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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
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双青輝伝説11

 ブルーとラピスが姿を消し――


 ブルーとラピスが姿を消して、百四十年が過ぎた。

軍では、『双青輝』という言葉は禁句となり、若い兵士には、その存在すら知らない者も多くなった。


「ブルー……お前、生きているのか……?」


スオウは、青い空を見上げ、呟いた。


警報が鳴り響く。


 またか……

 いつまで、こんな事が続くのか……。


スオウは中隊を率いて飛び立った。




 スオウ中隊は、迷いの森近くの上空に展開しており、眼下の神殿を目印として、空中戦を行っていた。


 今回の襲撃は、多方面で同時に、また大群で王都へと迫っており、援軍は期待せぬよう通達を受けている。


 スオウ中隊は、粘り強く戦線を維持していたが、スオウは負傷してしまっていた。


「スオウ中尉、軍医は全て出払っているとの事です」


「ま、こんな事態だからな。仕方ないだろ。

この程度、飛ぶのにも問題無いし、指示だけなら出せるから、心配するな」


「失礼致します! 伝令であります!」


「こちらは、本中隊長スオウ中尉です!

伝令どうぞ!」


「スオウ中尉殿、前王様より、

『壺にて応戦するよう』との事であります!

壺は、もうすぐ届きます!

加えて『森の木々に網を上から被せ、張れ』との事であります!」


「壺と網? 了解した。ご苦労であった」


「はっ!」

敬礼し、伝令兵は去った。


「何が入っている壺なんだか……」




 そう待つ事も無く、投石器と三百程の壺が届いた。

封をされた壺の中身は不明だったが、地上から、投じてみると、壺が弾け、光が迸った。

そして、魔物が気絶した魔人に変わり、落下し始めた。


「魔人を助けろ! 網を増やせ!」


スオウの声で、兵士達が魔人を背に受ける。


 へぇ、魔物は魔人だったのか……

 人も混じっているようだな……。

 で、保護したはいいが、

 何処に居させりゃいいんだ?


スオウは上昇し、適した場所は無いかと見渡した。


 え? あれは……?


青と紫の煌めきが、神殿へと入って行った。


 あの瑠璃色は――


スオウは、降下し神殿の庭から、中を伺った。


 まさか……国王!?


魔物が、国王らしき銀竜に、茶を捧げていた。


 上空に気を感じて見上げると、光が迫り、色とりどりの若い竜達が降下し、神殿に突入した。


 窓に視線を戻すと、その広間の観音扉が、内に向けて吹き飛んだ。

七人の若竜達が飛び込む。


魔物が黒い穴を開き、逃げ込もうとすると、黒竜が素早く動いて、それを掴み、国王と言葉を交わした。

そして黒竜は魔物を放し、他の若竜達の元に戻った。


 何が起こってるんだ?

 まさか、国王と魔物は通じているのか!?


若竜達が銀竜に抱きついた。


 どう見ても、感動の再会だよな。

 で、あの若竜達……あの鱗色……

 王子達か!?


 って事は……囚われていた国王を

 王子達が救出したって事だよな?


 何で、魔物が茶を出してたんだ???


 そうか!! 魔人に戻りかけだったのか!

 確かに、黒々とはしてなかったよな!

 だから、逃がしてやったのか……。


 それは、もういいとして、あの青竜は……

 角度が悪いな。王子達がよく見えん。


 しかし…まさか、アイツが――


 スオウが考え込んでいるうちに、広間の竜達は、神殿から飛び立ち、王都の方角へと、あっという間に見えなくなった。


 無事に帰還できたら調べよう。


そう決めて、スオウは上空に戻った。



―・―*―・―



 援軍として参じた前王が齎した大壺に依り、その大襲撃は収束した。



―・―*―・―



 半年後、その時の怪我に因り退役したスオウは、王太子の婚約祝列を見ようと、王都に集まった群衆に紛れていた。


 主役は王太子だが、王子達も揃う筈だ。

 あの青竜がブルーかどうか、

 今日こそ確かめてやる。


 竜宝艇が見えた。

天台に立っているのは、王太子と婚約者だ。

続く竜宝艇内には、他の王子達が女性と一緒に乗っている。


 おや?

