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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
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島の夜16-コバルトとアオ①

 小屋の外では――


 スミレが、複製を準備しているアオと、それを待っているルリとアメシスを追い越して小屋に入り、ヒスイがスミレを追い掛けた。

アオ達も小屋に入って少しして、スミレはバナジンまでも小屋に連れて行った。


コバルトも呼ばれたが、ひとりにさせて欲しいと残り、星空を見上げた。


 幸せになれて良かったな……アオ……。



――――――



 ルリを護る事が出来なかったコバルトは、遅れて駆けつけたカルサイに依って、アオを護れと、悲しみの咆哮を上げ続けるアオの中に封じ込められた。

それでも暴走しかねないアオは眠らされた。


 コバルトは、心を縛る呪の鎖が、アオの浄化の力に抗い足掻く為、あまりの苦しみに堪えきれず、アオの中から逃げ出した。

しかし、直ぐにゴルチルに見つかり、今度は幾重にも相殺を掛けられ、再びアオの中に封じ込められてしまった。


【二度と逃げられぬよう、アオと繋いだ。

この絆を断ち切ろうとすれば、お前は消滅する。

いいな?『(アオ)』を護れ。

お前は、その為に天竜王に成ったのだろう?】


(く……苦、し……い……)


【少しの辛抱だ】


(ま、た、俺……を、滅……)


【滅するどころか、お前はアオに救われる】


(嘘……だ、ろ……)


【『闇障(ルリ)』の代わりになる他は無いだろう?

もうひとつの『闇障』は、最後の卵なのだからな】


(勝手、な事……言うな!)


【随分と慣れたようだな】


(慣れるかよっ! ……え?)


【やっと気付ける程になったか。

折角また身体を得たのだ。楽しめばいい。

お前の笛を置いておく】


(待て! 説明しろっ! オッサン!!)


【だから『繋いだ』と言ったろ。

今のお前は、アオの一部だ。せいぜい護れ】


ニヤリとしてゴルチルは消えた。



♯♯♯♯♯♯



 アオの心の中で、どうにか動けるようになったコバルトは、アオ自身を探した。


心の奥の奥の深い場所で、アオは眠っていた。


 こんな……小さくなりやがって……。


触れたとたん激痛に貫かれた。

アオの悲しみや怒りが迸り、強い拒絶が痛みと化したのだった。


 本気で消え去ろうとしているのか!?


弾き飛ばされたコバルトは、何度も何度も、その痛みと闘い、ようやく小さな光を抱きしめた。


 死ぬな! 死なないでくれっ!!


(すまない……護れなくて……すまない!)


痛みは増すばかりだったが、コバルトはアオを抱きしめ続け、涙を流し、謝り続けた。




 どれだけそうしていたのかも分からなくなった頃、アオから光が湧き、コバルトを包んだ。


 俺を縛る鎖が……動かなくなった……?


(アオ、目覚めたのか?)


返事は無い。


 眠っている……よな?


 起こすには……?


 アオは『光』なんだから――


コバルトは光を求めて浮上した。



♯♯♯♯♯♯



 アオの中で、落ち着ける場所を見つけたコバルトは、アオを抱え、生命力を分け与え、ひたすら謝り続ける日々を送っていた。


 アオが目覚める兆しは全く無かったが、コバルトは、どうにかアオの身体を動かせるようになり、二年程して、笛を奏でられるまでになった。


 更に一年程後、アオを呼ぶ『声』に導かれ、行ってみると、サクラが孵化しており、殻の中にはサクラの他に二人、神竜の子が入っていた。


それを見た為か、カルサイがキンを気絶させた。


コバルトは咄嗟にキンを支え、

「あの子達は俺が育てる。親父、いいだろ?」

そんな言葉を口走っていた。


【今のコバルトなら大丈夫ですね。

お願いしますよ】


「ああ、任せろ。俺の子孫だからな」

自分で言っておいて驚き、神竜達の個紋を確かめた。


【私の子孫でもあるのですよ】


「だが、一応 王族だ。個紋が有るからな。

で、誰か居るみたいだが……」


【その二人ならば大丈夫です】


「ああそうか、見守りの神か?

