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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
388/429

執事長11-取り戻す

 爽蛇は、琉蛇には自分の事も、屋敷の事も

殆ど話していません。

蓮蛇にも隠し続けるよう頼んでいます。


「蓮蛇、これ」箱を差し出す。


「アカ様、この玩具は、どこから……?」


「作った」くるり、スタスタスタ。


「アカ様! ありがとうございます!」


振り向かず、片手を軽く上げて去って行った。


「あの……執事長様? アカ様って……」

 このお屋敷のご子息様かしら?


「あ……お気になさらず」にっこり。


 早速、風蛇が玩具箱に入り、ご満悦だ。

午後の庭で穏やかな陽射しを浴びながら、楽しそうに選んでいる。


 琉蛇と風蛇が、この屋敷に来てから、三十年近くが経ち、琉蛇は高等学校に通うようになっていたが、風蛇は幼いままだった。


「蓮蛇、爽蛇から」また、箱が差し出される。


「アオ様!?」


「爽蛇、今日は来れないから、代わりに持って来ただけなんだけど。

そんなに驚く事かい?」


「いや、あの、執事のお使いなどとっ」


「忙しくしているのも、俺の為だからね。

風蛇、ご機嫌だね♪」なでなで。


「アカ様……アオ様……」ぶつぶつ……。

「まさかっ!! 天竜王子様!?!?!」


「どうしたんだい? 琉蛇さん?」


「いやっ! あのっ! 私なんぞにっ!

それより、どうして教えてくださらなかったんですかっ!?!」


「今頃? 蓮蛇、言っていなかったの?」


「忘れておりました♪」ははは……。



♯♯♯♯♯♯



 そして、高等学校を卒業した琉蛇は、アカの屋敷の女中となった。

琉蛇は清掃係に就いたが、それでも、風蛇の世話は続けていた。

蓮蛇は、他の使用人の為にも、アオの屋敷と同様に託児所を設け、琉蛇をそこに配した。


「あの、爽蛇様。風ちゃん、なかなか育たないのは何故でしょう?」


「さぁ……私には……。

ご迷惑でしたら、引き取りますよ」


「迷惑なんて、そんなっ!

可愛いので、このままでも……」なでなで。

「ただ、心配なだけです」


琉蛇の胸で目を覚ました風蛇が、琉蛇の慈しむ眼差しに微笑み返す。

「あ~ちゃ♪」ぴとっ♪


「え? 風蛇、琉蛇さんに失礼な」つんっ。


突っついた爽蛇の指に掴まり、

「お~ちゃ♪」

爽蛇の胸に飛び込んだ。


「あ……風蛇、私は、それで構いませんが、琉蛇さんには失礼ですよ」つんつん。


「お~ちゃ♪ あ~ちゃ♪ う~ちゃ♪」

きゃっきゃ♪ はしゃいでいる。


爽蛇と琉蛇は顔を見合せ、苦笑し、風蛇を撫でた。



「あの……爽蛇様は、どのようなお仕事をなさっていらっしゃるのですか?

お外でのお仕事って、どんな?」


「ああ、なかなか来れなくて、風蛇を任せっきりで、すみません」


「それは、全然。

むしろ、幸せでございます。

ただ……爽蛇様に、もう少し……その……お会いしたくて……」


「そうですね、風蛇もそろそろ覚える頃でしょうから、もっと来ないといけませんね」


「あの……そうではなく……」


「はい?」


「いえ、あの、そうですよねっ!

風ちゃんと、もっとお会いになられた方が、よろしいと存じますよ」


「そうですねぇ……考えておきます」にこっ。



♯♯♯♯♯♯



「琉ちゃん♪ お昼一緒に、どう?」


「あ、愛ちゃん♪」


 同じ日にアカの屋敷に採用された琉蛇と愛蛇は、すぐに親友になっていた。


「風ちゃん、今日もご機嫌ね~♪」ぷにぷに♪


「あぃちゃ♪ あそぶ~♪」


「ごはん食べてからよ♪」つん♪


「たぶぶ~♪」あ~ん♪



 食べて満足すると、子供達はお昼寝した。



「それで、どうなの?」


「どう、って?」


「琉ちゃんの意中の方よ♪

そろそろ教えてよぉ、どなたなの?♪」


「愛ちゃんこそ~」


「ん~~、じゃあ、同時に♪」「えっ!?」

「せ~――」「ちょっ! いや、あのっ!」


「じゃあ、深呼吸一回だけ待ってあげる♪」


「いい? せ~のっ、執事長♪」「爽蛇様……」


「ええっ!?」こっちの方が揃った。


 かなり歳上……。 内心の、これも揃った。


「えっと……じゃあ、どうして、琉ちゃんは、このお屋敷に?」


「えっ? どうして、って……?」


「どうして、アオ様のお屋敷の試験を受けなかったの? まさか、落ちたの?」


「えっと……どういう事?」


「だって、爽蛇様は、アオ様の執事長でしょ?」


「え??? ええーーーっっ!!!」


「え? まさか、知らなかったの?」


 アカ様とアオ様は別のお屋敷に!?

