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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
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双青輝伝説10

 ブルーとラピスは寝台に並んで腰掛け、

ブルーはラピスの肩を抱いた。そして――


「私には……既に、両親も祖父母も、家族と呼べる者は誰ひとりとして生きていない」


 ブルーは、その事を薄々は知っていたが、聞いたり、調べたりはしないと決めていた。


「それに、『女』を捨て、軍で生きると決めたから、もう、家族など得られないと諦めていた。

だから、ブルーが結婚を考えている、と言ってくれた時、本当に嬉しくて……」


ラピスが俯いたので、ブルーは自分の肩に凭れかけさせた。


「本当に……生きていて良かったって……」


「生きていてくれて、本当に良かった」


「ありがとう……ブルー……。

だから、この命……大切にする。

両親と祖父母が護ってくれた命だし、ブルーと生きていきたいから……」


「うん。生きる事だけを考えていてね」


「ブルー……」


「ん? え……」


 見上げるラピスの潤んだ瞳に囚われ、引き寄せられるように唇を重ねると、ブルーはラピスを押し倒した。



―・―*―・―



「ラピス? どうした?」


 胸元に冷たさを感じ、目を覚ますと、ブルーの胸に顔を(うず)め、ラピスが泣いていた。


「あっ……結婚するまで駄目だった?」


顔を上げないまま、首を横に振る。


「えっと……無我夢中で……何かマズい事した?」


また、首を横に振る。


「あ……その……残念ながら……なのか、安心して、なのか分からないけど……卵は出来ないから……俺、まだ――」


「離れたくない……」


「ラピス……」


「やっぱり、一緒に居たい……」


「同じだよ。俺も」


ブルーは片手で背を抱き、もう一方の手でラピスの髪を撫でた。


「だから、出来るだけ早くラピスを迎えに行く。

一緒に城で働こう。ここで一緒に暮らそう」


「ありがとう……ブルー……愛してる……」


「俺も……愛してるよ、ラピス」



―・―*―・―



 その後、ブルーは、兄であるゴルディ王太子の補佐として、公務と執務に励みながら、医師としての研究も進め、論文を完成させた。

しかしそれでも、成人の儀には、まだ早いと言われ、医司長の元でも働き始めた。




 ラピスの方は、初任時に五階級も上から軍人生活が始まり、『双青輝の片割れ』として活躍を続けていた。



―・―*―・―



 卒業から五年後、スオウは転任先の中隊長に挨拶すべく、扉を叩いた。


『はい。どうぞ』


 この声……やはり!


「失礼致します」


「久しぶりだな、スオウ」


「やはり、そうでしたか。カムルス少尉」


「畏まらないでくれ。恥ずかしい」


「同期で星付きなんて、やっぱり別格ですよ」


「言うな。運が良いだけだ」


「ブルーは? 結婚は?」


「連絡は取っていないが、おそらく元気だ」


「はあっ!? どうして!?」


「ブルーが大人になるまで、私は待つのみだ」


「って、一体どのくらい……」


「さぁな。今は、これがブルーだ」


 ラピスは左耳を指した。

そこには、二人の鱗と同じ、瑠璃色に煌めく石の耳飾りが揺れていた。


 その耳飾りは、卒業式の翌朝、ブルーが着けてくれた物だった。

飾りの有る指輪では戦闘の邪魔になるだろうと、耳飾りにしてくれた婚約の証だった。


 不思議な石……

 この石から、常にブルーを感じる……。


 対の耳飾りは、ブルーが着けている。

ラピスには伝えていなかったが、その石はブルーが術を施した物で、もしもの時に助けに行く為の竜宝だった。



「幸せそうで何よりです」


「まぁ、心配無用だ」


警報が鳴り響く。


「出撃だ!」



―・―*―・―



 麒麟国近くの空は、巨大な魔獣と、それを囲む魔物の群れで、黒々としていた。

ラピスの指示で展開した兵士達は、一体の魔獣を囲み、攻撃を始めた。

ラピスは、少し離れ、放射状に青炎を拡げ、魔物の群れを一撃毎に減していった。


不意に、一体の魔獣が光に包まれ、塵と化した。


 水竜!? ブルーなのか!?


