仏陀族6-釈迦と弥勒
禍山を浄化し、自らを封じた人神を救出すべく、
アオ達は魔法円を禍山に運ぼうとしています。
(フジ兄、山の内側 浄化したいんだ。
魔法円を運ぶ道を作らなきゃならないから。
クロ兄の神以鏡に掌を当てて、水薬 放ってね。
クロ兄、神眼で狙うトコ示してね。
アオ兄、ルリ姉、掌握で水薬 持ってくよ。
クロ兄の神眼に合わせてね。
具現環が要だからね、お願いね。
じゃ、せ~のっ!)
兄弟は山の麓に降り立っていた。
大神達が、宙で無の牆壁を支え、薬を混ぜた神聖光輝の放水が始まった。
中のものが静かになっていく。
金虎に連れられ、アカが来た。
(アカ兄、掌握で助けて~)
(ふむ……こうか?)
(楽になった~♪)
(……そうか)
ロサイトが少し離れた場所に魔法円を描いた。
(次は、あの魔法円を運んで、山の中心に合わせて置くよ。
アカ、サクラ、クロに触れたままでね。
クロ、神眼で山の中心と、水平を示してね。
始めるよ。
外周の外に四点 示してくださっているから、そこを掌握で掴んでね。
サクラ、ルリ、遠い側だよ。
持ち上げて……そのまま進んで……水平にね。
あとは中心を――)
突然、中のものが激しく暴れ、掌握も魔法円も弾かれ消えた。
(あと少しだったのに~)
(もう一度、浄化から――)
更に激しく暴れ、囲んでいた大神達をも弾き飛ばした。
(強いね……)
(でも、魔法円を置かないと――)
【アオ、サクラ、ちょっと来い】
二人はコバルトに連れられ、少し離れた。
【さっきの聖霊王に会おう。
『見せたいもの』とやら、先に見るべきだと、俺の勘が言っている】
(そうですね。そうすべき、と)
(うん。俺のカンも言ってる~)
(では、この鏡から――)(そのコだぁれ?)
(魔王作の通路鏡だよ。異空間経由だからね)
(名前は?)(まだだけど……何?)
(あとで付けていい?)(お願いね)(うんっ♪)
アオは音の国のクレフ王を呼んだ。
『では、その鏡に手を差し込んでください』
言われた通りにすると、アオは鏡に引き込まれた。
サクラとコバルトも鏡の内に引き込まれ、三人は光に引かれ、異空間を導かれて行った。
【ようこそ、おいでくださいました】
クレフが微笑んだ。
【先程の闇のものと繋がりが有るのですね?
早速ですが移動します】
一瞬で景色が変わった。
【あちらです】上方を指す。
岩肌のような、牆壁のような――表現し難く、そこに在るのか否かすら定かでない不思議な『壁』が、遥か上方へと続いていた。
横方向にも、何処まで続いているのか、果ては見えなかった。
【壁のように見えるのは、時空の歪みです。
動かすどころか、触れる事も出来ません】
上に導かれる。
【こちらに……御覧頂けますか?】
目を凝らすと、壁の内側に仏の顔が見えた。
【この壁の内に、実際にいらっしゃるのか、他の場所にいらっしゃるのが、こちらに見えているのか……それすら分かりません。
私共の力では、お目覚め頂く事も出来ないのです】
コバルトは仏の顔を見詰め、暫く考えていたが、
不意にアオとサクラに掌を翳し、
【この曲を奏でてみてくれ】
そう言って、仏に光を当て、唱術を始めた。
アオとサクラは笛を奏で始めた。
(俺、この曲……知ってる……)
(サクラも? 俺も……指が覚えているよ)
(あ……そっか……子守唄だよ。
アオ兄がよく吹いてくれてた!)
(俺が?)
(うん♪ ヒスイとスミレと……小さい頃、三人でよく聞いてた曲だよ♪)
(そ……う……)
(……覚えてないの?)
