人界の任-凱旋の儀
天竜王子達は、お腹いっぱい食べて、
たっぷり眠りました。
長きに渡り三界の脅威であった『闇の神』という存在が消滅した翌日――
天竜王子達が妃・婚約者と共に、揃って魔竜王城の双掌鏡から天竜王城に帰還すると――
『お前ら!
何で、そんな所から帰って来るんだよ!!』
七人の千里眼から怒鳴り声が響いた。
(なんでって、ねぇ)(いつもの通路なのにね)
各々、近くに居る者と顔を見合せる。
『おいっ! 返事しろっ!
気は掴んでいるんだからなっ!』
「父上、いったい何事ですか?」アオが応えた。
『今すぐ天界の門の下に曲空しろ!
飛んで戻って来いっ!!』
「解りましたよ……」ため息……そして曲空。
天界の門の下方から飛んで行き――
「このまま洞窟に帰らねぇか?」
「だな~、近寄りたくねぇよなぁ」
「そんな事をしたら、また怒鳴られますよ」
『お前ら! 何やってんだよ!!』「ほら」
目の前の光景に、癒した筈の疲れが一気に復活し、襲ってきた。
「諦めて行くしかありませんよ」
一斉に、大ため息。
『大勢を待たせるな! 早く来い!』
大勢だから嫌なんですよ!
そうは思いつつも、婚約者を背に乗せているクロとフジを除き、王子達は妃・婚約者の手を取り、飛び始めた。
(姫、疲れてねぇか?)(ワラワは元気じゃよ♪)
(リリス、大丈夫ですか?)(大丈夫よ、フジ♪)
(ミカン、まだ休めなさそうだが?)(平気よ♪)
(ボタン、儀式に移行――)(心得ておりますわ)
(ワカナ……)(平気でもないけど、アカとなら)
(ラン、公務や謁見は?)(今日は何も無いわ♪)
(アオ、行くぞ)(ルリ、引っ張らなくても――)
天界の門では、竜だけでなく、三界の様々な種族の人々が犇めき合っていた。
門の中央には天竜王と王妃が――
(スミレ!? まさか姿を見せてるのっ!?)
【サクラが慌てちゃってる~♪】うふふっ♪
【ちゃんと最高神様の御許しを得て、王妃に戻ったのよ~♪】にっこにこ♪
(なら、伯母上様って事なんだね?)
【兄様っ! それは嫌だってばっ!!】
(ヒスイも そっち? アメシス様も!?)
【うん。この国の守護神になったんだ】
【こちらではアオイとして、ルリの実父としてもお認め頂きました】
(良かったね、ルリ♪)(ああ……)うるっ。
(なぁ、あの女神様、何方だ?)
(え?)(あっ……)
(ルリ、知っているの?)
(……お祖母さん……)
(ヒマワリ様!? どうして神!?)
(知らぬ……私が知りたい)
【ルリ~♪】大きく手を振る。アオイ、苦笑。
(ルリ、行くよ♪)(アオ、引っ張らずとも……)
王子達が降り立つ。
拍手喝采、万歳の声に包まれ、圧倒される。
蛟達がサッと寄り、各々を幕で囲んだ。
その内で、外套や妃冠を着け、王子と妃・婚約者らしく整える。
蛟達に誘導され進んだ先には、竜宝艇が七台――
「さあ、乗りなさい」「盛大な凱旋祝列よ♪」
ああぁ……やっぱり……。
晴れやかな満面の笑みの両親に促され、王子として染み着いてしまった極上の笑顔で手を振りながら進み、しかし内心は渋々、竜宝艇の天台に妃・婚約者と共に立つと――
列になった艇は、ゆっくりと王都に向かって進み始めた。
(ルリ、この後の予定を教えてくれるかい?)
(共心したのだから知っているのだろ?)
(父上からの連絡が有ったのは昨夜だろっ)
(そうだったかな♪)フフフッ♪
(まぁ、ルリが楽しいのなら俺は構わないけどね)にっこり。
(ん? 何だ? その笑顔は――おいっ!!)
沿道の観衆から、悲鳴半分の大きな歓声が湧く。
(ほら、ルリ♪ 手を振らなきゃね♪
俺は両手が塞がっているんだからね♪)
(やめろっ! アオ!!)
(双青輝なんだから、ちゃんと応えないとね♪)
すぐ前のハクが振り返った。「おっ♪」
(やるな~♪ アオ♪
やっぱり、お姫様抱っこは、ルリさんの望みだったんだなっ♪)
(そうですよ。ね♪ ルリ♪)
(違う! アオがフザケているだけだっ!!)
(ったく! 仲がいいよなっ!♪)
(ハク兄さんもしたらどうです?)