 ――あ……だから他の王子様を見ないの?

 このお屋敷ってアカ様だけのお屋敷!?


 それより! 爽蛇様も執事長なの!?


 アオ様のお屋敷の……執事長様……。


「あ……だから、なかなか、こちらには……」

唖然……愕然……呆然……。


「ホントに!? 知らずに、ここに!?

もうっ、行くわよっ!」


愛蛇は、呆けている琉蛇の手を引いて、執事長室に向かった。




「執事長、ご相談がございます!」


「愛蛇さん、それと、琉蛇さん。

どうしたのですか?」


「琉蛇さんをアオ様のお屋敷に異動させてあげてくださいませっ!!」


「落ち着いてください、愛蛇さん」


「落ち着いてなどいられませんよ!

どうして、爽蛇様の事、隠されていたのでございますかっ!!」


「あ……爽蛇様からのご指示ですので……理由は、私にも……。

ですが、異動でしたら、出来ますよ」


「琉ちゃん、異動して、射止めるのよっ!」

がっし! ゆさゆさっ!


「ちょうど、アオ様のお屋敷から、こちらに希望を出されていらっしゃいます方が居りますので、その方と入れ替えで……ええと、蛇咲(ミサキ)さんの書類は……あ、有りました。来月から、になりますね」


「あ、あのっ! 風ちゃんは!?」


「もちろん、一緒に。

お願い出来ますか?」


「はいっ! ありがとうございます!!」


「良かったね~♪ 琉ちゃん♪」


「ありがとう、愛ちゃん」うるうるうる。



♯♯♯



 アオの屋敷では、古参の使用人は、風蛇の変わりように驚愕し、若い使用人達は、爽蛇に隠子が居たと驚愕していた。

しかし、古参の使用人は、風蛇に恐ろしい事が起こったのだろうと、何も言わず、語らなかったし、若い使用人達は、爽蛇の人柄や日頃の恩義から、その事に触れる者は皆無だった。




「爽蛇、どうして、琉蛇さんを避けているの?

琉蛇さんの気持ちは伝わっているよね?」


長老の山に出掛けた折、アオが爽蛇に尋ねた。


「それは……」


「年齢なら、問題にならないよね?

蓮蛇も愛蛇さんと結婚すると決めたんだし」


「その点は……ですが……」


「他に好きな方が居るのかい?

それなら、はっきり言わないと――」


「いえ、居りません」


「風蛇なら、もう三人家族みたいなものだよね?」


「確かに、そうで御座いますが……」


「どうしたの? 爽蛇らしくないよ?

琉蛇さんの事、嫌いなのかい?」


「いえ……」


「俺は、まだ子供だし、恋愛なんてした事は無いけど、それでも、琉蛇さんが爽蛇の事を好きなんだって事くらいは分かるよ。

爽蛇なら、もっと分かっているよね?」


「はい。それは……解っております」


「もしかして、あの呪に何か縛られている?

結婚出来ないような何かが有るのかい?」


爽蛇は目を閉じた。


アオは爽蛇を静かに待った。


「アオ様、その通りでございます。

私が失ったのは、髪だけではないので御座います。

感情の欠落……理解は出来るので御座いますが、感情が湧き上がらないので御座います」


「でも、涙を流したり、笑ったりしているよね?」


「理解は出来ますので……」


「振り……だったのかい?」


「はい。そうで御座います。

記憶に御座います感情は、どうにか表現する事に慣れて参りました。

しかし、恋愛は……経験の無い感情は、どうにもならないので御座います。

ですので、私では……琉蛇さんを不幸にしてしまうだけなので御座います」


「爽蛇……すまない」


「アオ様がお謝りになられる事など何も御座いませんよ」


「俺が必ず解呪するから!

