表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第一章 竜ヶ島編
41/429

天亀湖1-翁亀

 第一章おまけです。少し遡ります。


 アオ達は大陸を目指し、海へと乗り出したが――


 時は少し戻り――


 アオ達が砂漠で馬頭鬼(バトウキ)と戦っていた頃。

天界では、ハクが、天亀の爺様・巍岩亀(ギガンキ)に会う為、天竜王国の果てに在る、天亀の湖に向かっていた。


眼下に広がる草原を見て、ハクは、


 そういえば…

 クロは、砂漠のヌシは馬頭鬼だと

 言っていたな。


と、思い出した。


 眼下の草は、天界なら、どこにでも生えている雑草だが、天界でしか育たず、人界や魔界に移すと枯れてしまうらしい。


 馬頭鬼族は、この草が大好物で、

 猫に木天蓼(マタタビ)の如しだと爺様達が言ってたよな。


 馬頭鬼のような魔物にとっては、

 黒幕の思惑なんか、どうでもよくって、

 この草を腹一杯食いたいだけなんだろうな……


そんなことを思いながら、広大な草原を抜けた。



 森を抜け、山を越え、また森を抜け――

ハクは飛び続け、やっと遠くに水面の煌めきを見た。


湖の向こうには、木々が緑の海の如く広がり、更に、その向こうには高い山が見える。


 あの山は、地下魔界に在るんだよな~

 ハザマの森って、不思議な所だよな……


ハクは、湖の畔へと降下した。



 陽射しに煌めく美しい湖の中程には、島が有り、その島には、満開の桜の巨木が立っていた。

湖の岸辺の木々からは、しきりに小鳥の囀ずりが聞こえている。


 小鳥の姿を探して、木々を見上げながら歩いていると、大木の枝に、大きな板が、ぶら下げられていた。

その大木の根元の(うろ)には、これまた大きな槌が差し込まれている。


「これで呼ぶのか?」


ハクが板を叩こうとした時、


「いい匂いがするのぉ~」

湖の方、遠くから声がした。



 振り返ると――


 島……そんな近くだったか?


 え? 沈んだ?


 桜の巨木が、水を切って迫って来ている!?


