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三界奇譚  作者: みや凜
第五章 闇神城編
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神の戦4-無垢

 異空間でキュルリを拾ったカルサイは――


 ディアナ様、必ずお護り致します!


 ひとり最高神殿に戻ったカルサイは、魔法円の中央に芳小竜(キュルリ)を置き、術を唱え始めた。



 キュルリ、ディアナ様をこちらに――


カルサイが放った光を芳小竜が弾き返した。


 まさか……この術では取り出せないと!?


カルサイは術を打ち消し、目を閉じた。


 これしか……無いのですか……。


杖を振り、新たな魔法円を描く。


【カルサイ! それは禁忌よ!

最高神でも――いえ、最高神だからこそ、犯してはならないわ!!】


【ドルマイ……しかし、これしか――】


【ディアナ様は御覚悟の上で、こうなさったのよ……】


【ただ見ていろと言うのですか!?】


【私だって出来る事なら――】


【最高神様……。

娘達だけならば、消滅を見届けて頂きたいところですが……その芳小竜には心があります。

道連れには出来ません】


【エメルド様……】


【最高神様、この老耄に復輝降臨をお願い致します】


【それは――】


【長きに渡り、ただ見ている事しか出来なかった愚かな母に、償いの道をお与えください】


【しかしそれでは貴女様が……】


【私も神の端くれ。

三界を滅亡させるなど出来ません。

しかし、母としては娘達を救いたい……。

きっと、その芳小竜の元竜も同じ気持ちでしょう。

どうか願いを御聞き届けくださいませ。

その子を救わせてくださいませ】


【私が無力なばかりに……】

カルサイが顔を背け、悔しさを滲ませる。


【時間は御座いません。どうか……】



 カルサイは顔を背けたまま目を閉じ、俯き、杖を振った。


現れた魔法円にエメルドが入る。


カルサイが術を唱える。


【母娘 揃って、お辛い思いばかりさせまして……申し訳ございません、最高神様】


【――復輝降臨!】


降った輝きがエメルドを包む。


【ありがとうございます。それでは――】


エメルドは自身が発した輝きを纏い、

【この子の魂、お願い致します!】

小さな光の球と成って芳小竜に飛び込んだ。


芳小竜が輝く!


弾き出されるように(みどり)の輝きを纏った瑠璃色の光の球が出で、そこから蒼光を纏った純白の光が二つ分離した。

カルサイとドルマイは掌に出した水晶玉に各々を込めた。


【この青い光はキュルリね】


【こちらの二つは……無垢……。

キュルリはサフィア様とディアナ様をも連れて出てくれたのですね】


【まるで手を繋いでいるみたいに連れていたわよね】


【やはりキュルリは、アオとサクラですね。

しっかり救いましたね】


【エメルド様は、サフィア様とディアナ様に原点回帰をお掛けになったのね。

流石、二大女神様の母神様ね……】


【呪と術から切り離す為、でしょうか……それとも、束の間でも母娘に戻ろうとなさったのでしょうか……】


 三つの水晶を見詰める二神の足元で、芳小竜は最後の輝きを放つと、小さな煌めきの粒となって昇っていった――



♯♯♯



【アオ!】【サクラ!】

【おい! 子孫共! 返事をしろ!!】


(だいじょぶ~、ちょっと飛ばされちゃった)


(うん。皆の力が、とても大きかったからね)


【生きているのよね?】


(大丈夫だよ、スミレ)

(うん♪ 俺も平気~♪)


(魔王達は?)【全て浄化されたわ】


(なら、少し休ませて欲しいんだけど……)

(俺も~、なんか眠い~)


【迎えに行きましょうか?】


(後でいいよ……)(ごちそうさま~)


【サクラ!?】


【後にしてあげようよ、スミレ】【うん……】



【コイツら、神界に連れ戻って浄化するぞ】


【始祖様、しかしアオとサクラが――】


【二人に入らずとも、鏡を神界に繋いでいる。

境界と結界は、後日 対処する。行くぞ】



♯♯♯



 カルサイとドルマイは、消えゆく光の粒を見上げていた。


【カルサイよ。その魂、如何にするのだ?

