島の夜18-アンズ
次に目を覚ましたのは――
サクラは目を覚ました。
窓から見える星空は、とても美しく、夜明けには、まだ少し時を要するようだった。
久しぶりに、森で暮らしてた頃の事、
夢で見ちゃった……。
あの時のアオ兄って……
そっか! 始祖様だ!
今の始祖様そっくりなんだ!
きっと、アオ兄が死んじゃわないよぉに
中で頑張ってくださってたんだ……。
うん♪ 納得♪
だからアオ兄の指だけが子守歌
覚えてたんだね~
……そっか……
育ててくれたの、始祖様なんだ……。
でも時々ちゃんとアオ兄だったよね?
笑顔が……うん。違ってた!
だから『二人』って思ってたんだもん。
ホントにアオ兄『二人』だったんだ~
そっか~
だから俺、始祖様も大好きなんだ……♪
あの頃……
俺は俺として外に出られなかったから
姿を変えたんだよね。
でも、偽装の術技は、うまくいかなくて、
イヤだったけど蒼月煌しかできなくて……
イヤでイヤでイヤでイヤで
どぉしよ~もなくイヤで!
必死で偽装 使えるよぉになりたい!
ってガンバったよね~
アレって生まれて初めての挫折だよね~
でも、あの時も
アオ兄――と始祖様も、だね~
とにかく、笛の音 聴いてたら
ずっとアオ兄と一緒がいい!
って思って……
そのためには蒼月煌が必要なんだって
すっごく強く思っちゃって……。
でもなんで『必要』って思っちゃったんだろ?
でも……今、確かに必要だよね……。
アレも『拾った』って事なのかなぁ……?
よくわかんないけど、でも、
イヤを越えたら楽しくなっちゃったよね~♪
うん♪ けっこう楽しかった!♪
――――――
サクラは、渇ききった砂地が水を吸い込むような勢いで、何事も吸収していった。
そして、年齢制限を撤廃しながら、試練や試験を突破し、三人歳を前にして大学に入学した。
その合格発表の日、サクラは報告の為、大婆様の部屋を訪れた。
「サクラ、如何にして大学に通うのじゃ?」
「はい、考えてはおります。
大婆様、僕の闇をご覧ください」
サクラが纏う光を強め、口の中で何事か唱えると、その光が内に吸い込まれた。
「ふむ……見えぬよぅになったぞ。
それならば、長老の山の結界の内ならば大丈夫じゃろ。
姿は、見せるのか?」
「いえ、そうすると、誰かを危険に巻き込んでしまう恐れがありますので――」
サクラの姿が変わった。
「まだ、会得したばかりなので、不完全なのですが、もう少し練習して、必要最低限のみ登校するつもりです。
あとは、課題提出と試験のみで卒業しようと思っています」
「では、その姿で修練も、と考えておるのじゃな?」
「はい。修練は期間も長いので、もうひと工夫しなければなりませんが、基本この姿で、と考えております」
「もぅ、サクラは、ひとりで考えて行動できるのじゃな」にこにこにこ。
「いえ、アオ兄さまがいなければ僕なんて……でも、アオ兄さまのためにも、僕は頑張りたいのです」
「サクラにしか支えられぬ。
よぅよぅ頼んだぞ」
「はい!」
♯♯♯♯♯♯
大学の入学式が近付いた、ある日、アンズは学長室を訪ねていた。
「では、サクラ様、当学では女性で、という事ですね?」
「はい。御無理を申しますが、宜しくお願い致します。
事務処理等は、私の執事にさせてもよろしいでしょうか?」
「そうですね。
守秘の為、それがよろしいと存じます。
正規の事務員として、登録してもよろしいでしょうか?」
「はい。お願い致します。
普段は、通常の事務員としてお使いください」
「全教養科目の試験は十日後。
その成績にて、今後を決めさせて頂きます」
「はい。宜しくお願い致します」
勿論サクラは、その全科目を満点合格し、入学して、即、専攻に進み、研究室に入った。
「アンズちゃん、この欠片、何だと思う?」
「ん?」掌を翳す。「出土品なのね……。
この陶器、小さすぎて話せないから確かな事は言えないけど、五彩か三彩よ」
「それ、何する物なの?」
「鍵よ。掌に乗るくらいの陶板で、強い術で封印されていなければ、物でも結界でも何でも開くわ。
三彩は廉価物だから、歴史が新しいんだけど、出土時代は?」
「かなり古い地層らしいわ」
「じゃあ、五彩ね♪」
「アンズちゃんって、凄いね……どこで勉強したの?」
「兄が竜宝に詳しいの」にこっ♪
「学者さん?」
「ううん、お医者さんよ。
フジ様と一緒に竜宝薬を研究しているの」
「王子様の助手なの!?」
