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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
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双青輝伝説12

『双青輝伝説』最終話です。


 ブルーは、再び王太子の補佐となり、医師としても復帰した。

次の大臣となる事も決まり、単独での公務も増えた。


 とある式典に出席した帰り、

「ブルー様、付けて来る者がおります。

振り切りますか? 捕り押えますか?」

竜宝艇の操艇手が伺いを立てた。


「確かめる。速度を落として」


「畏まりました」


書類を見ているままの姿勢を続け、鏡で後ろを確かめる。


「もう、隠さなくてもいいか」呟いた。


「大丈夫だ。友人だから停めて」


「畏まりました」


「その店に寄ろう」


「はい」



 ラピスが好きな茶葉が置いてある店に入り、紅茶をいくつか選び、包んでもらっていると、扉が静かに開いた。


「スオウ、久しぶりだな」


ブルーが振り返らず、そう言うと、背後に立った者は、一瞬、逃げようとしたが、思い直し留まった。


「ブルー、生きていたんだな」


「心配かけてしまったかな?」

振り返り、微笑んだ。


「当たり前だろ」


「立ち話も何だから、時間が有るならだけど、家に来ないか?」


「家って……」城の方を指す。


「いや、俺の家だよ」


「時間なら気にするな」


「そうか。なら、行こう」




 包みを抱えて嬉しそうなブルーに連れられ、竜宝艇を降りた所でスオウは固まった。


「どうぞ。遠慮しないで」


「家……って! どデカイ屋敷じゃないかっ!」


「もう知ってるんだろ? 王子だからね」


扉が開き、執事達が並ぶ。

「お帰りなさいませ♪ ブルー様♪」


「うん、ただいま。

スオウ、早く来いよ」扉前で振り返る。


「ブルー、お帰りなさいっ」

スオウの方を向いていたブルーの背に、ラピスが抱きついた。

「あ……スオウ……」真っ赤になる。


「うん。偶然、会って――可愛いっ」ちゅっ。

ラピスの方に顔を向けたブルーが抱き返し、額に口付けた。


「見ちゃいられないぞ……」


「そうかな?

可愛いから可愛いと言っただけなんだけど」


「なんか……変わったな、二人共」


「まぁ、とにかく入ってくれ」



―・―*―・―



 ブルーが買って来た茶葉の中から、ラピスが選んだ紅茶の香りが、爽やかに漂う。

執事達が、恭しく一礼して退室した。


「まずは、謝る。すまなかった!」


「なんだよ、いきなり。

さっき付けてたのは、心配したからだろ?」


「いや……俺は、最初から、ブルーを付け回していたんだ」


「最初って?」


「ブルーが特級修練に来た日から、ずっとだ。

副長の座をアッサリ奪われたからな。

奪還もしたかったし、何か弱みでも握れないかと思ってな」


「でも、再戦も求めて来なかったよな?」


「すぐに到底無理だと判ったし、何より……二人に惚れ込んでしまったんだよ」


「男に惚れ込まれても困るんだが……」


「そんな顔しないでくれよ。

男が、男に――その心意気に惚れ込んでもいいだろ?」


「ふむ。解らなくもないな」


「ラピスまで……」


「それに、二人を見ていると、もどかしくて目が離せなくなったんだよ」


「もどかしい?」


「どっちも一途に想ってるクセに、うろうろグズグズしてるからだよ。

ケツ蹴り飛ばして、押し倒させてやろうかと本気で思ったよ」


「思っただけなのだな……」


「ラピス、実行して欲しかったのか?」


「そんな事したら、消し飛ばされかねないから実行できなかったんだよっ!」


「ふむ。さもありなん、だな」


「俺って、どんな見方されてたんだ?」


「当然、悪くない見方だよ。

で、まぁ、勝手に皆には親友だと――」


「「ありがとう!」」二人、揃った。


「そういう所だよ。

即座に、こんな事に礼を言うなんて、有り得ないだろ」


「友なんて、いやしなかったからな。

そう思って貰えるのは、嬉しいよ」


「私達は孤独が友だったからな。

ブルーに友だと思ってくれる者がいたとは、祝うべき事だ」


「王子様ってのは、友すら作れないのか?」


「性格だろうな。

すぐ下の弟には、悪友なら、わんさかいるよ」


「班員達は皆、惚れ込んで二人に付いてってたのに、全く残念な奴だ」


「「そうなのか?」」また揃った。


「第一班に配属された、それなり優秀な皆でも、

あの鍛練に付いて行くのは、必死なんてモンじゃなかったんだよ!

