西航行2-心の色
天界には、しょっちゅう行きますが、ちょこっと場面転換の場合、サブタイトルの親側は、そのままで進めます。
♯♯ 天界 ♯♯
アオ達の船から飛び立ち、天界に着いたフジは、長老の山に寄り、モモに会っていた。
「お婆様、何度も団子をお願いしてしまって、すみません」
「そんなこと……
私に出来るのは、このくらいしかありませんから、いつでも作りますよ」
モモは、やわらかく微笑みながら、亀用の大きな団子が詰まった箱を示した。
「フジとハクには、こちらね」
包んだ重箱を手渡す。
「亀さんのお話、長いでしょ。
下の段ほど日保ちする物を入れてありますからね。
順に、お食べなさい」
「こんなに沢山、作って下さったんですか?
ありがとうございます、お婆様」
モモは返事の代わりに微笑み、
「あぁ、そうそう。
爺様が、まだ玉があったって……これね」
宝剣の玉を三つ持って来た。
アオ達の出航直前、アカが宝剣に洞窟にあった玉を収めて返しに来た。
フジは、それを借り、宝剣について教えを乞う為、翁亀に会いに行っていた。
しかし、ハクを相手に話して満足した翁亀が、休憩したいと湖に沈んだので、
翁亀を待つ間に、アオに宝剣を渡そうと人界に戻る途中、長老の山にも玉が有るかもしれない、と立ち寄っていたのだった。
案の定、長老の山にも十幾つかの玉が有ったが、まだ残っていたらしい。
モモは、玉を革袋に入れていた手を止め、
「そうね……まだ有るかもしれないわね……」
と、思案し、
「フジ、帰りに寄りなさい。
みんなの分の団子も作りますから」にっこり
「はい。
ありがとうございます、お婆様」にっこり
偶然、厨房の前を通りがかったシロは、
「華が舞ぅとるのぅ~♪」
笑いながら倉庫に向かった。
♯♯♯
天亀の湖で、ひとり花見をしていたハクは――
(お~い、サクラ、聞こえるか~?)
(ハク兄、なぁにぃ?)
(頼みがあるんだが~)
(何? 何?♪)
(クロが助けた片足の男――)
(十左ねっ♪ ビックリだよ~
アオ兄と暮らしてたんだって!)
(喋れるようになったのか?)
(うん♪
昼ご飯 持ってったクロ兄に『アオ』って言ったんだって! ♪
それで~、みんなで話 聞いて~
今、アカ兄が義足 作ってるよ♪)
(そうか……)よかった……
(でね♪ でねっ♪ キン兄が~♪
『義足が出来たら、アオに会わせるように』って♪
俺が乗せて行くんだっ♪)
サクラがキンの声色を真似るので、ハクは吹き出しそうになったが、
(竜になるトコ、見せんじゃねぇぞ)
やりかねないので、釘だけは刺しておいた。
(わかってるよぉ。
今朝、クロ兄にサンザン怒られたから~)
反省してなさそうな笑い声が頭に響く。
(で、ハク兄、いつ戻ってくるの?)
(さぁなぁ……
だが、まだ暫くは帰れねぇな。
何かあったのか?)
(べつに~
ただ、キン兄が寂しそうだから~)
まさか~ と笑っていると、
(ホントだよぉ。
ハク兄が居る時の、キン兄の気持ちの色は、明るいでしょ?
俺達じゃ、あの色にならないんだよね~
あ♪ アオ兄なら別の明るい色に――)
(色?)
(うん♪ 気持ちが色になって見えるでしょ?)
(待てっ! 普通、見えねぇからっ)
(そぉなの?)
(ずっと見えてたのか?)
(うん♪)
(皆の気持ちが……か?)
(うん♪)
うわぁっ! 恥ずかし過ぎるっ!!
(ハク兄、どぉしたの?)
(あ……いや……なんでも……)
(兄貴達み~んな色に合わせて行動してる、って思えてたから~
誰でも見えるんだ、って思ってた~)きゃはっ♪
(それは、考えて行動してるだけだっ!
相手の立場に、自分を置いてみれば――
いや、こんな話は、今度ゆっくりしよう)
十左をアオに会わせる事になっているなら、
そっちは、もういいな……
(今、フジは何処にいる?)
(ちょい待っててねっ)
少しして――
(長老の山だって~
これから、ハク兄トコ行くって♪)
(丁度いい。
シロ爺に、アオの笏杖を持ち出すことができるか聞いて欲しいんだ)
(ふぅん……笏杖ねっ)
沈黙……
祖父だけは、アオの記憶と力が封印されている事を知っている。
一縷の望みに祈る気持ちのハクだった。
(シロ爺が 『当然ダメじゃが、アオの封印を解く鍵なのか?』だって~)
今度はシロの真似をする。
直接、千里眼で話し始めたらしい。
(天亀の爺さんから聞いた、唯一の希望だ。
と伝えてくれ)
(は~い)
…………
(『なんとかするしかないのぅ』だって~
よかったね♪)
これで、ひと安心。
シロ爺なら、本当に何とかしてくれる筈だ。
唱える術が、まだ分からないが……
長老の山の書庫で調べるしかないだろうな。
(ありがとな、サクラ。手間とらせたな)
(もぉいいの?)
(ああ。助かったよ)
(じゃ、十左んトコで遊んでくるね~♪)
いつまでもコドモだな、と笑ったが、
それにしても幼すぎるのは、
末っ子だからなのか、
サクラだけが持つ不思議な力と
何か関係があるのか……
それとも……やはり……
アオと共に、呪に――
夕闇に白く浮かび上がり、涼風に揺れ、妖艶にも見える桜の大木を見つめながら、考え込むハクだった。
早く話、聞きてぇなぁ……
翁亀様~、フジ~、早く戻って来~い!
♯♯ 人界 ♯♯
「十左~♪ あっそぼ~♪」
「おっ、サクラか?」
「あったり~♪」
「アオの兄弟は、そっくり過ぎるんだよなぁ」
「よく言われる~♪」きゃは♪
「で、アオは?」
「船にいるよ~」
「いつ戻るんだ?」
「もぉすぐ、会いに行けるよ♪」
「行けるのか!?」
「義足できたら行こ~♪」
「そっかぁ、楽しみだ♪」
「うん♪」
桜「『航海編』なのに、海、出ないの?」
青「半分は、天界と洞窟らしいよ」
桜「それでいいの?」
青「さぁね。凜がいいなら、それで――」
凜「キミ達がウロチョロするからでしょっ!」
桜(呼んだの?)
青(サクラじゃないんだよ。呼べないよ)
桜(俺、兄貴達しか話せないよぉ)
凜「あのねぇ。聞こえてるんだけど~」
桜(アオ兄、逃げよっ!)
青(お願いね)
凜「また消えちゃった~」




