始祖様7-コバルトと呪
風属性の神様は、管楽器も奏でられそうです。
♯♯ 竜宝の国 森の家 ♯♯
アオとコバルトは暗くなるまで笛を吹き続けた。
【今日は、のんびりしているが、いいのか?】
「それなりに成果は有りましたから」にこっ。
【ふぅん……ま、いいか。
ありがとな、アオ】
「そういう所ですよ」【何がだ?】
「皆が気持ち悪いって言う所は」くすっ♪
【言ったなっ】ぷっ、あはははっ♪
二人の笑い声に、芳小竜達の楽しげな鳴き声が重なる。
【お前らまで失礼だなっ♪】
「ちゃんと解って笑っているんですよ♪」
【そこまで親に似るなよなっ♪】
きゅるきゅるきゅきゅるる♪
「あ……」【どうした?】
「そうだ。始祖様の予言めいた、あの言葉……ああいう、まさしく神憑りなのは、神様ならよく有る事なんですか?」
【無い】キッパリ。【有る訳無いだろ】ふんっ。
【アオだって既に神のハシクレだ。
同じ力を持ってるんだから分かるだろ?】
「ですよね……。
なら、どうやって、あの言葉を?」
【お告げだよ。そうとしか思えん。
あれは俺が、あの忌々しい呪に掛かった、その日の事だったが……。
あの日の事は曖昧でなぁ。
ちょっと思い出させろ】笛を構える。
アオも笛を構え、再び奏で始めた。
その日の話はゴルチル様からも伺った。
成ったばかりの神だったゴルチル様と
まだ神竜だった始祖様は、
当時の最高神クンツア様のお付きとして、
前日、襲撃が有った人界に行っていたそうだ。
その場所で、残っている気や闇を
調べていると――
――――――
三神が闇の気配に振り返ると、闇黒色の竜神が闇の波動を放った所だった。
【コバルト! 突っ込むな!】
「コイツは俺が引き付けます!
ゴルチル様は、クンツア様をお連れになってお逃げください!」
【無理だ! コバルト、逃げるんだ!】
「俺は風ですからっ!」
コバルトは闇黒竜神に向かって飛んだ。
闇黒竜神は、続けざまに闇の波動を放ち、素早いコバルトの動きを封じようとしていた。
「だから、今のうちにっ! 早く!!」
コバルトがチラッとゴルチルの方を見た時、その隙を突いて闇黒竜神が闇の塊を放った!
【速いぞ! 逃げろ!】
コバルトが気付いた時には、その闇の塊は眼前に迫っていた。
闇黒竜神も、闇の塊の後から迫っている。
とにかく避けるんだ!
コバルトが身を翻した刹那、光の波動がコバルトを突き飛ばした。
「うわっ!! あっ――」
闇の塊がコバルトを掠め、飛び去る。
ゴルチルが放った二撃目が、その塊を捕らえた。
クンツアが放った光の盾が、丁度コバルトに迫っていた闇黒竜神を捕らえ、その動きを止めた。
コバルトを掠めた闇の塊が消滅する。
コバルトは、見えない何かに縛られているかのように固まり、落ちていった。
【コバルト!!】ゴルチルが追う。
クンツアは、それを目で追い、任せるしかない、と捕らえた闇黒竜神に集中した。
光を放ち、重ねつつ、距離を詰めていく。
闇黒竜神は、光の中で声にならない咆哮を上げ、もがいていたが、やがて、その表面から闇黒色の薄い欠片が、はらはらと剥がれ落ち、その内にあった鱗が露になっていった。
クンツアは試しに浄化の光を重ねてみた。
すると、一気に闇黒色の被膜が消し飛び、神とも神竜の魂とも言えぬ者が現れた。
【お話し出来ますか?】
呆然と漂っている、その魂にクンツアは語り掛けた。
【……はい……あの――】【クンツア様!】
魂が、やっと声を発した時、ゴルチルの叫び声が重なった。
【お助けください! コバルトが――】
コバルトを抱え、急上昇して来た。
【ゴルチル……なのか?】
【えっ……どうして大爺様が?】
【私は何という事を……身内に、このような……】
【クンツア様! 大爺様!
コバルトをお助けください!】
【それは呪……急ぎ解呪しなければ……】
【私が解呪致しましょう。
ゴルチル、手伝いを頼みますよ】
クンツアは宙に魔法円を描いた。
【コバルトを中央に。
ゴルチルは外周、私の真正面に】
クンツアの解呪に依り、コバルトは一命を取り留めた。
コバルトの瞼が動き――ゆっくり目が開いた。
「ゴル――何しやがるんだ!
俺を殺そうったって! そうはいくかよっ!」
鋭く睨み付け、勢いよく起き上がった。
【一時的な混乱でしょう。
命に対しては無害化しましたので、後程、解呪を重ねます】
話の途中で逃げようとするコバルトをゴルチルが掴んだ。
【先ずは、こちらの方を神界にお連れし、解呪と浄化を成さねばなりません】
「やってられっかよ! 俺は帰る!」消えた。
【ゴルチル、コバルトを追ってください】
【はい。申し訳ございません、クンツア様】
ゴルチルはコバルトの気を追った。
が、知っているコバルトの気は見つからなかった。
ゴルチルは手に残るコバルトの痕跡を見た。
まさか、これがコバルトの気なのか?
