絆の島20-星降る島②
アオとコバルトは、満天の星空の下、
島の草地で話しています。
【アオとルリを弄ぶつもりなど微塵も無かった……しかし結果的に、そうなってしまっているよな】
「いえ、ルリが死んでしまった事は、防ぎようが無かったと思います。
俺を生かし、ルリの辛い記憶を封じていたからこそ、俺達は今こうして幸せに生きていられるんですから、そんなふうには思わないでください」
【アオは何でも許そうとするんだな。
俺は、呪に縛られていた俺を赦す事など到底 出来ない。
昼間、弥勒様が御自分を赦せないと仰った、あの御気持ち……俺にも、よく解る。
アオの中に入って、俺は少し浄化された。
だから、それまでの俺は、もっと酷かった。
周り全てに迷惑しか掛けていなかった。
これからが、どうであろうが、いくら償おうと努めようが、永遠に俺は、あの俺を赦せないんだ】
「もっと酷かった始祖様なんて知りませんけど、俺は、あの始祖様も嫌いではありませんでしたよ。
時々、どっか行け! とは思いましたけどね」
【まったく! 優しい奴め!】
二人は存分に笑った。
不意にアオが真顔になる。
「始祖様、俺とルリは、そんなに離れた親族ではないと思うんですが……」
【お前という奴は、本当に何でも拾うな……】
「また『拾う』って……」
【事実だろ。
ま、その通りだ。そんなに離れてはいない】
と言うか、むしろ最も近いか……。
「ルリの父親は――封印で、ぼやけてはいますが、俺にはヒスイそっくりに見えるんです。
つまり、ベニ様の卵は二つではなく、三つだったのではないのかと思うんです」
【アオには何も隠せないな……】呟いた。
【その通りだよ。ヒスイ達と同腹だ】ため息。
【木の虚に隠されていた、その卵は、ベニの死後、辺りを捜索していた兵士に依って発見された。
その兵士の妹は、その少し前に子を失っていたんだ。
だから兵士は、その卵を悲しみに暮れていた妹に託した。
アオイと名付けられ、その子は無事に育った。
ルリの母親・ユリは、前王ムラサキの妹・ヒマワリの娘だ。
どの世代にも、俺の呪を強く受けた者が、一人や二人は生まれてくる】
ギンやハクのようにな。
【ヒマワリも、その可愛い名に反して、呪を強く受けた反抗的な王女だった。
反抗した挙げ句、王家を出、結婚し、生まれたのがユリだ。
そしてアオイとユリは出会い、ルリが生まれた。
アオイも、ユリも、個紋が有った事で、自分が王族である事には気付いていた。
しかし王族の血を護ったのではなく、ただ親として、娘を護って命を落としたんだ】
「ん?」【どうした?】
「俺はアオイ様にお会いしていますね?」
【気付いたか……】まったくコイツは……。
「ヒスイ達と同腹なら、ルリを護り続ける為に、神に成っている筈だと思っただけですよ。
そうですよね? アメシス様」
【個神の気を消そうが、顔を変えようが、アオ様には判ってしまうのですね】
「そのお顔は?
カルサイ様そっくりですよね?」
【その通り、父の顔だ。術で変えている。
アオイのまま現れたら、即アオとサクラに調べられてしまうだろ】
「当然、調べますね。そのお名前は?
スミレの『ヴィオラ』のようなものですか?」
【神だからな。
術の都合で神名――四音名にする。
術中では『ヴイオラ』だ】
「それで始祖様もバナジン様も……。
ヒスイは『ジェイド』でしたね?」
【いつ知ったんだ?
普段、ヒスイもスミレも神名を使っていないだろ】
「他の神様が呼んでいらっしゃるのを耳にしたんですよ。
何でも拾うみたいに言わないでください。
それで、話を戻しますが。
アメシス様は、初めてお会いした時、神に成るのを中断していたと仰っていましたよね?
それは……護るべきルリが命を落としてしまったからですか?」
【そうです。半神竜の私が神に成るのは時を要する為、必死だったのですが……その絶望感で最終試験の目前で私は……。
しかし、娘の最期を見届けてくださったアオ様にお会いし、お志を知り、娘に代わって共に戦う事が叶えばと、神に成ったのです。
まさかアオ様の絆神が、私の妹だとは思いもよらず、本当に驚きました】
「しかもスミレ自身は、俺の妹だと思っていますからね」くすくす♪
【兄様っ! また私の事 笑ってるのねっ】ぷんっ。
「あ、来たの? ヒスイも。
そうだ、ヒスイって兄なの? 弟なの?」
【さぁ……どうなのでしょう、始祖様】
【孵化順だと一番下だな。
孵化はサクラと同時に完了したからな。
しかし――】
「ん?」【しかし?】
【性格的にスミレが末っ子だろ。
アオイ、ヒスイ、スミレの順でいいだろ】
【ええっ!?】
スミレは抗議の声を上げたが、アメシスとヒスイは納得し、頷いた。
【決まりだ】【そんなぁ】
「スミレはヒスイの姉でありたいのかい?」
【最初に育ったのも真ん中だったから、その方が落ち着くのよね~】
「それだけなら、どう考えてもスミレは甘えん坊で、ヒスイに頼っているんだから、妹でいいだろ?」
【ま、いっか。
じゃあもう兄様に知られてしまったんだし、アメシス様とも兄妹として接していいのかしら?】
【ダメだよ、スミレ。
まだルリは知らないんだからね】
【起きて聞いてるわよ】「えっ?」
(ルリ、聞いていたの?)
