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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
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双青輝伝説2

 フジが人界語訳するに至った経緯は、

『双青輝伝説』を読んで気に入ったリリスが

他の婚約者達にも広め、姫にも読ませたくなった

からです。

リリスはアメシスがルリの父とは知らず、

アメシスにも読ませていましたね。


 その夜、ラピスは自室の窓から月を見ていた。

昇ったばかりの、欠け始めた紅い月が、ブルーの赤褐色の瞳を連想させた。


 あの瞳……何故、私の心を鷲掴みにするのだ?


視線は自然とブルーの部屋の窓へと――


 あ……まさか……こちらを見ていたのか?


目が合ったブルーが手を振っている。


慌てて、窓を閉めようとしていた振りをし、軽く手を挙げるだけにした。


窓を閉め、遮光布を引く。

隙間から、そっと覗いてみると、また勉強しているらしく、俯く横顔が見えた。


 偶然……だろうな……

 見ていてくれたなど、有り得ぬよな。


 文武兼備か……凛々しい横顔だ……。


ラピスは、じっとブルーを見続けた。


―◦―


 ブルーは医学書を読んでいたが、再び視線を感じ、横目で窓を見た。

ラピスの部屋の窓には遮光布が引かれていたが、ひと筋の光が漏れていた。


クスッと笑って、ブルーは視線を医学書に戻した。


 手を振ったり、顔を向けたりしたら、

 隠れてしまうだろうな。

 なら、このままの方がいいな。


 明日は、何で手合わせしようかな……

 弓の勝負をやり直してもいいかな♪


ブルーは、心が浮き立つ想いを楽しみつつ、読書を続けた。




 そんな二人の静かな時を、警報が切り裂いた。


『第一から第三班に要請!

直ちに修練場に集合!』


響き渡る警報に弾かれるように、ブルーとラピスも修練場に向かった。



 教官に率いられ、修練生達が飛び立つ。

第一班長と副長は、教官の直ぐ後ろに並ぶ。

飛びながら、二人は視線を交え、頷き合った。




 魔物の気が、遠くの空を埋め尽くしていた。

王都へと向かっているらしい群れが接近している。

その一団が気付いたのか修練生達へと転換し、速さを増して向かって来た。

前を飛ぶ教官が手で制止し、振り返った。


「第一班は、翼型にて、この場を保持!

班長、副長、無理は禁物だ」


「はいっ!」揃って敬礼。


教官は、残りの班を率いて降下した。


ラピスの指示で翼型を執る。


「まだ、突っ込むなよ!」

班員に指示し、背を向けると、ブルーは剣に気を込め、迫り来る魔物に向かって大きく振った。


剣から、煌めきと共に水竜が放たれ、魔物を呑み込んでいく。


続けざまに剣を振り、水竜を放つ。

青く輝く水竜達は、煌めきの尾を引き、次から次へと魔物を包み、滅していった。


「術も使えるのか!?」

班員を整列させ終えたラピスが、寄って来た。


「まぁ、こっちの方が得意かな」


「帰ったら教えろ!」


「ああ。皆が突っ込む前に終わらせよう」


「そうだな。行くぞ!」


二人は班員達を留め、敵中に飛んだ。



 ブルーが放った波動が、海原を拡げるように煌めき、二人に迫る魔物を包み、塵と化す。


水竜と波動を逃れた魔物に、後続の魔物が加わり、接近戦となる。

剣を手にしたブルーと、槍を構えたラピスが、背中合わせを基点に斬りかかる!


二人が、舞うように飛び交う、青い軌跡が、美しく煌めいていた。


双青輝(ソウセイキ)だ……」

スオウの呟きに、班員達が頷いた。




 魔物が退却し始めた。


「そこの二人! 深追い無用だ!」

将校が寄って来た。

「貴様等、所属は?」


「特級修練生、第一班長、ラピス=カムルスです」

「同じく、副長、ブルー=メルングです」


「修練生だと!?」


そこに、将軍が来た。


将校が敬礼する。

「二人は修練生でした!」


「そうか。勲章は、修練場にて受けよ。

諸君らの今後の活躍に期待する。

応えられるよう、命を大切にな」


「はっ!」二人、ピシッと揃って敬礼した。




 修練場に帰還し、解散となった。


「ブルー、明日、教えてくれ。

私は、もっと強くなりたいのだ」


「俺も、もっと強くなりたい。

一緒に、高め合おう」


ガシッと手を組み、頷き合った。



―・―*―・―



 翌日の午後――


「昨夜の水竜は、何なのだ?」


「あれは召喚水竜、属性技だよ」


「技? 術ではないのか?」


「似たようなものだけど、属性依存のものが技、属性には依らず、気を高め、唱えて発動するのが術なんだよ」


「私にも放てるのか?」


「ラピスなら大丈夫だよ。

まずは、気を高める練習からだ。

何かを巻き込まないように、宙でやろう」


二人は竜体になり、修練場の上空に浮いた。


「基底を引き上げるから、じっとしてて」


「ふむ」


「目を閉じていて」


「はぁ?」


「何?」


「いや……」目を閉じる。


ラピスは額に、ぬくもりを感じた。


 温かくて心地よいな……

 だが、何をしているのだろう……?


瞼の向こうに光を感じ、薄目を開けてみる。


額には、ブルーの掌が有り、それが光を帯びているらしい。


ブルーが、クスッと笑った。

「目を開けていいよ。気になるよね?」


「いや……そんな事は……」


「俺を信じて。悪戯なんてしないから」


「疑ってなど……」


 いや、むしろ……してくれれば……


 っ!? 私は何を考えて――


「どうしたの? 動揺が伝わるんだけど。

しっかり開くから、不安がらないで」


「不安など……」


 心臓が落ち着かぬ……どうすれば……?


