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三界奇譚  作者: みや凜
第四章 魔界編
372/429

絆の島19-星降る島①

 あの島は今度こそ平穏な島になりました。


 その日の夜――


 クロと姫は島の浜辺の丸太に並んで腰掛け、星空を見上げていた。


「相変わらず星が降ってきそうに綺麗だな」


「真、美しぃのぅ……」寄り添う。


「波の音も心地いいな」肩を抱く。


「良い風が吹いておる」「ああ、いい風だ」


顔を寄せる。


(まさか、こんなにも愛おしい存在になるとは、あの時は思ってもなかったよ)


(然様か……)


(ん? 涙? どうしたんだ?)


(あまりに幸せにて……溢れてしもぅたのじゃ)


(幸せならいいんだけどな。驚かすなよ)


「これからもっと幸せにするつもりだからな。

泣き顔ばっかなんて嫌だぞ」

指で優しく拭う。


「うむ♪ しかと心得た♪」にこっ♪


「それでこそオレの姫だ♪」にこっ♪


(ワラワのクロじゃ♪)


(何だよ、オレは何処にも行かねぇって)


(行ってはおらぬが、戻って来たのじゃ♪)


(ん? …ああ、そうだな。

呪に縛られてたオレは、オレじゃなかったよな。

心配かけちまったな……すまん)


(構わぬ。過ぎたる事じゃ。

もしも、また掛かったならば、次こそワラワが直ぐに見つけてしんぜよぅぞ)


(ありがとな、静香)


(して……後ろの何某は、このまま無視なのか?)


(別に……気になるか?)


(どうにも恥ずかしぃのじゃが……)


(そっか。仕方ねぇな)曲空。



――クロは背後に潜んでいた者の襟首を掴んだ。

「何 見てんだよ。ハク兄」


「気づいてたか~」あははっ。


「オレ達の神眼、ナメんなよ~。

だいたいなぁ、婚儀前夜に城を抜け出すなんて、何考えてんだよっ」


「いや、別に覗き見の為に来たんじゃねぇよ。

さっき島の話を聞いてな、俺にとっても思い出の場所だから来てみたら、お前らが居たってだけだよ」


「思い出って……ハク兄は、ここで踊ったりしてねぇだろ」


「それは知らねぇが、兄弟皆、初めて揃って、狭い小屋でジャレて、塊になって寝ただろ。

そんで、しっかり兄弟になった場所だからな」


「そっか……そうだな」


「あ……ハク、クロも……」

「兄貴……」「キン兄……」


「何で兄貴まで、ここに?」


「ハクも、ではないか。

私は、感慨深いこの島を、もう一度見たいと思っただけだが……。

反対側の浜に行ったら、フジとリリス殿が居たので、こちらに来ただけだ」


「あの二人も来てるのか……」


「アカは島の中央で浄化の具合を確かめていたぞ」


「もしかして、アオとサクラも、どっかに――」


『ほらねっ♪ 兄貴達み~んな、ここだよ♪』

『そっち側はクロ達だろ。邪魔だから帰ろう』

『今なら、だいじょぶだよ~♪』


「――来てるな」


茂みがガサつく。「ねっ♪」サクラが現れた。


続いてアオとアカ。「邪魔して、すまない」


「キン兄、ハク兄、小屋に行こ~♪」

二人を引っ張って行った。


「じゃあ、クロ、ごゆっくり」

アオとアカも小屋に向かった。



 それを見送り「姫♪」振り返ると――


「どこ行ったんだ? 波打ち際か?」ぱちくり。


(クロ、兄弟で過ごせばよいぞ。

キン殿とハク殿は、独身最後の夜じゃからの。

ワラワはリリスを我が城に招くからの♪)


(姫……ありがとな)(うむ♪)


