神の戦3-姉妹
アオとサクラは闇神城に戻されてしまいました。
【追って来たのか、ディアナ……】鋭く睨む。
【姉様! アオとサクラは――】
【それは解った。
しかし、止める事 能わぬ!】
【何故……このような事を……?
全ては誤解なのです。話をお聞きください!】
【煩い! 失せよ!!】
サフィアは闇黒の波動を放った!
♯♯♯
【アオ! サクラ! こっちに来いっ!!】
コバルトの声でアオとサクラは、闇の神の間へと曲空した。
【魔法円の様子が変わった! 囲め!】
(この魔法円って……)
(まだ繋がっているね)
(アオ兄、ディアナ様は――)
(そうだね……きっとサフィア様と――)
(うん……だから俺達も――)
(やるかい?)(うん)
アオとサクラは己が身を光で包み、魔法円の中央に飛び込んだ。
そして向かい合い、掌を合わせ、目を閉じた。
【アオ! サクラ! 何をする気!?】
(だいじょぶだよ、スミレ)
(心配要らないからね)
二人は気を高め始めた。
♯♯♯
サフィアが放った闇黒の波動を、ディアナは杖で止め、消し去った。
【話を聞いて! 姉様!】
【今更 聞いてどうなるのだ!
誤解とて、もはや止められぬのだ!】
【いいえ、姉様と私、力を合わせれば止められる筈。だから――】
【無駄だ! 大神であろうが止める事 能わぬ。
それほど強い呪を掛けたのだ。
たとえ私が滅されようが止まらぬ!】
【姉様を滅するなど考えておりません!
私が全ての力を以て、その呪を浄化します!
姉様……術を止めて……お願い……】
【自身を滅すると言うのか? 愚かな……】
【構わない! 止められるのなら、それで……】
サフィアの瞳が揺れる。
【私は、ただ……幼き日のように平穏に、姉様に寄り添い、微笑み合っていたかった。
誰もが願う、そんな細やかな幸せに満ちた穏やかな世を、この三界に取り戻す為なら、私ひとりなど――】
【犠牲になろうが止められはせぬ!】
【姉様……】
【ディアナ……私は……神界に帰りたかった。
ただ、それだけだった……】
サフィアの纏う気が、穏やかな色に変わっていく。
【それはきっと、ディアナと再び――】
言葉を止め、ディアナを見詰めた。
【そうだな……ディアナと同じだ】目を伏せた。
【それならば術を止め、これから再び――】
【止められはせぬのだ。
私自身にも喰魂獣の魂を込め、その魂に呪を掛けたのだからな……。
たとえ私が滅されようが、喰魂獣が呪も闇も、私の全てを受け継ぐ。
だから最早、如何な者にも止められはせぬ】
【姉様……止めたいとは願って頂けますか?】
【遅すぎたが……な……】
♯♯♯
(竜宝達、みんな力を貸してね)
(神様方、御力をお貸しください)
(兄貴達、俺達に力を込めてね)
(妖狐王、慎玄殿、純慎殿、共に浄化を)
(クロ兄、姫、供与全開ねっ)
(サクラ、全てを解放するよ)
(アオ兄、おもいっきりねっ)
アオとサクラが翼を広げる。
光輪と翼が、羽ばたく毎に輝きを増していく。
芳小竜達が次々と魔法円に飛び込んだ。
(皆も、お手伝いお願いね)【は~い♪】
(みなさ~ん♪ せ~のっ!!)
♯♯♯
ディアナは、手にしていた杖を消し、両手を広げた。
【まさか……ディアナ……私と……】
【姉様、共に……全て、二人で……】
ディアナの頬を涙が伝った。
【大好きよ、姉様……ずっと一緒に……】
【私を……そこまで……】
サフィアの瞳からも涙が溢れた。
何故、もう少し早く……
私が、もう少しだけ早く、
心を取り戻していれば……
ディアナを巻き込む事など、
無かったろうに……
何故、今になって……
今更このような気持ちに……
もしや、あの二人……アオとサクラは、
私に取り憑いた呪すらも浄化したのか!?
あの二人こそ、まさしく神であったのか……
そうか! 伝説ではなく真実であったのか!
青身神は実在していたのか……
アオ様……サクラ様……
どうかディアナをお救いください!
どうか……この願いよ……
お願い! 届いて!!
♯♯♯
(うっわ~♪ クロ兄と姫ってば凄っ!♪)
(フジは、二つの大器を全開にしているね)
(慎玄さんと純慎さん、アオ兄と俺みたい)
(共鳴する光と闇が支えてくれているよね)
(キン兄も凄いよ~♪ 雷が共鳴する~♪)
(アカも神様の力だね。サクラと同じだね)
(紫苑さんと珊瑚さんも神様なのかなぁ?)
(狐の神様だよね。妖狐王様もそうだけど)
(ハク兄ってば、ぜ~んぶ双璧してるよ!)
(神様の御力まで双璧しているから凄いね)
(翼……ちょっとイタいかも~。光輪も~)
(溢れてしまいそうだけど頑張って保とう)
(うんっ!♪ 俺っ、ガンバる、からっ!)