 王子は七人の筈だが、二人足りないな。

 しかも、居ないのは、目当ての青竜かよ。


 それなら、広場に先回りだ!



 王族が演説などを行う城の高輝台には、竜体の王、王妃、王太子と、その婚約者が並んでいた。

他の王子達は、後方に人姿で並んでいる。


 やっぱり、ブルーだ! 間違いない!



―・―*―・―



 ブルーは王太子の婚約の儀の後、祝賀晩餐会にも出ず、急いで屋敷に帰り、百四十年の殆どを過ごしてきた部屋に入った。


「ラピス、待たせてしまったな、すまない。

すぐに治療を始めるからね。

今日は、兄の婚約式でね、出掛けていたんだ。

俺達も、早く結婚したいね」


 ブルーは、そう語りかけながら、眠り続けるラピスの髪を撫で、治癒の光を当てた。


 ラピスは、長く生死の境を彷徨っていたが、どうにか一命を取り留め、以降、ずっと眠っているのだった。


 そんなラピスに、ブルーは公務だけでなく、全ての職務や研究からも離れ、寄り添い、治療を続けてきたのだった。


「ラピス……ずっと一緒に生きようね」


「……ん……」


「ラピス!?」


「ぅ……ん……」


「ラピス! 目を覚まして!」


ラピスの瞼が震えた。


「ラピス……聞こえる? ラピス!」


ラピスの手が少し上がり、何かを掴もうとした。

ブルーは、その手を握り、呼び掛け続けた。


ラピスの瞼が、ほんの少し開いた。


「ラピス、見える? 分かる?」


瞼が震えながら、ゆっくり開く。

「ん……ブルー……」


「良かった! ラピス!」

ブルーは涙が流れるまま、ラピスを抱き締めた。


「ブルー……どうした? 泣くなどと……」


「嬉し過ぎて止まらないんだよ!」


「そんなに興奮して……何があったのだ?」


「ラピス? 覚えていないのか?」


「悪い夢を見た。

私が、ブルーの腕の中で、命尽きてしまう夢だ」


「夢だと思ってるのか?」


「今度は、呆れているのか? 忙しい奴だな」


「ラピス、それは現実だったんだよ」


「私は生きているぞ」


「確かに、生きているけどね。

本当に、死にかけたんだよ」


「あれは……現実だったのか……いや、まさかな。

戦闘中にブルーが現れるなど、まず有り得ぬ事だからな。

それに、ゴルディ王太子から、双青輝として護衛して欲しいなどと、言われる筈も無いしな。

その上、私が背を斬られ、更に、貫かれるなど、ここまで、有り得ぬ事が続けば、最早、夢以外の何だと言うのだ?」


「全て、確かに有った事だよ。

百四十年も前にねっ!」


「百……嘘だろ……」


「全て本当だ」


「まさか……」


「俺も、すっかり大人だよ。

だから、驚きついでに聞いて欲しい」


「ついで……なのか? 何をだ?」


「いや、本当は、ついでなんかじゃない。

真剣な話だ」


「ふむ。では、私も、きちんと聞こう」

ラピスが半身を起こそうとしたので、ブルーが慌てて支える。

「まだ、急には動けないからっ」


「いや、大丈夫そうだ」

姿勢を正し、病衣を整えた。


ブルーは治療の光を当てつつ、

「ありがとう。俺も、きちんと話すよ。

俺の父は、天竜王直属軍の最高司令長官、つまり、国王だ」


「あ……そうか……あまりな事に、繋がっていなかった……確かに、そうだな…………えっ!? では――」


「そう。俺は王子だ。

ゴルディは、俺の兄だよ」


 ブルーという名は、珍しくはない。

王族と同じ名を付ける事は、禁じられていない為、どうしても、王子、王女と同じ名を付ける事は、流行ってしまう。

だから、誰も、ブルーという名だけでは、王子だなどとは思わなかったのだ。


