砂漠編25-港町
前回まで:フジが可愛く挙動不審です。
森を発ち、港町に着き、宿を決め――
アオと蛟と踊り子が船を探し、クロとフジは買い出しに、他は情報収集に出た。
クロとフジが買い出しを終え、洞窟に帰ることを告げる為に港に行くと、
船探しは難航していて、北にある造船所に行こうかと話し合っているところだった。
そこに、船乗りが近付いて来て、
「ほらよ、アンチャン。これが航海図だ。
魔物にヤられて船も無ぇし、このくらいしかしてやれなくて、すまねぇな。
海図の見方は分かるかい?」
海図の見方を聞くのはアオに任せ、クロとフジは、話をするために、蛟を連れて少し離れた。
船乗りが言うように、見渡しても港には船が無く、船乗りや漁師も、五体満足な者はいないらしい。
「乗せて飛んでやりたいトコだが、それじゃ、気付けねぇ魔物がいるからなぁ」
「たとえ小者でも、人には脅威ですから、根絶するには船でないといけませんよね……」
「ええ。
ですので、なんとしても船に乗りたいのでございますが……
乗せて頂くことはおろか、船を譲って頂く事も叶わず……
港の北に、造船所があるらしいので、行ってみようかと――」
蛟がそこまで言った時、
「見つけたぞ♪」姫が現れた。
姫が弾んで近寄り、何故かクロが後退る。
「如何な船に決まったのじゃ?」ニコニコ
「いえ、それが――」蛟が言いかけた時、
「姫様~! 静香姫様ぁ~!!」
姫の背後から女性の声がした。
馬を跳ばして来る人物は――
男装だが、見覚えのある女性だった。
何故か矢を番えた弓を持っている。
「静香姫様♪
お会いできて嬉しゅうございます!」
サッと、姫がクロとフジの後ろに隠れる。
「あらっ、持ったまま追いかけてしまいました」
姫様を射つのではないのですね?
女性が弓矢を仕舞い、馬から降りている間に、姫は脱兎の如く逃げ、遠くから、
「その名で呼ぶでない!!」
叫んで、また走って行った。
「あら? 姫様は?」
降り立ち、こちらを向いた女性は、唖然としていたが、
「あ……皆様、お初にお目にかかります。
志乃と申します」
深々と礼をし、姫が迷惑をかけてないかなど話が続いていると――
くノ一の弥生と皐月に挟まれるようにして、姫が連れ戻された。
少し離れた所では――
「力になってやれなくて、ホント、すまなかったなぁ。
そんじゃアンチャン、無事を祈ってるぜ」
船乗りが去り、アオと踊り子も加わった。
「流石、姫様♪
船が向こうに有ることを、早や、お気付きでしたか♪」
志乃は、にこにこと話し続ける。
意外と空気が読めねぇのか?
ん?
今、『船』って言ったんじゃねぇのか?
「えっ!? 船と!?」蛟が声に出した。
「はい。
くノ一達から、砂漠の魔物退治が終わりましたら、海にお出になると聞いておりましたので」
当然でございましょう?
――と、志乃の目が語っていた。
♯♯♯
「この船でございます♪」
港の北の入江に、大きく立派な船が留まっていた。
船の上から、くノ一装束の娘達が、姫に向かって礼をしている。
くノ一、くノ一、くノ一……そして――
「姫様! お久しゅうございます!」
「何でジィまで居るのじゃっ!」
「あ……進水の儀が途中でございました」
志乃は、そう言うと、馬に乗り、矢を番え、射った。
くノ一達の太鼓の音が響く中、矢は海上の空に消えた。
「姫様をお見掛け致しまして、急ぎ追ってしまいましたので――」
ほほほ……と、笑いながら志乃は馬から降り――
「ささ、船内を案内致しましょう」皆を導いた。
♯♯♯
姫は、ひとり、家老が居る甲板に行った。
「何故、こんな危険な所に来たのじゃっ!」
「なに、未来の家老殿に、ひと目お会いしとうての」
「ジィを連れては行けぬぞ」
「足手纏いになるのは分かっておる。
未来の家老殿と婿殿に、お会い叶えば帰るわい」
「そうなのか? ならば――」つかつか……
「志乃も連れて帰ってくれっ!」家老を拝む。
「アレは、お供する気満々じゃぞ」
「だからこそじゃ。
ジィの命ならば帰るじゃろ?」
「しかしのう……アレも頑固じゃぞ」
二人して、う~む……と腕組み。
そこに、志乃が近付いて来た。
「静香姫様、あちらで茶など――」
「名を呼ぶなと何度も言ぅたであろ?」
「綺麗な御名ですのに……」
「だからじゃっ!」睨む。
――が、視線は届かない。
ため息……
「それはそうと、志乃。
この危険な旅に、ついて来るつもりか?」
「はい」当然でございましょう? 何か問題でも?
