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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
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島の夜18-アンズ

 次に目を覚ましたのは――


 サクラは目を覚ました。

窓から見える星空は、とても美しく、夜明けには、まだ少し時を要するようだった。


 久しぶりに、森で暮らしてた頃の事、

 夢で見ちゃった……。


 あの時のアオ兄って……

 そっか! 始祖様だ!

 今の始祖様そっくりなんだ!


 きっと、アオ兄が死んじゃわないよぉに

 中で頑張ってくださってたんだ……。


 うん♪ 納得♪


 だからアオ兄の指だけが子守歌

 覚えてたんだね~


 ……そっか……

 育ててくれたの、始祖様なんだ……。


 でも時々ちゃんとアオ兄だったよね?

 笑顔が……うん。違ってた!

 だから『二人』って思ってたんだもん。

 ホントにアオ兄『二人』だったんだ~


 そっか~

 だから俺、始祖様も大好きなんだ……♪


 あの頃……

 俺は俺として外に出られなかったから

 姿を変えたんだよね。


 でも、偽装の術技は、うまくいかなくて、

 イヤだったけど蒼月煌(ソウゲツコウ)しかできなくて……


 イヤでイヤでイヤでイヤで

 どぉしよ~もなくイヤで!

 必死で偽装 使えるよぉになりたい!

 ってガンバったよね~


 アレって生まれて初めての挫折だよね~


 でも、あの時も

 アオ兄――と始祖様も、だね~

 とにかく、笛の音 聴いてたら


 ずっとアオ兄と一緒がいい!

 って思って……


 そのためには蒼月煌が必要なんだって

 すっごく強く思っちゃって……。


 でもなんで『必要』って思っちゃったんだろ?


 でも……今、確かに必要だよね……。

 アレも『拾った』って事なのかなぁ……?


