祝と呪4-渇望の呪、再び
戦闘中ですが、祝列は出発しました。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
ここでも、魔王にされていた神竜の魂達への浄化が始まった。
【アオ、此奴は――】
(浄化が終わったら元に戻しますよ)
【可哀想に……】
(女性になる事の何処が可哀想なんですか?
ゴルチル様は、その御姿が嫌なんですか?)
結構な美人ですよ。
【ふむ……否定する訳にはいかぬか……】
桜華とスミレをチラと見る。
【アオは受け入れているのか?】内緒話、開始。
(慣れましたよ。ずっとですからね。
それに、ルリは、きっとこっちの方がいいでしょうからね)
【達観しているのだな……】
(それはそうと、この魔王達は強くなかったと思うんです。
ですから――)
【天界に行くぞ!】(はい!)曲空!
――天竜王国、王都上空。
【何故? 闇の気は、ずっと向こうだぞ】
(いいえ、ここです)一点を睨む。
アオとルリは光の球を一気に膨らませ、その一点に放った。
そこに達した刹那、闇の穴が開き、影と思しき闇黒竜の群れが噴出した。
出た先を知らず溢れる影達は、光の球に捕らえられ、気絶し積み重なっていく。
噴出が止み、穴が閉じかけた時、アオは光の波動を放ち、穴の向こうを強烈な光で満たした。
(ルリ、まだ保てる?)(余裕だ)(お願いね)
今度はアオひとりで光の球を大きくし、別の一点に放った。
また闇の穴が開き――
――同様に捕らえられていく影達の噴出が止む。
(ゴルチル様、光を!)
ここまで瞬く間の事で、驚愕して見ていたゴルチルが慌てて光を放った。
闇の穴が弾け散る。
【アオ……お前は――】【お父様!】
(セレンテ様、この球をお願い致します)
まだ来る筈……。
光の球を膨らませ――(そこだっ!)放った!
噴出を待つ間に下方を確かめる。
祝列は始まっている。
民に気づかれないようにしなければ……。
視線を戻す。
ゴルチルが光を放った。
(人数的には、この位でしょう。
少し待って何事も無ければ、この球を天亀湖にお願い致します)
【これは相殺か? 恐ろしい程に強力だな】
(今の俺の極大ですよ。まだまだです。
治癒の眠りも混ぜていますから、しばらくは静かですよ)
【御前って奴は……】言葉が続かず、ため息。
【お父様、私達が湖に運びます。
こちらをお願い致します】
(解呪をロサイト様に――)【はい、アオ様】
(いえ、『様』は――)【可愛い大神様ね♪】
楽しげな女神達は、光の球と共に消えた。
そして、魔王が現れた。
♯♯ 天竜王国 王都 ♯♯
キンは竜宝艇の天台から、周囲に気付かれぬよう、視線を上空に向けた。
(キン様……)隣に並ぶボタンだけは気付いた。
(心配は要らぬ。
弟達にならば任せられる)微笑む。
(兄貴、上にいるのはアオか?)
(ゴルチル様もいらっしゃる。
それに、民には気付かれる事は無い。
神眼も届かぬ程、遥か上空だ)
(歯痒いよな……俺達だけ、こんな――)
(言うな。これが今、私達の成すべき事だ)
(ま、俺が行った所で役には立たねぇよな)
(そんな事は無い。
ハクはアオやサクラと同じ技が出せるのだからな。
私こそ行っても仕方が無い)
(んな事ぁ無ぇだろ。
使おうとしねぇ力が、たんまり有るのは知ってるんだぞ)
(それは……制御不可能な力だ。
使おうとしないのではない。使えないのだ)
(アオやサクラに聞こえたら、自分で蓋をするなって怒られっぞ)
(そうかも知れぬな……)
♯♯ 天竜王国 馬頭鬼村上空 ♯♯
(あと少しじゃ!)(おう!)
アカが掌握で影を掴み、クロが姫と合わせた力で神以鏡から光を放つ。
続けてサクラが相殺の球を被せる。
(アカ兄、闇と呪、だいじょぶ?)
(問題無い。魔王の呪だ)
女性の兵士は、どこ行ったんだろ……。
(サクラ、そろそろ運べよ)(あ、うん)
サクラが球を積み上げて湖に行くと、ロサイトが大きな光の球に掌を当てていた。
【これは……古の呪……解呪叶わぬもの……】
女性の兵士達、見つけた!
(それ……もしかして、望みを叶えたら解ける呪?)