そっか……僕の兄だと、
フジ兄さんより歳上だとは思えないよね……。
「そうなの。
でも、なかなか近づけないらしいのよね」
「王子様だもんね~。そりゃそうよね~」
二百歳前後の学生が殆どの中、二十七歳で入学したサクラは、女の子として、楽しく学生生活を送っていた。
一年程で女姿にも慣れたサクラは、修練も同時進行すると決め、アオが作った無差別枠で軍人学校に入学した。
大学と修練場を曲空で行来する生活は、三十七年続いた。
特級修練は出撃要請がかかる為、大学院を卒業し、竜宝学博士となってから進んだ。
「アンズ=カムル第一班長」
「はい!」
午前の鍛練が終わった特級修練場で、教官から呼び止められた。
「いや、私的な事なのだが、少しいいか?」
「はい」
昼食に向かう班員達から離れる。
「班長の母親は、ルリという名ではないのか?」
「いえ、ミドリです」
「そうか……人違いだったか……」
「どうかしたのですか?」
「いやな、私が特級修練をしていた時の班長が同じ姓でな。
そんなに多い姓ではないので、娘なのかと思ったのだ」
「そうですか……」
「それだけだ。気にしないでくれ。
足を止めて、すまなかった」
寂しそうな色の教官の背中が気になって、アンズは、校長室に向かった。
「ルリ=カムルとは、どのような方だったのですか?」
「サクラ様は、その名をどうして知り得たのですかな?」
「ある方から、母親なのかと尋ねられました」
「そもそも、何故、その姓をお選びなされたのですかな?」
「それは……差し支えのない姓は兄達が使っておりましたし、ずっと心に引っかかっている姓でしたので……それだけなのです」
「では、何方かからお聞きになられたのではないのですね?」
「はい。気がついたら、心に……。
ですが、全く覚えのない姓でしたので、使っていれば、手がかりが掴めるかと思ったのです」
「然様ですか……。
彼女は、この学校を大変優秀な成績で卒業し、軍に所属しておりましたが、退役されたようで、その後の事は全く存じません。
おそらく、軍の者、誰ひとりとして知らないのではないでしょうか」
「……ご存命なのですか?」隠してる?
「それも、全く……」
「そうですか……」話せないのですね?
「姿を消されたのにも理由がお有りなのでしょう。
あまり深掘りなさらぬ方がよろしいかと存じますよ」
「はい。そうですね」知るべきではない、か。
アンズ=カムルは、ルリ=カムルの再来と密かに噂されながら、同様に多くの勲章を受け、優秀な成績で修練を卒業した。
サクラは、その噂を知ってはいたが、触れる事なく、そっと軍を離れた。
そして、外に出る必要がなくなったサクラは、アオと共に、竜宝について研究を始めた。
同時に、天性や術・技についても、神話や歴史に関しても、自分達の出生の謎も、調べ始めた。
サクラは、感情を露にしないよう努め続けていた為、素直な感情を出さないのは癖になっていたが、
兄達の婚約の儀で『アンズ』と呼ばれて、実は動揺していたし、蒼牙の欠片を集めた時にルリ=カムルを見付けた時も、やっと繋がった事に、実は驚愕していた。
――――――
あ……大学の学長さんって……
魔竜王立大学の学長さんだ……。
どぉやって行ったんだろ? また妖狐便?
行けるなんて思ってなかったから
気づかなかったよ……。
ん? 今ふと浮かんだけど……
『ココおじちゃま』って……だぁれ???
桜(始祖様♪)
始【どうした?】
桜(森に住んでた頃のアオ兄って始祖様でしょ)
始【いや……それは……】
桜(ナイショなの? 始祖様?)
始【うっ……】
桜(神様ってナイショ大好きだもんね~)
始【だからだな……それは――】
桜(育ててくださり、ありがとうございました)
始【サクラ……】
桜(それ言いたかっただけ~♪
おやすみなさ~い♪)
始【ああ。ゆっくり休めよ】
桜(うんっ♪ 始祖様♪ だぁい好き♪)
始【え?】
桜(きっとアオ兄もだよっ♪)
始【そう、か……】
桜(うんっ♪ じゃ、また明日ね~♪)
始【ああ】
コバルトはアオを見詰めた。
カ【コバルト? どうしましたか?】
始【父様、俺とアオの絆って……?】
カ【それですか……ゴルチル様が無理矢理
結んでしまったのです。
スミレとの絆が成っていたのに】
始【また禁忌ギリギリを?】
カ【その通りです。切れませんよ、それは】
始【それなら……安心しました】
カ【安心……そうですか】にこにこ。