 よくわかんないけど、でも、

 イヤを越えたら楽しくなっちゃったよね~♪


 うん♪ けっこう楽しかった!♪



――――――



 サクラは、渇ききった砂地が水を吸い込むような勢いで、何事も吸収していった。

そして、年齢制限を撤廃しながら、試練や試験を突破し、三人歳を前にして大学に入学した。


 その合格発表の日、サクラは報告の為、大婆様の部屋を訪れた。


「サクラ、如何にして大学に通うのじゃ?」


「はい、考えてはおります。

大婆様、僕の闇をご覧ください」


サクラが纏う光を強め、口の中で何事か唱えると、その光が内に吸い込まれた。


「ふむ……見えぬよぅになったぞ。

それならば、長老の山(ヤマ)の結界の内ならば大丈夫じゃろ。

姿は、見せるのか?」


「いえ、そうすると、誰かを危険に巻き込んでしまう恐れがありますので――」


サクラの姿が変わった。


「まだ、会得したばかりなので、不完全なのですが、もう少し練習して、必要最低限のみ登校するつもりです。

あとは、課題提出と試験のみで卒業しようと思っています」


「では、その姿で修練も、と考えておるのじゃな?」


「はい。修練は期間も長いので、もうひと工夫しなければなりませんが、基本この姿で、と考えております」


「もぅ、サクラは、ひとりで考えて行動できるのじゃな」にこにこにこ。


「いえ、アオ兄さまがいなければ僕なんて……でも、アオ兄さまのためにも、僕は頑張りたいのです」


「サクラにしか支えられぬ。

よぅよぅ頼んだぞ」


「はい!」



♯♯♯♯♯♯



 大学の入学式が近付いた、ある日、アンズ(サクラ)は学長室を訪ねていた。


「では、サクラ様、当学では女性で、という事ですね?」


「はい。御無理を申しますが、宜しくお願い致します。

事務処理等は、私の執事にさせてもよろしいでしょうか?」


「そうですね。

守秘の為、それがよろしいと存じます。

正規の事務員として、登録してもよろしいでしょうか?」


「はい。お願い致します。

普段は、通常の事務員としてお使いください」


「全教養科目の試験は十日後。

その成績にて、今後を決めさせて頂きます」


「はい。宜しくお願い致します」




 勿論サクラは、その全科目を満点合格し、入学して、即、専攻に進み、研究室に入った。




「アンズちゃん、この欠片、何だと思う?」


「ん?」掌を翳す。「出土品なのね……。

この陶器、小さすぎて話せないから確かな事は言えないけど、五彩(ゴサイ)三彩(サンサイ)よ」


「それ、何する物なの?」


「鍵よ。掌に乗るくらいの陶板で、強い術で封印されていなければ、物でも結界でも何でも開くわ。

三彩は廉価物だから、歴史が新しいんだけど、出土時代は?」


「かなり古い地層らしいわ」


「じゃあ、五彩ね♪」


「アンズちゃんって、凄いね……どこで勉強したの?」


「兄が竜宝に詳しいの」にこっ♪


「学者さん?」


「ううん、お医者さんよ。

フジ様と一緒に竜宝薬を研究しているの」


「王子様の助手なの!?」


 そっか……僕の兄だと、

 フジ兄さんより歳上だとは思えないよね……。


「そうなの。

でも、なかなか近づけないらしいのよね」


「王子様だもんね~。そりゃそうよね~」




 二百歳前後の学生が殆どの中、二十七歳で入学したサクラは、女の子(アンズ)として、楽しく学生生活を送っていた。


 一年程で女姿にも慣れたサクラは、修練も同時進行すると決め、アオが作った無差別枠で軍人学校に入学した。


 大学と修練場を曲空で行来する生活は、三十七年続いた。

特級修練は出撃要請がかかる為、大学院を卒業し、竜宝学博士となってから進んだ。




「アンズ=カムル第一班長」


「はい!」


午前の鍛練が終わった特級修練場で、教官から呼び止められた。


「いや、私的な事なのだが、少しいいか?」


「はい」


昼食に向かう班員達から離れる。


「班長の母親は、ルリという名ではないのか?」


「いえ、ミドリです」


「そうか……人違いだったか……」


「どうかしたのですか?」


「いやな、私が特級修練をしていた時の班長が同じ姓でな。

そんなに多い姓ではないので、娘なのかと思ったのだ」


「そうですか……」


「それだけだ。気にしないでくれ。

足を止めて、すまなかった」


寂しそうな色の教官の背中が気になって、アンズ(サクラ)は、校長室に向かった。




「ルリ=カムルとは、どのような方だったのですか?」


「サクラ様は、その名をどうして知り得たのですかな?」


「ある方から、母親なのかと尋ねられました」


「そもそも、何故、その姓をお選びなされたのですかな?」


「それは……差し支えのない姓は兄達が使っておりましたし、ずっと心に引っかかっている姓でしたので……それだけなのです」


「では、何方かからお聞きになられたのではないのですね?」


「はい。気がついたら、心に……。

ですが、全く覚えのない姓でしたので、使っていれば、手がかりが掴めるかと思ったのです」


「然様ですか……。

彼女は、この学校を大変優秀な成績で卒業し、軍に所属しておりましたが、退役されたようで、その後の事は全く存じません。

おそらく、軍の者、誰ひとりとして知らないのではないでしょうか」


「……ご存命なのですか?」隠してる?


「それも、全く……」


「そうですか……」話せないのですね?


「姿を消されたのにも理由がお有りなのでしょう。

あまり深掘りなさらぬ方がよろしいかと存じますよ」


「はい。そうですね」知るべきではない、か。



 アンズ=カムルは、ルリ=カムルの再来と密かに噂されながら、同様に多くの勲章を受け、優秀な成績で修練を卒業した。

サクラは、その噂を知ってはいたが、触れる事なく、そっと軍を離れた。




 そして、外に出る必要がなくなったサクラは、アオと共に、竜宝について研究を始めた。

同時に、天性や術・技についても、神話や歴史に関しても、自分達の出生の謎も、調べ始めた。





 サクラは、感情を露にしないよう努め続けていた為、素直な感情を出さないのは癖になっていたが、

兄達の婚約の儀で『アンズ』と呼ばれて、実は動揺していたし、蒼牙の欠片を集めた時にルリ=カムルを見付けた時も、やっと繋がった事に、実は驚愕していた。



――――――



 あ……大学の学長さんって……

 魔竜王立大学の学長さんだ……。


 どぉやって行ったんだろ? また妖狐便?

 行けるなんて思ってなかったから

 気づかなかったよ……。



 ん? 今ふと浮かんだけど……


『ココおじちゃま』って……だぁれ???





桜(始祖様♪)


始【どうした?】


桜(森に住んでた頃のアオ兄って始祖様でしょ)


始【いや……それは……】


桜(ナイショなの? 始祖様?)


始【うっ……】


桜(神様ってナイショ大好きだもんね~)


始【だからだな……それは――】


桜(育ててくださり、ありがとうございました)


始【サクラ……】


桜(それ言いたかっただけ~♪

  おやすみなさ~い♪)


始【ああ。ゆっくり休めよ】


桜(うんっ♪ 始祖様♪ だぁい好き♪)


始【え?】


桜(きっとアオ兄もだよっ♪)


始【そう、か……】


桜(うんっ♪ じゃ、また明日ね~♪)


始【ああ】


 コバルトはアオを見詰めた。


カ【コバルト? どうしましたか?】


始【父様、俺とアオの絆って……?】


カ【それですか……ゴルチル様が無理矢理

  結んでしまったのです。

  スミレとの絆が成っていたのに】


始【また禁忌ギリギリを?】


カ【その通りです。切れませんよ、それは】


始【それなら……安心しました】


カ【安心……そうですか】にこにこ。


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