【あ、サクラ様。
この呪を御存知なのですか?】
(アカ兄とルリ姉が、前にかかったヤツなら知ってるよ。
誰にも解呪できないけど、望みを叶えたら解けるんだ)
サクラも球に掌を当てる。
(この匂い……おんなじ呪だよ)
【ひとりずつ叶えていくしかないのね……】
魔竜軍にも、この呪については教育してたけど、
眠らされて、かけられたんだよね……。
なら、素直な望みだよね……困ったね……。
【先に男性を解呪してしまいましょう。
サクラ様、その方々を魔法円に】(うん)
サクラが せっせと相殺の球を運んでいると、アオが数人入っている球を持って現れた。
(アオ兄、その女性達も?)
(うん、ルリが掛かったのと同じ呪に掛かっているんだよ)
【ロサイト様、こちらは、これで最後です】
ルバイルとバナジンが、魔法円に男性兵を包んだ相殺の球を数個 置いた。
男性兵の解呪が終わり、ロサイトが近付いて来た。
【先ずは闇を浄化します。
その後で、おひと方ずつ出して頂けますか?】
アオが大きな球の内に光を生み、ひとりだけをその光で包み、大きな球から出す。
(ロサイト様、お願い致します)
ロサイトが光を当てると、その女性は目覚めた。
【貴女の望みは?】優しく問いかける。
「ああ……女神様……叶えてくださるのですか?」
【はい。なんなりと】
慈愛に満ちた微笑みで女性兵を包み込む。
女性兵は恥じらいながら俯き、
「あの……本当に、どんな事でも?」
躊躇う視線だけを上げた。
う~ん……これは時間かかるね……。
ロサイトも、そう感じたらしく、女性兵の額に掌を翳し、光を当てた。
女性兵は一瞬 動きを止め、頬を染め、
「わ……サク……」口を押さえモゴモゴ。
抗っているようだが、両手は口から離れた。
【もう一度】微笑む。
「私、サクラ王様をお慕い申し上げております。一度で構いません、御側に――」
(サクラ、呼んでいるよ)(やだよぉ)
【サクラ様、こちらに】にこにこ。
逃げようとしたサクラをルリが掴んだ。
(この人数だぞ。早く済ませろ)(や~ん)
(解呪だ。虹藍様には言わぬ)(うっ……)
(ちゃんとしろ、サクラ王)(ひどぉいぃ)
ずるずるずるずる……。
それでも女性兵の前に立つと王になる。
「サクラ王様……」ぴと。
(どぉしたらいいのっ!?)
(抱き返してやればよいのでは?)
(ふええっ!?)
恐る恐る背に手を添える。
女性兵が幸せそうにサクラを見上げ微笑み、サクラがどうにか微笑み返すと、うっとりと胸に頬を寄せ、目を閉じ――
――ハッとして顔を上げた。
「え? ……失礼致しましたっ!!!!!!」
跳び退いた勢いで、よろける。
サクラがサッと手を取り、背を支えた。
「お怪我はありませんか?」にこっ。
「は、はいっ!! 国王陛下っ!!」敬礼っ!
ひとり目、やっと解呪終了。
女性兵の背後に現れたルバイルが眠りで包み、連れて行った。
【アオ様、次の方を】「はい」
そして、二人目が目を覚ます。
【望みを。なんなりと】額に光を放つ。
「並の男より遥かに厳つい私ですが……お姫さま抱っこをされてみたいのです。
その……サクラ王様に……」ポッ♡♡
(またご指名だよ、サクラ)くすくす♪
(ねぇ、何の罰なのぉ? コレ……)
俺、泣きそぉだよ……。
始【お祖父様、どうなさいましたか?】
ル【先程の事は、全て夢だった、という事で
良いのでしょうか……?】
始【それで良いのではありませんか?】
ル【呪は、完全に解けたのでしょうか……?】
始【『夢』にしてしまうと、呪が残っていれば
再び活性化する……可能性は有りますね】
キ【おてつだいするの~♪】ふよふよよ~♪
ル【キュルリ、この方には、もう微塵も、
呪は潜んでおりませんか?】
キ【んとね~……ぜ~んぜん ないの~♪】
ル【そうですか。ありがとう、キュルリ】
キ【うれし~の~♪】きゅるっきゅ♪
ル【では、夢という事で】掌を翳す。
兵「……ぁ…………は? 神様っ!?!?」
ル【もう大丈夫ですね。貴女は助かったのです。
ですが、体力を消耗しておりますので、
もう暫く、このままお休みなさいね】
キ【ねんねなの~♪】なでなで♪
兵「あ……可愛い」手を伸ばしかけ、止まった。
ル【神の使いです。触れても構いませんよ】
浄化と回復の光に包まれている女性兵は、
キュルリを抱いて安堵し、眠った。
始【俺より役に立つんだな……】
ル【コバルトも可愛いですよ】ふふっ♪
始【お祖父様ぁ、それはないですよぉ】
ル【私にとっては、いつまでも可愛い孫です】
ロ【私にとっては、ルバイルが可愛い曾孫よ♪
二神共、次を手伝ってくださるかしら?】
始&ル【はい♪】




