天亀湖3-アオの仲間
おまけなので、どんどん投稿します。
翁亀は「さぁて……」と、青空を見上げ、暫し、そよ風を受けていたが、
おもむろに――
「青いのは、村が魔物に襲われた時に、出会うた陰陽師の男と共に旅立ってのぉ」
――話を続けた。
陰陽師……ああ、あの男か……
ハクは、アオが洞窟に現れた時の事を、思い出していた。
もう一人、陰陽師がいたような……
綺麗な嬢ちゃんだったよな……
「青いのは、村の北の町で、もうひとりの陰陽師と出会い、中の国に向こうたんじゃ」
「その陰陽師達なのですが……
私の思い過ごしかもしれませんが、魔族の気を漂わせていたように思うのですが――」
「素性が気になるか?」
「はい。思惑あって、近付いて来たのなら――」
翁亀が声をあげて笑った。
「いやいや、大丈夫じゃ。
お前さん、意外と心配性じゃの」また笑う。
「あれは、人と妖狐の間の子じゃよ。
本人らも気付いておらんがな」
小鳥が数羽 飛んで来て、桜の枝に止まった。
何やら翁亀に話しているようだ。
「ほぉ、そうかそうか。
たった今、妖狐の母親と会うたそうじゃ」
「どちらのですか?」
「双子じゃからのぉ。二人共じゃ」
どうりで同じ気を漂わせていた訳だ。
「珍しくもなかろ?
お前さんらより少ないわい」また笑う。
妖狐は魔族ではあるが、同じく魔族の古狸と共に、人界や天界を支配しようとしている魔物達と対立し、三界が交わるハザマの森を拠点として、ハザマの森を通り、人界や天界に攻め込もうとする魔物達を排除している。
人界は、妖狐や古狸や竜達に依っても護られているのだが――
人は、魔物の策略に因って、『狐と狸は、人を化かす』だの、『竜など存在しない』だのと吹き込まれ、今や全く信じていない有様だ。
そのくせ、狐や竜を神として祀ってたり、
玄関に狸を置いていたり……
人というのは、よく解らねぇよな。
「人と人が争っている場合ではないのに……」
ハクの呟きは 、翁亀に聞こえたらしく、
「それでも、人を見捨てる気は毛頭無いのじゃろ?
お人好しにも程がある、と言いたいとこじゃが、そんなじゃから、儂は竜が好きなんじゃ」
翁亀は笑い「狐も狸もな」と言いながら、また団子を咥えた。
「次は……
陰陽師らが、青いのと出会う前の話と、国境越えの話、どちらが聞きたいかの?」
翁亀は、話の方向をハクに聞いた。
「両方とも気にはなりますが……
陰陽師達に問題が無いのでしたら、国境越えの話をお願いします」
「ふむ……まぁ、そうじゃな。
これから海を渡って、ハザマの森に向かうらしいからのぉ。
狐の話は、ハザマの森の話と合わせて、後で話そうかの」
「人界からハザマの森に向かっているのですか?」
「そうらしいぞ。
天兎の右大臣が案内するそうじゃ」
「え? 何故、そこに天兎が?」
「妖狐と天兎は仲が良いからの。
まぁ、成り行きじゃ」
「愉快、愉快♪」
と笑い、翁亀は続きを話し始めた。
「東から中へと、国境の山脈を越えてすぐに、魔物から逃げておった人の姫様が、木の上から降ってきてのぉ。
なんだかんだで、付いて来てしもうたんじゃ」
姫?
……ああ、そういえば もうひとり、
騒がしいのがいたな……
姫様というのは、オシトヤカに
城の奥に居る者だと思っていたが、
そうではないのもいるんだな……
……あ……
王妃なのにオシトヤカではない御方が
身近に居るか……
長老の山で騒いでいたが、
母上は今頃、どうなってんだかな……
「これで、お前さんらの塒に現れた面子が揃ぅたわけじゃな」
「姫というのは、事実なのですか?」
翁亀が、また声を上げて笑う。
「信じられんでも仕方がないが、本物じゃよ。
中の国の殿様の一人娘、お世継姫じゃ。
かなりの御転婆じゃと有名らしいぞ」
「世継ぎ……
若君は、いらっしゃらないのですか?」
「奥方が、姫様を産んで十日程で亡くなったそうでの。
殿様は、側室も後添えも要らぬと拒んでのぉ……」
「それで、姫様が武者修行……」
「婿探しも兼ねてのぉ」
「姫様も大変ですね」ははは……
「お前さんらの誰かを貰おうとしとるがの♪」
「えっ!?」
「青いのの蛟が家老じゃと♪」
「……はぁ……」
それならそれで、もしも、アオの封印が
解けなければ……
一瞬、過った考えに、
いやいや!
