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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
385/429

執事長8-助かりはしたが――

 約二百年前のお話です。


 爽蛇が目覚めると、蓮蛇の心配そうな瞳が目の前に有った。


「……ここは? 蓮蛇……だよね?」


「はい。良かった……爽兄さん……良かった……」

安堵した蓮蛇が涙を落とした。


「私は……何故…………あっ!!

アオ様は!? 風蛇は!?

女の子も居た筈ですよねっ!?」


「アオ様と少女は、無傷ですよ。

まだ、眠っておられますけど」


「そうですか……あっ、風蛇は!?」


「命には……ですが……」


「もしかして、大怪我を?」


「いえ……それは大丈夫です。

ですが……隠せる事でもありませんね……お会い頂ければ……」


「すぐに会わせて――」


「その前に……」手鏡を差し出した。

「覚悟して、ご覧ください」


裏向きで渡された手鏡を不思議に思いつつ、表に向けた爽蛇が頭に手をやった。

「これは……私……ですね」


男には勿体無いとまで言われていた、サラサラと艶めいていた髪が無くなっていた。


「もしかして……風蛇も?」


「いえ……ですが……」


「私の髪なんて、どうでもいいんです。

風蛇に会わせてください」


「では、お連れ致します」




 待っていると、蓮蛇が蛟の赤子を抱いて戻って来た。


「また、眠ってしまったのですが……」


「まさか……」


「はい。そうです」赤子を渡した。


「確かに……風蛇……どうして……」


後は言葉にならず、爽蛇は、すやすやと心地良さげに眠る弟の頬に、そっと触れた。


「風蛇……どうして……」


一度、ぎゅっと抱きしめた後、爽蛇は涙を流しながら、ただただ風蛇を撫で続けた。



♯♯♯



 爽蛇の部屋から出ていた蓮蛇が戻って来た。

蓮蛇は、女性物の小さな鞄と、黒い手帳を卓に置いた。


「少女のご両親の遺品だそうです。

少女――琉蛇(ルーダ)さんの学生章も入っておりました」


「そうですか……ご両親とも……。

それにしても、何故……あんな場所に……」


「蛟が、あの場所に行く理由など……ご先祖のお墓参りくらいしか……」


「そうですよね……運が悪過ぎたのですね……」


扉を叩く音がした。


「執事長、琉蛇さんがお目覚めになられました」


「蓮蛇、私も行くよ」


「しかし、まだ――」


「もう大丈夫だよ」

風蛇を抱いたまま立ち上がった。



♯♯♯



「琉蛇さん、お加減は如何ですか?」


蓮蛇の呼び掛けに、琉蛇は、ぼんやりとした瞳をゆっくりと向けた。


「……それ……私?」


蓮蛇と爽蛇は顔を見合わせた。


「この学生章は貴女のものですよね?」


彼女は、手渡された物をじっと見詰め、そして、ぼんやりしたまま首を傾げた。

「学生章は分かるけど……」

そこで言葉を失い、次第に大きく目を見開いていくと、唇を震わせ、大粒の涙を溢した。


「どうしましたか!?」

蓮蛇と爽蛇が駆け寄り、顔を覗き込もうとすると、両手で顔を覆い、声を上げて泣き始めた。


両親の事を思い出したのだろうと、爽蛇は、空いている手で、大きく震えている肩を包んだ。




「私……私の事が……何も分からない……」


「えっ……?」


「……何も……思い出せないのっ!」


泣きじゃくり続け、疲れ果てた琉蛇は、それだけを絞り出すと、崩れ落ちるように再び眠りに就いた。



♯♯♯



「琉蛇さんは、記憶を失ってしまったのでしょうか……」


「ご両親の事も忘れてしまったのは、今は幸いなのか、不幸な事なのか……」


「そうですね……。

髪を失った程度で済んだ私が、一番 軽いのですね……。

風蛇は、生きてきた時の全てを失ってしまったんですね……」


「命だけは留めたのですから、それだけでも……」


「そうですね。

何よりアオ様が御無事でしたので、もう、これ以上は望みません。

私達は、そうですが……琉蛇さんは――」


そこで爽蛇は言葉を切った。


「そういえば私達は、どのようにして、こちらに?」


「大きな白い妖狐様が、お運びくださったのです」


「白い……妖狐……もしや!

