天亀湖2-十左とアオ
おまけ=おさらいです。
「青いのは自ら落ちてな、魔物を避けながら、人界の地に向こうておるうちに、夜の域に入ってしもうたんじゃ。
そしてな、魔物から身を隠す為に、自身を封印しようとした所を、追ってきたのとは別の魔物に襲われたんじゃ。
その魔物が放った三本の魔宝剣のうち、一本が鳩尾を掠めての。
呪が掛かってしもうたんじゃ」
「まさか、それで、記憶と力が……」
「封印の術と呪が、どう絡んだのかは分からんがのぉ……
青いのは気を失うて、倒れてしもうたんじゃ。
それを、十左という男が見つけて、家に連れ帰ったんじゃよ」
♯♯♯♯♯♯
それから数日、若者は眠ったままだった。
医者に診せる金など無い。
十左が途方に暮れていると――
「魔物はっ!」
若者が目を覚まし、勢いよく半身を起こした。
「あ……いや……ここは……っ!」
痛むのか、頭を押さえて耐えている。
「異国の兄チャン、大丈夫かい?」
「……異国……?」
「この国にゃ、金色の髪なんていねぇよ」
「……この……国……?」
「ここは、東の国だ。
兄チャン、海の向こうから来たんだろ? 名は?」
「……名……ア……オ……」
「そうか。アオ、なんか食うか?」
「あ……ありがとう……」
「たいしたモンは無ぇがなっ」
笑いながら、十左は食べ物を取りに行った。
粥を食べながら――
「で、アオは何しに この国に?」
「……わからない……」
「打ち所、悪かったんだな……
青く光る何かが当たったんだろ?」
「……」
「それも忘れたかぁ……
さっき、ひと言目が『魔物』だったろ?
あの青いの、魔物だったんだなぁ、きっと」
暫く無言で粥を食べていたが――
「そうか! 魔物に記憶を吸われたんだな!
命じゃなくて良かったなぁ」
アオの肩をポンポン。
「で、これから どうする?
アテも無ぇなら、ここに居ても構わねぇが……
とりあえず、その髪は隠しとけ」
アオに手拭いを投げた。
「外、見てみるか?
何か思い出すかも知れねぇ。
少なくとも、気分くらいは晴れるさ」
実りの季節。
爽やかな風に吹かれてみたが、アオは、何も思い出せそうになかった。
こうして、アオは十左の居候となり、農耕や農具の修理をして暮らす事となった。
♯♯♯♯♯♯
「青いのと、桜ん坊はのぉ、同じ時に目覚めたんじゃよ」
「えっ!?」
「二人の繋がりは、強いようじゃな……
ま、証拠も何も有りはせんし、ただの偶然かも知れんがのぉ」
はっはっは……
「アオとサクラ……」
言われてみれば、噂で聞いていたのとは、
サクラは随分、違うような……
まさか、アオが掛かった呪は、
サクラにまで影響しているのか!?
「何を思い悩んでおるのじゃ?」
「いえ……あっ!
呪と絡んで発動したとして、アオの封印の術は、解けるのでしょうか?」
「さぁのぉ~
確かな事は、何ひとつ言えんが……
お前さんらの守護珠。
アレと腕の紋様を近づけ、術を唱えると、不思議な事が起こるそうじゃな。
『対なるもの』じゃと、昔、竜のジジィが言うとったわ。
可能性は有ると思うが、どうじゃろのぉ」
守護珠とは、竜が卵から生まれる時、持って出てくる玉石で、神からの賜り物と言われている。
王族は、守護珠を笏杖に着けている。
笏杖は、出立の儀の際、王に預けたので、今は、玉座の後ろの壁に並んでいる筈だ。
人界の任が終わるまで、城には、そう簡単に
立ち入れねぇし、
過去、預けた笏杖を持ち出した、なんて話も
聞いた事も無ぇが、どうしたものかなぁ……
ハクは、左腕の紋様を右手で掴み、考え込んでいた。
「まぁ、ここで悩んでも仕方あるまいて。
爺さん達にでも相談するんじゃな」
翁亀はモグモグと団子を食べている。
「食うか?」
「あ……いえ……」
「こんな遠くまで飛んで来たんじゃ。
腹も減っとるじゃろ? ほれ、食え」
「ありがとうございます。では――」
ハクは亀用の大きな団子を抱えて、座り直す。
「で、続きは どうする?」
「もちろん、お願いします!」
翁亀 、満面の笑み。
「で……はて? どこまで話したかの?」
「翁亀様ぁ~」
翁亀は天を仰いだ。
小鳥達が囀ずり、涼やかな風が湖面を撫でる。
こんな、のんびりしてていいのかなぁ……
ハクも天を仰いだ。
翁亀は、話の続きを思い出したらしく、手で地面をトンッと打った。
「そうそう。
青いのは、十左という男の家に、厄介になっての。
暫くは、平穏に暮らしとったんじゃ――」
♯♯♯♯♯♯
アオは、数日、寝たり起きたりの状態だったが、ひと月程すると、十左と共に畑仕事をするまでに回復した。
「アオ、お前、いい体してるよな」
アオがギョッとして十左を見詰める。
「あっ! いやっ! 変な意味じゃない!!」
十左は慌てて、違う違うと手を振る。
「そうじゃなくてっ!