サフィア様とディアナ様が融合したものを二つに分けているのだぞ】


ゴルチルの背後に歴代最高神が集まっていた。


【今は無垢であろうが、サフィア様の罪は消しようも無い。

神竜としては生まれ直せぬぞ】


【ゴルチル様……でしたら、竜としてならば?】


神々が頷き合い、ゴルチルとカルサイに視線を向けた。


古の最高神が進み出る。


【サフィアのみならば裁かねばならぬ。

しかし、三界を救ったディアナと融合したものを裁くなど出来ぬ。

無垢とあらば尚更じゃ。


生まれ直すのも又、然りじゃ。

神竜としてサフィアが生きる事は、許せよう筈も無い。

しかしディアナは、そうはゆかぬ。

由って、有限の時を生きる者であれば、生まれ直しても構わんじゃろ】


神々が、もう一度 頷いた。


【この芳小竜の魂も構いませんか?】


【この功は大きいからの。構わぬぞ】


【ありがとうございます】


【親と成る竜は()るのか?】


【はい。心当たりが御座います】


【では、任せたぞ。現最高神様】


歴代最高神は姿を消した。


――が、ゴルチルが再び現れ、

【カルサイ。まさか御前――】

水晶に手を伸ばしたが、ロサイトが現れ、引き止めた。


【早くなさってね♪】うふふっ♪


【お任せください♪】

カルサイとドルマイは微笑み、消えた。


【御前! それは反則だろっ!!】



♯♯♯



【あら、誰も居ないわ】


 闇の神の間であった部屋は、穏やかな地下の陽の光に満ちているばかりで、魔宝の気すらも無かった。


【皆で城内を調べているようですね】


【二人は異空間のようね……】


【急いで連れ戻さなければ――】


「待て、カルサイ」


【あっ、三界王様】


「これを使え。

正真正銘、母と成る者の因子だ」


【何故それを……何処から……?】


「未来の為に儂が預かっておるのだ」


【は? ……未来……とは?】


「ま、悪いようにはせぬ。

それだけは約束しよう」ニヤリ。


【それは、どういう――あのっ!】


(しか)と二人の子にしてやれ)