(あっ!? 覚醒!?)(アカ兄、今!?)
(フジも今っ!?)(ハク兄もだよっ!!)
(連鎖してしまったね……大丈夫かな……)
(アオ兄こそっ! だいじょぶなのっ!?)
(うん……そうだね……サクラも無理――)
(アオ兄っ!? しっかりし……てっ……)
耐えている二人が気を失いかけた時、アオの内から伸びた掌握が二人を抱きしめ、支えた。
この掌握……ルリ姉だ……
優しくて……とっても強い力……
いっしょに……俺も闇障なんだから……
ルリ姉と一緒にアオ兄を支えなきゃ……。
サクラも掌握を伸ばし、アオを抱きしめた。
(サクラ、もう振りする余裕は無いだろ?)
(はい。もう無い、です……アオ兄、さん)
(俺も、もう限界だから、話せなくなるよ)
(はい……集中、し、ます……)
(そう、だね……)
魔法円から伝わってくる……
ディアナ様とサフィア様は……
今、三界を護ろうとしてる……
『闇の神』の術も、呪も、ぜんぶ……
いっしょに『ひとつ』になろうとしてる。
すべてを浄化しようとしてる……
だから、アオ兄も浄化しようとしてるんだ。
魔法円の向こう……
ディアナ様とサフィア様が
御力を使いきって消えないように……
俺達が先に全てを浄化するんだ。
支えないと……アオ兄を……
『闇障』が『光』を支えるんだ。
俺……また……
アオ兄と『ひとつ』になれるのかな……
俺はアオ兄で……アオ兄は俺……
アオ兄に……還れるのかな……
俺……――
♯♯♯
ディアナが発した光が二神を包み、拡がり、その空間を満たした。
アオ様、サクラ様、
姉様を戻してくださって、ありがとう。
闇の神は、今、消え去りました!
♯♯♯
アオとサクラが、溢れ出した煌めく光を纏う。
纏う光を追うように、二人の内から力の殻を押し割った閃光が迸った。
届け!!!
全てが輝きに変わる。
音すらも輝きとなり、無に還る――
♯♯♯
闇神城の上部が輝いた。
「綺麗……」「あの光……」「あっ、こちらに!」
綺桜と瑠璃の煌めきを纏った純白の輝きが迫り、頭上を通過し、光の尾が辺りを包んでいった。
「やわらかくて、あたたかい光ですね」
「それに、とても清らかだわ」
「この光はアオ様とサクラ様よ。きっと」
「そうですわね」
(やはり、あのお二方は……)
(青身神様なのね……)
♯♯♯
魔竜の女性兵達は、敬礼して見送った。
「サクラ王様の光ですよね」
「煌めきが桜色ですからね」
「瑠璃色の煌めきも美しいですよ」
「これは双青輝伝説の第二章だわ」
【アオ様とサクラ様は……】
【やはり大神様なのですね……】
集まった神達も見上げていた。
輝きは拡がり、駆け抜けていく――
「サクラ……この光……全てを優しく包んで……」
虹藍は、上空の闇黒色の者達が色を戻していく様を見てハッとし、振り返った。
「急ぎ上空の方々を収容してください!
それと、間もなく王が御帰還なさいます!
お迎えの準備を!」
♯♯♯
「ほぅ……流石、アオだな」
妖狐王は目を細め、天を仰ぎ見た。
白い毛が靡き、碧の光の尾を引く。
「心地よい風だ……」
♯♯♯
異空間を満たした輝きは、一瞬にして一点に吸収された。
きゅるる、る……――
宙で、コロンと芳小竜が転がり――
現れたカルサイが、それを掬い上げ、消えた。
ディアナ様! 消滅などさせません!
♯♯♯
アオとサクラから迸った純白の輝きは、三界を駆け抜け、輝きで満たし、全てを包み込んだ瞬間、弾け散った。
――ゆっくりと色彩が戻る。
【カルサイ!? 何処!?】
叫んで、ドルマイが消えた。
【アオ!?】【サクラ!?】
スミレとヒスイが二人の気を探す。
【子孫共! 何処だ!!】
アオとサクラが光を放出する直前――
あ……思い出した……
卵の中……ガーネ様の御声……
『モルガナ、暫くカイヤナの中に戻すよ。
ヴィオラが落ち着いたら、また分けるからね。
ジェイドも眠っていておくれ――』
この術は……きっと、外から共心させる術!
だったら、俺もアオ兄の内から支えられる!
待ってて、アオ兄。すぐに還るからね!
(サクラはサクラだ。アオの一部ではない。
共心は私が拒絶する)
あ……楽になった……
ルリ姉が底上げしてくれてる!
(ルリ姉? でもアオ兄を支えないと――)
(内から支えるのは私の役目だ。
サクラは外から支えろ。
サクラは原神なのだから身体に何か有ろうが
支えられるのだろ? だからサクラは外だ)
(でも――)
(問答無用だ。共心は妻の特権だ)
(ルリ姉……)
(早く支えろ。放出が始まるぞ!)
(うんっ!)




