砂漠編24-養生
砂漠は抜けましたが、もう少しだけ……
西に飛んだクロは、港町近くの森に、水面の煌めきを見つけ、降下した。
澄んだ水が湧く泉の周りに小屋を出し、本格的な厨を作った。
「全員、回復するまで、ここで養生だ」
「ワラワは元気じゃから手伝うぞ♪」
「えっ……いや……姫は~~ そうだ!!
姫、何か起これば、動いてもらわなきゃなんねぇから、体力温存しといてくれ」
「むぅ~ そぅじゃのぅ……
皆、動けぬからのぅ。
あい解ったぞ♪ クロ♪」
ホッと胸を撫で下ろすクロ。
物珍しげにウロチョロしている姫の事は放っておいて、クロは夕食の支度を始めた。
視界の隅で、っとーしぃなっ!
危なっかしーったって ありゃしねぇっ!
やがて、姫は泉の行水小屋に向かって弾んで行った。
これでやっと、落ち着いて調理が出来――
小屋に入る前に振り返り、
「クロ~♪
婿に来てくれるならば、覗いてもよいぞ♪」
んな事するかーっ!!!
クロは心の内で、力の限り叫んだ。
♯♯♯♯♯♯
「港町ではなく、手前の森にいらっしゃるようでございますねぇ」
フジの背でカラクリ竜を見ながら、蛟が言った。
「あの水場ですね?」
フジは泉の近くに降下した。
踊り子は、アオの手を借りて降り立つと、
「美しい竜さん、ありがとう」
藤紫の竜の頭(手が届いたのは鼻先だったが)を撫でた。
「み、蛟殿っ、薬をお願いします。
それではっ、また届けますので!」
フジは早口で言って、飛んで行ってしまった。
「照れてしまいましたねぇ」
小さくなっていくフジを見送りながら、蛟が笑いを堪えて呟いた。
♯♯♯♯♯♯
数日後――
「クロ様、私は、もう大丈夫でございますので、船を調達する為に、港町に行こうと思うのでございますが――」
皿を洗いながら、蛟が言った。
クロは、食材を確認していた手を止め、
「買い出しも必要だな……俺も行くか」
立ち上がった。
「蛟殿、薬は最後まで、飲みきってくださいね」
二人の背後で、フジが微笑んでいた。
「薬の効き具合を確認しに参りました。
それと、こちらは船酔い止めの薬です」
「船酔い?」蛟とクロ。
「ずっと揺られていると不調になるそうです。
シロお爺様が『死ぬかと思った』そうなので、モモお婆様と作ってみました」
「へぇ~、よく分からんが、頑張れよ♪」
クロが蛟の肩をポンッと叩く。
「それと――」
フジは懐から巻いた布を取り出し、
「この布で顔を覆えば、海の中でも息ができますし、目を開けても大丈夫だそうです」
「すっぽり被ればよろしいのですか?
あ……薄くて、向こうが見えますね」
布を受け取った蛟は、顔の前に広げ、辺りを見回した。
「細工は、お任せください♪」キラ~ン
「クロ~♪ 手伝ぅてしんぜよぅぞ♪」
少し離れた木の陰から姫が現れた。
「んなモン要らねぇっ!
オレ達は、これから港町へ行く!」
姫に触らせたら、皿が幾つ有っても
足りやしねぇっ!
ブツブツ言いながら、クロは手早く食材を片付けた。
蛟も、そそくさと皿を片付け始めた。
「あっ……」フジが慌てて立ち去ろうとする。
蛟が、姫の方を見ると、姫の後ろに、踊り子と珊瑚が続いていた。
「あら、もう おひと方いらっしゃったのですね?」
「あれはフジ。アオとクロの弟じゃ」
姫が振り返り、答える。
また、前を向き、
「フジ、何故、逃げよぅとしておるのじゃ?」
「えっ……いや……逃げるなど……」
フジが固まる。
「フジも一緒に、港町に行かぬか?」
「なんで、姫も行く風に誘ってんだよ!」
「何か、おかしいか?」
「何の用があるってんだよぉ」
「用は無いが、抜け駆けは許さんぞ♪」
「何で買い出しに、姫の許しを請わなきゃなんねぇんだよぉ」
踊り子と珊瑚は笑いながら、そのやりとりを聞いていたが、
珊瑚は、前を歩く踊り子をチラと見、これ以上、待たせてはいけないと思った。
「それでは、皆で移動しては如何でしょうか?
私共も、もう大丈夫ですので」にっこり
「そうか?」クロは珊瑚の顔色をじっと見る。
「クロ様のご馳走と、フジ様のお薬と、踊り子さんの癒しの舞で、しっかり養生できました。
皆様、ありがとうございました」雅やかに礼。
「そっか……じゃ、行くか!」
「おー♪」姫が拳を挙げる。
「フジ様、如何なさいます?」
蛟が、こそっと尋ねた。
「あ……ええ……」
フジも何故か片付けに加わった。
♯♯♯♯♯♯
(サクラ……)
(なぁに? アカ兄♪)
(アオ達は?)
(港町に向かってるよ~)
(クロとフジは?)
(いっしょ~)
(ふむ。ならば、戻れ)
(なんでぇ?)
(戻れば判る)
(ふぅん……)工房へ。
♯♯♯
「で、なぁに?」現れた。
アカは無言で、視線を卓に向けた。
「えっ……三眼の玉……こんなに……」
「洞窟の倉庫に、まだ有る筈だ」
「じゃあ、今まで知らずに集めてたんだ……
探してくるっ!」消えた。
♯♯♯
倉庫に現れたサクラは、奥に向かって駆けて行った。
光ってる! やっぱり有るんだ!
あちらこちらに、色とりどりの光が見えた。
光ってるの、全部、三眼の玉だ……
俺の中の三眼の魂が光らせてるのかな?
倉庫内を見回し、小さな壺を小脇に抱え、光っている玉を集めていった。
「もう、無い?」
光る物は無く、心の内で誰かが、『御座いません』と、言った気がした。
もしかして、キン兄も持ってるかな?
♯♯♯
「キン兄♪」元気に扉を開ける。
「ん? どうしたのだ? サクラ」
「こんな玉、持ってなぁい?」ひとつ取り出す。
「ふむ、似た玉ならば――」
キンは立ち上がり、奥の棚から箱を取り出した。
「これか?」蓋を開ける。「何故、光って――」
「うん。倉庫のも光ってたんだ。
だから間違いない。全部、三眼の玉だよ」
「そうか。アオに渡して欲しい」
「うんっ♪」再び工房へ。
♯♯♯
「アカ兄♪ これも貰うねっ♪」玉を壺へ。
「三眼、手を加えたい。持って来い」
「じゃ、アカ兄も行こぉよぉ。
俺だけで動いたら、クロ兄に怒られるからぁ」
「ふむ……ならば、これを片付ける迄、待て」
「うん♪」
姫「のぅ、男共は皆、『踊り子さん』
なんぞと呼んでおるが、よいのか?」
踊「それでいいんですよ。
姫様も同じではありませんか」
姫「まぁ、ワラワは姫じゃからの。
それでよいのじゃ」
踊「珊瑚さんも、呼び名なんでしょ?」
珊「そうですが……」
踊「だったら、みんな同じでしょ♪」
珊「では、せめて呼び名を。
姫様、お願い致します」
姫「そうじゃな♪」
踊「いえ、このままで!
私、この仕事が大好きなんですから~」
姫「さよぅかぁ。ならば仕方ないのぅ」