 しかも、王族は、公の場では遠くからでも見えるよう、竜体で現れる上、近付く事など出来よう筈も無い為、同一かどうかの区別も付き辛く、人姿も知られていない。

この日の高輝台のように、後方で並ぶだけであれば、目立たぬよう人姿で現れる事もあるのだが、それも滅多な事ではない。


「あの日、俺は、兄に従い麒麟国に行っていた。

その帰りに、魔獣と戦闘中の部隊を見つけたんだ。

それで、加勢して――あとは、さっきラピスが言った通りだよ」


「本当に……あれは事実だったのだな……」


「そうだよ。

身分を明かした上で、改めて言わせて欲しい。

俺と生涯共に生きてください」


「そんな……事……私なんぞ……」


「俺は、ラピスに断られたら、生涯独身を貫く。

俺の妃は、ラピスの他に考えられないんだ」


「しかし、私には……妃などと……」


「俺は、王位を継ぐ事は無い。

だから、妃であっても、好きな事をしていればいいんだよ。

王や王太子の護衛をするのもいい。

勿論、二人で、双青輝として」


ラピスは目を閉じ、俯いた。

ブルーは静かに次の言葉を待った。



 長い――ブルーにとっては永遠とも思える程に長い沈黙の後、ラピスが真っ直ぐブルーを見た。


「自信など、全く無いが……やはり……離れたくは……ない……どうか、死が別つ時まで、傍に居させてください」


「ラピス!」


ブルーは、ラピスをしっかり抱き締めた。


そして、見詰め合い――


想いを込めて、唇を重ねた。





司「その後は、王室年鑑の方にも、

 『成人の儀』の記述しかございませんが――」


青「そうですね。ただの医師としてルリと共に

  過ごしていましたから」


司「では、この通りなのですか?」


青「これはスオウの想像だけど、大きくは

  外れていませんよ。

  つい最近ルリが目覚めて、やっと告白に

  至れました」


 アオがルリに微笑みを向ける。

その視線を追うように、皆の視線がルリに集まり、

ルリが恥ずかしげに視線を逸らし、染まった頬を

隠すように俯いた。


司「ああ、すみません。感動してしまって。

  その前の襲撃と祝列のお話は?」


青「ほぼ事実のままですね。

  神殿の窓から見ていたんだね?」


蘇「そう。このままだよ。

  それで、あの魔物は?」


青「今は城で執事をしているよ」


蘇「魔人だったんだよな?」


青「うん。馬頭鬼(バトウキ)族長殿だよ。

  あの後、神殿の近くに村を作って、

  一族で引っ越して来たんだ」


司「その流れも感動的なお話になりそうですね」


青「そうか……スオウ、魔人との交流再開の為に

  ひと肌脱いでくれないか?

  魔人との交流が途絶えて久しかったから、

  魔物と魔人を混同している人も多いと

  思うんだ。魔界や魔人の事を話すから、

  物語を作ってくれないか?」


蘇「いいのか? 俺なんかで?」


青「スオウ大先生だからこそ、だよ」


蘇「やめてくれよぉ。『大先生』だなんて」


青「この後、いいかい?」


蘇「またブルーとラピスを出してもいいのなら」


青「解ったよ」くすっ♪


司「これは大きな動きですね!

  どうやら新作は『双青輝伝説』の第二幕と

  なりそうですね♪」


青「それは蓋を開けてのお楽しみ、だろ?」


蘇「そうだな♪

  あ、話を戻すけど、祝列の間、どこに

  消えていたんだ?」


青「王都上空で警護していたよ。

  三界各国の王皇帝方々がお集まりだし、

  人も大勢集まっていたからね、襲撃されたら

  大変なんてものじゃないからね」


蘇「そうだったのか……」


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