双青輝伝説2
フジが人界語訳するに至った経緯は、
『双青輝伝説』を読んで気に入ったリリスが
他の婚約者達にも広め、姫にも読ませたくなった
からです。
リリスはアメシスがルリの父とは知らず、
アメシスにも読ませていましたね。
その夜、ラピスは自室の窓から月を見ていた。
昇ったばかりの、欠け始めた紅い月が、ブルーの赤褐色の瞳を連想させた。
あの瞳……何故、私の心を鷲掴みにするのだ?
視線は自然とブルーの部屋の窓へと――
あ……まさか……こちらを見ていたのか?
目が合ったブルーが手を振っている。
慌てて、窓を閉めようとしていた振りをし、軽く手を挙げるだけにした。
窓を閉め、遮光布を引く。
隙間から、そっと覗いてみると、また勉強しているらしく、俯く横顔が見えた。
偶然……だろうな……
見ていてくれたなど、有り得ぬよな。
文武兼備か……凛々しい横顔だ……。
ラピスは、じっとブルーを見続けた。
―◦―
ブルーは医学書を読んでいたが、再び視線を感じ、横目で窓を見た。
ラピスの部屋の窓には遮光布が引かれていたが、ひと筋の光が漏れていた。
クスッと笑って、ブルーは視線を医学書に戻した。
手を振ったり、顔を向けたりしたら、
隠れてしまうだろうな。
なら、このままの方がいいな。
明日は、何で手合わせしようかな……
弓の勝負をやり直してもいいかな♪
ブルーは、心が浮き立つ想いを楽しみつつ、読書を続けた。
そんな二人の静かな時を、警報が切り裂いた。
『第一から第三班に要請!
直ちに修練場に集合!』
響き渡る警報に弾かれるように、ブルーとラピスも修練場に向かった。
教官に率いられ、修練生達が飛び立つ。
第一班長と副長は、教官の直ぐ後ろに並ぶ。
飛びながら、二人は視線を交え、頷き合った。
魔物の気が、遠くの空を埋め尽くしていた。
王都へと向かっているらしい群れが接近している。
その一団が気付いたのか修練生達へと転換し、速さを増して向かって来た。
前を飛ぶ教官が手で制止し、振り返った。
「第一班は、翼型にて、この場を保持!
班長、副長、無理は禁物だ」
「はいっ!」揃って敬礼。
教官は、残りの班を率いて降下した。
ラピスの指示で翼型を執る。
「まだ、突っ込むなよ!」
班員に指示し、背を向けると、ブルーは剣に気を込め、迫り来る魔物に向かって大きく振った。
剣から、煌めきと共に水竜が放たれ、魔物を呑み込んでいく。
続けざまに剣を振り、水竜を放つ。
青く輝く水竜達は、煌めきの尾を引き、次から次へと魔物を包み、滅していった。
「術も使えるのか!?」
班員を整列させ終えたラピスが、寄って来た。
「まぁ、こっちの方が得意かな」
「帰ったら教えろ!」
「ああ。皆が突っ込む前に終わらせよう」
「そうだな。行くぞ!」
二人は班員達を留め、敵中に飛んだ。
ブルーが放った波動が、海原を拡げるように煌めき、二人に迫る魔物を包み、塵と化す。
水竜と波動を逃れた魔物に、後続の魔物が加わり、接近戦となる。
剣を手にしたブルーと、槍を構えたラピスが、背中合わせを基点に斬りかかる!
二人が、舞うように飛び交う、青い軌跡が、美しく煌めいていた。
「双青輝だ……」
スオウの呟きに、班員達が頷いた。
魔物が退却し始めた。
「そこの二人! 深追い無用だ!」
将校が寄って来た。
「貴様等、所属は?」
「特級修練生、第一班長、ラピス=カムルスです」
「同じく、副長、ブルー=メルングです」
「修練生だと!?」
そこに、将軍が来た。
将校が敬礼する。
「二人は修練生でした!」
「そうか。勲章は、修練場にて受けよ。
諸君らの今後の活躍に期待する。
応えられるよう、命を大切にな」
「はっ!」二人、ピシッと揃って敬礼した。
修練場に帰還し、解散となった。
「ブルー、明日、教えてくれ。
私は、もっと強くなりたいのだ」
「俺も、もっと強くなりたい。
一緒に、高め合おう」
ガシッと手を組み、頷き合った。
―・―*―・―
翌日の午後――
「昨夜の水竜は、何なのだ?」
「あれは召喚水竜、属性技だよ」
「技? 術ではないのか?」
「似たようなものだけど、属性依存のものが技、属性には依らず、気を高め、唱えて発動するのが術なんだよ」
「私にも放てるのか?」
「ラピスなら大丈夫だよ。
まずは、気を高める練習からだ。
何かを巻き込まないように、宙でやろう」
二人は竜体になり、修練場の上空に浮いた。
「基底を引き上げるから、じっとしてて」
「ふむ」
「目を閉じていて」
「はぁ?」
「何?」
「いや……」目を閉じる。
ラピスは額に、ぬくもりを感じた。
温かくて心地よいな……
だが、何をしているのだろう……?
瞼の向こうに光を感じ、薄目を開けてみる。
額には、ブルーの掌が有り、それが光を帯びているらしい。
ブルーが、クスッと笑った。
「目を開けていいよ。気になるよね?」
「いや……そんな事は……」
「俺を信じて。悪戯なんてしないから」
「疑ってなど……」
いや、むしろ……してくれれば……
っ!? 私は何を考えて――
「どうしたの? 動揺が伝わるんだけど。
しっかり開くから、不安がらないで」
「不安など……」
心臓が落ち着かぬ……どうすれば……?