(王太子だからなぁ……兄貴が恐ぇよ)
(構わない。楽しめばいい)(マジかよ……)
(私の言は信用無いのだな)(そんな事――)
キンがボタンを抱き上げた。
再び沿道から大歓声。
(兄貴……なら、俺も♪)ひょい。「あっ♪」
湧き立つ歓声の中、ボタンとミカンは堂々と手を振り、笑顔を振り撒いた。
(ほら、ルリもね♪)
(やむを得んな……)にこっ。
歓声が大きくなる。
後ろでも歓声が上がる。
(サクラだな)(そうなると――)
また湧き上がる。
(アカ様もやるのだな……)(王子だからね)
そして、最大の歓声が続き重なる。
はにかみ、微笑み合うフジとリリスは、とてもとても微笑ましく、初々しい。
アオとルリのすぐ後ろでは――
「やめよっ! ばかクロ!」
「姫っ、落ち着けったら!」
「恥ずかしぃじゃろぅが!」
「皆と同じなだけだって!」
「イヤじゃっ! 降ろせ!」
「おとなしく――ぃてっ!」ぽかすかぽかっ。
笑いも起こる。
(やはり、竜は人が好きなのだな)
(そうだね。姫もリリスさんも、竜人になったから尚更だね)
竜宝艇の列は王都を巡り、中央大街道から天竜王城へと向かって行った。
♯♯♯
そして城の大広間にて、凱旋の儀が始まった。
王子達が揃って進み出、横一列の並びから、キンが更に一歩 進み出、口上を述べる。
弟達が一斉に踏み出し、キンに並び、出立の儀と同じ、前・現王と王妃の前まで進み、笏杖を受ける。
王子達は、玉座を向いたまま後退すると、後ろに並んでいた各々の妃・婚約者の横に並び、揃って礼をした。
ギン王から『人界の任』それ自体が、今、この時を以て幕を閉じた事が宣言され、凱旋の儀は終了した。
続いてコハク王から、スミレが神として、また、王妃として復活した事が宣言され――
アサギ王から、アオイとヒスイが紹介され、二神が天竜王族に加わる事、スミレを含め三神の加護が未来永劫 約束された事が宣言された。
これで、やっと休める……。
王子達が、そう安堵した時、周囲が騒めいたので玉座に目を向けると――
【シルバコバルトだ。
コイツは俺の愚息、チェリーバナジンだ。
先ずは神を代表し、これまでの協力に深く感謝する。
そして、ここにスミレが戻ったように、これから神竜は、再び竜と共に生きる。
互いに手を携え、三界の平和を維持し続けられるよう努めようぞ!】
大広間が歓喜に満ちる。
千里眼で中継放映されている王都からも、喜びに溢れた気が、波のように押し寄せて来る。
(さっすが始祖様だね~♪
ぜ~んぶ持ってっちゃったね~♪)
(とうとう神の代表を名乗ってしまったね)
【これで良いのです。
コバルトが創った国なのですから】
(カルサイ様……)
振り返ると、三界の神が大勢 来ていた。
ヒマワリも そちらに居て、ゴルチルと親しげに話している。
そして、もう一団、壇上に曲空して来た。
紫苑殿、珊瑚殿……そうか、
妖狐王様が参列していたのか。
あ、リジュンさん達や工房の神竜様方も、
魔人の軍の方々も――
えっ!? 桜の木と蜜柑の木!?
バナジンが穏やかな声で、王子達の協力者達を紹介していく。
王太子妃と王子の婚約者達が闇神城まで来ていた事も。
【壇上には、いらして頂けませんでしたが、地上界、地下界でご協力くださいました方々も大勢いらっしゃっております】
バナジンが示す方向に視線が集まる。
空龍さんと話しているのは十左じゃないか!
人界の国主様方には気づいていたけど……
あ、居た。志乃さん。月衆の皆さんも、
各国の忍の皆さんと一緒に来ていたんだね。
あ、中の御家老様に爽蛇が捕まってる……
タォも、お母さんと楽しそうに――
【他にも関わりました大勢の方々のご協力がありましたからこそ、平和を勝ち取る事が出来たのです】
【長く苦しい戦を終える事が出来たのは、三界全ての人族、神族が協力したからだ。
これからの平和を長きものにする為には、この事を忘れてはならない!】
拍手喝采が被さる。
千里眼で中継放映されているのは王都だけではないらしく、三界中が歓喜に沸きっぱなしだ。
人も大勢……
天人も魔人も一緒に喜び合って――
サフィア様、ディアナ様、届いていますよね?
キュルリにも聞こえているよね?
次代をどうか――
(あ♪ 桜華様もいた~♪)
(そうだね。嘉韶さんも一緒だね)
(コギさんと一緒にいるの桜華様のお姉様?)
(だろうね。似ていらっしゃるね)
(妖狐王様トコにもお姉様~♪)
(慎玄殿と純慎殿も見つけたよ)
(あ♪ 桜華様こっち見た~♪)
(お招きに与りましたの♪
あっ、コバルト様が笛を構えましたよ)
コバルトが王子達と目を合わせ、ニヤリとする。
【子孫共! こっちに来い!
それと妖狐王太子! 笛を合わせろ!】
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
え? 解決していない事が沢山、ですか?
はい。それは……次のお話でっ♪
このお話は、長~い前フリだったんです。
え? シツコイ? そう仰らず~(汗)
青「ここまで長々のお付き合い、
本当にありがとうございました」
桜「それじゃ、みなさ~ん♪ せ~のっ♪」
全【「続きも、よろしくお願い致します!」】
桜「まったね~っ♪」




