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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
380/429

受け継ぐ-ルリの祖母達

 またオマケです。m(_ _)m

ほんの少しだけ、時を遡ります。


♯♯ 天竜王城 ♯♯


 王太子の婚儀と虹紲(コウセツ)大臣の就任式との間に、アオはルリを連れて廊下を歩いていた。


(アオ、何処に行くのだ?)


(ムラサキ様の所だよ)


(それは……真魔界に進む準備なのか?)


(ん~、まぁ、心の区切りって所かな?)


(何だ? それは……)


(いいから、気にせず複製を保ってね)


(ふむ。今日はずっと、こんな服なのだな……)


(歩き辛い? でも儀式だし、仕方ないよね)

扉の前で立ち止まる。

(少しだけ、じっとしていてね)

気を高める。「偽装」にっこり。

「うん。短縮でも、ちゃんと出来た♪」


「何故、姿まで――あ……そういう事か……」



♯♯♯



「おお、アオ。今日は、どうしたのじゃ?

就任式まで、もうあまり間が無いじゃろ」


「失礼致します、ムラサキ様。

すみません、急に」


「いやいや。直前に行けばよいだけじゃからな。

気にせずとも――ヒマワリ? いや……違うな。

お嬢さんは、もしや、ヒマワリの孫か?」


「そうです。ヒマワリ様の孫のルリ(・・)です」


「え……?」


「実は、この姿が本当のルリなんです」


「では、先程までの、あの姿は……?」


「ルリは既に身体を失っていて、あれは俺の複製体なんです」

もう一体出し、蒼月煌を掛けた。


「この姿で婚約してしまったので、今後も公には、こちらになります。

ですが、新たな術技を得まして、本来のルリの姿にも出来るようになりましたので、改めてご挨拶に参りました次第なんです。

ルリがヒマワリ様の孫だという事も、この術技と共に知り得ました」


「そうか……本当にヒマワリそっくりじゃ……。

それで、今、ヒマワリは?」


「祖父母も、両親も……皆、私を護って……亡くなりました」


「そうか……ま、ヒマワリらしいな……」

感慨深気に目を閉じ、薄く笑った。



「ムラサキ様、お若い頃のヒマワリ様のお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


「おおそうか、供養にもなりそうじゃな。

ヒマワリは幼い頃から暴れ馬でのぅ、手の着けられん王女じゃった。

ただ、ベニ様を姉と慕い、ベニ様の言葉にだけは素直に従っておったのじゃ――」



――――――



「ベニ姉♪ 今日は狩猟か? 修練か?」


「今日は勉強よ。

知識を蓄える事は、戦には、とても重要なのよ」


「ふぅん……勉強は嫌いだな……でも、ベニ姉がするんならアタシも!」


「なら、一緒に歴史を学びましょう」


「うん♪」



――――――



「いつも、こんな調子でベニ様に くっついておったんじゃよ。

ベニ様の言葉は、女神様の言葉じゃと思うておったんじゃろうのぅ。

じゃから、大暴れしておってものぅ――」



――――――



「王女なんかクソッ喰らえだっ!

こんなトコ、出てってやるよっ!」


「待て! ヒマワリ! 母上に何て事を!」


「うっせーっ! 兄貴さえ居りゃいいんだろ!

アタシなんか要らねぇんだろーがよ!」


「落ち着け!

母上は、そんな事を言ってるんじゃない!

ちゃんと話を聞けっ!」


「どーせバカだよ! アタシなんて――」


「ヒマワリ、一緒にお菓子を焼かない?

私と一緒は嫌かしら?」


「ベニ姉……」


「私はヒマワリと一緒が良いのだけれど、ヒマワリは?」


「あ……うん。行く♪」



――――――



「――とまぁ、大騒ぎしていたのが嘘のように、おとなしく付いて行ったんじゃよ」


「ベニ様は『真紅の戦女神』と呼ばれていたそうですが、穏やかな方だったんですね」


「そうじゃ。戦の時だけは、燃えるような紅の瞳になってのぅ、武勇も抜きん出ておってな、まさしく『戦女神』じゃったが、普段は穏やかで、優しい微笑みを絶やさぬ姉姫様じゃった……」


「確かに、スミレ様と並んでいる肖像画は、穏やかな微笑みが そっくりですよね」


「そうなんじゃよ。あの蒼灰色の瞳が、やわらかく細められたら、もう男は、うっとり見惚れるより他に無しじゃよ」


「ヒマワリ様も、その瞳が大好きだったんでしょうね」


「そうなんじゃよ! よう知っておるな。

ヒマワリは、ベニ様に憧れておった……ベニ様になりたい、と、よう言うておったんじゃよ」


「それなのに、王族を離れてしまったんですね」


「ベニ様が亡うなってしもうたからのぅ」


「それがきっかけだったんですか……」


「諌める者も、宥める者も、全てがベニ様じゃったからのぅ……


あんなヒマワリにも、恋人が居ったんじゃが、その親は王族会に属しておっての、前々から息子をベニ女王の伴侶にと、勝手に話を進めておったんじゃ。

それでベニ様は、生涯結婚なんぞせぬ、と宣言してのぅ。

あれもヒマワリの気持ちを思うての事じゃろのぅ。


それで一旦は静かになっとったんじゃが、ベニ様がお亡くなりになられた直後、ヒマワリと恋仲じゃと知れての。

何しろ評判の悪い王女じゃからのぅ。

当然の如く、大反対じゃよ。

で、その男は、貴族の御令嬢と結婚してしもうたんじゃ。


ヒマワリは、訳だけでも教えろと押し掛けたが……聞き出せんかったようでなぁ。

暫くは鬱ぎ込んでおったが、唐突に大暴れして、出て行ってしもうたんじゃよ。


それっきりじゃ……」


(もしや、負に傾いている時に闇に触れたか?)

