雨後晴3-誤解
落ち込んでいるサクラと、泣いている虹藍――。
この物語らしくないので、ソッコー解決させます!
♯♯ 魔竜王城 ♯♯
ルリが虹藍の部屋の扉を叩き、声を掛けると、慌てた様子で扉が開いた。
「ルリお姉様……」
虹藍はルリの胸に飛び込んで泣き始めた。
「お部屋に入りましょう」
肩を抱いて部屋に入り、扉を閉めると、虹藍は声を上げて泣き崩れた。
ルリもその場に座り、虹藍を抱きしめた。
「昨日の解呪……ですね?」
泣きじゃくりながら頷く。
ルリは少し体を離し、虹藍の両肩に掌を当てた。
「でしたら、何ひとつとして、お泣きになるような事はございません。
昨日のサクラ様は私なのです」
瞳を潤ませたままルリを見上げる。
「魔王が女性兵達に掛けた呪は、如何なる神であっても解く事が出来ない呪だったのです。
それを解く方法は唯ひとつ、望みを叶える事だけなのです。
叶わなければ狂暴化し、死するまで破壊の限りを尽くします。
ですので、呪に掛かった全ての女性兵ひとりひとりの望みを、きちんと叶えなければなりませんでした」
驚きつつ頷く。
「サクラ様が魅力的な事は、虹藍様が一番よく御存知ですよね?」
大きく頷く。
「女性兵達にとりましても、サクラ様は密やかな憧れであり、心の奥底の光なのです。
勿論、正常な彼女達が、そのような事など間違っても望みは致しません。
ささやかな秘めたる想いを魔王に利用されてしまったのです。
しかし、サクラ様も、その事は理解は出来ましても、虹藍様以外の女性とはそのような行為は出来ない、したくはないと仰られましたので、私が代わりにサクラ様の御姿をお借りして、叶える事に徹したのです。
そして解呪が完了した方のうち、もしもそれが現実なら心が傷つく内容であれば、神様が夢と信じさせてくださったのです」
「では、兵達は本当に夢と信じて……。
それでは、サクラ様は解呪の場で何を?」
「裏方を精一杯お務めになられて、さぞかしお疲れになられた事と存じますよ。
御姿を現される訳には参りませんからね」
「ですから、何も、お話しにならず……」
ルリは頷き、
「彼女達の夢を壊す事も出来ませんので、サクラ様は何も語らないと、お決めになられたのでしょう。
サクラ様は虹藍様に一途です。
どうか信じて差し上げてくださいね」
やわらかく微笑んだ。
「はい。あの……アオお兄様も……その……」
「それも全て私です」にっこり。
「ルリお姉様が……?」
「そうしなければ、この世が終わると解っていても、目の前で、そのような事……。
たとえそれがアオ様の複製であっても、おとなしく見ているなど出来ませんので」
「でも……どうなさったら女性のルリお姉様が、アオお兄様やサクラ様に……?」
「そうですね。信じられなくて当然ですね」
ルリは緋月煌を発動し、男姿に変わると、続けて気を高め、髪をサクラの色に変えた。
「この姿で、全て私が叶えさせて頂きました」
サクラの声を真似る。
「その技……ルリお姉様もお出来に……声や髪の色まで自在なのですね……。
ああ……どうしましょう。何も知らずに、私……。
サクラ様は今、どちらに……?」
「天界で神様のお手伝いをなさっています。
さぁ、お迎えに参りましょう」
「はい……」ルリに手を引かれ、立ち上がる。
ルリは虹藍の髪を整えながら尋ねた。
「でも、どうしてこの事が、虹藍様の御耳に?」
「昨夜、遅く帰城されたサクラ様は、何も仰られず、すぐに寝室に入られてしまったのです。
今朝も、何も……それで口論になってしまって……。
サクラ様がお出掛けになられた後、その部隊からは、複数の婚儀や新婚旅行の為の休暇願いが出ていると聞き、あまりに異常ですので、部隊の兵舎に出向き、問い質したのです。
それでも口を開いては頂けませんでしたので、苛立ちのあまり王命として無理矢理……」
「虹藍様のお気持ち、よく解ります。
それと同時に……私も……以前、同じ呪に掛かりましたので、彼女達の今の気持ち――不安や恐怖もよく解ります。
彼女達ひとりひとりと話したいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい。では、先にそちらに……私も謝らなければなりませんので」
意を決し、女王の風格を纏う。
♯♯ 天界 深蒼の祠 ♯♯
【サクラ、気合い入れて探らないと、異空間に引き込まれるぞ!
もう一度だ!】
「始祖様ぁ、カンベンしてよぉ。
ちゃんと神様なんだからぁ、始祖様、できるんでしょ?」
【俺だけで、この数やれって言うのか!?】
「アオ兄は? 呼ぶからぁ」
【煩い! 四の五の言うな! しっかりやれ!】
「酷いよぉ」ぶうぅ~。
コバルトはサクラに近寄り小突き、
【昨日の事は心配するな。
全てルリがした事にしてくれるそうだ】
囁いて離れた。
「全部? 最初から?」【そうだよ】
「もしかして、今――」【ああ。来たぞ】
「えっ……」振り返る。「ラン……」
「ごめんなさいっ!」胸に飛び込んで来た。
「俺も……ごめんね」抱きしめ、髪を撫でる。
【今日はもういい。城に帰れ】
コバルトが優しく言い、置いていた鏡を抱えると、サクラが探っていた鏡も拾い、姿を消した。
――祠内。
サクラと虹藍が曲空したのを見届け、
【この件は、ルリに任せる他は無いだろうな。
ルリが一番あの呪を知っているんだから……】
コバルトがそう呟くと、カルサイが並んだ。
【そうですね。
あの三人は……初代魔王に掛かっているであろう、あの呪をも、本当に解くつもりなのでしょうね】
【当然、そうなんだろうな。
で、解呪出来たとして、その後どうするつもりなんだよ?】
【私の一存では……歴代最高神様方の御沙汰次第ですよ】
【最高神も不便なものだな】
【そうですね……】自嘲の笑みを浮かべる。
【その鏡は、どうするのです?】
【探らなきゃならないのは確かなんだが、闇と光、両方必要らしくて、俺ひとりでは、なかなか進まないんだ】
【では、本当にサクラを必要としていたのですね】
【そうだよ。
サクラをここに留める為の嘘だとでも思っていたのか?】
【思っていましたよ】
【せっかく元に戻ったのに、これなんだからなぁ】
【あのコバルトが長過ぎたのでね】ふふふ♪
【それが親の言う事かよ】
【それに言葉遣いが……なんだか、ほっとしましたけど、どうしたのです?
