双青輝伝説7
確かに、作中のスオウは格好良い。
というか……格好つけ過ぎ?
「待って! ラピス!」
ラピスが背を向けたまま立ち止まった。
「すまない、勝手に――」
「何故、謝るのだ?」
「ラピスに先に話すべき事なのに、俺の勝手な想いで、まるで決定事項のように――」
「ならば聞く――いや、ここでは目立つ。
ブルーの部屋に行ってもよいか?」
返事を待たず、ラピスは歩き始めた。
―・―*―・―
「本当に、すまなかった!」
自室に入るなり、ブルーは深く頭を下げた。
「それは、もう……。
それより、本当にブルーは、それでよいのか?
私なんぞでよいのか?」
「ラピスでなければっ!
俺には、ラピスしか考えられないんだ。
ラピスには、俺なんて子供だろうけど……」
「子供だなどと……私にとって、ブルーは誰よりも頼もしい男だ。
だが、こんな出来損ないの女擬きなど、ブルーには相応しくない。
ブルーならば、もっと女らしい――」
「女が欲しい訳ではない!!」
「しかし――」
「ラピスと一緒に生きたいんだ。
ラピスでなければならないんだよ。
好きなんだ。どうしようもなく……。
でも、ラピスに好きな人がいるのなら……それなら仕方ない」
「いると思うのか? 私なんぞに。
『女』は捨てたと言った筈だ」
「いないのなら、待っていて欲しい。
俺が、ちゃんと大人の男になるまで」
「ブルーこそ、全てに秀で、その容姿で、どうして相手がいないのだ?
何故、私なのだ?」
「たぶん……ラピスに出会うため」
「えっ……」
「運命なんてものが有るのなら、ラピスが運命の女だから」
真っ直ぐ見詰める赤褐色の瞳に射竦められ、ラピスは言葉を失った。
「ラピスには、そうは感じてもらえないだろうけど、俺には、そうとしか思えないから」
今度は、はにかみ、俯く姿に愛しさが込み上げる。
無理だ……最早、自分の気持ちに抗えぬ!
「ブルー、もう一度だけ聞く。
本当に、私でよいのか?」声が震えた。
「ラピス、生涯、共に――いや、永遠に、俺と一緒に生きてください」
ラピスの瞳から、ずっと堪えていた涙が溢れ、零れ落ちた。
「ブルー……」
言葉は続けられなかった。
「受けてもらえた、と思っていい?」
ラピスが、しっかり頷いた。
ブルーがラピスを抱き締め、髪を撫でた。
「ありがとう、ラピス。
待たせてしまうけど、必ず幸せにするから」
暫く、そうして髪を撫で続けていると――
「私の方が、かなり歳上だぞ」
ブルーの胸に顔を埋めたまま、ラピスが呟いた。
「たかだか百程度、千年も経てば、どうでもよくなるよ」
優しい声が降る。
「百!? そんなに歳下なのかっ!?」
「……八十五」
「八……」
「やっぱり子供だと思ったよね……」
「……私の半分にも満たないのか!?」
ラピスが思わず顔を上げると、空かさずブルーは口付けを落とした。
「んっ……」
『有無など言わせるものか!』ブルーは、そう言っている、とラピスは思った。
そうだな。中身は大人だ。
頼れる男だ……。
そう伝えたくて、ラピスは求められるが儘に、ブルーに応えた。
―・―*―・―
「ラピス、そろそろ宿舎の門限だよ」
目を開けると、赤褐色の瞳が心配そうに覗き込んでいた。
「あ……すまぬ。眠ってしまって……」
「可愛い寝顔が見られたからいい」くすっ♪
「か……」頬に熱が集まる。
「ずっと寝不足だったんだろ?
今夜は、ちゃんと眠れそう?」
「ああ。これまでの分、しっかり眠れそうだ」
「良かった。女性宿舎の門まで送るよ」
「いや、ここで。目立つのは、やはりな」
「そうだね。じゃあ、また明日」
「うむ。また――」
立ち上がり、背を向けた時、肩をつつかれた。
「ん?」
ちゅっ。「んっ!?」「おやすみ♪」
「え……あ……」真っ赤になって廊下へ!
扉にもたれ、目を閉じてブルーの気を感じた。
「おやすみ……なさい……」
『うん、おやすみ♪ ラピス♪』
ラピスが駆け出そうとした時、警報が鳴り響いた。
―・―*―・―
いつものように背中合わせを基点に、攻撃を続ける。
違うのは、剣が対になった事。
それ以上に、互いの絆が強く確かなものになった事だった。
二人は背を合わす度に幸せを感じ、離れても、互いの気を感じられる事に、また幸せを感じていた。
ラピスの成長は著しい。
追い越されないように、俺も努力しないと!
―◦―
ブルーの力、やはり、とてつもなく大きい。
早く追い付きたい!
