天亀湖4-竜血環
前回まで:ハクは意外と心配性。
ひとしきり笑った後、翁亀は続きを話し始めた。
「青いのらは、城下町衆から、西の国の砂漠に魔物が横行しとる、と聞いとったから、まずは、そこに向かうことにしたんじゃ――」
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アオ達は、竜ヶ峰を下り、西の国に入る前、
国境近くの森の村で、砂漠に、突如、たくさんの岩山が現れ、そこに魔物が棲み着いた、と聞いた。
岩山には、魔物に依って魔獣化された砂兎や、妖魔となった魂が巣くっていた。
アオ達は、砂兎達を元に戻し、妖魔の魂を浄化し、岩山を砂に還しながら、砂漠を西へと進み、砂漠の中央にある商人の街に着いた。
商人の街は、廃墟となっていたが――
商人達は地下に街を築き、北の街に向かって地下道を掘り、通商を再開していた。
商人の街の近くに、一際 高い岩山が在り、そこには、砂漠の脅威の元凶・馬頭鬼がいた。
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「お前さん、ここまでは見とったじゃろ?」
「あぁ、はい」
「なら、ここから、も少し丁寧に話すかの」
「はい。お願いします」
「お前さんが、天界に飛んだ後、青いのらはのぉ――」
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アオ達が、馬頭鬼の岩山に向かおうとしていた時、馬頭鬼が、竜の匂いを嗅ぎ付け、現れた。
馬頭鬼は、アオ達を捕獲せんとし、縦横無尽に飛ぶ伸縮自在な輪を放ち、召喚した魔獣にも攻撃させた。
アオ達は苦戦を強いられ、陰陽師二人が捕らえられてしまう。
狐の姿にされた陰陽師達は、馬頭鬼に操られ、アオ達を攻撃する。
陰陽師達の攻撃を避けたアオが、輪に捕らえられた、その時、天界から、破環の竜宝を借りて戻ったクロが飛来し、輪を粉砕した。
クロの加勢で劣勢に転じてしまった馬頭鬼は、陰陽師達を連れ、闇の穴に消えた。
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「その様子を、砂兎が魔物に操られて暴れとると聞いて、偵察に行っとった天兎の右大臣が見とったんじゃ。
天兎は、妖狐と仲が良いからの。
妖狐王の姫の顔も知っとった。
右大臣殿は、妖狐王の三の姫様が捕まってしもぉた~、と思うての。
慌てて、ハザマの森に向かい、狐の社に飛び込んだんじゃ」
「それで天兎が……」
「そういうことじゃ♪」
なるほど~、と思った後、ハクはハッとした。
「もしかして、輪というのは、これですか!?」
蛟から預かった輪を懐から取り出す。
「魔宝・竜血環じゃな。
『元祖』と付けた方がよいかの――」
暫し、小鳥達の囀ずりに耳を傾ける。
「長きに渡って、古の竜宝も、魔宝も、謎多き物であって、研究対象でしかなく、改良できる者など、ついぞ現れなんだが……
とうとう、魔宝を改良できる者が現れたようじゃな……」
翁亀は黙りこみ、
ハクは、じっと次の言葉を待った。
「もはや伝説でしかないが……
この戦の発端は、神と神の争いじゃと言われておる。
今では、竜の神達は、天界の上空を神界として、そこに住んでおるが、かつては、天界の地上に住んでおったんじゃ。
そんな、昔々の大昔。
神達の間で争いが起こり、神は天界を上下に分け、神界を作ったのじゃ。
そして、天界と神界に分かれ、大きな戦をしたそうじゃ。
それまでの竜宝は、生活を便利に、豊かにする為に生み出されておったが、この戦で、兵器が生み出されてしもうたんじゃ。
人神と魔神の説得に依り、この戦は、一旦は収束したんじゃがのぉ。
再び、竜の神は戦を始め、負けた神が、地下界に逃げ込み、その後、地下の人界、魔界の大半を支配して、復讐の為に、天界に攻めこんだそうなんじゃ。
その、二度目の戦いの中で、兵器として生み出されたのが魔宝なんじゃ」
「どちらも神の創造物だったのですか……」
「そうじゃ――と、言われておる。
天界で、お前さんら天竜の力が絶大なように、神族の中でも神竜の力は絶大じゃ。
