竜の血族-慎玄と孔雀
オマケその①です。
第四章では殆ど登場しなかった僧侶・慎玄と、
赤虎工房に住む匠神で、慎玄の絆神・孔雀の
お話です。
「慎玄殿、孔雀様……」
深魔界で警護していた慎玄と孔雀の前に、アオが現れた。
「アオ殿、如何なされましたか?」
「ずっと気になっていたんですが……」
「私が、足手纏いと知りながらも、お供を続けている理由で御座いますか?」
「足手纏いなど、感じた事もありません。
しかし、この危険な場にいらっしゃる理由は、伺いたい事に絡んではおります。
慎玄殿も、何方かをお探しなのではありませんか?
ご兄弟――その方も僧侶なのではありませんか?」
「……やはり、お気付きで御座いましたか……」
「姫が、旅の僧から禁忌の術技を教えられたと話した時の、慎玄殿の驚き様が、ずっと気になっていたんです。
その、純慎という僧は、慎玄殿とよく似た方なのではありませんか?」
「……はい。おそらく、弟で御座います」
「では、仁佳の皇族方々を救出した際に、魔物達が間違えたのも――」
「そうなので御座いましょう。
依代とされている……そう考えております」
「やはり……そうでしたか……。
あの城に、まだ囚われているんですね……」
彼方に見える闇神城を見詰めた。
「私は、弟とは会った事が御座いません。
各々、生まれて直ぐに違う寺に預けられたと聞きました。
その話も、まだ幼かった私が、『誰かが呼ぶ声がする』と言い続けていた為で御座いまして、住職が根負けして、お話しくださったので御座います。
ようやく私が修行の為という名目で、寺の外に出られた時には、弟は既に行方知れずとなっておりました。
忽然と姿を消してしまったそうで、魔物に拐われたのではないか、と……。
それ故、私は弟を探すべく、更なる修行に励み、己が身を護る事が出来ねば話にならぬと思い、修験の山に入ったので御座います」
「そして、竜ヶ峰に、ですか?」
「はい。仏と竜神の山で修行すれば、魔物に立ち向かえる力が得られると思ったので御座います。
僧としては、甚だ不徳では御座いますが……」
【何も不徳などではございませんよ】
「孔雀様、慎玄殿には、まだ力が眠っていると思うのですが、如何ですか?」
【そうですね……それも、ご覧になられたのですか?】
「神様の御力が全て見えるわけではありませんが、確かに、何らかの強い力が見えるんです。
孔雀様……慎玄殿の御先祖様ですよね?」
【私如き中堅の神では、大神様に隠し事は出来ませんね】
「俺は、ただの天竜ですよ。
そう思ったのも、ただの勘です。
その勘で、もうひとつ……孔雀様は、元々神竜の血族ではありませんか?」
【そこまで……観念致します。
私の母、デマントは神竜でした。
父は人神で、私は父の元で育ちました。
母の事を知ったのは、一度目の覚醒後で……。
そして、仏が居なければ三度目の覚醒が叶わず、仏には成れないと知ったのは、更に、二度目の覚醒後だったのです】
「それで、生まれ直して竜の神に?」
【はい。一度でも人神として覚醒してしまえば、竜の神への転身も叶わぬとも、その時に知ったのです。
そんな私を憐れに思ったのか、息子が仏を探すと天界を出てしまいました。
息子とも、その時を限りに会っておりません。
一万年程は修行を続け、待っておりましたが、闇の神に滅されたという噂を耳にし、私も息子を探す為、人界から地下へと進みました。
しかし、見つけられないどころか、私自身が標的となってしまったのです。
力無くば即ち滅される、それを痛感し、やむなく人神と成る事を断念し、母の血を生かし、竜の神と成る事を目指したのです。
私もまた、ひとり息子を滅された事に対する思いから神を目指したようなもの……。
神としては、その資格の無い者だとは思います。
しかしまさか、息子に人との御縁があろうとは思いもよらず……金虎様から、間違いなく子孫だと伺った時には本当に驚きました】
「それで絆神に?」
【はい。私は戦神では御座いませんが、同調が良いからと、最高神様より御言葉を頂きましたので】
「慎玄殿に至るまでに天竜も、魔竜も入っていますよね?」
【はい。慎玄と絆を結びました瞬間より、純慎の声が聞こえるようになりましたので、これこそ同調、と思いまして、もしも双子ならば、同腹や多胎を起こし易い竜の血が成した事ではないかと辿ってみたのです。
『竜の血は、竜を呼ぶ』迷信だとも言われておりますが、神界では、よく言われております。
その通りに、幾度も竜が現れるのです】
「つまり、神の御力だけでなく、天魔両竜の力も、まだ眠っていますよね?」
【はい。しかし私如きでは、開く事 能わず……大神アオ様、御力をお貸し頂けますか?】
「ただの竜には、そんな力なんてありませんので、ちゃんと大神様方にお願いしていますよ」
【などと、まだ言っているのか? アオ】
【まぁまぁ、ゴルチル様。
これもアオの良い所ではありませんか?】
【そうよ、お祖父様♪】
【カルサイはともかく、ドルマイもアオには甘いのだな……】
【それはそうと始めないのか?】
【あ……コバルトが真面な事を――】
【もう呪は無い! ったく!
