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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
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雨後晴3-誤解

 落ち込んでいるサクラと、泣いている虹藍――。

この物語らしくないので、ソッコー解決させます!


♯♯ 魔竜王城 ♯♯


 ルリが虹藍の部屋の扉を叩き、声を掛けると、慌てた様子で扉が開いた。

「ルリお姉様……」


虹藍はルリの胸に飛び込んで泣き始めた。


「お部屋に入りましょう」


肩を抱いて部屋に入り、扉を閉めると、虹藍は声を上げて泣き崩れた。


ルリもその場に座り、虹藍を抱きしめた。


「昨日の解呪……ですね?」


泣きじゃくりながら頷く。


ルリは少し体を離し、虹藍の両肩に掌を当てた。


「でしたら、何ひとつとして、お泣きになるような事はございません。

昨日のサクラ様は私なのです」


瞳を潤ませたままルリを見上げる。


「魔王が女性兵達に掛けた呪は、如何なる神であっても解く事が出来ない呪だったのです。

それを解く方法は唯ひとつ、望みを叶える事だけなのです。

叶わなければ狂暴化し、死するまで破壊の限りを尽くします。

ですので、呪に掛かった全ての女性兵ひとりひとりの望みを、きちんと叶えなければなりませんでした」


驚きつつ頷く。


「サクラ様が魅力的な事は、虹藍様が一番よく御存知ですよね?」


大きく頷く。


「女性兵達にとりましても、サクラ様は密やかな憧れであり、心の奥底の光なのです。

勿論、正常な彼女達が、そのような事など間違っても望みは致しません。

ささやかな秘めたる想いを魔王に利用されてしまったのです。


しかし、サクラ様も、その事は理解は出来ましても、虹藍様以外の女性とはそのような行為は出来ない、したくはないと仰られましたので、私が代わりにサクラ様の御姿をお借りして、叶える事に徹したのです。


そして解呪が完了した方のうち、もしもそれが現実なら心が傷つく内容であれば、神様が夢と信じさせてくださったのです」


「では、兵達は本当に夢と信じて……。

それでは、サクラ様は解呪の場で何を?」


「裏方を精一杯お務めになられて、さぞかしお疲れになられた事と存じますよ。

御姿を現される訳には参りませんからね」


「ですから、何も、お話しにならず……」


ルリは頷き、

「彼女達の夢を壊す事も出来ませんので、サクラ様は何も語らないと、お決めになられたのでしょう。

サクラ様は虹藍様に一途です。

どうか信じて差し上げてくださいね」

やわらかく微笑んだ。


「はい。あの……アオお兄様も……その……」


「それも全て私です」にっこり。


「ルリお姉様が……?」


「そうしなければ、この世が終わると解っていても、目の前で、そのような事……。

たとえそれがアオ様の複製であっても、おとなしく見ているなど出来ませんので」


「でも……どうなさったら女性のルリお姉様が、アオお兄様やサクラ様に……?」


「そうですね。信じられなくて当然ですね」


ルリは緋月煌を発動し、男姿(アオ)に変わると、続けて気を高め、髪をサクラの色に変えた。


「この姿で、全て私が叶えさせて頂きました」

サクラの声を真似る。


「その技……ルリお姉様もお出来に……声や髪の色まで自在なのですね……。

ああ……どうしましょう。何も知らずに、私……。

サクラ様は今、どちらに……?」


「天界で神様のお手伝いをなさっています。

さぁ、お迎えに参りましょう」


「はい……」ルリに手を引かれ、立ち上がる。


ルリは虹藍の髪を整えながら尋ねた。

「でも、どうしてこの事が、虹藍様の御耳に?」


「昨夜、遅く帰城されたサクラ様は、何も仰られず、すぐに寝室に入られてしまったのです。

今朝も、何も……それで口論になってしまって……。


サクラ様がお出掛けになられた後、その部隊からは、複数の婚儀や新婚旅行の為の休暇願いが出ていると聞き、あまりに異常ですので、部隊の兵舎に出向き、問い質したのです。

それでも口を開いては頂けませんでしたので、苛立ちのあまり王命として無理矢理……」


「虹藍様のお気持ち、よく解ります。

それと同時に……私も……以前、同じ呪に掛かりましたので、彼女達の今の気持ち――不安や恐怖もよく解ります。

彼女達ひとりひとりと話したいのですが、よろしいでしょうか?」


「はい。では、先にそちらに……私も謝らなければなりませんので」

意を決し、女王の風格を纏う。




♯♯ 天界 深蒼の祠 ♯♯


【サクラ、気合い入れて探らないと、異空間に引き込まれるぞ!