それ故、竜の力を削ぎ、竜を攻撃する為の魔宝が圧倒的に多い、という事じゃ」
「この竜血環というのは……?」
「竜の力と生き血を吸い尽くす物じゃよ。
お前さん、そいつに噛みつかれると命を落とすぞ」
「えっ!?」慌てて落としそうになる。
「危険じゃから、儂が預かってやろう」
「翁亀様は大丈夫なのですか?」
「なんともないわい」笑いながら受け取る。
「これは……復元された物じゃな。
新しそうじゃ。
まだ血を吸っとらんから、これに掛かった竜は、おらんようじゃな」
「ええ、それはアオの蛟が掛けられた物です。
蛟は、人姿になれなかったと言ってました」
「竜でない者にとっては、そんな程度の物よ。
じゃから、陰陽師らは狐に戻った。
操られたのは、別の何かの力じゃろうて。
青いのは、環に捕まっても、竜には戻らんかったそうじゃ。
一瞬、戻りかけたそうじゃがのぉ」
「アオは大丈夫なのですか?」
「すぐに黒いのが粉砕したからの。
命は大丈夫じゃ。
ただ、暫くは動けそうにないがのぉ……
後で、診に行ってやるんじゃな」
「はい」
無事だと判ったし、行く口実が出来たので、ハクは嬉しかった。
「あ……そういえば、馬頭鬼は?」
「陰陽師らの母親・妖狐王の三の姫が瞬殺したわい。
圧倒的な力の差が有るからの。
それは良かったんじゃが~
馬頭鬼がチョッカイ出したせいで、陰陽師らの妖狐としての力が、目覚めてしもうてのぉ。
三の姫は封印しようとしたんじゃが、二人は戦うために解放して欲しいと願うての。
修行を兼ねて、自力でハザマの森まで行くことになったんじゃ」
翁亀が、そう言い終わって、一息つこうと団子に首を伸ばした時、
ハクの視界が、ぐにゃりと歪んだ。
思わず目を閉じ、また開くと、傾きかけていた陽が、高い位置に戻っていた。
ハクが驚いていると――
「ここは、ハザマの森が近いからのぉ。
時々、時空が歪むんじゃよ」
翁亀は平然と「よくあることじゃよ」と笑った。
「今ので、進んだのか、戻ったのか……
小鳥よ、どうじゃ?
……そうか、進んだのか。そうかそうか」
「どのくらい進んだのですか?」
「さぁのぉ……
さっきの歪みは、ちと大きかったからのぉ……
十日か、二十日程かの」
「そんなに!?」
「もぅ帰らねばならんのか?」
なんだか寂しそうだ。
「あ……いえ……まだ大丈夫です」
輪の事は、一応、聞けたが、もっと魔宝について聞きたいハクだった。
「そうかそうか♪ まだ聞いてくれるか♪」
とたんに嬉しさが溢れ零れる翁亀だった。
「あ……」
「なんじゃ?」
「あの二人……そうか……
あの二人が、妖狐王の孫なのか……」
「そうじゃよ。三の姫の子じゃからの。
さっきから何度も言うておろ?」
「いえ、輪の事を伺いたくて来たので、つい素通りしてしまって……
だから、妖狐王は、アオの事をやたらと気に掛けてるのか~」
「ん?
妖狐王が、青いのの周りをウロウロしとるのは、今に始まった事では無いぞ」
「え……やっぱり、子供の頃から……」
「そうじゃよ。
孵化してすぐから、ずっとじゃ」
「もしかして……
アオと陰陽師達を、妖狐王が会わせたのか?」
ふふん「どうじゃろのぉ」
「でも……何の為に……」
「彼奴には、何かが見えておるのやもしれん」
「えっ!?」
「ただのジジィの独り言じゃ」はっはっは♪
桜「蛟さ~ん♪」
蛟「サクラ様っ、私には『さん』も不要で
ございますのでっ!」
桜「でもぉ、呼びにくいよぉ
いいでしょ? つけても~」
蛟「困りますのでっ」
桜「仕方ないなぁ。 じゃ、みずちん♪」
蛟「おやめくださいませっ」
桜「ダメばっかり~」ぷぅ
蛟「それより、サクラ様」作業小屋へ。
桜「あ~れ~」引っ張り込まれる。
蛟「アオ様の事なのですが……」
桜「心配要りませんよ。
どうしても無理はするでしょうが、
俺が引き留めますから」
蛟「よろしくお願い致します」深く礼。
桜「そんなにしなくても……
それより、これを――」
蛟「これは……?」木箱……竜宝でございますね?
桜「甘魅了ですよ」
蛟「姫様の為でございますか?」
桜「クロ兄も作るでしょうが、
毎日となると――」あはは……
蛟「クロ様がキレなさる前に、繋ぎを
という事でございますね?」
桜「そゆこと♪」