「やっぱり、こんな子供(ガキ)じゃダメかな。

まぁ、普通、不安だよね」


「だからっ! そんなのではなく! あ……」


「ん? 何?」


「……何でもない。私自身の問題だ。

ブルーは何も悪くない」


「そう?

でも……気を鎮めるには、どうすればいい?」


「え? ……慣れ……が、必要だろうか……」


「そうか。昨日、会ったばかりだからね。

なら、もう暫く、普通に手合わせしよう」


「ふむ……いや、しかし……」


「俺が無理だから。

なんか……心臓が落ち着かないんだ。

降りよう」降下。


「あ……待っ……」

 同じ……なのか? ブルーも?


「ん?」見上げる。


「もう少しだけ……頑張るから……」


「そう?」

眩しい微笑みをラピスに向け、上昇して向かい合った。


ブルーは、ラピスの肩に掌を当てた。

「慣れるまでは、この方がいいよね?」


「うむ……気遣い、ありがとう」

ラピスは、それすらも頬に熱が籠るのに十分だと痛感し、それを隠そうと俯いた。


 それにしても、この心地よさは……

 まったく、困ったものだな。

 ずっと、こうしていたくなる……。


―◦―


 ブルーは努めて平静を保ち、ラピスの気を引き出し、高めつつ、属性を確かめていた。


 気の力も、とても大きいんだな……

 属性は火。補い合うには丁度いい。

 先に属性の力を引き出すべきだな。


 えっ……? 無意識なのかな?

 でも、これは……俺の方が……マズい。

 ……困ったな。


 目を閉じたままのラピスが、ゆっくりと顔を上げた。

少し上を向いた唇が僅かに開き、吐息が漏れる。


まるで、口づけを求めるように――


「ラピス、そろそろ、手合わせしよう」


ブルーの掌が離れた。


 あっ……残念?

 寂しさなのか? これは一体……?


ラピスが戸惑いながら目を開けると、ブルーは目を逸らし、降下を始めた。


 え? 何? ブルーの頬が――


「待てっ」慌てて追った。



 一緒に着地し、人姿になる。

ラピスが、不自然に俯いたブルーの顔を覗き込もうとすると、

「今日は、剣で――」

ブルーは、目を合わさず離れて構えた。


 剣を合わせ始めれば、ブルーの瞳には闘気の光しか無く、二人は真剣に、且つ、大いに楽しみ、金属音を響かせ続けた。


「一旦、休憩だ」「そうだね」


 向かい合い、礼を交わした時、やっと二人は、周囲で鍛練していた者達が、それを止め、遠巻きに見ていた事に気付いた。


スオウが寄って来る。

「凄まじいな。

班長の強さは嫌という程、知っていたが、副長も、昨日のなんかは手加減していたんだな」


「名前でいいよ。こんな子供(ガキ)なんだから」


「いや、歳なんか関係ない。敬服するよ。

班長、手合わせの相手が出来て良かったですね」


「そうだな。初めて本気になれた」


「二人は姉弟ではないか、と噂が立っているが――」


「「違う!」」揃った。


「よっぽど気が合うんだな。

昨夜の戦闘を見ていて思ったよ。

二人は組むべきだ」


それまで、ヘラヘラしていたスオウが、真顔になった。


「竜体の班長は小柄だから、副長とは、然程の違いも無い。

鱗色も、そっくり――いや、最早、同じだな。

まるで、分身の術だ。

もしくは、物凄く素早い、ひとりだな。

先程のように、同じ武器を持てば、誰にも区別がつかないだろうな」


顔を見合せていた二人から、喜びが溢れ出る。

「ありがとう! スオウ!」

揃って、スオウの方を向き、言った。


そして、

「もう一度だ、ブルー」

「もちろんだ、ラピス」

嬉々として飛んで行った。



「おいおい……戦バカなのか? あの二人は……」

呆れて肩を竦めるスオウだった。





司「あのぅ……カベミミとは?」


青「『壁耳』は竜宝でね。

  小さくて竜耳型をしているんだ。

  右耳が集音、左耳が放音なんだよ」


瑠「では、スオウは右耳をアオの部屋に

  置いていたのか?」


青「それでも記憶力は凄いよね。

  部屋の外での会話も正確なんだから」


蘇「それはもう、必死で記録していたよ」


青「どうしてそこまで?

  俺が王子だとは気付いていなかったよね?」


蘇「それは全く気付かなかったよ。

  必死になっていたのは、副長の地位を奪還

  したかったからだよ。

  でも、それもすぐに諦めたんだ」


瑠「まさか、本の通りなのか?」


蘇「そうなんだ……あのまま、くっつかない

  なんて、とんでもないって思ったし、

  とにかく、もどかしくて……いや、

  それ以上に、気になって仕方なくて」


青「そこまで思ってくれていたなんて……」


瑠「それで、部屋まで引っ越したのか?」


青「え? 元々は隣ではなかったのか?」


蘇「隣が班員だったから頼んだんだ。

  ……アオの強さに惚れ込んでしまったから」


青「男に告白されてもね……」


瑠「素直に喜べ、アオ」ふふふふっ♪


青「素直に困っているんだけど」


瑠「王子としては性別問わず好かれた方が

  良いだろう」


青「確かに、ね……」


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