「それは出来ぬぞ」
「姫様と共に居るのが、私のお役目と心得ておりますれば。
近くならば我慢も致しますが、海を渡るとあらば、お供致すのが当然至極にございます」
姫、最上級にウンザリ。
「先程も言ぅたが、この旅は危険なのじゃ。
万が一、ワラワに何ぞあらば、志乃が姫となり、国を治めてほしぃのじゃ」
姫は両手で志乃の肩を掴み、真顔で志乃の目をしかと見詰め――
「これは、志乃にしか頼めない事なのじゃ。
幼き頃よりワラワより姫らしく、
何でもソツなくこなす志乃にしか頼めぬ!
ワラワが、この世でイッ・・・チバン信頼しておる
志乃にしか頼めぬ事なのじゃ!」
「静香姫様……」
「じゃから! 名はっ!!
――いや、もといっ!
国を、民を、殿をお頼み申す」
志乃の肩から手を離し、姫は深々と頭を下げた。
「ひ、姫様っ! 静香姫様!
お顔をお上げくださいましっ!!」
志乃は、その場に正座し、姫を見上げ、
「静香姫様が、そこまでお考えとは、つゆ知らず、浅はかにお邪魔を致しましたこと、どうか、お許しくださいませ」
と、平伏し、
「しかと精進し、静香姫様のお帰りをお待ち致します」
感涙が甲板に落ちた。
その時、頭を下げたままの姫が、ペロッと舌を出したのを、家老は見た。
♯♯♯♯♯♯
「それで――」
宿に戻り、出立の宴が始まり、踊り子と珊瑚が舞っている時、志乃が姫に耳打ちした。
「姫様の殿は、どの御方なのです?」
にこにこにこにこ♪
「えっ……いや、それはじゃ……
あ、赤い目の――」
「儂には、皆、同じ顔に見えとるのじゃが……」
家老も加わる。
「ワラワにも同じに見えておる」
三人の視線の先には、アオと、結局、居残ったクロとフジが居る。
「それで、どの御方なのです?」
「いや……その……何じゃ……」
三人で、竜の兄弟を見ながらコソコソ……
「儂は、次の家老殿が気になっておるのじゃが――」
そっちに乗った!
「ミズチ♪」ちょいちょいと手招き。
「姫様、如何なさいましたか?」
「この者が、次の家老じゃ♪」
「えっ!? ちょ、ちょっ!
お待ちくださいませっ、姫様っ!」
現家老と目が合ってしまった蛟、
「あ、いえ……
畏れ多い事でございますので……」
声が小さくなる。
「そうかそうか♪ うむ、良き面構えじゃ♪
もっと近う、近う♪
今宵は国の行く末について、とくと語り明かしましょうぞ♪」
蛟は、上機嫌な家老に、連れて行かれてしまった。
「姫様っ♪」志乃が姫の袖を引く。
「皆、候補じゃっ。
兄弟で争う事 無きよう、慎重に事を進めておる故、静まれよ」
人差し指を口の前に立てた。
「承知致しました♪
姫様、お気張りくださいませ♪」にっこり
その時、障子が開き、サクラが顔を出した。
「アカ兄、こっちこっち~♪
みんな、ここに居るよ♪」
障子が更に開き、
「剣、貸せ。朝には返す」
蛟が宝剣・華雅の三眼を渡すと、アカは帰って行き、サクラは部屋に入って来た。
「増えましたね……」ぱちくりな志乃。
「七人兄弟なのじゃ」
「ほう……」それならば――
おひと方くらいは捕獲できますね!
安堵致しました!
――と、志乃の目が語っていた。
♯♯♯♯♯♯
翌朝、船を見送ったクロ、フジ、サクラと、
志乃、家老、家来衆数人は――
「んじゃ、帰るか~」
「私は長老の山に――」「じゃ、俺も~♪」
「サクラん坊は、こっちだ」「え~っ」ぶぅ
「それでは、私共は、これにて……」
じゃれている兄弟に、志乃が声を掛けた。
「歩いて帰るの?」サクラが志乃に近付く。
「ええ、馬で」「籠で、じゃが」
「乗ってく? 方向、同じだし~♪」
「へ?」「は?」
クロとフジが、サクラの口を塞ぐのは、間に合わなかった。
「どういう……」
「しゃ~ねぇなぁ」クロが竜になる。
「乗って♪ 乗って~♪」
固まっている人達をサクラが促す。
♯♯♯
思考停止のまま、志乃達は運ばれ……
城下の入口で降ろされ――
「じゃ~ね~♪」
小さくなっていく竜達を、呆然と、ただ見送るのだった。
アオ達は、大陸を目指して海に出ました。
次回から、第一章おまけとして、天界に行ったっきりなハクが、どうしていたのかを挟みます。
「後書き」では、療養中の皆さんに、サクラがコッソリ会っていた話をしていきます。
姫「ワラワの名を聞いたじゃろ?」ニヤリ
青「いや、船乗りと話していたからね」
黒「オレも聞いてねぇからなっ!」
藤「私も覚えがありませんよ」
姫「ウソを申せっ!
志乃が度々呼んでおったではないか!」
クロとフジ、竜になり、飛ぶ。
アオはクロの尾に掴まっていた。