「ラピス!」
ブルーの波動が、ラピスの頭上に迫っていた魔物を消し去った。
「ブルー!」
ブルーの背後に現れた魔物が、青炎に包まれる。
「ありがとう!」「私の方こそ!」
二つの青い光が、煌めきの尾を引き、舞うように飛び交い続ける。
「そろそろ、班員達を――あれは!」
ラピスの視界の隅に、兵士の背後に迫る魔物が見えた。
サッと向き、青炎を放つ!
背後の青炎に気付いた兵士が、ラピスの方を向き、
「感謝す――貴様、女か!?
でしゃばりおって!!」
「何をっ――」
「それが助けて貰った者の言葉かっ!!
先ずは感謝だろ!! 性別に何があると――」
「ブルー、もういい。行くぞ」「だが!」
「いいから! まだ敵が残っているのだぞ!」
護ろうとしてくれるのは嬉しいが、
軍で、その態度は……
正義感で命を落とし兼ねないぞ、ブルー。
そういう所は、私がブルーを
護らねばならぬな。
「さっきの、やはり気にしているんだろ?
気が乱れているぞ」
次に背を合わせた時、ブルーが早口に言った。
「いや、そんな事は無い」
「少し下がろう」
ブルーがラピスの腕を引いた時、魔物が放った障気が飛んで来た。
ブルーは、ラピスの腕を強く引き、自分の後ろに下げ、盾となった。
「ブルー!!」
ブルーは平然と蒼牙で障気を弾いた。
「驚く程の事か?」にこっ。
「いや……そうだな」
「やっぱり変だぞ。下がろう」離脱した。
ブルーはサッと森に降り、ラピスを抱き締めた。
「どうしようもない事を言われるのは嫌だよな。
悔しくて仕方ないよな」
「慣れている。大丈夫だ」苦笑を浮かべる。
「ラピスは最強の兵士で、最高の女性だよ」
頬を染めたラピスの顎を指で掬い、口付けた。
ラピスは、ブルーから温かい気が流れ込むのを感じ取っていた。
そして、包まれている幸福感で、ざわめく気持ちが静まっていった。
顔を離し、微笑み合う。
「ありがとう、ブルー。戻ろう」
ブルーはラピスと額を合わせ、その瞳をじっと見て、微笑んだ。
「よし! 戻ろう!」
―・―*―・―
引率していた教官が、整列した修練生達の前に立つ。
「皆、ご苦労であった。
本日の午前は睡眠時間とする。
以上、解散!」
「はいっ!」
明け方まで戦闘が続いた為、その日の鍛練は休みとなり、戦闘の興奮が未だ冷めやらぬ班員達は、騒ぎながら散って行った。
班員達を見送り、ブルーとラピスが動こうとした時、
「第一班長、副長」
二人は、飛んで来た教頭に呼び止められた。
「「はい!」」二人、教頭の前に並んで敬礼。
「来客である。第一応接室へ」
「「はい!」」
「粗相の無いように」
「「はいっ!」」
二人は第一応接室へと並んで歩いた。
「第一など入るどころか、近付く事すら無かったのだが……誰が来ているのだろうな」
「うん……」嫌な予感しかないな……。
「ブルーでも緊張するのか?」
「ん? 緊張ではないけど……何方だろうな」
「話すのは、ブルーに任せるぞ」
「いや、そこは班長だろ」
「いや、男が話した方が良い。軍だからな」
「だから、性別が何なんだよ」
「軍は、そういう所だからな」
「だから――あ……着いてしまったな」
「ああ……」
ラピスは扉の数歩手前で立ち止まったが、ブルーは躊躇なく扉を叩いた。
司「軍人学校では、中級からの入学で、
ハク王太子殿下と共に進まれたのですね?」
青「はい。中級、上級と共に。
兄が班長、俺は副長でした」
蘇「その強さで、ずっと副長?」
青「兄には敵わないよ」
司「その後、休学していますよね?」
青「はい。旧・王族会の件がありましたので。
復学した時というのが、この物語の
始まりでしたよね?」
蘇「まさか本当にアオが解体したのか?
代表として名を貸しただけかと思っていたよ」
青「実行したよ。しっかり調べて、納得して
頂いた上で解散して頂いたよ。
でも……誤解されているよね。きっと」
蘇「『氷王子』の事か?
だからこそ、アオ王子と副長が
結びつかなかったんだがな」
記「その件について私は調査したのですが、
旧・王族会の方々は、皆様、文句など全く
無いと、より幸福な生活が出来ていると
口を揃えて仰っておりました。
アオ殿下には感謝しか無い、と」
司「その調査結果は世に出たのですか?」
記「いいえ。ですので、この機会に、
如何でしょうか?」
司「編集長が頷いていますね」
青「あの……大変、有難いのですが、
穏やかに過ごされていらっしゃる方々に、
波風だけは立てないよう、お願い致します」
記「それはもう。再調査し、了解を得た上で
進めさせて頂きます」
青「ありがとうございます。
俺ひとりの為ではなく、旧・王族会の方々
の為に、よろしくお願い致します」




