島の夜16-コバルトとアオ①
小屋の外では――
スミレが、複製を準備しているアオと、それを待っているルリとアメシスを追い越して小屋に入り、ヒスイがスミレを追い掛けた。
アオ達も小屋に入って少しして、スミレはバナジンまでも小屋に連れて行った。
コバルトも呼ばれたが、ひとりにさせて欲しいと残り、星空を見上げた。
幸せになれて良かったな……アオ……。
――――――
ルリを護る事が出来なかったコバルトは、遅れて駆けつけたカルサイに依って、アオを護れと、悲しみの咆哮を上げ続けるアオの中に封じ込められた。
それでも暴走しかねないアオは眠らされた。
コバルトは、心を縛る呪の鎖が、アオの浄化の力に抗い足掻く為、あまりの苦しみに堪えきれず、アオの中から逃げ出した。
しかし、直ぐにゴルチルに見つかり、今度は幾重にも相殺を掛けられ、再びアオの中に封じ込められてしまった。
【二度と逃げられぬよう、アオと繋いだ。
この絆を断ち切ろうとすれば、お前は消滅する。
いいな?『光』を護れ。
お前は、その為に天竜王に成ったのだろう?】
(く……苦、し……い……)
【少しの辛抱だ】
(ま、た、俺……を、滅……)
【滅するどころか、お前はアオに救われる】
(嘘……だ、ろ……)
【『闇障』の代わりになる他は無いだろう?
もうひとつの『闇障』は、最後の卵なのだからな】
(勝手、な事……言うな!)
【随分と慣れたようだな】
(慣れるかよっ! ……え?)
【やっと気付ける程になったか。
折角また身体を得たのだ。楽しめばいい。
お前の笛を置いておく】
(待て! 説明しろっ! オッサン!!)
【だから『繋いだ』と言ったろ。
今のお前は、アオの一部だ。せいぜい護れ】
ニヤリとしてゴルチルは消えた。
♯♯♯♯♯♯
アオの心の中で、どうにか動けるようになったコバルトは、アオ自身を探した。
心の奥の奥の深い場所で、アオは眠っていた。
こんな……小さくなりやがって……。
触れたとたん激痛に貫かれた。
アオの悲しみや怒りが迸り、強い拒絶が痛みと化したのだった。
本気で消え去ろうとしているのか!?
弾き飛ばされたコバルトは、何度も何度も、その痛みと闘い、ようやく小さな光を抱きしめた。
死ぬな! 死なないでくれっ!!
(すまない……護れなくて……すまない!)
痛みは増すばかりだったが、コバルトはアオを抱きしめ続け、涙を流し、謝り続けた。
どれだけそうしていたのかも分からなくなった頃、アオから光が湧き、コバルトを包んだ。
俺を縛る鎖が……動かなくなった……?
(アオ、目覚めたのか?)
返事は無い。
眠っている……よな?
起こすには……?
アオは『光』なんだから――
コバルトは光を求めて浮上した。
♯♯♯♯♯♯
アオの中で、落ち着ける場所を見つけたコバルトは、アオを抱え、生命力を分け与え、ひたすら謝り続ける日々を送っていた。
アオが目覚める兆しは全く無かったが、コバルトは、どうにかアオの身体を動かせるようになり、二年程して、笛を奏でられるまでになった。
更に一年程後、アオを呼ぶ『声』に導かれ、行ってみると、サクラが孵化しており、殻の中にはサクラの他に二人、神竜の子が入っていた。
それを見た為か、カルサイがキンを気絶させた。
コバルトは咄嗟にキンを支え、
「あの子達は俺が育てる。親父、いいだろ?」
そんな言葉を口走っていた。
【今のコバルトなら大丈夫ですね。
お願いしますよ】
「ああ、任せろ。俺の子孫だからな」
自分で言っておいて驚き、神竜達の個紋を確かめた。
【私の子孫でもあるのですよ】
「だが、一応 王族だ。個紋が有るからな。
で、誰か居るみたいだが……」
【その二人ならば大丈夫です】
「ああそうか、見守りの神か?
