天亀湖5-華雅の三眼
おまけは、ここまで。次回から海です。
「ところで……
お前さん、小さい頃、モモさんに連れられて、ここに来た事は有るかの?」
「いえ、今日、初めて来ました。
モモお婆様が連れて来たのなら、弟だと思います」
翁亀は、ハクの後ろの空を見上げている。
ハクは、振り返ったが、木々が鬱蒼としていて、空は見えなかった。
「なら……あの子かの」
翁亀が、そう呟いた時、ハクはフジの気を感じた。
そして――
「翁亀様、お久しぶりです」
フジが降り立ち、翁亀に会釈して、近付いて来た。
「よう来たのぉ♪ 大きくなったのぉ~
お前さんも団子食うか?」
さながら、久しぶりに孫に会ったお爺ちゃんだ。
フジは、一瞬 照れて困った顔をしたが、
「今日は、翁亀様に教えを乞いに参りました」
深々と頭を下げた。
「なんじゃ? 遠慮のぉ言うてみ♪」
なんだか……随分、扱いが違うような……
そんなことを思いながら、ハクは黙って眺めていた。
「ありがとうございます、翁亀様」
フジは、背負っていた宝剣を翁亀に差し出し、
「この剣についてお教え頂きたいのが、ひとつ」
「ふむ……他には?」
「もうひとつは……
弟が生まれた時の事を知りたいのです」
翁亀は、暫し考え、
「……長いぞ、それは。よいのか?」
「構いません。時間は、たっぷりあります」
華が香り立つような笑顔が咲き溢れる。
「お前さん、モモさんソックリじゃのぉ」
翁亀も感心している。
「孫ですから」また華が咲く。
翁亀がチラとハクを見る。
悪かったなっ。大違いで!
「お前さんは、お前さんじゃよ」
翁亀は、ハクに、そう言って笑った。
フジは、翁亀とハクを交互に見て、二人が仲良くなれたことを確信して微笑んだ。
「剣の事とサクラの事は、関連しているのかもしれません……
それが知りたくて、翁亀様でしたら御存知の筈と思って参りました」
「そうか、そうか~♪」
頼られて、嬉しくて仕方ない翁亀だった。
♯♯♯♯♯♯
アオ達が進んでいた砂漠には 、魔物が巣くっている岩山が、数多 聳えており、その岩山の内部、奥の間の壁には、美しい玉が埋め込まれていた。
その玉を、壁から取り出すと、岩山はサラサラと砂に還っていく。
アオ達は、岩山の魔物を討伐する度に、玉を回収し、岩山を砂に還した。
一方、剣の方は――
以前、キンが振ってみたが、いまひとつとお蔵入りしていた物だが、竜宝である事は確かであり、アオのための武器として、アカが鍛え直した物だった。
その剣の表面には、沢山の窪みがあり、岩山の玉は、その窪みに吸い込まれるように、小さくなり、収まるのだった。
玉を収める毎に、剣は力を得、内から光を発するようになっていった。
砂漠の脅威の元凶・馬頭鬼の岩山には、一際大きく、光輝く玉が埋め込まれてあった。
妖狐王の三の姫が、馬頭鬼を滅し、アオ達が、砂漠に平穏が戻ったと安堵し、喜び合っていた時、
サクラは、何者かに操られているかのような意志のない瞳を、その玉に向け、人の姿のまま宙を滑るように、瓦礫となった岩山の頂に登った。
そして、玉を掲げ、何事か唱えると、残っていた周囲の岩山から、各々の玉が、サクラの周りに飛来して漂った。
全ての玉を集めると、サクラは糸が切れた操り人形のように、カクンと力が抜け、飛来した玉とともに落下した。
落下するサクラを蛟が受け、事無きを得たが、サクラは、それから数日、眠ったままになってしまった。
♯♯♯♯♯♯
「今、この宝剣は、アオ兄様達が集めた玉に加え、その時サクラが集めた玉と、私達の洞窟に保管していた玉を収めた状態です。
まだまだ穴が多いのですが、現時点でも、かなり強い力を感じます。
私は……この剣を持つべきは、サクラではないか、と思うのですが……」
「ふむ……」
そう言ったきり、翁亀は目を閉じ黙り込む。
「そうじゃ、とも言えるし、そうではない、とも言えるわい。
確かに……
この剣の事と、末子の事は繋がっておる。
この話は……
いずれ、皆が知ることになるやもしれんが……
それまでは、ハク、フジ、お前さんら二人の胸だけに留めておいて欲しいんじゃ。
口外せんと約束できるか?」
翁亀の眼差しの真剣さと、初めて名を呼ばれた事に驚きつつ、ハクとフジは顔を見合わせ、そして、意を決して頷き合った。
二人は翁亀の方を向き、
「決して口外いたしません。翁亀様」
改めて、深々と礼をした。
翁亀は、顔を上げた二人の目を見、ひとつ頷くと――
「じゃが、この話は本当に長いからのぉ~
一旦、休憩じゃ♪
その辺の虚でも何でも好きに使え。
食いモンは……ふむ、持って来とるな」
フジが頷く。
「眠くなってしもうたわい……
はしゃぎ過ぎたかの♪」
翁亀は笑いながら潜っていった。
桜の大木が、少し沖で止まった。
ハクとフジは、そよ風に吹かれながら、桜を眺めていたが――
フジは、持って来た袋を引き寄せると、重箱を取り出し、
「お弁当です」
にこにこしながら、ハクに渡した。
「朝には戻りますので」
言いながら、宝剣を抱えて立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「翁亀様には お見せしましたので、アオ兄様に剣を渡して参ります」
「アオは? もう大丈夫なのか?」
「ええ、もう大丈夫だと、出航しましたよ」
あの一瞬で、いったい何日経ったんだ!?
ハクが固まっている間に、フジは飛ぼうとしていた。
「待てっ! サクラは?」
「昨日、起きましたよ」にっこり
昨日って……
愕然とするハクを残して、フジは飛び去ってしまった。
一人残されたハクは、呆然としていても仕方がない と、重箱の蓋を開けてみた。
「クロの料理は久しぶりだな……
一人で花見か~
酒……竜喜とやら、味見させてもらうとすっか♪」
ハクは、翁亀とフジが戻るのを、のんびり待つことにした。
♯♯♯
ま、サクラは、玉を集めた後、すぐに目覚めて
動き回っておったがの。
ハクとフジには、黙っておかねばの。
さて……どこまで話せるかのぉ……
湖の底で、思案する翁亀だった。
桜「慎玄さま~♪」
慎「サクラ様、如何なさいましたか?」
桜「慎玄さまも、たぶん、コレ出せるよ♪」
掌に光の球を出す。
慎「この光は……?」
桜「治癒♪ でねっ、こっちは回復で~
これが浄化♪」ポコポコ♪
慎「私にも出せるのですか……?」
桜「うんっ♪」光の球を渡し、掌を翳す。
慎「おや……これは……」
桜「やってみて~♪」
慎「では……ほう……」
合わせた掌の間に光が生まれ、膨らむ。
桜「ねっ♪ 術に混ぜてねっ♪」
慎「御導き、有り難き事に御座います」合掌。