(その頃は抜殻だったからね……)
(覚えて、ないんだ……)
話しているうちに、仏は顔だけでなく、上半身が見えるようになっていた。
【そのまま繰り返し、奏で続けてくれ】(はい)
次第に、仏の姿が明瞭になり――
瞼が微かに動いた。
【人神様、聞こえますか?】
開眼する。
【人神様、俺が見えますか?】
【はい。竜の神様】穏やかに微笑んだ。
ゆっくり見回し、
【目覚めさせてくださったのですね。
ありがとうございます。
どうやら動く力も頂けたようですね。
では――】
座して合掌し、目を閉じると――
射した後光に押し出されるように、アオ達の方へと移動した。
大きく息をつき、目を開ける。
【私は釈迦。
闇の神に、この身の自由を奪われ、閉ざされておりました。
貴殿方に残る、この気は弥勒ですね。
ご迷惑をお掛けしている様子。
早速、参りましょう】
「クレフ様、ありがとうございました。
また機を改めまして、今度は奏でる為に参ります」
【聖霊王クレフ様。
お導き、ありがとうございました】合掌。
【いえ、私は大したことなど何も……。
では、神様方、お急ぎください】
クレフは光の窓を開いた。
【この向こうは、入られました鏡です】
四人は次々とくぐった。
『また来させてくださいねっ♪』
振った手が窓の向こうに引っ込んだ。
【これが……弥勒……】
宙に漂ったままの鏡から出た二人と二神は、牆壁の内で暴れる凶暴な気を、必死で光を放ち、押さえ込もうとしている竜の神々を見た。
「闇の呪に囚われているのです。
弥勒様は仏陀族の方々をお護りする為に、あの牆壁で、闇と共に自らを閉ざしたんです」
「長い間めーいっぱい抵抗してるんです。
早く出してあげたいんです!」
【はい。有り難き御言葉……。
私も力を尽くします】
「あの闇に囚われていた聖霊の記憶です。
この中に、呪の弱点が有ると思うんです」
アオは釈迦の掌に、己が掌を合わせた。
【弥勒ならば……そうですね……】目を閉じる。
「闇の呪を浄化したいのです。
弥勒様の動きを封じる事は出来ますか?」
【見えました】目を開く。【お任せください】
釈迦は座し、受ける掌に光を集め、もう一方の掌から山に向けて放った。
【無属性の……光、か……】
牆壁の内が静かになっていく。
(寝ちまった……)
(人神様って凄いね~)
(なら、今度こそだね)
(兄貴達、もっかい魔法円 持ってくよ!)
(放水は続けていましたので、すぐ運べますよ)
(ありがと♪ フジ兄♪ アカ兄♪)
(オレは?)(うん♪ クロ兄も♪)
ロサイトが描き直した魔法円を、四人の掌握で山の中心に配し、大神達は解呪を唱え始めた。
【アオ、サクラ、コバルトまで何をボサッとしているのだ?】
慌てて加わる。
大神達が放つ光で無の牆壁の内が満ち、闇が掻き消え――
唱術が終わった時、山の内側から迸った輝きで、呪の気配も無となった。
(闇も呪も消えたぞ。
中にいるのは人神様だけだっ♪)
クロの声で、大神達は光の放出を止めた。
【弥勒……無事ですか?】
【……はい……しかし、私は――】
(湖にお逃げになられた仏陀族の方々を護り抜いたんです。
皆様がお待ちです。
その牆壁を解除してください)
【しかし――】
(真上の島も浄化しなければなりません。
共に……お願いしてもよろしいでしょうか?)
【貴殿方は……私をそこまで……私は、とても許される身では――】
(戦い終えてお疲れの所、誠に申し訳ございません。
ですが、弥勒様の強き御力でなければ浄化が叶いませんので、どうか宜しくお願い致します)
【弥勒……竜の神々は、貴方の力を必要としております。
私と共に参りましょう】
釈迦は牆壁に歩み寄り、掌を当てた。
牆壁に込めた神の光が輝きを増す。
【優しい光……竜の神様は、どこまでもお優しいのですね】
【その優しさに応えましょう。
さあ、弥勒、解いてください】
【……はい……釈迦様……】
牆壁が消え、神の光が煌めき昇った。
光の中から、弥勒が姿を現した。
【無事で良かった……では、参りましょう】
釈迦が弥勒の手を取り、人界へと昇った。
蓮蛇は琉蛇の様子が気になり、爽蛇を訪ねる事を
愛蛇に伝えておこうと帰宅した。
「愛、琉蛇さんと話したのですか?」
来客が有ったらしい居間を見て尋ねた。
「うん……勝手に、ごめんなさい。
あまりにも落ち込んでたから……」
「私が言い過ぎたのですね……」
「何を言ったのか、想像できるけど……
たぶん、蓮さんじゃないわ。
爽蛇兄さんにも聞いてしまったみたいなの。
それで……」
「そうですか……」
「爽蛇兄さんは、どうして琉ちゃんの気持ちを
見ないフリするのかしら……?」
「もしも、風蛇が元に戻れたなら……
身を挺した風蛇の気持ちを確かめるまでは……
そう思っているのかもしれませんね。
年齢的にも風蛇の方が近いのですから」
「そんな……琉ちゃんの気持ちは?」
「風蛇が戻れたなら、どちらを向くのか……
それは誰にも分かりませんからね」