と頭を振り、
早急に なんとかしなければ!
と考え始める。
「青いのは、封印が解けなんだら、天界には戻れんからのぉ……
人界の殿様も、やり甲斐が有ると思うが――」
考え込んでしまったハクをチラと見て、
「そうならんように、封印を解かねばのぉ」
「はいっ」
決意を新たにし、ハクが顔を上げる。
「そうなると、黒いのが危ないかの♪」
大笑いの翁亀と、愕然とするハク。
小鳥達も愉しげに囀ずっている。
「まぁ、仮にじゃ……
仮に、お前さんらのうち、誰かが婿になったとて、あの姫の代は、たかだか四、五十年じゃ。
それに、人界の任とやらが終わるのは、姫の孫の代より、ずっと先じゃろ?
お前さんらの代になる前に、やってみてもよかろうがの」
翁亀は、まだ、そんな事を言って笑っている。
他人事だと思って~
そんなハクの視線を完全に無視して、翁亀は話を続けた。
「で、中の城下から、竜ヶ峰へと、山賊を追って走り、お前さんらの洞窟に入ったんじゃよ」
あの時は――
洞窟周りに勝手に住んじまってる男達が、大慌てで駆け込んで来て、
「うわっ! 頭がこっちにも!!」
「おわわわっ! 御許しくだせぇ!」
とかって、大騒ぎしてるから、また城下に遊びに行ってたな、と思いつつ、男達を追い出してすぐに、アオ達が入って来たんだったな。
兄弟五人、集まっていたのに、誰ひとりとして、アオが入って来た事に気づかなかった。
俺も、アオが、すぐ後ろに立っていたのに、姿を見るまで分からなかった。
兄貴ですら、アオの気を全く感じられず、驚いたと言ってたよな……
アオの力は、そんなにも強固に封印されていた。
人界の何処にも気配が無く、
サクラの能力を以てしても
見つからない訳は、これだったのか……
記憶もろとも、いったい誰に?
この封印は解けるのか?
そんな思いもあったが、とにもかくにも、無事であったことが嬉し過ぎて、笑いが止まらなかったよな――
「おい 聞いとるか?」
「え? あ……はい」
翁亀の声で、引き戻された。
「お前さんらの再会なんぞ、話さんでも覚えておろうな」
愉しげに笑う。
「青いのは、黒いのに送ってもろうて、やっとこ、僧侶を仲間に出来たんじゃよ。
その僧侶がの、托鉢に行っとった麓の町で、青いのの蛟を拾うておったんじゃ」
アオ達を送って戻ったクロから、アオの蛟が来ている事を聞いた兄貴は、
「今のアオには必要だな……」
と、長老達から、蛟の滞在許可を得た。
そしてクロにも、アオ達を護衛するよう命じた。
命じられたのは、クロだけだったが、結局のところ、皆、アオの事が気になって、しょっちゅう行っている。
俺も、弟達の事は言えねぇか……
「兄弟、仲良いのは素晴らしい事じゃ」
翁亀が、ハクの顔を見て微笑む。
つい、頬が弛んじまったか……
「金色のも、接触こそせんが、ちょくちょく青いのを見に行っとるぞ」
「兄さんがっ!?」
驚いたが、嬉しさが湧き上がり、ハクは翁亀と一緒に笑った。
桜「姫~♪ コレ、あげる♪」
姫「何じゃ? この木箱は?」
桜「こっちが材料ねっ♪」ドサッ
姫「小豆? この粉は何じゃ?」
桜「砂糖と小麦と米と餅米と――」
姫「まさか、甘味の元か!?♪」
桜「あったり~♪
豆と粉と水を入れると~」
姫「おおっ♪ あっという間じゃの♪」
桜「カンタンな団子と饅頭だけしか
できないけどね~
もっと凝ったのが欲しかったら
クロ兄に言えばいいよ~」
姫「クロとは、甘味も作れるのか!?♪」
桜「天界一の調理師なんだよ♪」
姫「さよぅか♪
ならば、クロに決まりじゃ!♪」
桜「なにがぁ?」
姫「ワラワの婿じゃ♪」
桜「ほえっ!?」
姫「そぅと決まればっ♪」だっ!
桜「どこ行くの~っ?」はやっ!
姫「捕獲するのじゃ~っ♪」したたたたっ!




