祝と呪1-王太子の婚儀
そして、思い出深い島で朝を迎えました。
「兄貴達~! 朝だよ~っ♪」
むくり、むくりと兄達が起きる。
そっか~♪
これも、ここからだったんだね~♪
「家賽 片付けちゃうよっ!
ねぇ、起きてってば~!」
「まだ暗いじゃねぇかよぉ」
「ハク兄、婚儀でしょっ」
「朝っぱらから元気だよなぁ」
「若いからね~♪
俺、魔竜王城に行くからね♪
ちゃんと起きてねっ!
アオ兄、家賽 片付け――あれ? アオ兄どこ?」
「隣の小屋だろ」「なんで?」
「サクラが出したんじゃねぇかよ」
「アオ兄を? 俺が? なんで?」
「家賽の小屋をだよっ!」「なんで?」
「寝ボケて術してたのか?」「術? 何の?」
「アオに聞けよなっ!」「ん~、そぉする~」
サクラはアオと話し始めたらしく、静かになった。
「ハク、行くぞ」「ん? ああ」
キンはハクの肩に手を当て、曲空した。
「見に行く~♪」ぴょんぴょこ出て行った。
『ヒスイが二人!? えっ!?
こっちアメシス様なのっ!?
アオ兄、ちゃんと教えてよぉ!!』
「ホントにサクラは寝たまま術してたんだな……」
「クロ兄様、それは後にしましょう。
リリスも中の城に居るのですよね?」
「そっか。迎えに行かねぇとな。
アカ――いねぇな。小屋どーすんだ?」
「まだサクラもアオ兄様も居ますから、このままでよいのではありませんか?」
クロとフジも曲空した。
――中の城。
「黒之介様♪ 藤之丞様♪
本日はお日柄も良く、真に目出度き――」
「志乃! 船の刻じゃと何度申せば出立出来るのじゃっ!?」
「只今っ! お待ちあれっ!」パタパタパタッ。
「クロ、来ておったのか♪
リリス♪ フジが来ておるぞ♪」「はい♪」
見事な錦で、その身を包んだリリスが現れた。
「人としての正装じゃ。
これでもよいのじゃろ?」「ああ、勿論だ」
「フジは如何じゃ?」
「お~い、フジ。どうした?」肩をポンッ。
「え? ……あ、あまりに綺麗で……」
「見惚れてたんだな?♪」ニヤニヤ。
「リリス、とても素敵です」にこっ。
「聞こえておらぬよぅじゃぞ」
「だな。もうオレ達なんか見えてねぇよな。
二人は ほっといて、姫も着替えろよ」
「父上と志乃を船まで送ったらの」
「志乃さん、どこに消えたんだ?」
「さぁのぅ……」
「ひとまず殿を運ぶか――って、殿もどこだ?」
「うぬぬ~、勝手に来ればよいのじゃっ!」
「そりゃムリだろ」
「姫様ぁ、あ♪ クロ様も♪
おはようございますぅ」
「おっ♪ ミズチ、久方ぶりじゃのぅ♪
その箱を持って来てくれたのじゃな♪」
「船の方には、箱で移動すると伝えておりますぅ」にこにこ♪
「家老、流石シッカリしてるなっ♪」
鏡を立て掛けた。
「出口は控え室でございますよ♪」
「うむ♪ 確かに流石じゃ♪
では、クロ。ここは任せて参ろぅぞ♪」
「フジ――は、行っちまったな。ん、行こっ♪」
手に手を取って弾みながら着替えに行った。
♯♯ 赤虎工房 ♯♯
「アカ兄、ワカナさん、ありがと♪
じゃ、また後でね~♪」曲空♪
「行ったか?」着替えて出て来た。
「あ……」
「どうした?」
「なっ、なんにもっ!」あわあわわっ!
王子様に『王子様だ~』って思っちゃったぁ!
当たり前だし、初めて見るのでもないのにぃ!
