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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
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双青輝伝説7

 確かに、作中のスオウは格好良い。

というか……格好つけ過ぎ?


「待って! ラピス!」


ラピスが背を向けたまま立ち止まった。


「すまない、勝手に――」


「何故、謝るのだ?」


「ラピスに先に話すべき事なのに、俺の勝手な想いで、まるで決定事項のように――」


「ならば聞く――いや、ここでは目立つ。

ブルーの部屋に行ってもよいか?」


返事を待たず、ラピスは歩き始めた。



―・―*―・―



「本当に、すまなかった!」

自室に入るなり、ブルーは深く頭を下げた。


「それは、もう……。

それより、本当にブルーは、それでよいのか?

私なんぞでよいのか?」


「ラピスでなければっ!

俺には、ラピスしか考えられないんだ。

ラピスには、俺なんて子供(ガキ)だろうけど……」


子供(ガキ)だなどと……私にとって、ブルーは誰よりも頼もしい男だ。

だが、こんな出来損ないの女(もど)きなど、ブルーには相応しくない。

ブルーならば、もっと女らしい――」


「女が欲しい訳ではない!!」


「しかし――」


「ラピスと一緒に生きたいんだ。

ラピスでなければならないんだよ。

好きなんだ。どうしようもなく……。

でも、ラピスに好きな人がいるのなら……それなら仕方ない」


「いると思うのか? 私なんぞに。

『女』は捨てたと言った筈だ」


「いないのなら、待っていて欲しい。

俺が、ちゃんと大人の男になるまで」


「ブルーこそ、全てに秀で、その容姿で、どうして相手がいないのだ?

何故、私なのだ?」


「たぶん……ラピスに出会うため」


「えっ……」


「運命なんてものが有るのなら、ラピスが運命の(ヒト)だから」


真っ直ぐ見詰める赤褐色の瞳に射竦められ、ラピスは言葉を失った。


「ラピスには、そうは感じてもらえないだろうけど、俺には、そうとしか思えないから」


今度は、はにかみ、俯く姿に愛しさが込み上げる。


 無理だ……最早、自分の気持ちに抗えぬ!


「ブルー、もう一度だけ聞く。

本当に、私でよいのか?」声が震えた。


「ラピス、生涯、共に――いや、永遠に、俺と一緒に生きてください」


ラピスの瞳から、ずっと堪えていた涙が溢れ、零れ落ちた。


「ブルー……」

言葉は続けられなかった。


「受けてもらえた、と思っていい?」


ラピスが、しっかり頷いた。


ブルーがラピスを抱き締め、髪を撫でた。

「ありがとう、ラピス。

待たせてしまうけど、必ず幸せにするから」


 暫く、そうして髪を撫で続けていると――


「私の方が、かなり歳上だぞ」

ブルーの胸に顔を(うず)めたまま、ラピスが呟いた。


「たかだか百程度、千年も経てば、どうでもよくなるよ」

優しい声が降る。


「百!? そんなに歳下なのかっ!?」


「……八十五(八人歳)


「八……」


「やっぱり子供(ガキ)だと思ったよね……」


「……私の半分にも満たないのか!?」


ラピスが思わず顔を上げると、()かさずブルーは口付けを落とした。


「んっ……」


『有無など言わせるものか!』ブルーは、そう言っている、とラピスは思った。


 そうだな。中身は大人だ。

 頼れる男だ……。


そう伝えたくて、ラピスは求められるが儘に、ブルーに応えた。



―・―*―・―



「ラピス、そろそろ宿舎の門限だよ」


目を開けると、赤褐色の瞳が心配そうに覗き込んでいた。


「あ……すまぬ。眠ってしまって……」


「可愛い寝顔が見られたからいい」くすっ♪


「か……」頬に熱が集まる。


「ずっと寝不足だったんだろ?

今夜は、ちゃんと眠れそう?」


「ああ。これまでの分、しっかり眠れそうだ」


「良かった。女性宿舎の門まで送るよ」


「いや、ここで。目立つのは、やはりな」


「そうだね。じゃあ、また明日」


「うむ。また――」

立ち上がり、背を向けた時、肩をつつかれた。

「ん?」


ちゅっ。「んっ!?」「おやすみ♪」


「え……あ……」真っ赤になって廊下へ!


扉にもたれ、目を閉じてブルーの気を感じた。

「おやすみ……なさい……」


『うん、おやすみ♪ ラピス♪』


ラピスが駆け出そうとした時、警報が鳴り響いた。



―・―*―・―



 いつものように背中合わせを基点に、攻撃を続ける。

違うのは、剣が対になった事。

それ以上に、互いの絆が強く確かなものになった事だった。

二人は背を合わす度に幸せを感じ、離れても、互いの気を感じられる事に、また幸せを感じていた。


 ラピスの成長は著しい。

 追い越されないように、俺も努力しないと!


―◦―


 ブルーの力、やはり、とてつもなく大きい。

 早く追い付きたい!