要請では、見てるだけだと思ってたら、敵中に連れて行かれるし!

生きて卒業出来るんだろうか、と真剣に思ったよ」


「そうだったのか……」

「迷惑だったのか……」


「いや、それも、皆も感謝しているよ。

配属でも、給与でも優遇されたからな。

初陣から表彰された者も少なくないよ。

でも、礼すら言えなかった……」


「すまない……」


「だから、俺達にも、二人の結婚を祝う場を設けさせてくれ!」


「ブルー、婚儀には一般人は呼べるのか?」


「そう出来るようにしておくよ」「おいっ」


「ありがとう。

私には招待できる者は居ないからな」


「俺にも、個人的には皆無だよ」「待てっ」


「「何だ?」」やっぱり揃う。


「婚儀……って……まさか、城か?」


「当然だろ。城内の神殿だよ。

祝賀会は大広間だ」


「いやいやいや! 無理だからっ!」


「大丈夫だよ。服も用意しておくから」



―・―*―・―



 一年後――


 白一色の荘厳な神殿には、その雰囲気に合う厳かな楽曲が控え目に奏でられていた。


 入口の観音扉が静かに開き、陽光を背にし、純白の薄絹を幾重にも重ねた美しい花嫁衣装に身を包んだラピスが、一歩、また一歩、と中央に伸びる金で縁取られた真紅の道を進む。