ハクは目を閉じ、三つ数えて目を開けた。


島は岸際に来ていた。

「うわっ!」


「何を驚いとるんじゃ。儂に用があるんじゃろ?」

ざぶわぁっと、大きな亀の首が上がった。


「あ……巍岩亀様ですか?」


「あ~、そんな名じゃったかのぉ……

翁亀(オウキ)で、ええわい」


そう言って、クンクンと辺りを嗅ぐと、

「ほれほれ、その箱を開けよ」

鼻先で箱を差した。


ハクは慌てて箱を開ける。


「たまらんのぉ♪ ささ、こっちへ――

いや、お前さんじゃないわい。その箱じゃ」


箱を翁亀の鼻先に置く。

「やはり、モモさんの団子♪

久方ぶりじゃのぉ」

ひとつパクリ。


旨そうに喉を鳴らして飲み込むと、

「モモさんの……孫か?」


「はい」


「そうかそうか。モモさんは、お元気か?」


「はい」


「そうかそうか~

いやいや、御使いご苦労じゃったのぉ」

背を向け、湖に沈もうとする。


「っとぉ! お待ちください、翁亀様!」


「あ?」

振り返った翁亀は、クンクンと、また風を確かめ、


「酒があるな……」クンクンクン

ゆっくりと、体ごとハクの方を向くと、


「亀福じゃな? その樽か?」


「はい」


ハクが樽を団子の箱の横に置くと、翁亀は何処から出したのか、大きな杯をその横に置いた。


「ほれほれ♪」「あっ」慌てて()ぐ。


翁亀は味見すると、

「こりゃ素晴らしい出来じゃ♪」

上機嫌で、大きな虚が有る大木を鼻で差す。


「あっちの木の虚に有る樽と入れ換えよ。

その酒は竜喜じゃ。土産に持ってけ」


ハクが樽を入れ換えていると、翁亀は、また沈もうとする。


「あーっ! まっ――お待ちくださいっ!」


「まだ何か持って来とるのか?」


「あ……いえ、そうではなく……」


「儂の話が聞きたいのか?」


「はい」


「そうかそうか♪

長いこと、小鳥しか話相手がおらなんだから、嬉しいのぉ♪

……さて、何から話そうかの♪」


暫し思案――


もう少し思案――


「あ~~~、そうじゃ♪

さっきの酒、亀福と竜喜じゃがの。

これは、昔……

まだ三界が平和に交流していた頃じゃから……

あ~~、遥か遥か昔じゃ。

竜と亀がのぉ――」



 こうして、長い長い翁亀の話が始まった。


 ハクもまた、長老の山で沢山の事を学んで育ったので、お年寄りが機嫌良く話すのを邪魔してはいけない事は、よく知っている。

それに、巍岩亀はヘンクツだと長老達が言っていたので、尚更、遮るのはマズいだろうとも思った。


 だから、翁亀が満足するまで、とにかく聞いて、自分が聞きたいことは、それからだ、と覚悟を決めたのだった。



♯♯♯♯♯♯



 そして――


「――と、まぁ、竜と亀の友情の証として、互いの嗜好の極みの酒を作ったんじゃ」


翁亀の長い話が、ひとつ終わった。


「そんな事があったのですか……初耳でした。

良いお話を、ありがとうございました」

ハクはペコリと頭を下げる。


「まだまだ有るぞ♪ そうじゃな~

もっと最近の話がよいかの」


「はい」


「じゃ、お前さんらが生まれる少し前の話を――

あ、いや、お前さんらの話の方が良いかの」


「え? 私達の?

翁亀様は、竜の国にいらっしゃっる事があるのですか?」


はっはっはっ……

「儂は、もう何万年だか、ここから動いとらんよ。

小鳥達が何でも教えてくれるわい」


翁亀が笑うと、桜の巨木が揺れ、小鳥達が一斉に羽ばたき、また枝に止まる。


「小鳥達は天界だけでのうて、人界の事も、時には、魔界の話も聞かせてくれるんじゃよ。

さて……どこから話そうかの」


翁亀は考えながら団子を食べ――


「そういや、お前さんらの出立の儀とやら、あの祝列は、近年稀に見る煌びやかなモンじゃったそうじゃな」


 ああ……あの派手派手な祝列……

 あんなの思い出したくもない……


 母上が、それでないと納得しないから

 渋々やったが……もう二度と祝列なんぞ――


「まぁ、そう嫌そうな顔をするな。

民を喜ばせるのも王族の務めじゃよ」

翁亀は愉快そうに笑い、話を続けた。


「出立の儀そのものは、お決まりの堅っ苦しいモンじゃっから、お前さんら、門に向かう時には、ホッとしたじゃろ?」


 確かに、そうだったな……

 あれから五年か……




 天界の門から降下した兄弟は、人界上空に差し掛かった所で、魔物の大群に襲われ、アオが自ら囮となって落ち、行方知れずとなってしまったのだった。




「お前さんらは、人界の地に降りて、竜ヶ峰の洞窟に向こうたのじゃったな」


「はい。アオを探したかったのですが……」


「慣れる迄はのぉ、仕方のない事じゃよ」



♯♯♯♯♯♯



 洞窟に身を隠して数日後、

クロ、アカ、フジは、どうにか飛べるようになり、

その数日、アオを探していたキン、ハクと交代し、外に出た。


「アオ兄が……俺のせいで……アオ兄が……」


ハクが、眠り続けていたサクラの様子を見に行くと、目を覚ましたサクラが泣いていた。


「アオが死ぬワケねぇだろ。

怪我ぐらいはしてるかもだがな。

だから泣くな、サクラ」


「だって……返事が……

アオ兄から返事が無いんだよ!」


サクラだけは、遠く離れていても、兄達と心で話せる特技を持つ。

その特技を使って、アオを探そうとしたらしい。


「お前みたいに、眠ってるだけだろうよ」

ハクは、そう慰めたが、急激に膨れ上がる不安を、サクラに悟られまいと必死だった。



♯♯♯♯♯♯



「おい、聞いとるか?

ほれ、あの時、青いのが落ちたじゃろ?」


ハクが翁亀の話を聞きながら、当時の事を思い出していると、翁亀に話しかけられた。


「翁亀様、それも御存知なのですか!?」


「勿論じゃよ。聞きたいか?」


「はいっ!」


「ふむ、よしよし」にこにこ





桜「アオ兄、だいじょぶ?」


青「もう大丈夫だよ」にっこり


桜「でも……」笑顔が恐いよぉ……


青「次は負けないからね」ボッ! メラメラッ!


桜「封印されてるんだからぁ

  ムリしちゃダメなんだよぉ」


青「封印も解くからね」メラメラメラ……


桜「アオ兄、燃えすぎだよぉ」気が炎だよぉ


青「うん。大丈夫だからね」青い炎は高温だよ


桜「ムリしないで、竜宝の力、使ってね」


青「そうするよ」にこっ


桜「それって……」ムリしか考えてないよね?


心配が止まらないサクラだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