「ワカナ様、お召し替えを」「はいっ!」
♯♯ 魔竜王城 ♯♯
「ラン~♪」「あ♪ サクラ♪」
「新しい外套留めだよ♪」
「まあっ♪ 両国の紋章が♪」
「赤虎作なんだ♪」「素敵っ♪ 綺麗ね~♪」
きゃっきゃしながら扉の前へ。
ひと呼吸。
王と女王になって廊下に出た。
♯♯ 赤虎工房 ♯♯
「ん……」曲空する、と手を差し出す。
「あの……変じゃない? 私――」
「……綺麗だ……」ボソッ。
「え?」手を取られ――
――王子と婚約者達に囲まれた。
(自信を持て。ワカナが一番だ)
(あ……アカ……)
照れて目を合わせない二人は、手を繋いだままだった。
♯♯♯
「あれ? ルリ姉、そっちの顔なの?」
「こちらの顔で婚約したからな」にこっ。
「ホントの顔の方が美人さんなのにね~」
「それは俺だけの宝物だからね」「アオ!」
「術技『偽装』はお教え頂いたから、御両親には時々見せるかな」にこにこ♪
「あ、ありがと……」
「俺、ランとこ行く~」退散。
♯♯♯
天竜王城での王太子達の婚儀は荘厳華麗に、続く魔竜王城での虹紲大臣就任式は粛々と滞りなく進み、終了した。
(クロ、アカ、結界を確かめよう)
三人、王都上空に曲空した。
(ふむ……念のため補強する)詠唱開始。
クロが供与し、アオも光の結界を成した。
(祠からの結界も、前回より強くなったな)
(祠が完成したからね)
(これなら明日の祝列も大丈夫だろう)
(釈迦様と弥勒様もいらしてくださるんだよ)
(流石、抜かり無いな)(ありがと)
(戻るぞ)(うん)二人、曲空。
(二人だけで話すなよ!
終わったら終わったって言えーっ!)
(あ、忘れてた……)
(ひっでぇなぁ。笑うなっアカ!)
クロがアオとアカを追いかけて控え室に曲空すると、王太子と妃まで来ていた。
「何で王太子まで、ここに居るんだよ」
「お前らだって各々の部屋にゃ行かねぇじゃねぇかよっ」にこにこ♪
「ハク兄、顔ゆるゆる~♪」きゃははっ♪
「お前らもだよっ」へらへらへら~♪
「で、アオ。夜中の――どこ行くんだよ?」
「執務。急ぎだけ片付けて、すぐ戻るよ」
「ボタン様、ミカン様、素敵でした~」
「あら? リリス様、お着替えになったの?」
「静香様も……綺麗なお着物でしたのに」
「この後、踊らねばならぬと……のぅリリス」
「はい♪ それだけは楽しみなんです♪」
「あぁぁぁ緊張してしまいますぅぅぅ」
「ワカナ殿、大丈夫じゃ。楽しめばよいのじゃ」
「楽しそうだよな……」
「そうですね。
リリスも……人であっても受け入れて頂けて、本当に良かったです」
「だよな。姫なんてイッチバン偉そうだしなっ」
「確かに……」ははは……。
「にしても、スッゲー威厳放ってた虹藍女王様が、にこにこ座ってんだよな。
ああしてるとカワイイ女の子だよな~。
サクラ王もだけど、別人ハンパねぇよな」
「だって~、大変なんだも~ん。
アレ、めーーーーいっぱいなんだからねっ」
「ですから、婚儀を早めたのですね?」
「うん♪ ちゃんと支えたいからねっ♪
あ♪ ランに呼ばれた~♪」
「次はサクラの婚儀なのですね……」
「中身はシッカリ大人だと、護竜杖に言われたよ」
「私も護竜甲殿に……ハク兄様からも」
「フジも早く結婚したいんじゃねぇのか?」
「確かに……ですが、平和にする方が先だと思っています」
「そっか……だよなっ。
あと少しだ。頑張ろうなっ!」「はいっ!」
「あ……サクラ王が、お茶淹れてる……」
桜「アオ兄♪ 俺も『偽装』使いたい~♪」
青「うん、いいよ」掌を翳し、光を放つ。
桜「あ♪ ここがチョイ違ってたんだ~♪」
青「サクラ、偽装を知っていたの?」
桜「うん。でも間違いあった~」
青「その本、訂正しないとね」
桜「そぉだね~。
俺ね、大学と修練、アンズだったんだ。
偽装したかったのに、できなくて~、
仕方なく蒼月煌してたんだ」
青「苦労させてしまったね……」
桜「でもね♪ 今と~っても役に立ってるから
とってもと~~っても嬉し~の♪」
青「やっぱりサクラには感謝しかないな。
ずっと支えてくれて、先導してくれて
ありがとう」
桜「いっしょにいたいだけだからぁ」やぁん。
青「うん。これからも一緒に、ね」
桜「うんっ♪♪ アオ兄だぁい好きっ♪♪」