(ああ。途中からな)アオの傍に来た。
(……大丈夫かい?)引き寄せ、抱きしめる。
(封印とやら、解いて頂きたいのだが……)
(辛い記憶だよ?)
(それでも……大切な記憶だ)
「始祖様、バナジン様をお呼び頂けますか?
ルリが記憶の解放を望んでいますので」
【そこに立っているぞ】「あ……」
【ルリ、護れなかった上に封印など……すみませんでした】
魔法円を描く。
「いえ、バナジン様のお優しさだと理解しておりますので。
お護りくださり、ありがとうございました」
アオはルリを主にした。(支えるからね)
【ルリ、中央に。
神様方々、お願い致します】
「ヒスイ~、なぁに?」サクラが出て来た。
【サクラも囲んでね】「ん……ルリ姉に?」
【では、始めます】
バナジンが穏やかに唱え始めた。
ルリが光に包まれる。
(ルリ?)(大丈夫だ、アオ)
バナジンは一瞬だけ小屋の方を見た。
【では、続けます】魔法円を描き直した。
ルリは再び光に包まれ――
その光が弾けた。
【心の中でアオが見ているルリです】
【それならば――】
コバルトがアメシスを中心とする魔法円を描き、術を唱えた。
アメシスを包む光が弾けた。【元の顔だ】
(ルリ、ゆっくり話せばいいよ。
今度は俺が籠るからね)
(いや、アオも一緒に……私の家族なのだから)
「お父さん、それでいい?」
アメシスは微笑んで頷き、水晶を取り出した。
「それは……お母さん?」【そうですよ】にこっ。
「んじゃあ、ここでね~」ぽいっ。
サクラが手を振りながら兄弟の小屋に入って行った。
そして、サクラが投げた家賽が小屋になる。
♯♯♯
「おやすみ~」もそもそ。
「サクラ! 教えろって! おいっ!!」
「サクラ、アメシス様は――サクラ!?」
「起きろっ! サクラ!!」ゆさゆさっ!
「や~ん、もぉ寝るぅ」むにゃ……くぅ……。
「朝、聞けばいいだろう」
「婚儀じゃねぇかよっ!」「そうか……」
「そのうちアオが話してくれる。寝ろ」
「アカ兄の言うとぉり~」
「起きてるんだろ!? サクラ!」
「クロ兄ってば怒ってばっかりぃ」
「オレじゃねぇよ! さっきのハク兄だっ!」
「もおっ、姫に教えてもらってよぉ」
「何をだよっ!」「数学~」「サクラ!」
「クロ兄、朝ごはん なぁに?」
「ここに何の材料があるってんだよ!」
「海にあるでしょ~」
「獲って来いってのか!?」「うんっ♪」
サクラが静かに寝息をたてる。「お~い」
「ヒトデってぇ」「お前、何食う気だよ?」
「意外と硬いよねっ」「食ったのかっ!?」
クロがサクラの寝言に弄ばれているうちに、兄弟は皆、眠ってしまっていた。
アオは複製に緋月煌し、ルリとアメシスと共に
家賽の小屋に入った。
青「どうしてスミレがルリより先に
小屋で座っているんだ?」
菫【家族でしょ? 当然じゃないの】
翡【スミレ、邪魔してはいけないよ】
菫【ヒスイだって来たんじゃないの】
翡【スミレを連れ出す為だよ。出て】
葵【スミレ様もヒスイ様もいらしてください】
青「そんな甘い事を言ってはなりませんよ。
スミレはすぐに図に乗りますから」
菫【もうっ! 兄様、酷い!】
青「邪魔だけはするなよ。居るだけで邪魔だけど。
ヒスイは居てよ」【いいの?】「もちろん」
菫【どうして私だけダメなのぉ?】
青「スミレだから」【そうだね】
菫【ねっ♪ ルリは絆 結ばないの?】
翡【唐突だね。流石、スミレ】「そうだね」
菫【私はルリと話してるのっ!】
瑠「あの……死人なのですが……」
菫【ルリは死んでいないわよ。
だから結べるわ。ねぇ?】
葵【その筈です。生魂だとカルサイ様からも
伺いました。ルリ、どうしますか?】
瑠「結べるのなら……バナジン様が……いい」
青「外にいらっしゃるから行って来るよ」
菫【私が行くわ♪】【スミレ!?】「おいっ」
スミレはバナジンを迎えに行った。