別の魔獣が、水竜に食われた。


ラピスは、急いで青い煌めきへと飛んだ。


「ブルー!? 何故、ここに!?」


「通りすがりだ。

こいつらは火だ。ラピスは下がってろ!」


「問題無い。炎を水に変えるだけだ」


「そこまで出来るようになったか。

流石、ラピスだな。ならば、共に!」



 離れていた時など微塵も感じさせず、双青輝は活き活きと舞うように戦った。

最後の魔獣は、黄金に輝く竜と共に、止めを刺した。


「噂に聞く『双青輝』とは、二人の事か?」

黄金竜が、ブルーとラピスに言った。

二人が、照れながら頷く。


「ブルー、離れているのは勿体無い事だ。

補佐として、近くに置いたらどうだ?」


黄金竜を見詰めるラピスの後ろで、ブルーが口に指を立て、慌てふためいている。


「もしや、貴方様は、ゴルディ王太子殿下ではございませんか!?」

ラピスが、驚きを露に宙で跪き、頭を下げた。

そして『ブルーも早く』と、下から睨み促す。


「畏まらなくていい。

ブルーは、私の専属医であり、護衛だ。

双青輝が揃ってくれるならば心強い。

共に、どうだろうか?」


二人から喜びが溢れ出す。


「はっ! 有り難き御言葉、謹みまして――」


 その時、少し離れた空に、新たな魔獣が現れた。

黒々とした巨大な塊が十数体。

咆哮を上げ、瞬く間に散開する。


「三型鳥翼! 展開前進!」


 整列していた兵士達が、ラピスの声で再び展開し、攻撃を始めた。

三人も、急ぎ向かった。


「今度は水だぞ! ブルー!」


「問題無い。俺は光も出せる」


「特殊ときたか。流石、ブルーだな。

だが、私も、今度は雷に変える」


「やはり、ラピスは凄い」


 鮮やかに舞い、瑠璃色の鱗を美しく煌めかせ、双青輝は、次々と魔獣を撃破していった。


「あれは!」ラピスが離れて行った。


「ラピス! 何処へ!?」ブルーが追う。



 ラピスが向かう先には、魔獣に睨まれ、立ち竦む若い兵士達がいた。


「初陣で突っ込むなどと!」

ラピスが、魔獣の背に斬り込んだ。


「後ろ!!」アオが蒼牙を放った。


蒼牙が盾となり、別の魔獣が放った闇黒の激流を止めた。


若い兵士達を、ラピスが下方に突き飛ばす。

「全力で逃げろ!!」

ラピスの怒号で、兵士達は慌てて逃げ出した。



 ブルーは逃げる兵士達を背に庇い降下した。


「こっちに!」


「ありがとう、彼らを頼む!」踵を返し上昇。


「隊長を!」


「勿論!」



 そうしている間に、新たな魔獣が群れを成して現れ、ラピスが囲まれた。


「ああっ!!」「ラピス!?」


 魔獣の群れが漆黒の壁のように、ブルーの行く手を遮っている。

その、立ち塞がる魔獣達の向こうで、ラピスの悲鳴が宙を斬り裂いた。


朱牙(ラピスの剣)が弾け飛び、続く闇黒の波動に呑まれ、砕け散った。


ブルーは、ラピスを囲む魔獣達を、光の波動で粉砕し、突進した。


「蒼牙!! ラピスを護れ!!!」

手に戻った蒼牙を、再び、光に乗せ放った。


 眼前を遮る魔獣の壁を消し去り、やっとブルーの目にラピスの姿が見えた、その時、他の魔獣が放った漆黒の波動が、鋭い槍と化し、蒼牙を撃ち抜き砕いて、ラピスを背から貫いた。


「ラピス!!!」

ブルーの怒りの咆哮が、全ての音を飲込む。

一瞬で拡がった閃光が、全ての色を純白の輝きに変える。



――全ての魔獣を呑み込んだ閃光が消え、空の色が戻る。


「ラピス! すぐ治す! 少しの我慢だ!!」


 ブルーがラピスを抱き締めていた。

その持てる気を全開にし、治癒の輝きを注ぐ。


ラピスの背の大きな傷が癒えていく。


ブルーの青い輝きが増していき、二人をひとつの煌めきに変える。

その姿は見えなくなったが、声だけが聞こえていた。


「死ぬな! やっと一緒に居られるんだ。

これからなんだぞ! ラピス!!」


「しくじったな……私とした事が……」


「今は喋るな。後で、ゆっくり聞く。

後でな……だから……俺を置いて逝くな!! ラピス!!!」


「共に戦えて……幸せだったぞ……」


「言うな……そんな事……」


「ありがとう……ブルー……」


「必ず治す! だからっ!」


「可愛い女と……幸せになれよ……ブルー……」


「ラピス!? 逝くな!! ラピス!!!」



 ブルーが発する光が、更に眩しさを増していく。

ブルーの咆哮が、長く、長く、轟く――。




 唐突に静寂が訪れた。

ラピスを抱くブルーの姿は、そこには無かった。





青「あの時、若い兵達を託したのが

  スオウだったとは……驚いたよ」


蘇「防具を着けていたからな」


青「全て聞かれていたんだね……」


蘇「とにかく眩しくて。何も見えないから、

  耳に集中していたよ」


青「こっちは必死だったってのに」


蘇「伝わってたけど、どうにもならないし、

  天界と地下界が入れ換わる事が有っても、

  アオが班長を死なせるなんて有り得ないと

  信じていたからな」


青「そうか……そう見えていたんだ……」


司「卒業の際にお渡しになられたのが、

  その耳飾りなのですか?」


青「いえ、これは婚約の際に。

  卒業の時には何も渡していませんよ。

  告白すら出来なかったんですから」


司「では、このお屋敷での場面は――」


青「無い無い! ありませんよ」あははっ。


蘇「でも、二人で消えただろ?」


青「あれは、ルリが『試練の山』に挑戦したい

  って言うから、その手続きをしに行った

  だけだよ」


司「『試練の山』とは?」


青「俺達兄弟が今、赴いている『人界の任』の

  為の資格試験なんです。

  ルリが人界でも双青輝したいって言うから。

  ただ、ルリには義務赴任が有ったし、

  俺も成さないといけない事が有ったから、

  十年後で予約したんです」


司「それが五年後に――」


青「そうですね。ですが、今は地上と地下界で

  双青輝していますよ」にこにこ。


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