この国は、海の向こうの国と、もう随分と長く戦をしているんだ。
だから、その髪じゃ、密偵だとか何かと要らぬ疑いをかけられかねねぇ」
十左は畦に座り、アオにも座れと手招きした。
「襲われる可能性だってある。
だからだ。お前、槍や剣、覚えてみねぇか?」
いつになく真剣な十左の言葉に、アオは頷いた。
「でも、どうやって覚えれば――」
「なぁに、今じゃ、片足こんなだが――」
話しながら、義足を着け直し、具合を確かめる。
「昔は中隊率いて『鬼槍の十左』って異名、轟かしてたんだ。護身術程度 教えるのに、何の問題もないさ」
と、豪快に笑う。
こうして、十左から槍と剣を習い始め――
「お前、なかなか筋がいいな。
特に剣は……やってたんだなぁ、きっと」
本当に密偵だったのかも――
一瞬、そんな思いが過ったが、アオの人の良さは生来のものに違いない、と打ち消した十左だった。
村が魔物に襲われる迄、アオは、ゆったりとした時を過ごしていた。
♯♯♯♯♯♯
「アオは、そんな暮らしをしていたんですか……」
「桜ん坊が生まれてこっち、ずっと、そんなようなモンじゃったじゃろ」
「あ……その頃の事は、あまりよく知らなくて……」
「お前さんは、お前さんで、忙しかったからの。
弟達の事など、殆ど知らんのじゃろ」
「まぁ……はい……」
「ま、これからじゃよ。
お前さんらは、まだまだ若い。
これからでも十分、互いを知る事が出来るわい。
で……さて、と。
青いのが旅に出る迄が、こんな所じゃな」
「翁亀様、それで、アオが探している十左という人は?」
「お前さんらの所に、片足無いのが居るじゃろ。
ほれ、最近、黒いのが助けて、瀕死で寝ておった――」
「えっ……あ!」
確かに、アオが洞窟に来る少し前、クロが魔物から助けたと、片足の男を連れて来ていた。
確かに、あれは古傷だったな……
ずっと意識無く眠ったままだったが、アオが来て数日後、意識が戻ったのだった。
ただし、喉を火傷していて、まだ話せてはいないのだった。
度々、クロとフジが、人を連れて戻るからなぁ。
ピンと来なかったが……
そうか、無事で良かった。
「それでは、アオの目的は――」
「そうじゃなぁ……
ま、その男が無事と判っても、旅は、やめんじゃろうて」
「あ……そうですね」
「お前さんらにとっても、小者潰しする者が居るのは良い事じゃろ?」
「……はい」
「なら、しっかり見守ってやる事じゃ」
「はい!」
翁亀が笑い、小鳥達が騒ぐ――
のどかな時が流れていく。
桜「紫苑さん、珊瑚さん、コレ♪」
二「薬ですか?」
桜「うん♪ それと団子♪」
二「ありがとうございます♪」
桜「薬は今ね。で、ナイショねっ」
二「?」薬を口に入れ、首を傾げる。
桜「天界で貰った特別な薬なんだ。
だから、フジ兄には知られたくないの」
二「解りました」にっこり
桜「団子も特別だから~
休憩して、こっそり食べてねっ♪
じゃあね~♪」
紫「可愛いですね」
珊「でも、しっかり気遣ってくださって」
紫「そうですね。焦ってはならないと
教えてくださったのですね」
珊「着実に進みましょう」
二人、頷き合い、微笑む。
二「二度と負けない為に!」