澄んだ青空のようだったコバルトの気は、今や濁り、淀み、どろどろと渦を巻いていた。
触れようとすれば負の感情が牙を剥く、そんな気を辿って行くと――
「何だよ……これ……俺、死ぬのかよ……クソッ」
コバルトは倒れたまま悪態をついていた。
【しっかりしろ!】
「オッサンの罠だろ……何が、しっかりしろだ……」
【罠だと? お前は――】
【結界が発動しております!
闇をお探し願えますか!?】
結界守が飛んで来た。
【この辺りに闇が有る筈――もしや、この方……】
【お前、闇を付けているのか?】
「知るかよ……んなモン……」気を失った。
【コバルト!】【早く下層へ!】
コバルトを抱え、下層神界に移動した。
【コバルト!】「ん……」光で包む。「んぁ?」
【解呪するから座れ】
「クソッ! 追い出しやがったのか!?」
【先に解呪だ】「放せっ!」【黙れ】
「うっせーっ!」【おとなしくしろ】
相殺で包み、背に魔法円を描き、闇の源を探った。
ここか……いくらでも湧き出ているな……。
背の魔法円を描き直し、地面にも魔法円を描いた。
解呪を唱える。
途端にコバルトは悶絶躄地し、相殺を破り、魔法円から這い出た。
「殺されて……たまるかよっ!!」
【コバルト!】【何が有ったの?】
カルサイとドルマイが飛んで来た。
「親父……お袋……」
【コバルト、大丈夫ですか?】
ルバイルとセレンテも現れた。
「皆で俺を滅する気だな! させっかよ!!」
ぐるっと睨み、コバルトは消えた。
【何が……】
【何を仕出かすか分からぬ! 追ってくれ!】
【あれは……?】
【コバルトで有ってコバルトでは無い!
呪に掛かっているのだ!】
娘夫婦と孫娘夫婦は頷き合い、消えた。
ゴルチルは呪の正体を聞く為に、クンツアの方に向かった。
――――――
結局あの呪は、古の呪に、闇の神が手を加え、
魔王の闇に染め易くする為のものらしかった。
が、それ以上の事は分からず。
その為に、心を縛っていた鎖のような
呪の一部は何方にも見えず、
始祖様は長きに渡って苦しめられていた
のだった。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
【一先ず、これで落ち着くだろう】
ゴルチルを残し、先祖神達は微笑み、消えた。
(あっ! ありがとうございましたっ!!)
【今夜は、しっかり休め。
動くのは明朝からだ。それまでは何もするな】
(オレは……どうなったんですか?)
【神竜が神に成るのとは少し違うが、覚醒したのだ】
(……って?)
【クロの天性の器は、神竜であれば大神と成れる程に巨大だ。しかも強いのだ。
おそらくは、今朝、闇神城に近付いた事で、その器が強大な敵の力を察知し、目覚めたのであろう】
(確かに……どこまでも氷だったのが、だいぶ水になっちまった……けど、まだ弾けてる……)
【暫く続くだろう。だが、緩やかになった筈だ。
新たな力を試すのは明日だ。間違っても使うな】
(はい。でも……どうしてオレなんかに、こんな力が……?)
【クロだけでは無い。七人皆、天竜の限界を遥かに超える力を持っている。
偶然の産物では有るが……ガーネ――ヒスイの父親に感謝するのだな】
(ヒスイ様の欠片を込める為に必要な力だったんですか?)
【ヒスイを込める為の小細工が生んだ副産物だ。
だが、三界を救う大いなる力だ。
折角その身に備わったのだ。役立たせろ】
(そっか……はいっ!)
凜「前回の続きね。天界が球体の一部なら、
地上のどこら辺の上なの?」
青「天界も地下界も異空間に接しているから
捻れが多いんだ。だから一点一点の真下、
真上は判るけど、全体が何処とは
言えないんだよ。
それに天界が球体だと仮定すると、
地上界とは同心球ではないんだ。
天界の仮想球体は、とても大きいんだよ」
凜「はへ?」
青「凜が考えているのは左の感じだろ?
でも実際は天界の球体が大き過ぎて
右みたいな感じなんだよ」
︵ ―
○ ○
青「だから、天界の球心は地上界の球体より
遥か下方になってしまうんだ」
凜「へえぇ~」
青「それで、天界の真下は、殆どが大陸なんだ。
海上は少なくてね、竜ヶ島の真上は
天竜王国で、天界の門は竜ヶ峰の真上だよ」
凜「地下界は?」
青「もっと謎だよ。
天界同様、大きな球体の一部でね、
球心は天界と同じ位置、つまり
天界と地下界の仮想球体は同心球だと
言われているんだよ。
その、ほぼ平面な地下界は、
面積だけで考えたら、地上界から
はみ出てしまうんだ」
凜「でも、ちゃんと収まってるよね?」
青「そうなんだよ。どの地点も
ちゃんと真上は地上界の何処かなんだよ。
その殆どが海か魔竜王国なんだ。
ただし竜ヶ峰の真下は閻魔大王城なんだ」
凜「そういえば、魔竜王国は地上界の
どこにあるの?」
青「異空間の壁のような境界で仕切られて
いるらしくて、人界からは見えないし、
魔竜王国からは人界が見えないんだよ」
凜「でも地上界にあるんでしょ?」
青「それは確かだよ。上には天界が在るし、
下には地下界が在るからね。
そこからの推定では、竜ヶ島の南だと
言われているんだ」
凜「人界の陸地の上には天界が在って、
海と地上魔界の下には地下界が在る。
共通してるのは竜ヶ峰なのね♪」
青「天竜王国の天界の門の真上は、
真神界の最高神殿らしいよ」
凜「やっぱり竜ヶ峰って、神様が集う山
なのね~♪」




