双青輝伝説5
実際のアオとルリがどうだったのかは、
第三章『大陸編』の『双青輝』1~5を
ご参照ください。
「ブルー、今日も頼む。
ん? また、勉強か?」
「ラピスを待っている間だけだよ。
修練場へ行こう」
二人、並んで修練場に向かう。
「ブルー、もうひとつ頼んでもよいか?」
「いいよ」
「内容も聞かずに返事するな」呆れ顔を向けた。
「ラピスの頼みを断るなんて有り得ないよ」
「そうか……」今度は照れた。
「それで、何?」
「勉強……私も、したくなった」
「軍人学校でも授業は有るよ。
俺でいいのか?」
「ブルーがよいのだ……」ぼそっ。
「ん? まぁ、いいか。
で、何処から?」
「中等は、軍人学校で卒業した。
しかし、あれから随分と経ってしまった……」
「なら、中等の復習からだね。
そうなると、午後を分けないといけないね」
「門限いっぱいまで……頼めるか?」
「そのつもりだよ」
「ならば、修練場が使える時間は技を、その後、門限までは勉強を……よいか?」
「うん。俺は問題無いよ。
軍人学校を卒業するまでに、少なくとも高等卒業資格を取ろうね」
「出来るのか? もう、そんなに期間が……」
「出来るから、俺は既に大学院を出てる」
「あ……」
「だから、その辺の事には詳しくなってしまった。
任せといて」
「では、宜しく頼む!」深く礼っ!
「危ないよ」しっかり腕を掴む。
「あ……」
既に、上空に浮いていた。
ブルーはラピスを支え、微笑んでいる。
「始めよう」
「お願いします!」
「楽にして。気を鎮めて。
こっちで疲れきらないようにね」
ラピスは大きく頷き、目を閉じた。
額と後頭部が温かくなる。
やはり、心地よい。
それに……
ブルーの気を真似るのは楽しくて、
とても幸せだ……。
気の型が変わったな。
一歩前進できたのか!?
嬉しい! ブルーに近付けた!
もっと近付きたい!
心の中に見えるブルーの手に触れたい!
私はブルーと――
私は……何を考えているのだ?
これは、鍛練だ!
ブルーは真剣なのだ!
ブルーに近付かなければ、
相棒ですら居られなくなるのだぞ!
―◦―
いい感じだな。
これなら、無属性技なら出来るかな?
もう少し基礎型をしたら試してみよう。
あれ? 無重が……止めてみるか?
落ちるなら、すぐに発動すればいいんだから。
無重と浮翼という技を維持して、宙に浮いていたブルーは、無重を止めてみた。
確かに浮いているな。
ラピスが発動しているんだな。
つまり、無属性技なら、もう出来るんだ。
流石だな。嬉しくて仕方ないよ!
相棒は、ラピスの他には考えられない!
ずっと一緒に……居てくれるだろうか……?
教えられる事が無くなってしまったら――
見放されないように頑張らないと!
この幸せは手放せないからな!
「ラピス」声が掠れてしまった。
囁かれたと思ったラピスの気が乱れ、落ち始める。
「あっ!」
ブルーが無重を発動し、留まった。
「驚かせて、すまない。
今、落ちたのは、ラピスの気が乱れたから。
ラピスが無重を発動していたんだよ」
「えっ……?」
「俺の気を真似ていて、維持していた無重も真似ていたんだよ。
無意識に、同時にね。
やっぱり、ラピスは凄いよ」
「本当に!?」
思わずラピスが目を開けると、額を合わせていたブルーの瞳が、睫毛が触れそうな程の近くに有った。
微笑んでいた赤褐色の瞳が、驚き見開かれ、慌てて離れた。
あ……離れないで! 嫌っ!
ブルーの腕を咄嗟に掴んだ。「あっ……」
顔を逸らしていたブルーが、掴まれている腕を見た。
「目を開けてしまって、すまぬ。
続けてく……ださい」
ブルーが己が手を見詰めている事に気付いたラピスは、頬が染まり、つい俯いたのを、頭を下げたかのように誤魔化した。
―・―*―・―
夕刻には、ラピスは自分の意思で無重を発動できるようになっていた。
「明日は、浮翼と同時に発動して、自分で浮けるように頑張ろうね」
ラピスは紅の瞳を夕陽に煌めかせ、大きく頷いた。
「宜しくお願いします!」
とんでもなく可愛いっ!
笑顔、眩し過ぎだって!
「だ、だからっ! 畏まらないでくれっ」
「そうか? 礼儀だと思うが……」
逸らしたブルーの顔を覗き込もうとすると、ブルーはラピスの背後に逃げた。
夕陽の照り返しか?
顔が赤かったが……。
私の言葉に照れたのなら可愛いよな♪
時々見せる可愛いさも堪らない!
抱き締めたくな――
いやいや、それは、昨日やらかして、
嫌がられたではないか。
ブルーは子供扱いを嫌っているのだからな。
しかし…………触れたい…………
出来る事なら、ブルーに包まれたい……
ブルーとなら、私は――
だからっ! 私! 真面目に――
え……今度は凛々しい。
だが、どうしたのだ?