「ラピス!」

ブルーの波動が、ラピスの頭上に迫っていた魔物を消し去った。


「ブルー!」

ブルーの背後に現れた魔物が、青炎に包まれる。


「ありがとう!」「私の方こそ!」


 二つの青い光が、煌めきの尾を引き、舞うように飛び交い続ける。




「そろそろ、班員達を――あれは!」


 ラピスの視界の隅に、兵士の背後に迫る魔物が見えた。

サッと向き、青炎を放つ!


背後の青炎に気付いた兵士が、ラピスの方を向き、

「感謝す――貴様、女か!?

でしゃばりおって!!」


「何をっ――」

「それが助けて貰った者の言葉かっ!!

先ずは感謝だろ!! 性別に何があると――」


「ブルー、もういい。行くぞ」「だが!」


「いいから! まだ敵が残っているのだぞ!」


 護ろうとしてくれるのは嬉しいが、

 軍で、その態度は……

 正義感で命を落とし兼ねないぞ、ブルー。


 そういう所は、私がブルーを

 護らねばならぬな。



「さっきの、やはり気にしているんだろ?

気が乱れているぞ」

次に背を合わせた時、ブルーが早口に言った。


「いや、そんな事は無い」


「少し下がろう」


ブルーがラピスの腕を引いた時、魔物が放った障気が飛んで来た。


ブルーは、ラピスの腕を強く引き、自分の後ろに下げ、盾となった。

「ブルー!!」


ブルーは平然と蒼牙で障気を弾いた。

「驚く程の事か?」にこっ。


「いや……そうだな」


「やっぱり変だぞ。下がろう」離脱した。



 ブルーはサッと森に降り、ラピスを抱き締めた。


「どうしようもない事を言われるのは嫌だよな。

悔しくて仕方ないよな」


「慣れている。大丈夫だ」苦笑を浮かべる。


「ラピスは最強の兵士で、最高の女性だよ」

頬を染めたラピスの顎を指で掬い、口付けた。


 ラピスは、ブルーから温かい気が流れ込むのを感じ取っていた。

そして、包まれている幸福感で、ざわめく気持ちが静まっていった。


顔を離し、微笑み合う。


「ありがとう、ブルー。戻ろう」


ブルーはラピスと額を合わせ、その瞳をじっと見て、微笑んだ。

「よし! 戻ろう!」



―・―*―・―



 引率していた教官が、整列した修練生達の前に立つ。

「皆、ご苦労であった。

本日の午前は睡眠時間とする。

以上、解散!」


「はいっ!」


 明け方まで戦闘が続いた為、その日の鍛練は休みとなり、戦闘の興奮が未だ冷めやらぬ班員達は、騒ぎながら散って行った。


班員達を見送り、ブルーとラピスが動こうとした時、

「第一班長、副長」

二人は、飛んで来た教頭に呼び止められた。


「「はい!」」二人、教頭の前に並んで敬礼。


「来客である。第一応接室へ」


「「はい!」」


「粗相の無いように」


「「はいっ!」」




 二人は第一応接室へと並んで歩いた。


「第一など入るどころか、近付く事すら無かったのだが……誰が来ているのだろうな」


「うん……」嫌な予感しかないな……。


「ブルーでも緊張するのか?」


「ん? 緊張ではないけど……何方だろうな」


「話すのは、ブルーに任せるぞ」


「いや、そこは班長(ラピス)だろ」


「いや、男が話した方が良い。軍だからな」


「だから、性別が何なんだよ」


(ここ)は、そういう所だからな」


「だから――あ……着いてしまったな」


「ああ……」


 ラピスは扉の数歩手前で立ち止まったが、ブルーは躊躇なく扉を叩いた。





司「軍人学校では、中級からの入学で、

  ハク王太子殿下と共に進まれたのですね?」


青「はい。中級、上級と共に。

  兄が班長、俺は副長でした」


蘇「その強さで、ずっと副長?」


青「兄には敵わないよ」


司「その後、休学していますよね?」


青「はい。旧・王族会の件がありましたので。

  復学した時というのが、この物語の

  始まりでしたよね?」


蘇「まさか本当にアオが解体したのか?

  代表として名を貸しただけかと思っていたよ」


青「実行したよ。しっかり調べて、納得して

  頂いた上で解散して頂いたよ。

  でも……誤解されているよね。きっと」


蘇「『氷王子』の事か?

  だからこそ、アオ王子と副長(アオ)

  結びつかなかったんだがな」


記「その件について私は調査したのですが、

  旧・王族会の方々は、皆様、文句など全く

  無いと、より幸福な生活が出来ていると

  口を揃えて仰っておりました。

  アオ殿下には感謝しか無い、と」


司「その調査結果は世に出たのですか?」


記「いいえ。ですので、この機会に、

  如何でしょうか?」


司「編集長が頷いていますね」


青「あの……大変、有難いのですが、

  穏やかに過ごされていらっしゃる方々に、

  波風だけは立てないよう、お願い致します」


記「それはもう。再調査し、了解を得た上で

  進めさせて頂きます」


青「ありがとうございます。

  俺ひとりの為ではなく、旧・王族会の方々

  の為に、よろしくお願い致します」


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