(うん……そうかもね)


「ルリさん、お祖父様は、どんな方じゃったんじゃ?」


「母方の祖父は、私が幼い頃に亡くなったので、殆ど覚えていないのですが、とても優しかったと……祖母も優しかったのですが、それ以上に激しいというか、厳しいというか……」


「変わらず粗暴じゃったのじゃろ?」


「まぁ……はい。

ですが、私を何度も助けてくれたのです。

きっと、強くなければならなかった……私の為に、気を張っていたのだと思います」


「そうか……。

ヒマワリは、一度、アオも助けたそうじゃよ。

アオを連れて来た時――その時はシロが会うたのじゃが、孫を護らねばならぬと言うておったそうじゃ」


「俺も……そうですか」


「アオに触れたら、今まで反抗しておったのが急に馬鹿らしくなったと、清々しい気分じゃと言うておったそうじゃ」


「偶然ですよ。そんな――」


【アオ、何? 私達、王都の警護なんだけど?】


「まさか、スミレ……なのか……?」【あ……】


「スミレ様と同腹のヒスイ様、アオイ様です」


【ムラサキ様、ご無沙汰致しまして申し訳ございません】


「竜魂の水晶に込められておったのか?」


「いえ。神様なんです。

ムラサキ様は、ベニ様のお相手が神竜様だとご存知でしたか?」


「ああ。知っておったよ。

結婚せぬと宣言してしもうた事も有って、王族会が孟反対でのぅ、それはもう哀れでのぅ」


「神竜様では、どんな貴族のご子息も太刀打ちできませんからね。

それは必死でしょう」


(そんなものなのか?)

(いや、呪だよ。

天竜と神竜が手を結ぶのは、どうしても阻止しなければならなかったんだよ)

(そうか……)


「その神竜様との御子なのじゃな?」


「はい。それで、アオイ様がルリの父様なんです」


「ええっ!? では、ルリさんはベニ様の孫……」


「アオイ様、こちらはヒマワリ様の兄上様、ムラサキ様です」


【では、前王様が……そうですか……】

アメシスは竜魂の水晶を取り出した。


水晶が光を帯び、女性が現れた。

【ヒマワリ様の娘、ユリです】


【伯父上様、お初にお目にかかります】


「そうか……ヒマワリに、よう似ておるのぅ。

しかし、優しそうな瞳は似ておらぬな」

ムラサキは楽しそうに笑った。


【ヒマワリ様の居場所は存じております。

近いうちに、お連れ出来ると存じます】


「そうか……ヒマワリとも会えるか……。

それで、ベニ様とお父上様は、今は?」


三神、顔を見合せた後、スミレが答えた。

【両親は神界の奥、偉い神様しか行けない所に居ると聞いております。

私達は成ったばかりの神。ですので、これからもっともっと修行して、いつか会えるように励むつもりなのです】


「そうか……いや、今日は良い日じゃ」


ムラサキは訪れた者達に微笑み、大きく頷いた。




♯♯ 魔竜王城 ♯♯


 虹紲大臣就任式の真っ最中――


(戦う時のルリの瞳は、ベニ様から受け継いだんだね)


(唐突に、どうしたのだ?)


(うん。感慨深いな、とね。

ルリの燃えるように輝く紅の瞳が、あまりに美しくて、戦っていても、つい見惚れるんだよ。

ベニ様も同じように輝いていたんだね……)


(私の瞳が? 輝いているのか?)


(あ……知らなかったの?)


(全く……)


(そう? とても綺麗なんだよ。

瑠璃色の鱗の煌めきと、輝く紅の瞳がね、とても対照的なんだ。

だからルリも『戦女神』だよ)


(恥ずかしい事をつらつら言うなっ)


(戦っていない時は、とっても可愛いよ)


(だからっ! 言うなっ!)


(うん♪ 可愛い♪)


(煩いっ!!)


(いいじゃないか、本当なんだから)


(知らぬ!)


(俺の自慢の可愛い奥さん♪)


(だから、やめろっ!)



――儀式は粛々と進んでいる。


 五人の竜王達の前に立つアオとルリは、眉ひとつ動かさず泰然としているが、こんな事を話していたのだった。





 この日の晩餐会で――


紫「就任式の前にアオが控室に来てのぅ」


白「アオが? ワシではなく、ムラサキに

  何の用じゃ?」


紫「ヒマワリの孫と会わせてくれたんじゃよ」


白「では、ここに来ておるのか!?」


紫「シロも会ぅておるよ」


白「誰なんじゃ!?」


紫「ヒマワリによぅ似とってのぅ……」


白「勿体振るなっ!」


青「相変わらず仲がお良ろしいですね」


紫「二人で挨拶回りか?」「ええ」


白「アオ、ムラサキの所に誰を連れて

  行ったんじゃ?」


青「ああ、それで」くすくす♪

 「では後程、控室の方に伺います」


白「アオまで勿体振るのかぁ?」


青「ここでは無理ですので。それだけです」


白「まぁ、あのヒマワリの孫ならば、

  それも致し方無しじゃな」ふむ。


青(納得されてしまったね)

瑠(私でも納得する)

青(実の孫にまで、そう言われるなんてね)

瑠(おそらく本人も納得だろう)


青「王族をお離れになられた方ですので。

  では後程」


 優雅に会釈し、次に向かう二人の背中は

楽し気に小さく揺れていた。


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