―◦―
赤面した顔を見られまいとラピスの背後に逃れたブルーだったが、ラピスが無言のまま動かないので、そっと様子を伺ってみた。
ラピスは、くるくると表情を変えながら、もの思いに耽っているようだった。
やっぱり可愛い! 可愛過ぎるよ!
どうしたら子供から男になれるんだ?
どうしたらラピスに相応しい男に――
その表情もいいな♪
うん。それもいい♪
ひとり占めしたい!
ラピスと、ずっと一緒に居たい!
ラピスが振り向いてくれるように……
まずは、もっと強くなろう!
あ……こっち向いてた……。
「ブルー」「ラピス」同時。
「「あ、何?」」揃った。
「「いや……」」また揃った。
「「…………」」互いに、相手の言葉を待った。
修練場の自由使用時間の終了を告げる鐘が鳴った。
二人は呪縛から解き放たれたように微笑み合った。
「次は勉強だね」
「引き続き、頼む」
「もちろん♪」降下した。
二人は、夕食の時間も惜しむように掻き込み、ブルーの部屋に行った。
「そうだ! 少し待ってて」
ブルーが出て行き、ひとり残されたラピスは、ブルーの本棚を眺めた。
難しそうな分厚い本ばかりだな……
医学書ばかりなのだろうか……?
背表紙を指でなぞる。
えっ? ブルー……ああ、これは王子か。
あの王子も医者なのか……
王子も本を出すのだな……。
ラピスは、ブルー王子の著書を取り出してみた。
表紙すらも読めぬ。
捲ってみたが、全く読めそうにはなかった。
しかし、何故だろう……?
持っていると落ち着く……?
同じ名だからか?
それだけで心に変化が及ぶ程、
私は、ブルーに惹かれてしまったのか――
「お待たせ」
ブルーが戻った。
手には大きめの箱を二つ抱えている。
「それは?」
「中等、高等の教科書だよ」降ろして開けた。
「何処から、持って来たのだ?」
「家から」中を探る。
「近いのか?」
「王都だよ」
「は? けっこうな距離だぞ」
「豪速でね。
はい、これ。ここから始めよう」
「そこに積んだ本は?」
「持って帰って読んでね」
「ふむ。この本も借りてよいか?」
「医師を目指すのか?」
「いや、よく眠れそうだからな」
「そういう事なら、最適な本だよ」
そうして、優しくも厳しいブルーの講義が始まった。
―・―*―・―
「今日は、ここまで。
なぁ、ラピス、大学も視野に入れないか?」
「そんな時間が有るのか?
それに、金なんぞ無いぞ」
「選択の幅は狭くなるけど、軍事大学なら、ラピスだったら実技で優待生だよ。
それなら、授業料は必要無い。
試験の成績で免除になるからね」
「成績次第なのだろ?」
「心配無いよ。俺が付いてる。
軍人学校を卒業するまでに、ある程度の単位を取得しておけば、あとは任地で、通信で卒業できるよ。
ラピスは軍幹部になるんだから、大学は出ておいた方がいい」
「そうか……私でも大学に行けるのか……。
私は……何もかも諦めていた。
ありがとう、ブルー!」抱きついた。
ブルーは、嬉しさが圧倒的だが、色々な感情が絡み合って押し寄せ、戸惑いながらも、そっとラピスの肩に手を添えた。
「ブルーは……私の光だ……」
感極まったラピスの涙を胸に受け止め、肩に添えただけだった手を、優しく包み込むように、その背に回した。
蘇「本当に仲が良いんだな……」
青「そうでなかったら婚約なんてしないよ。
ね、ルリ」
瑠「う、うむ……」
蘇「でも、よく班長も王室に入ろうなんて
決心できましたね」
青「ルリは元々王族だからね」
蘇「えええっ!?」
青「俺も面識は無かったんだけど、ちゃんと
個紋が有るんだよ」
司「エレドラグーナ家の方でしたよね?」
青「はい」にっこりにこにこ♪
蘇「マジかよ……」
青「それはそうと、『無重』と『浮翼って?』」
蘇「アオから豪速って技を教えてもらって
技ってものを知ったから、作ったんだ。
よく人姿で浮いてたから、そんな技も
有るんだろうな、と思ってね」
青「うん。技だけど……その名に変えようかな。
そっちの方がいいよね」
瑠(本当は、どうしていたのだ?)
青(ヒスイの翼で飛んでいたよ。サクラが
孵化するまでは、俺の背に有ったんだ)
瑠(では、神の翼で飛べると知っていたのか?)
青(ヒスイの翼は本物じゃない。それに、
不思議な力をいろいろと持っていたんだ。
きっとガーネ様が込めたんだろうね)
青「ああ、そうだ。
頭に氷なんか乗せていなかったって
ちゃんと言ってもらわないとね」
蘇「そうだった……すみません。
ちょっと可愛げが欲しかったから……」
瑠「確かに、可愛げの欠片も無い子供
だったからな♪」ふふっ♪
青「ルリ~」