もう一度だ!】


「始祖様ぁ、カンベンしてよぉ。

ちゃんと神様なんだからぁ、始祖様、できるんでしょ?」


【俺だけで、この数やれって言うのか!?】


「アオ兄は? 呼ぶからぁ」


【煩い! 四の五の言うな! しっかりやれ!】


「酷いよぉ」ぶうぅ~。


コバルトはサクラに近寄り小突き、

【昨日の事は心配するな。

全てルリがした事にしてくれるそうだ】

囁いて離れた。


「全部? 最初から?」【そうだよ】


「もしかして、今――」【ああ。来たぞ】


「えっ……」振り返る。「ラン……」


「ごめんなさいっ!」胸に飛び込んで来た。


「俺も……ごめんね」抱きしめ、髪を撫でる。


【今日はもういい。城に帰れ】

コバルトが優しく言い、置いていた鏡を抱えると、サクラが探っていた鏡も拾い、姿を消した。



――祠内。


 サクラと虹藍が曲空したのを見届け、

【この件は、ルリに任せる他は無いだろうな。

ルリが一番あの呪を知っているんだから……】

コバルトがそう呟くと、カルサイが並んだ。


【そうですね。

あの三人は……初代魔王に掛かっているであろう、あの呪をも、本当に解くつもりなのでしょうね】


【当然、そうなんだろうな。

で、解呪出来たとして、その後どうするつもりなんだよ?】


【私の一存では……歴代最高神様方の御沙汰次第ですよ】


【最高神も不便なものだな】


【そうですね……】自嘲の笑みを浮かべる。



【その鏡は、どうするのです?】


【探らなきゃならないのは確かなんだが、闇と光、両方必要らしくて、俺ひとりでは、なかなか進まないんだ】


【では、本当にサクラを必要としていたのですね】


【そうだよ。

サクラをここに留める為の嘘だとでも思っていたのか?】


【思っていましたよ】


【せっかく元に戻ったのに、これなんだからなぁ】


【あのコバルトが長過ぎたのでね】ふふふ♪


【それが親の言う事かよ】


【それに言葉遣いが……なんだか、ほっとしましたけど、どうしたのです?

やはり、そちらの方が馴染んでいて楽なのですか?】


【解呪直後からずっと言われ続けてたが――。

さっきも王子達が、来て騒いでたの見てたんだろ?

サクラの様子がおかしいのを察知したんだろうが、そのついでみたく、皆が調子が狂うだの、気持ち悪いだの言うから、努力し始めたんだよ。

……そうすれば、サクラの元気が戻るだろうからって……】


【そうですね。サクラも喜ぶでしょうね。

ですが、それ以上に、私はコバルトが元気になったように思えて嬉しいですよ】


【そんな言うなら、また『親父』って呼ぼうか?】


【そうしてください】くすくす♪


【なんなんだよ、馬鹿にしてっ!

なら、ゴルチル様も『オッサン』がいいのかよっ!?】

後ろで笑っていたゴルチルを睨む。


【そうだな。その方が落ち着くな】フフッ♪


【解ったよ! 話し方だけは戻してやる!

いや、『戻す』じゃなくて! 努力だっ!

なんでそんな苦労しなきゃならないんだよっ!】ぶつぶつ……。


【御前も実は、その話し方が板に付いているのだろ?】はははっ♪


【呪にそうさせられてただけだっ!

忌々しくて思い出したくもなかったのに……】


【そう怒るな。皆、あのコバルトも嫌ってはいなかったという事だ】ニヤリ。


【私も『お袋』で いいですよ】にっこり♪


【母様まで……】ため息。

【性格ひん曲がったら、どーしてくれるんだよ】ぶつぶつぶつ……。


【どうもせん。それも愛嬌だ】わははっ♪


大神達の楽しげな笑い声が祠に響いた。




♯♯ 天竜王城 ♯♯


 ギンに呼ばれたキンとハクが、父の執務室に入ると、両親と王太子妃達が居た。


「号外?」

卓に広げてあったのをハクが手に取る。

それをキンが覗き込んだ。


「昨日の祝列なのだな。

昨日の夕刻の配布なのか……早いな」


「これ……絵じゃねぇな」


「写真っていうそうよ♪」


「千里眼を飛ばしていたらしい。

その映像を印刷したのだそうだ」


「スッゲーな……」マジマジ。


「それとね、こちらも♪」


「これも号外? あ……アオとルリさん……」


「こちらは『双青輝伝説』の作者の方よ♪」


「あの二人は巷の有名人だったんだな♪」


「そっか……これでルリさんは、ちゃんと生きていたって事になったのか……」


「アオが長らく姿を見せなかったのは、生死の境に在ったルリ殿に医師として付いていたからと、しているな」


「上手く纏めたよな~♪

転んでもタダじゃ起きねぇヤツらだなっ♪」


「アオの冷徹そうな印象も、これで払拭出来たな」


「だなっ♪ 好感度 急上昇だよなっ♪」


 キンとハクが楽しそうに話しているのを、ギンが嬉しそうに眺めている。

その横では――


「このお話って、どんなのかしら?」


「お読みになりますか?♪」「ええ♪」


「今朝、買ってきて頂いたんです。

お借りして読んでいたんですけど、持っていたくなってしまって♪」


「あら、よろしいの?」


「はい♪ まだお返ししなくてもよろしいようですので。どうぞ♪

ボタン様は? まだでしたら、お借りしている方をお持ちしますよ♪」


「いえ……読みましたわ」


「そうなの!? 素敵なお話でしたよねっ♪」


「え……ええ、そうですわね」


 母親が読んでも良ろしいのかしら……?


――と、思い悩むボタンだった。



♯♯♯



 その頃、アメシスも号外を読み、ホッと胸を撫で下ろしていた。





ル【コバルト、話し方を戻すのですか?♪】


始【お祖父様まで……】


セ【『ババァ』を許してあげるわ♪】


始【嫌がってたクセにっ!】


セ【だから許してあ・げ・る♪】


始【馬鹿にしやがって……】


セ【でも、どうしてルバイルを『ジジィ』とは

  呼ばなかったの?】


始【浄化の外套をくれたから……】


セ【あの濃紺の? そんな力が有ったの?】


ル【あれは青身神様から頂いた竜宝なのですよ。

  それで、今度は『ジジィ』にして頂ける

  のですか?♪】


始【んな楽しそうに……】


ル【最初は驚きましたけど、すっかりあれが

 『コバルト』になってしまいましたからね】


セ【なんだか最近の様子が、元気無く見えて

  しまうのよ。だから戻してねっ♪】


始【解ったよっ!!

  呼びゃあいいんだろっ!!

  呼んでやるよっ! ババァ! ジ……】


ル【コバルト?】


始【やっぱ、爺様は爺様だっ!】


ル【少々残念ですが、では、それで♪】


始【ったく~、皆おかしいぞ】ぶつぶつ……。


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