「やっぱり、こんな子供じゃダメかな。
まぁ、普通、不安だよね」
「だからっ! そんなのではなく! あ……」
「ん? 何?」
「……何でもない。私自身の問題だ。
ブルーは何も悪くない」
「そう?
でも……気を鎮めるには、どうすればいい?」
「え? ……慣れ……が、必要だろうか……」
「そうか。昨日、会ったばかりだからね。
なら、もう暫く、普通に手合わせしよう」
「ふむ……いや、しかし……」
「俺が無理だから。
なんか……心臓が落ち着かないんだ。
降りよう」降下。
「あ……待っ……」
同じ……なのか? ブルーも?
「ん?」見上げる。
「もう少しだけ……頑張るから……」
「そう?」
眩しい微笑みをラピスに向け、上昇して向かい合った。
ブルーは、ラピスの肩に掌を当てた。
「慣れるまでは、この方がいいよね?」
「うむ……気遣い、ありがとう」
ラピスは、それすらも頬に熱が籠るのに十分だと痛感し、それを隠そうと俯いた。
それにしても、この心地よさは……
まったく、困ったものだな。
ずっと、こうしていたくなる……。
―◦―
ブルーは努めて平静を保ち、ラピスの気を引き出し、高めつつ、属性を確かめていた。
気の力も、とても大きいんだな……
属性は火。補い合うには丁度いい。
先に属性の力を引き出すべきだな。
えっ……? 無意識なのかな?
でも、これは……俺の方が……マズい。
……困ったな。
目を閉じたままのラピスが、ゆっくりと顔を上げた。
少し上を向いた唇が僅かに開き、吐息が漏れる。
まるで、口づけを求めるように――
「ラピス、そろそろ、手合わせしよう」
ブルーの掌が離れた。
あっ……残念?
寂しさなのか? これは一体……?
ラピスが戸惑いながら目を開けると、ブルーは目を逸らし、降下を始めた。
え? 何? ブルーの頬が――
「待てっ」慌てて追った。
一緒に着地し、人姿になる。
ラピスが、不自然に俯いたブルーの顔を覗き込もうとすると、
「今日は、剣で――」
ブルーは、目を合わさず離れて構えた。
剣を合わせ始めれば、ブルーの瞳には闘気の光しか無く、二人は真剣に、且つ、大いに楽しみ、金属音を響かせ続けた。
「一旦、休憩だ」「そうだね」
向かい合い、礼を交わした時、やっと二人は、周囲で鍛練していた者達が、それを止め、遠巻きに見ていた事に気付いた。
スオウが寄って来る。
「凄まじいな。
班長の強さは嫌という程、知っていたが、副長も、昨日のなんかは手加減していたんだな」
「名前でいいよ。こんな子供なんだから」
「いや、歳なんか関係ない。敬服するよ。
班長、手合わせの相手が出来て良かったですね」
「そうだな。初めて本気になれた」
「二人は姉弟ではないか、と噂が立っているが――」
「「違う!」」揃った。
「よっぽど気が合うんだな。
昨夜の戦闘を見ていて思ったよ。
二人は組むべきだ」
それまで、ヘラヘラしていたスオウが、真顔になった。
「竜体の班長は小柄だから、副長とは、然程の違いも無い。
鱗色も、そっくり――いや、最早、同じだな。
まるで、分身の術だ。
もしくは、物凄く素早い、ひとりだな。
先程のように、同じ武器を持てば、誰にも区別がつかないだろうな」
顔を見合せていた二人から、喜びが溢れ出る。
「ありがとう! スオウ!」
揃って、スオウの方を向き、言った。
そして、
「もう一度だ、ブルー」
「もちろんだ、ラピス」
嬉々として飛んで行った。
「おいおい……戦バカなのか? あの二人は……」
呆れて肩を竦めるスオウだった。
司「あのぅ……カベミミとは?」
青「『壁耳』は竜宝でね。
小さくて竜耳型をしているんだ。
右耳が集音、左耳が放音なんだよ」
瑠「では、スオウは右耳をアオの部屋に
置いていたのか?」
青「それでも記憶力は凄いよね。
部屋の外での会話も正確なんだから」
蘇「それはもう、必死で記録していたよ」
青「どうしてそこまで?
俺が王子だとは気付いていなかったよね?」
蘇「それは全く気付かなかったよ。
必死になっていたのは、副長の地位を奪還
したかったからだよ。
でも、それもすぐに諦めたんだ」
瑠「まさか、本の通りなのか?」
蘇「そうなんだ……あのまま、くっつかない
なんて、とんでもないって思ったし、
とにかく、もどかしくて……いや、
それ以上に、気になって仕方なくて」
青「そこまで思ってくれていたなんて……」
瑠「それで、部屋まで引っ越したのか?」
青「え? 元々は隣ではなかったのか?」
蘇「隣が班員だったから頼んだんだ。
……アオの強さに惚れ込んでしまったから」
青「男に告白されてもね……」
瑠「素直に喜べ、アオ」ふふふふっ♪
青「素直に困っているんだけど」
瑠「王子としては性別問わず好かれた方が
良いだろう」
青「確かに、ね……」




