ♪
「そっか、後ろに乗ってたのか」
うんうんと一人合点。
「アオ、また後でなっ」
十左とサクラは出て行った。
ほんの少しかもしれないが記憶が戻った、その喜びをアオが噛み締めていると、
扉がコンコンッと叩かれ、
「アオ殿、失礼いたします」
紫苑と珊瑚が入って来た。
アオは、村人を救い、十左を探し始めた時から協力してくれた紫苑と、
アオの願い出を聞き入れ、付いて来てくれた珊瑚に、改めて礼を言った。
「十左は無事でしたが、旅は……
続けたいのですが――」
アオの言葉に、紫苑と珊瑚は、安堵の表情を見せた。
「私達の旅は、まだまだこれからですから、ご一緒して頂けるなら、嬉しい限りです」
二人は、宜しくお願い致します、と頭を下げた。
「アオ殿も変化があったようですね」
アオは、記憶が少しだけ戻ったと伝えた。
紫苑は、慎玄が爆発的な術を発した事や、
アオと宝剣が輝き、一瞬だけだが、青竜の姿が見えた事を話した。
♯♯♯
その頃、竜ヶ峰近くの洞窟では――
「キン兄!♪ 聞こえたよなっ♪
さっきの――あれ?」
クロは、キンの部屋の扉を開けて、立ち尽くした。
「どこ行ったんだろ? キン兄……許可……
ま、いっか。オレ、お目付け役だからなっ♪
あ♪ そうだっ♪」
自室に戻り、蛟から預かった革袋を掴む。
弾みながら外に出ると、アカが工房の前で、天を仰ぎ見ていた。
「アカも行くか?」
アカは首を横に振り、
「後で聞かせろ」ニヤリ
工房に入って行った。
「おう♪」
クロは西へと飛び立った。
♯♯♯
その頃――
キンは、アオ達の船の遥か上空に居た。
サクラに気付かれないよう細心の注意を払い、サクラを通じて、アオの様子を感じ取る事が出来るギリギリの距離を保っていた。
相手がサクラでなければ、こんな事は出来ない。
この為にキンは、クロではなく、サクラを向かわせたのだった。
アオの記憶が戻り始めた事に安堵した時、より上空を移動している禍々しい気を感じた。
反射的に、その気の方に向かったキンは、手に鳥籠のような小さな檻を持った、闇黒色の竜が凄まじい速さで飛び去るのを見た。
キンは全力で追いかけたが追いつけず、闇黒色の竜は、唐突に開いた闇の穴に消えた。
「あれは一体……」
フジならば追い付けたのではないだろうか……
そう思うと、自分の不甲斐なさが歯痒くて仕方ないキンだった。
♯♯♯
もちろん、天界で翁亀の話を聴いていたハクとフジにも、サクラの『声』は届いていた。
喜び合う二人を、翁亀は微笑ましく眺めていた。
アオが魔蛸を浄化した直後――
翡【サクラ、起きて。サクラ!】
桜「あ……ヒスイ……俺、また同調?」
翡【そうだよ】
桜「アオ兄は!? あ……
俺が生きてるから、だいじょぶだよね」
翡【大丈夫だけど……封印が……】
桜「あ……俺のも緩んでる……
ヒスイ、お願いっ!」
翡【もう、あまり――】
桜「言ってらんないでしょっ!」
翡【…………そうだね】
桜「アオ兄のも、お願いね」
翡【解ってる。サクラ、耐えて……】
桜「ありがと、ヒスイ」