やはり、そちらの方が馴染んでいて楽なのですか?】
【解呪直後からずっと言われ続けてたが――。
さっきも王子達が、来て騒いでたの見てたんだろ?
サクラの様子がおかしいのを察知したんだろうが、そのついでみたく、皆が調子が狂うだの、気持ち悪いだの言うから、努力し始めたんだよ。
……そうすれば、サクラの元気が戻るだろうからって……】
【そうですね。サクラも喜ぶでしょうね。
ですが、それ以上に、私はコバルトが元気になったように思えて嬉しいですよ】
【そんな言うなら、また『親父』って呼ぼうか?】
【そうしてください】くすくす♪
【なんなんだよ、馬鹿にしてっ!
なら、ゴルチル様も『オッサン』がいいのかよっ!?】
後ろで笑っていたゴルチルを睨む。
【そうだな。その方が落ち着くな】フフッ♪
【解ったよ! 話し方だけは戻してやる!
いや、『戻す』じゃなくて! 努力だっ!
なんでそんな苦労しなきゃならないんだよっ!】ぶつぶつ……。
【御前も実は、その話し方が板に付いているのだろ?】はははっ♪
【呪にそうさせられてただけだっ!
忌々しくて思い出したくもなかったのに……】
【そう怒るな。皆、あのコバルトも嫌ってはいなかったという事だ】ニヤリ。
【私も『お袋』で いいですよ】にっこり♪
【母様まで……】ため息。
【性格ひん曲がったら、どーしてくれるんだよ】ぶつぶつぶつ……。
【どうもせん。それも愛嬌だ】わははっ♪
大神達の楽しげな笑い声が祠に響いた。
♯♯ 天竜王城 ♯♯
ギンに呼ばれたキンとハクが、父の執務室に入ると、両親と王太子妃達が居た。
「号外?」
卓に広げてあったのをハクが手に取る。
それをキンが覗き込んだ。
「昨日の祝列なのだな。
昨日の夕刻の配布なのか……早いな」
「これ……絵じゃねぇな」
「写真っていうそうよ♪」
「千里眼を飛ばしていたらしい。
その映像を印刷したのだそうだ」
「スッゲーな……」マジマジ。
「それとね、こちらも♪」
「これも号外? あ……アオとルリさん……」
「こちらは『双青輝伝説』の作者の方よ♪」
「あの二人は巷の有名人だったんだな♪」
「そっか……これでルリさんは、ちゃんと生きていたって事になったのか……」
「アオが長らく姿を見せなかったのは、生死の境に在ったルリ殿に医師として付いていたからと、しているな」
「上手く纏めたよな~♪
転んでもタダじゃ起きねぇヤツらだなっ♪」
「アオの冷徹そうな印象も、これで払拭出来たな」
「だなっ♪ 好感度 急上昇だよなっ♪」
キンとハクが楽しそうに話しているのを、ギンが嬉しそうに眺めている。
その横では――
「このお話って、どんなのかしら?」
「お読みになりますか?♪」「ええ♪」
「今朝、買ってきて頂いたんです。
お借りして読んでいたんですけど、持っていたくなってしまって♪」
「あら、よろしいの?」
「はい♪ まだお返ししなくてもよろしいようですので。どうぞ♪
ボタン様は? まだでしたら、お借りしている方をお持ちしますよ♪」
「いえ……読みましたわ」
「そうなの!? 素敵なお話でしたよねっ♪」
「え……ええ、そうですわね」
母親が読んでも良ろしいのかしら……?
――と、思い悩むボタンだった。
♯♯♯
その頃、アメシスも号外を読み、ホッと胸を撫で下ろしていた。
ル【コバルト、話し方を戻すのですか?♪】
始【お祖父様まで……】
セ【『ババァ』を許してあげるわ♪】
始【嫌がってたクセにっ!】
セ【だから許してあ・げ・る♪】
始【馬鹿にしやがって……】
セ【でも、どうしてルバイルを『ジジィ』とは
呼ばなかったの?】
始【浄化の外套をくれたから……】
セ【あの濃紺の? そんな力が有ったの?】
ル【あれは青身神様から頂いた竜宝なのですよ。
それで、今度は『ジジィ』にして頂ける
のですか?♪】
始【んな楽しそうに……】
ル【最初は驚きましたけど、すっかりあれが
『コバルト』になってしまいましたからね】
セ【なんだか最近の様子が、元気無く見えて
しまうのよ。だから戻してねっ♪】
始【解ったよっ!!
呼びゃあいいんだろっ!!
呼んでやるよっ! ババァ! ジ……】
ル【コバルト?】
始【やっぱ、爺様は爺様だっ!】
ル【少々残念ですが、では、それで♪】
始【ったく~、皆おかしいぞ】ぶつぶつ……。
 