じゃあ、コイツら連れて行くからな」


コバルトは、スミレとヒスイを連れて曲空した。



♯♯♯♯♯♯



 ひと月程して、ゴルチルが現れた。


「なんだよ、オッサン」


【言葉遣いは変わらぬのだな。

まぁいい。その子達はサクラと共に育てる】


「また俺から奪うのか? バナジンのように」


【今度は意味が違う。

ヒスイ――男の子の方は、『闇障(サクラ)』の絆神だ】


「こっちは?」女の子を掌に乗せる。


【スミレはアオの絆神だ】


「なんで……こんなチビ達が絆なんか……」


【アオとサクラを禁忌で生み出した為だ】


「禁忌……コイツらを再誕させる為か?」


【よく分かったな。その通りだ】


「コイツら、アオの周りをチョロチョロしてた魂だろ?」


【気付いていたのか……そうだ】


「で、ヒスイを連れて行く理由は解った。

スミレはアオが居る、ここの方が良くないか?」


【スミレは、ヒスイより、かなり後でサクラの卵に込められた。

その時、既にアオとスミレの絆は成されていた】


「じゃあ、アオの卵に込めりゃいいだろうがよ」


【アオは既に孵化していた】


「って事は、無理矢理サクラに込めたのか?」


【そうだ】


「いや、だったら拒絶されて、スミレは生きられない筈だ」


【アオとサクラは、元々ひとりなのだ】


「それでも、孵化しちまったら別人だろ」


【そうだ。

だが、特殊な存在だからこそ成し得たのだ】


「待てよ……スミレを込めたのは、いつだ?」


【アオが孵化して、ふた月程後だと推測している】


「もしかして……アオが、ただの赤ん坊だったのと絡んでいるのか?」


【そうだ。

アオは五年程の間、ただの赤ん坊だった。

あれは、アオであってアオではない】


「すり替え……いや、スミレを込める為に、アオとサクラを『ひとり』に戻していたのか!?」


【そう、推測している】


「誰がアオをこの身体に戻したんだ?」


孤狐(ココ)様だ。アオの行方を探していた。

我々が気付いていなかった頃からな。

そしてスミレの定着を待ち、アオを分離した。

分離には成功したが、アオもサクラも、それ迄の記憶を失っていた。

アオに、どうにか戻せたのは、孵化後の記憶だけだった】


「そうか……アイツら、卵の中でも喋ってたし、神眼までも使ってたよな……」


【その頃の事は、アカだけが覚えている】


「もうひとつの卵はアカだったのか……」


【その三人は、ヒスイを込める為に性別を変えた時、成熟してしまったのだ】


「また禁忌かよ……俺の子孫を弄びやがって……」


【私の子孫でもある。

だから護らねばならぬ。この子達も、だ。

スミレもサクラに定着したのだから、目覚めぬアオではなく、サクラと共に居させる】


「ケッ、連れて行きやがれ」ぷいっ。


【しかし……】


「なんだよ?」


【本当に浄化されたのだな】


「うっせーっ! とっとと行きやがれっ!」


【アオが見たら嘆くぞ】


「ぐっ…………いっそのこと、起きてくれりゃいいのに……」


【ふむ……アオを頼む】消えた。



♯♯♯♯♯♯



 アオは眠ったままだったが、その力は次第に増しており、それに伴いコバルトは、主になり辛くなっていった。


 そんなある日、コバルトは心に響く幼子の微かな声に気付いた。


 確かにアオを呼んでいるな。誰だ?

 辿ってみるか。


己を主とする時間は限られているが、確かめずにはいられなかった。


声の主へと曲空すると――



 籠の中で、小さな翼をぴよぴよさせて、竜の子達が心地よさげに眠っていた。


 サクラ……だよな。翼って……。


 ここは? 屋敷ではなく、城なのか。

 神の結界の内……親父が成したのか。

 凄まじく厳重だな。


 スミレとヒスイは、

 ただ一緒に眠っているだけのようだが……

 こんな事で本当に護れているのか?


サクラを抱き上げる。


サクラが纏っていた光が闇に変わった。


 マズい……が、開いてしまったものは

 仕方がないか……。


(何が言いたい?

アオに伝えたい事が有るんだろう?)


(ん~)


(お前、話せるよな?)


(バレたぁ?)


(俺は神だからな)


(アオにぃちゃまは?)


(眠らせている。

まだ起きられる状態ではない)


(そっかぁ……くっついてていい?)


(それは難しいな)


(どぉしてぇ?)


(アオは隠れていなければならん。お前もだ)


(どぉしてぇ?)


(誰か来る。話は今度だ)


(またね~♪)


コバルトは曲空し、隠し部屋に戻った。





バ【あのっ! スミレ!? 私は――あ……】


菫【到着~♪

  バナジン様もお座りください♪】


青「バナジン様、早速ですが、

  ルリと絆を結んで頂けませんか?」


バ【えっ!? ……私……ですか?】


青「はい。ルリが、そう望んでいますので」


バ【ルリ……私で……よろしいのですか?】


瑠「はい。どうか宜しくお願い致します」


バ【あの……本当に……私を……?】


青「何か結べない御事情がお有りですか?

  あ……同調ですか?」


菫【同調なら良いと思うんだけど……ねぇ?】


葵&翡【はい。そうですよね】


菫【嫌だとか?】


バ【いえっ! そうではなく、嬉し過ぎて……】


菫【あ♪ 始祖様にお確かめ頂きましょ♪】


青「なら、呼んで来――バナジン様っ!?」


バ【嬉しくて……】ううっ、うっ……。


菫【落ち着くまで、お待ちしましょ】


青「どうしてスミレが仕切っているんだ?」

翡【だよね。ずっと腑に落ちなかったんだ】


菫【何か おかしいかしら?】


翡【こういうところだよね】「そうだね」


 そんなこんな小屋の中は賑やかだ。

首を傾げるスミレ、ため息をつくヒスイとアオ、

苦笑するアメシス、嬉し泣きしているバナジン。


 そして――


ユ【なんだか幸せな光景よね】


瑠「お母さん……」


ユ【親族が増えたのも嬉しいけれど、

  ルリが幸せそうな笑顔だから。

  あなたがアオ様の中に見えた時は

  本当にびっくりしたわ】うふふ♪


瑠「お父さんと一緒に、ずっと見ていたの?」


ユ【もちろん見てたわ♪

  心配も、もちろん。でも、幸せそうな

  あなたの顔を遠くから見ているだけで

  私もアオイも、とっても幸せだったの】


瑠「これからは近くで見ていてね」


ユ【ええ、もちろん♪】


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