旅立ち3-姫
アオは陰陽師二人と共に、僧侶を探す為、
国境を越えようとしています。
アオと二人の陰陽師は、東の国から中の国に向かい国境の山脈を登り始めた。
三人は身のこなしも軽やかに、険しい山を駆け登り、出会う修行僧達に、魔物を見ていないか尋ねたが、どの僧も見てはいなかった。
魔物は山から来たのではなかったのか……?
そう思いながら辺りをよく見ると、周りの木々に御札が貼られていた。
次に出会った修行僧に聞くと、その御札は僧侶・慎玄が、旅立つ前に貼ったものらしかった。
「結界かもしれませんね」と陰陽師達。
だとすれば、修行僧達が魔物に出逢わないのも当然か。
なら、道を外れた方がいいかな――
思案しつつ走っていると、次第に高い木々が減り、少し上には残雪が有り、稜線が近いことが判った。
稜線に着くと、中の国が見渡せた。
「目指す山は正面、最も高い山が竜ヶ峰です。
山深い大滝とは、おそらく竜ヶ峰の大滝でしょう。
城下は右手、微かに見えています。
山の向こうに広がる黄色い土地が西の国です」
扇子で差しながら陰陽師が言う。
正面の山々は、国境のとは違い、一連ではなく、一塊になっていた。
中央の山・竜ヶ峰が一際高く、その周りを徐々に低い山々が囲んで、城下近くまで広がっている。
陰陽師は振り返り、
「海まで見えますね。あれが東の国の都です」
左方向の海辺を差した。
父様……お爺様、お婆様、さようなら……。
陰陽師達の呟きは、風に乗って消えた。
三人、竜ヶ峰の方に向き直る。
「下ると、すぐに町がある筈ですが、このまま走りますか?」
扇子が左下方を差す。
「お二人共、大丈夫ですか?」
一応そう聞いたが、聞くまでもなく二人の陰陽師は息すら乱れてはいなかった。
「では、参りましょう。ここは冷えます」
笑いながら陰陽師達は下り始めた。
周囲から残雪が消え、木々が高くなり、やがて鬱蒼と繁り、
傾斜が緩やかになり――
もうすぐ下りきるか、と思った時、
「その方ら! ワラワを助けよ!」
女の叫び声が聞こえた。
声の主を探していると――
ザザザザザッ! と、盛大に木の葉を舞わせて女が落ちてきた。
「ぁぃたたたたた~」
尻を撫でながら立ち上がった。
「大丈夫で――」
「魔物に追われておる! 構えよ!」
――大丈夫そうだ。
っ!! 魔物だと!?
再び木の葉が舞い、魔物の群れが降ってきた!
三人は女を囲んで背で庇い、身構えた。
「ワラワもっ♪」剣を構え前に出る。
一人で平気だったのでは?
そう思える鮮やかな剣捌きの女を加え、四人で、あっという間に魔物を蹴散らした。
「助太刀、感謝いたす」ぺこり。
「姫様は、これから どちらへ?」にっこり。
「何故、姫とっ!?」
「気品が溢れております故」にこっ。
絶対ウソだろっ!
「さよぅか~、わかってしまうか~♪」
満更でもなさそうだ。
「バレては仕方ないのぅ♪
如何にも。ワラワは中の国の姫じゃ♪
婿探し……あ、ぃや……武者修行に出たのじゃが、父上が病と聞き及んでのぅ。
急ぎ、城に戻る途中なのじゃ」
「一国の姫様が武者修行に?」
思わず聞いてしまった。
「次代を担うには、男に負けぬ強さが必要じゃからのぅ♪」えへん
だったら、もう十分お強いです。
お転婆姫様は先に立ち、弾みながら進んでいたので、このまま距離を置いて、こちらは こちらの道を行こうか、などと考えていると傾斜が無くなっていた。
話しているうちに山を下りきったのか……。
森を抜けると、家々の瓦屋根が夕陽に照らされていた。
「今日は、この町で休みましょう」
陰陽師二人に向かって言った。
「宿まで案内するぞ♪」
姫が先に立って意気揚々と歩き出す。
まぁ……今日くらいはいいか……。
そう思ってしまったのが間違いだったと判るのは、翌朝であった。
♯♯♯♯♯♯
そして、翌朝――
「皆の者♪ 城に急ぐぞ♪」
は?
いやいや、そんな遠回りは御遠慮いたします。
竜ヶ峰に向かい、歩きだそうと――
ガシッ! 襟首を掴まれた。
「何をしておるのじゃ。
城は、此方じゃ。 しかと、ついて参れ」
後ろ向きのまま引っ張られる。
「ちょっ……お待ちください、姫様!」
「なんじゃ?」
「何故、同行することに!?
いつの間に、なったんですか!?」
「何故も何も一夜を共にしたのじゃ、当然じゃろ?」
変な言い方をするなっ!
「不服そぅじゃな~。
魔物は全滅しておらぬじゃろ?」
まぁ……そうだろうね。
「ならば、城までの護衛は決定じゃ♪」
だから、何故そうなるっ!?
陰陽師達に助けを求めようと二人を見ると、愉しげに、くすくす笑っていた。
「アオ殿、城に送り届けるだけでしたら、よろしいのではありませんか?」
陰陽師達は笑い続けている。
「ほれ見よ。決まりじゃろ? 急ぐぞ♪」
こうして、城まで走ることになった。
♯♯♯♯♯♯
途中、一度だけ魔物に襲われたが、応戦していると――
将らしき竜の如き魔物が、陰陽師達に向かって
「その術……人では無いようだな……だが、お前らには用は無い!」
そう言って姿を眩ました。
誰かを探している?
この姫様ではないのか?
「アオ、如何したのじゃ? 置いて行くぞ」
置いてってください。
「早ぅせよ。ワラワは急いでおるのじゃ」
ですから、どうぞ行ってください。
「仕方のないヤツじゃ」むんず。
「何するんですかっ!?」襟首を離せ!
「殿に会わせねばならぬからの♪」
「嫌ですよ!」
「問答無用じゃ♪」ふふん♪ ふんふん♪
そんなやりとりを続け、城下へ――
陰陽師達は、くすくす笑いながら二人に付いて駆けて行った。
現在の舞台は、大きな島です。
西、中、東の三国が在ります。
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┃ 西の国 │ 中の国 △ 東の国 ┃
┃ │ △ ┃
┃ │ △◎城下△ 都 ┃
┃ │ △△ △ ◎ ┃
┃ ◎都∴ │△●洞窟 △ ┃
┃。 ∴∴∴│△▲竜ヶ峰 △ 。町 ┃
┃港町∴∴∴│△〇湖 。△。 ┃
┃∴∴。廃墟│。△△ 町△寺 ┃
┃∴西の砂漠│村 △。 ┃
┃∴∴∴∴∴│ △十左の村 ┃
┃ ∴∴∴∴│ 海賊の砦。△ ┃
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凜「アオ、修行僧の山道どこ?」
青「東の国の、寺と町の間だよ」
?「竜ヶ峰は、人界でイッチバン高いんだよ~♪」
凜「まだ、出て来ちゃダメでしょ」
?「俺が描いた地図なのにぃ~」むぅ。