じゃあ、コイツら連れて行くからな」
コバルトは、スミレとヒスイを連れて曲空した。
♯♯♯♯♯♯
ひと月程して、ゴルチルが現れた。
「なんだよ、オッサン」
【言葉遣いは変わらぬのだな。
まぁいい。その子達はサクラと共に育てる】
「また俺から奪うのか? バナジンのように」
【今度は意味が違う。
ヒスイ――男の子の方は、『闇障』の絆神だ】
「こっちは?」女の子を掌に乗せる。
【スミレはアオの絆神だ】
「なんで……こんなチビ達が絆なんか……」
【アオとサクラを禁忌で生み出した為だ】
「禁忌……コイツらを再誕させる為か?」
【よく分かったな。その通りだ】
「コイツら、アオの周りをチョロチョロしてた魂だろ?」
【気付いていたのか……そうだ】
「で、ヒスイを連れて行く理由は解った。
スミレはアオが居る、ここの方が良くないか?」
【スミレは、ヒスイより、かなり後でサクラの卵に込められた。
その時、既にアオとスミレの絆は成されていた】
「じゃあ、アオの卵に込めりゃいいだろうがよ」
【アオは既に孵化していた】
「って事は、無理矢理サクラに込めたのか?」
【そうだ】
「いや、だったら拒絶されて、スミレは生きられない筈だ」
【アオとサクラは、元々ひとりなのだ】
「それでも、孵化しちまったら別人だろ」
【そうだ。
だが、特殊な存在だからこそ成し得たのだ】
「待てよ……スミレを込めたのは、いつだ?」
【アオが孵化して、ふた月程後だと推測している】
「もしかして……アオが、ただの赤ん坊だったのと絡んでいるのか?」
【そうだ。
アオは五年程の間、ただの赤ん坊だった。
あれは、アオであってアオではない】
「すり替え……いや、スミレを込める為に、アオとサクラを『ひとり』に戻していたのか!?」
【そう、推測している】
「誰がアオをこの身体に戻したんだ?」
【孤狐様だ。アオの行方を探していた。
我々が気付いていなかった頃からな。
そしてスミレの定着を待ち、アオを分離した。
分離には成功したが、アオもサクラも、それ迄の記憶を失っていた。
アオに、どうにか戻せたのは、孵化後の記憶だけだった】
「そうか……アイツら、卵の中でも喋ってたし、神眼までも使ってたよな……」
【その頃の事は、アカだけが覚えている】
「もうひとつの卵はアカだったのか……」
【その三人は、ヒスイを込める為に性別を変えた時、成熟してしまったのだ】
「また禁忌かよ……俺の子孫を弄びやがって……」
【私の子孫でもある。
だから護らねばならぬ。この子達も、だ。
スミレもサクラに定着したのだから、目覚めぬアオではなく、サクラと共に居させる】
「ケッ、連れて行きやがれ」ぷいっ。
【しかし……】
「なんだよ?」
【本当に浄化されたのだな】
「うっせーっ! とっとと行きやがれっ!」
【アオが見たら嘆くぞ】
「ぐっ…………いっそのこと、起きてくれりゃいいのに……」
【ふむ……アオを頼む】消えた。
♯♯♯♯♯♯
アオは眠ったままだったが、その力は次第に増しており、それに伴いコバルトは、主になり辛くなっていった。
そんなある日、コバルトは心に響く幼子の微かな声に気付いた。
確かにアオを呼んでいるな。誰だ?
辿ってみるか。
己を主とする時間は限られているが、確かめずにはいられなかった。
声の主へと曲空すると――
籠の中で、小さな翼をぴよぴよさせて、竜の子達が心地よさげに眠っていた。
サクラ……だよな。翼って……。
ここは? 屋敷ではなく、城なのか。
神の結界の内……親父が成したのか。
凄まじく厳重だな。
スミレとヒスイは、
ただ一緒に眠っているだけのようだが……
こんな事で本当に護れているのか?
サクラを抱き上げる。
サクラが纏っていた光が闇に変わった。
マズい……が、開いてしまったものは
仕方がないか……。
(何が言いたい?
アオに伝えたい事が有るんだろう?)
(ん~)
(お前、話せるよな?)
(バレたぁ?)
(俺は神だからな)
(アオにぃちゃまは?)
(眠らせている。
まだ起きられる状態ではない)
(そっかぁ……くっついてていい?)
(それは難しいな)
(どぉしてぇ?)
(アオは隠れていなければならん。お前もだ)
(どぉしてぇ?)
(誰か来る。話は今度だ)
(またね~♪)
コバルトは曲空し、隠し部屋に戻った。
バ【あのっ! スミレ!? 私は――あ……】
菫【到着~♪
バナジン様もお座りください♪】
青「バナジン様、早速ですが、
ルリと絆を結んで頂けませんか?」
バ【えっ!? ……私……ですか?】
青「はい。ルリが、そう望んでいますので」
バ【ルリ……私で……よろしいのですか?】
瑠「はい。どうか宜しくお願い致します」
バ【あの……本当に……私を……?】
青「何か結べない御事情がお有りですか?
あ……同調ですか?」
菫【同調なら良いと思うんだけど……ねぇ?】
葵&翡【はい。そうですよね】
菫【嫌だとか?】
バ【いえっ! そうではなく、嬉し過ぎて……】
菫【あ♪ 始祖様にお確かめ頂きましょ♪】
青「なら、呼んで来――バナジン様っ!?」
バ【嬉しくて……】ううっ、うっ……。
菫【落ち着くまで、お待ちしましょ】
青「どうしてスミレが仕切っているんだ?」
翡【だよね。ずっと腑に落ちなかったんだ】
菫【何か おかしいかしら?】
翡【こういうところだよね】「そうだね」
そんなこんな小屋の中は賑やかだ。
首を傾げるスミレ、ため息をつくヒスイとアオ、
苦笑するアメシス、嬉し泣きしているバナジン。
そして――
ユ【なんだか幸せな光景よね】
瑠「お母さん……」
ユ【親族が増えたのも嬉しいけれど、
ルリが幸せそうな笑顔だから。
あなたがアオ様の中に見えた時は
本当にびっくりしたわ】うふふ♪
瑠「お父さんと一緒に、ずっと見ていたの?」
ユ【もちろん見てたわ♪
心配も、もちろん。でも、幸せそうな
あなたの顔を遠くから見ているだけで
私もアオイも、とっても幸せだったの】
瑠「これからは近くで見ていてね」
ユ【ええ、もちろん♪】