 呆然としていたカルサイとドルマイだったが、顔を見合せ、微笑み合った。


【お認め頂けたのですね】


【急ぎましょ♪】


【そうですね】



♯♯♯



【ここまで戻せば、自力で戻れるでしょう。

休息には最適の場所です】

アオをゆっくり降ろす。


【良い寝顔だわ】【そうですね】


【アオとルリが子を諦めるなど】


【神として許せませんよね】うふふっ♪


 カルサイとドルマイは水晶玉から光を浮かせ、そっと放った。


【いずれ竜骨の祠にて】


【三界をお見守りください】


 サフィア様、ディアナ様……。


【あ……もしかしたら……】


【そうですね。術も呪も全てを浄化し、お二神様(ふたり)を無垢に戻したのは、アオとサクラなのでしょうね】


【あの光は異空間をも包んだのね……】


【おそらく逆ですよ。

異空間に放った余剰が三界をも包んだのでしょう。

魔法円から押し出す為に、二人は異空間へと飛んでしまったのですよ。きっと】


二神は微笑み、アオから離れた。



♯♯♯



【カルサイ様、ドルマイ様……】


【アオとサクラは……?】


【二人は無事です。眠っているだけですよ。

スミレ、ヒスイ、話が有ります。

ですが……ドルマイ、こちらは頼みますね】


【カルサイ、どちらへ?】


【トパーズ様とお話ししたいのです。

今、アオの傍にいらっしゃいますので】


【では、お任せください】



♯♯♯



 カルサイは異空間に戻った。


【トパーズ様、何度もお導き頂き、ありがとうございました】


【いえ、妻と娘達がお世話になり、ありがとうございました】


【キュルリ――ディアナ様が持っていらした芳小竜まで、お導き頂けなければ成し得なかった事ですので、お礼など。

むしろ、このような形にしか出来ず、申し訳ないばかりです】


【いえ、滅されて当然のところ、最高の幸せを頂けたと思っております】


【そう仰って頂けますと、私の方こそ幸せの極みです】


父親として、二神は微笑み合った。


【トパーズ様は、これまで どちらに?】


【父の芳小竜に護られ、眠っておりました。

アオ様に出して頂いたばかりなのです。


父は私を護る為に芳小竜を使い、そして異空間に封じられておりました。

アオ様は、その父をも、サフィアを追う中で見つけ、お救いくださったのです】


【今は、どちらに?】


【聖霊王様が保護してくださっております】


【そうですか……よかった……】


【眠っていた間の事は、娘達を追ううちに全て知り得ました。

お詫びのしようも御座いませんが、サフィアがしてしまった事の償いと後始末の為に、力有る限り尽くしたいと思っております】


【ならば、其奴を神にする手助けをするのが、三界にとって最も為に成る事だ】

ニヤリ。


【ゴルチル様……】


【御歴々が、成り行きを確かめて来いと煩くてな】下っ端だからな。


【此奴の他に、次代の最高神として相応しい者は居らぬのだが、此奴は神に成る事を断固拒否しておるのだ】


【既に大神様なのでは……?】


【いいや、天竜だ。

だから説得してくれ。頼んだぞ。


カルサイ、御歴々には、確かに天竜の卵と成った。と、報告しておく。

では、な】消えた。


【アオ様は、神ではないのですね……】


【はい。確かに天竜なのです。

サフィア様への歴代最高神の御沙汰は、竜としてならば生まれ直してよい、との事でしたので、アオを選んだのです】


 もしや……アオは、この為に神と成る事を

 拒否していたのでしょうか……?





ゴ【メライト、私の事も知っておるな?】


メ【はい。前最高神(ゴルチル)様】


ゴ【ふむ。サクラの中から、見ていた事、

  全てを詳細に書いておけ。いいな?】


メ【はい。仰せの通りに】


ゴ【ガーネとも知り合いだな?】


メ【はい。父の親友で、私も幼い頃、

  良くして頂きました。

  ガーネ様が、どうかなさいましたか?】


ゴ【知らないのか……ガーネは今、玉牢に

  封じられている。それを救うには、

  アオとサクラの功績が認められなければ

  ならないのだ】


メ【嘘偽り無く、漏れ無く、アオ様と

  サクラ様がなさった事を書き記します。

  誇張していると捉えられてしまいそうな

  程の御活躍でしたので、お認め頂ける事と

  確信致します。

  どうかガーネ様をお救いください】


ゴ【私も救いたいのだ。だから頼む】


メ【はい!】



♯♯♯



リ【あ……ユルヌ……】


ユ【気が付いたか。良かった。

  リヒトは狙われているのだから、

  ウロウロするなと何度も言っているだろ?

  困った奴だな】


リ【私は……あっ! 水晶は!?】


ユ【アオから預かっている。

  あ、神も戻ったな。アオは?】


ト【戦の疲れで眠っております。

  父を連れて行ってもよろしいでしょうか?】


ユ【連れて行け。で、アオに伝えろ。

  必ず笛を吹きに来い、とな】


ト【畏まりました。父をお預かりくださり、

  ありがとうございました。それでは】


 トパーズが水晶を持ち上げると、橙色の

小さな竜が寄り添った。

トパーズは微笑み、会釈して、去った。



リ【また(・・)アオ様にお助け頂いたのですね?】


ユ【ああ。また(・・)初対面だったのだがな】


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