「クロ兄様……」曲空して現れた。


「あ、フジ」


「姫様がいらして、こちらの浜に行け、と」


「で、リリスさんを連れて消えたのか?」


「ええ」


「アイツなりに気を遣ったみたいだ。

行こう。向こうに兄弟皆、来てるんだ」


「ああ、それで」にっこり。


クロとフジは並んで小屋に向かって歩いた。



♯♯♯



 深夜――


 アオは、ひとり小屋から出た。

星空を仰ぎ見、思いに耽った。


 俺はルリを失った後、百四十年もの間、

 何をしていたんだろう……


 幼いサクラとヒスイとスミレが、

 いつも傍に居た事は覚えている。


 サクラが長老の山に入り、

 自分もスミレに連れられて行き、

 本ばかり読んでいた事も覚えている。


 しかし、全てが薄ぼんやりとしていて、

 確かな記憶は何ひとつとして無い。


 ここ四十年程は、サクラと共に

 竜宝について研究していたが……

 それすらもサクラの手伝い程度で、

 俺自身は本当に何も成していなかった……。



【アオは、ずっと眠っていたんだ。

魂が瀕死だったんだよ】


「始祖様……」


【心の奥底に籠り、静かに消えようとしていたんだ】


「そうですか……でも、死ねなかったんですね」


【死なせなかったんだ。俺がな】


「え? ……何故……?」


【アオを魔王に渡す訳にもいかない。

サクラを道連れになど出来る筈もない。

だから……見ているのも辛かったが、生かし続けたんだ】


「どうやって……」


【俺が、代わりにアオをしていた。

アオの中に入っていたんだよ。


アオの心の中でならば、俺の呪は弱まり、俺も安らげた。

それに笛が吹けるからな。

それなりに楽しめたよ】


「だから、あの曲を指が覚えていたんですね」


【昼間のか……あれは魂を呼び覚ます曲だ。

幼いサクラ達は、あの曲で気持ち良さげに眠っていたがな】


「俺を起こそうとして……ですか?」


【まぁ、そんな所だ】


「そう、ですか……」


【こんな話をしているが、ルリは、どうしているんだ?】


「さっきまで兄弟が起きていたんです。

皆その小屋で寝ていますよ。

ルリは兄弟水入らずで、と自分の領域に籠りましたよ」


【そうか。ならば話しても大丈夫だな。

何をしようが、アオを起こすのは時間が掛かると思ったから、のんびり、やりたい事をさせて貰ったよ】


「本を読んでいたのも始祖様なんですか?」


【ああ、本は好きだからな。

それすらも呪が好きにさせては、くれなかったからな。

存分に読ませて貰った】


「覚える事などには影響しないのでは?」


【その影響は無いが、あの俺が落ち着いて読書など出来ると思うのか?】


「あ……そういう事ですか。

もしかして、俺がヒスイとスミレの存在に疑問を持たなかったのも?」


【まぁな。俺が融合していたからな。

神竜なんぞ見ても驚きはしないさ】


「それで……やっと納得できました。

でも、人界には来て頂けなかったんですね」


【天界の神が干渉出来ない界だからな。

あんな危なっかしい俺を行かせる程、いくら父でも、そこまでは甘くはなかった。


アオは随分と元に戻ってはいたが、それでも万全ではなかったからな。

案の定、魔王に襲われた訳だ。

まぁ、おかげでルリの事も忘れ、回復が進んだんだがな】


「もしかして、ルリを蒼牙に込めたのは――」


【それはバナジンだ。

途中まではヒスイとスミレだがな。


バナジンはルリを見守っていたんだ。

卵の時から、ずっとな。

とはいえ、離れなければならない時だって有る。

あれは、バナジンが離れた所を狙われたんだ】


「ルリは、俺の為に狙われたのではないのですか?」


【魔王としては一石二鳥だったろうな。

二人纏めて、戦線から排除できたんだからな。

だが、闇障を持つ俺の子孫だぞ。

ずっと狙われ続けていたんだよ】


「それで御両親も……」


【そうだ。ルリを護り、亡くなったんだ】


「御両親は、どちらが王族だったんですか?」


【両方だ。だから安心しろ。

この戦が終わったら会わせるつもりだ】


「竜魂の水晶ですか?」【まぁな】


 少し違う? でも――


【それまでは、自分のせいで両親が死んだなどと思い出させたくはない】


「その為の封印なんですか?」


【気づいていたのか……】


「はい。バナジン様の術なので、不思議に思っていたんです」


【そこまで見えていたのか……。

その通りだ。ルリが両親の事を思い出さないよう、封じたんだ】


「それでルリの記憶の中の御両親は、全て ぼやけているんですね」


【そうだ。両親の存在までは封じられないからな】


「思い出したくないのかと思っていました。

辛い記憶だから……。

全ては魔王を倒す為……ルリが闇障を持って生まれたからですか?」


【そうだ……としか言いようがないな。

バナジンとしては……おそらく、ルリが『自分のせいで』と思わぬよう、伏せたかったのだろうがな】





 小屋の中では――


藤「アオ兄様が外に――」呟いた。


金「始祖様もいらっしゃるな」


藤「やはり起きていらしたのですね。

  あ、アカ兄様も……」


赤「そっとしておいてやれ」


藤「はい。そうですね。

  始祖様とアオ兄様は、似ていますよね?」


金「そうだな。穏やかだが、強い」


赤「ふむ。心も力も、その通りだな」


金「それだけに気が合うのだろう」


藤「ご先祖様……よりは、父であり兄である存在

  のように思ってしまいます」


金「そうだな……そういう意味では、私が最も

  安堵しているのではないだろうか」


赤「俺達では、アオとサクラには

  必死で付いて行くだけで精一杯だ。

  前から手を差し伸べて頂ける存在だ。

  キン兄が至らないという意味ではない。

  始祖様は我々より遥かに長く生きて来られた。

  苦しみと共に……」


金「解っている。到底、並ぶなど思えぬ御方だ。

  遥か高みに御座します大神様だ」


藤「でも、先日までの始祖様も楽しくて

  素敵な『兄貴』でしたよね」ふふっ♪


赤「根底に存在する御本人を感じていたから

  であろうな」


藤「ああ……きっとそうですね」


金「アオも、きっとそうなのだろう」


 三人は窓の外を見、微笑んだ。


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