真紅の道の中程では、純白の正装が凛々しいブルーが待っている。


ラピスの右手が、ブルーに託され、二人は微笑み合うと、並んで進み始めた。


 誰ひとりとして欠ける事なく集まった、元班員達は固唾を飲み、息すらするのも憚られる程の緊張の中、その後ろ姿を見詰めていた。


 二人の純白の外套が、真紅の道に、小さな煌めきを以て美しく長く尾を引き、ゆっくり遠ざかった。


 前に並んだ二人は、それぞれに長い宣誓を悠然と述べた。


 そして、向かい合い、ゆっくり顔を寄せ、永遠を共にする事を誓い合った。


 退場の際、元班員達の近くを通る時、二人は幸せ溢れる微笑みを向け、即座に真顔に戻り、何事も無かったかのように通り過ぎた。

ほんの一瞬だったが、その微笑みは、その場に居た者、全てを魅了した。



―・―*―・―



 高輝台で挨拶し、国民からの祝福を受け、祝賀晩餐会でも、それぞれが壇上で堂々たる挨拶をした。

いずれの挨拶も、単なる返礼ではなく、国や国民への想いが込められた、優しい温かさと、未来への情熱が、聴く者の心に刻み込まれる立派なものだった。


 貴賓達への挨拶回りを終えた二人は、この日、何度目かの退場をし――


 軽めの服装で、こそっと戻り――


元班員達の塊へと、素早く近付くと、

「抜け出して、皆で、俺の家に行こう」

囁き、スオウの手を引いて脱走した。




「いいのかよ。主役が抜け出して」


「もう、規定は、こなしたからね。問題無い」


大型の竜宝艇に皆を乗せ、操りながら、さも楽しそうにブルーが答えた。


その後ろでは、

「しっかし驚いたよなぁ」

「まさか、本物の王子だなんてなぁ」

「ウチの奥さんなんて、招待状の

王家の紋章見てブッ倒れたんだぞ」

「ウチも似たようなもんだ」

「本物か? って大騒ぎだったさ」

「にしても、王子って、やっぱカッコいいよな」

「そうだな。戦ってる時もカッコ良かったけどな」

「班長、キレイだったよな~」

「スッゲー綺麗だった!」

「お妃様かぁ……」

わいわいと大騒ぎしている。




「着いたよ。降りて」


「家って……」「スッゲーお屋敷!?」

「王子は違うよなぁ」「夢のようだな」

「家ってのは、お城じゃあないのか?」


 元班員達は、竜宝艇内に引き続き、口々に勝手な事を言って騒いでいる。

騒いではいるが、萎縮もしていて、足が進まない。


「おい、副長を上げるぞ♪」

そんな彼らを見て、スオウが、おどけて言った。


「おっ♪」「そうだな♪」「行けっ♪」


とたんに、萎縮は何処へやら。

元班員達は、喜び勇んでブルーを担ぎ上げた。


「おめでとーーーっ!!」


「お前らっ! おいっ! こんな所でっ!」


「皆、ありがとう!」

ラピスが言い、声を上げて笑った。


ブルーも一緒になって笑いだした。

それは、幸せそのものを振り撒くようで、皆、その暖かい気に包まれて笑った。





蘇「で、班長が目覚めたから、アオは

  復帰したのか?」


青「そうだよ。兄の補佐ではないけどね」


蘇「大臣するから、事実ではなく物語だと

  発表してくれって言ってたよな。

  大臣って? トキワ大臣の後継なのか?

  第三王子様なんだから、そうだよな?」


青「いや。新たな大臣なんだ。

  魔竜王国との国交が再開したからね。

  両国の橋渡しの大臣で『虹紲(コウセツ)大臣』と

  命名したんだよ。その虹紲大臣に、

  ルリと二人で仮就任したんだ」


蘇「そうか。なら、これから二人の活躍を

  しっかり見させてもらうよ。

  班長、副長、お幸せに」


青「勝手に締めるなよ。

  婚儀には来てくれるんだろ?」


蘇「まさか。お城になんて行けないよ。

  もしかして、別に開いてくれるのか?」


青「ちゃんと本の通りに皆に招待状を送るよ。

  班員皆、生きているのは判っているんだから」


瑠「その後、屋敷で胴上げか?」


青「家には招待するけど、胴上げは――」


蘇「するからなっ」


記「追いかけます!」


青「あのなぁ……」


瑠「構わぬだろ。問題が有ろうが変えるのだろ?」


青「解ったよ」


瑠「婚儀日程は追って連絡する。

  第一班は全員、集まるよう。

  班長より、以上だ」


蘇「はいっ!」


青「二人共……悪乗りし過ぎだよ」


 あたたかい笑いが湧く。

和やかな雰囲気のままに、会見は終了した。




蘇「あ、そうだ。

  二人は、アンズ=カムルって知ってるか?

  班長の再来って言われてた女の子だ」


青「再来って、いつ?」


蘇「六、七十年くらい前かな?

  軍人学校で特級の教官になったキミドが

  班長の娘じゃないかって言ってたんだ」


青「その頃はまだルリは眠っていたよ。

  だから娘なんて。でも――」ルリを見る。


瑠(サクラなのだろう? 言ってもよいのか?)

青(正式に王族入りしたからね。いいよ)


瑠「アンズ=カムル=エレドラグーナは妹だ」


蘇「えっ!? 天涯孤独なんじゃ――」


瑠「もう孵化せぬものと思っていたからな。

  私が怪我で眠った後、孵化したそうだ。

  私の家族は皆、魔物に殺され、私と

  その卵はエレドラグーナ家の養子となった。

  アンズが私を知ったのは、つい最近だ」


蘇「そうだったのか……あっ、でも、

  妹さんがいて、アオがいて、

  本当に良かったですね!」


瑠「そうだな。この上無く幸せだ。

  両親が亡くなり、全てを諦め、捨てた私に

  アオとアンズは、その全てを拾い集め、

  より大きくして掴ませてくれた。

  生きていて本当に良かったと思う」


 アオとルリは、幸せを確かめるように

微笑み合った。




 微笑み合う二人の写真は、号外の裏面いっぱいに

掲載され、『双青輝伝説』は更に売り上げを

伸ばす事となった。


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