オッサンに移ったんじゃないのか?】
【ゴルチル様、コバルト、準備は出来ておりますよ】
【お父様、さっさと囲んでくださいね】
【皆して――】【はいはい♪】【セレンテ!】
【アオ、また怒鳴られるぞ】「あ……」
アオの先祖神達が魔法円を囲んだ。
【慎玄、中央へ。
私と向かい合ってください。
孔雀様、慎玄の真後ろに】
「アオ兄~♪」【やっと来たか】「何コレ?」
【アオとサクラは左右ですよ】「またぁ?」
カルサイの指示で皆が位置に着いた。
【慎玄、貴方の力は、純慎との同調の影響で、奥深くに封じられた状態になっております。
少々手荒くなりますが、堪えてください】
「心得致します。よろしくお願い致します」合掌。
【強い力が必要です。
囲みの方々、よろしくお願い致します】
唱術が始まった。
見慣れた解呪とは異なる色の光を、綺麗だなどと思う余裕は無く、アオもサクラも、次々と流れてくる術の文言と指示に、遅れをとらぬようにするだけで必死だった。
慎玄の内から、光と稲妻が迸った!
波紋のように浄化の清らかな光が拡がる。
幾重にも……幾重にも……光が地下魔界を満たしていった。
【成功です】カルサイが微笑んだ。
大神達から安堵が、ため息となって漏れた。
アオとサクラは笛を構え、微笑むと、神の回復薬を奏で始めた。
神々は、その魂を癒しの音色に委ねた。
♯♯♯
「慎玄殿、孔雀様」
回復した大神達が神界に帰り、サクラも警護に戻った後、アオはもう一度、呼び掛けた。
「純慎殿を助けに行きましょうね。翠仏様も」
【えっ……私は『息子』としか申していない筈……】
「そうでしたか?」くすっ♪
【では……生きて……】
「勘ですが。
それに、あの城ではありませんが……でも、見つかりますよ。近いうちに、必ず」
♯♯♯
そして、アオも持ち場に戻った。
「孔雀様、アオ殿が言うのならば、確かなる事で御座います。
軽々しくは口を開かない方で御座いますので」
【ありがとうございます。
何やら……心が洗われた心地です。
希望を抱いて進む事が出来ます】
「私も、同じ心地で御座います。
純慎にも聞こえる筈と、語りかけております」
【では、私も翠仏に語りかけましょう】
「慎玄様ぁ~、孔雀様ぁ~」
「ああ、仕掛人殿がお見えになりましたね」
【そういう事でしたか】ふふっ♪
「凄い光で御座いましたねぇ」にこにこ♪
「ありがとうございます、爽蛇殿」にっこり。
【私からも、お礼申し上げます】にこっ♪
「えっ? ええっ!?
何の事で御座いましょう???」わたわたっ。
「爽蛇殿も風蛇殿の事、良う御座いましたね」
「あ……では、慎玄様も――あっ!
先程の光は! ああ、そうで御座いましたかぁ」
「はい。希望の光が見えたので御座います。
アオ殿にお話しくださり、ありがとうございます」
「いや……そのぉ、口が軽くて……申し訳御座いませんですぅ」ぺこりぺこり。
「いえいえ、アオ殿にならば、解決への近道で御座います」
「ああぁ~、良かったぁ~」へなへなぺたん。
「爽蛇♪ 見~っけ♪ どしたのっ!?」
「お礼を申し上げました迄で御座いますよ」
「そっか~♪ はいコレ♪ 神似鏡♪」
「そ……それは……」
「あれれ? 間違った?」
「いえっ! いえいえっ!
しかし、砕けて消えてしまった筈で……」
「やっと再現できたの~♪ はいっ♪」
「ありがとうございますぅ」ぎゅっ♪
「サクラ殿、その鏡は?」
「爽蛇ん家の家宝なんだ。
ウチの鈴蛇を助けて砕けちゃったの。
だから、作ってもらったの♪」
カ【ひとつ伝え忘れておりました。
おや? サクラ、これはいったい……?】
桜「感激しちゃったの~」
カ【そうですか。良い事ならば、このままで。
慎玄、貴方は光と闇も持っております。
しかし、どちらかは純慎のもの。
純慎を救出した後、それぞれに開きますね。
ですので、それまでは無属性の雷です】
桜「結界抜けるには、その方がいいよね~」
カ【そうですね。ですので先行隊の方で
お願い致しますね】
慎「何から何まで、有り難き事に御座います。
持てる力、全てを尽くします事、
お誓い申し上げます」合掌。
桜「み~んなで行くんだから~、
もっと気楽~に、ねっ♪」
カ【そうですよ。力を合わせればよいのです。
共に頑張りましょう。
孔雀様も、共に、ですよ】
孔【はい! ありがとうございます!】合掌。
桜「カルサイ様、アオ兄から何か貰った?」
カ【お預かりしておりますよ。
慎玄と純慎の属性を開いた後に必要と
なる竜宝です】
桜「やっぱり~♪ アオ兄の匂いした~♪」
カ【そうですか】にこにこ。