その方は、碧い光を帯びておりませんでしたか!?」


「そうですね……青のような緑のような光を纏っていらっしゃいましたよ。

ご存知の方なのですか?」


「アオ様をお助けくださる方なんです。

いつも、アオ様には言わぬよう口止めなさるのですが……

ああ、確かに……あの声は……。

気を失う直前に声を聞いたんですよ。

今思えば、確かに妖狐様の御声でした」


「爽兄さんが回復されてから、と思っていたのですが……

その妖狐様が、日を改めて、爽兄さんに会いに来られるそうです」


「そうですか」


「それまで、こちらで養生なさってください」


「ありがとうございます、執事長」


「おやめくださいよぉ」


笑っていると、扉が叩かれ、開いた。

「ア――」オ様?

爽蛇と蓮蛇が同時に発した声を、入って来た少年の可愛い声が遮った。

「アオ……起きた」「アカ様っ!?」


「蓮蛇、なぜ驚く?」


「アカ様が、アオ様に付いてくださっていらしたのですか?」


「当然だ。アオは兄だからな。

蓮蛇、来い。爽蛇は寝ていろ」スタスタスタ。


「アカ様っ、私も――」


「無理をしても、アオは喜ばぬ」

開けたままの扉の向こうから、アカの声だけが聞こえた。


「アカ様の仰る通りですので、爽兄さんは、お休みください」

蓮蛇は小声でそう言うと、爽蛇を押し留め、出て行った。




 爽蛇が、アオの様子を確かめたくて、落ち着けずに居ると、窓の外が明るくなった。

窓の外を見ると、宵闇に碧の光を帯びた大きな白い妖狐が浮かんでいた。


「妖狐様っ! あのっ、この度は……いえ、この度も、ありがとうございました!」


「大声を出すな。アオには知られたくない」


「あ……はい、申し訳ございません」


「そこまで畏まらなくても構わぬ。

話が有る。乗れ」壁を抜けて入って来た。


「えっ? あ……はい」おずおずと乗った。


「しっかり掴まれ。行くぞ」


妖狐は宙に浮くと、爽蛇をチラとみてニヤリ。

輝きに包まれ――蛟の村に降り立った。


てーん、てーん、と跳ねると、木々の間を鼻で示した。

「間に合わず、すまなかった。

ここで亡くなった蛟の墓だ」


真新しい墓石が二つ。

その周辺には、比較的新しい墓石が、いくつも見えていた。


 この森で無くなられた方々でしょうか……?


「あ……琉蛇さんのご両親の……。

妖狐様、ありがとうございました」


「助けられなかったのだ。礼など言うな。

それと、あの娘には、まだ見せるな。

ここは危険だからな」


「畏まりました」


「もうひとつ。

ここで見た事は他言無用だ。

出来ぬならば封じる」


「今、見た事で御座いますか?」


「いや、あの時――そうか、儂が封じておったな。

釘を刺す前に話されては後々困るからな。

アオを護る為に解いておきたいが、話さぬと誓えぬならば、そのままにしておく」


「私は、アオ様の執事長で御座います。

秘密を守る事でしたら、職務そのままで御座います。

アオ様をお護りする為でご御座ましたら、この命に代えてでも、お誓い申し上げます」


「ふむ。覚悟は伝わった。

ならば、そこに立て」


妖狐が示した場所には、魔法円が碧く光っていた。

爽蛇が、その中央に立つと、妖狐が術を唱え、爽蛇は光に包まれた。



――記憶の封印が解かれていく――





金「二人が無事ならば、それでいい」


黒「でも、ハク兄とフジは何をゴチャゴチャ

  言ってたんだ?」


藤「いえ、何も……」

白「ま、済んだ事だ。もう気にすんなって」


黒「そっかぁ? ま、二人が元気だからいっか♪」


白「そーいや、女性達は、どこ行ったんだ?」


黒「虹藍様トコだよ。言ってたろ?」


白「知らねぇよ! 戻ったら居なかったんだよ!」


黒「そっか。不安だろうから元気づけるって

  皆で行っちまったんだ」


白「そっか。おい、アカ、どこ行くんだ?」


 アカはフッと笑って控室を出た。


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