もう少しだけ待っていて!」


「ありがとうございます、アオ様」



――――――



 この後、アオは特級修練に行き、そしてルリを失う。

その為、長く、そのままにされてしまっていたが――



「アオ兄♪ 連れて来たよ~♪」


「爽蛇、琉蛇さんも風蛇と一緒に魔法円に入ってね。

長く待たせてしまって、すまない」


やっと、解呪の時が訪れたのだった。


「それでは、大神様方、よろしくお願い致します」


ロサイトが正面に立ち、アオとサクラが背後で正三角形を成す。

大神達が内を囲み、外を大勢の神々が囲んだ。

芳小竜達が魔法円内に飛び込み、犇めく。


【では、解呪を始めます】


ロサイトの美しい声が流れ、アオとサクラが重ね、辺り一面が清々しい気で満ちていった。




 十程も異なる解呪を重ね、魔法円内を満たしていた光が、その中心に吸い込まれ、そして弾けた。


中央の三人の姿が、次第に明瞭になる。


【成功です♪】


「ありがとうございました!♪」

アオとサクラの声で、神々が歓喜の声を上げた。


「風蛇、おかえり!♪」

「爽蛇、琉蛇さん、お幸せに~♪」


爽蛇と琉蛇が見詰め合う――


「風蛇、話は後でね」腕を掴む。

「みなさ~ん、せ~のっ♪」一斉に消えた。



 もちろん、神々は祝福の光を残して――





青「アカ、連れて来てくれて、ありがとう」


赤「当然だ。礼など要らぬ」


蓮「ありがとうございます……

  ありがとうございます……

  ありがとうございます……」繰り返し。


愛「蓮さん、皆様お困りだわ」あはっ。


蓮「あ……ありがとうございました!」


青「遅くなって、心配かけて、すまなかった」


蓮「いえいえっ! アオ様っ、そのような!」


赤「そこまでだ。二人を祝福すべきだ。

  それに、風蛇殿を放ったらかしだ」


青「あ……風蛇、すまない。俺が判るかい?」


風「はい、アオ様。

  声も出せず、身動きも出来ませんでしたが、

  見え、聞こえてはおりましたので。

  長い間、申し訳御座いませんでした。

  これより再びアオ様の御為だけに生き、

  私の全てを賭してお仕え致します事、

  お誓い申し上げます」


青「ずっと見ていたのなら知っているよね?

  もうそんなに堅く考えなくていいんだよ。

  風蛇にも幸せを見つけて欲しいし――あ、

  琉蛇さんの事――」


風「それはっ! ……確かに、言葉では

  言い尽くせない程にお世話になりましたが、

  兄を想うの琉蛇さんのお気持ちは、

  私が一番存じております。ですので、兄と

  お幸せになって頂きたく……」顔を逸らした。


青「風蛇……」


桜「もひとりの保母さん連れて来た~♪」


青「蛇咲(ミサキ)さんを? どうして?」


蓮「蛇咲さんがアオ様のお屋敷に出戻ったのは

  風蛇くんを追って――」


咲「あ、あのっ! それはっ――」


 愛蛇が蛇咲の口を塞いだ。「んんんっ!」


愛「こっちに希望を出して、来たのは、

  風蛇兄さんがアカ様のお屋敷に居るって

  噂を聞いたからなのよね~♪

  それで、すっごく落胆してるから、

  私が知ってる限りを話したら、

 『アオ様のお屋敷に戻る!』って、

  保育士の資格も取ったのよね~♪」


風「本当に……? 俺を追って?」


 蛇咲が涙目で頷いた。


風「あんな俺の世話をする為に……?」


咲「……どうしても……そうしたくて……

  もう一度、大人になる頃には、私は……

  オバチャンになってしまうけど……

  それでも……そうしたかったの……」


風「そうか……ずっと、俺の勘違いな願望で

  そう見えてしまっているんだと思っていた。

  あ、それより先に、これまでのお礼を

  言ってなかったな。ひと言では全然言い表せ

  ないけど……ありがとう」


愛「爽蛇兄さんも、かなりなものだけど、

  風蛇兄さんも、こういう事には馬鹿なの?」

蓮「愛っ!」


風「え?」


愛「蛇咲ちゃん、まだ育てないとダメみたい

  だけど、ガンバってねっ♪

  風蛇兄さん、蛇咲ちゃんを泣かせたら

  承知しないからねっ♪

  じゃあ、私達も行くわね♪」


 愛蛇は蓮蛇を引っ張って行った。

それを目で追った後で見回すと、周りは木々

ばかりで、誰も居なかった。


風「あ……ええっと……もしかして俺は

  二百年も待たせてしまったのか?

  それでも、俺でいいのなら、その……

  ここから始めよう。出来れば、一緒に」


咲「はい♪」うるっ。


風「あっ! 泣かないでっ!」


咲「大丈夫。愛ちゃんは怒らないわ。

  これは涙じゃなくて、幸せだから」


風「幸せなら尚更だ! 落とさないでくれっ」


 慌てながら、戸惑いながらも、拭き続ける

風蛇からは優しさが溢れていた。


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