砂漠編23-踊り子
前回まで:キンもアカも、
モモさんの団子は大好物です。
翌朝、天兎達は、天界に帰って行った。
「クロ兄様、私は洞窟に帰ろうと思っていますが、兄様はいかがなさいますか?」
「オレは皆が回復する迄は、飯の面倒をみるつもりだ。
そういえば、サクラん坊がいないようだけど……
また来てたんだよな?」
「それなのですが――」
フジは、昨日、サクラに起こった事を話した。
「そっか……
アイツは、なんだか――
あ、いや、なんでも……特別だよな」
フジは、クロが言いかけた何かが気にはなったが、サクラのことも気掛かりであるし、キンに聞きたい事もあるので、クロには改めて聞くことにして、洞窟に帰ることにした。
黙って考えていたフジが、顔を上げた時、
「アオが途中の街に、誰だか迎えに行くとか言ってたな。
フジ、乗せてやってくれるか?」
「ええ、もちろん」
アオと蛟が、踊り子を迎えに行くことにし、他の皆は、西の港町でアオ達を待つことにした。
各々クロとフジに乗り、黒輝の竜は西に、藤紫の竜は東に飛んだ。
♯♯♯♯♯♯
「蛟殿、皆様と養生していなくて大丈夫ですか?」
「ご心配おかけして申し訳ございません。
もう大丈夫と存じます。
海に出る迄には治りきりそうでございます」
「無理はしないでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
砂ばかりの地に、廃墟の街が見えた。
「薬を作ったら、もう一度 参りますので、こちらでお待ちくださいね」
廃墟の陰にアオと蛟を降ろし、フジはそう言って、飛んで行った。
アオと蛟は、まっすぐ酒場に向かった。
踊り子には、支度は慌てなくてよい、と告げ、待っている間に、蛟は前日のサクラの様子を話した。
踊り子が支度を終えて来たので、降りた場所に戻り、踊り子の故郷の話を聞きながらフジを待った。
♯♯♯♯♯♯
同じ頃、フジはキンに、サクラの話をしていた。
「サクラは、まだ秘めた力を持っていると思うのですが……」
「そうだな」
「キン兄様、サクラが生まれた時、何かあったような気がするのですが、教えて頂けますか?」
「あぁ……あの事か……
私が、妙な事を口走ったという話であろう?
残念だが、その記憶は、すっかり抜けている」
「えっ……」
「私の蛟達から聞き出した話では、私は、神竜に取り憑かれていたらしい」
キンは自嘲気味に笑った。
「サクラを、神の子だと言ったらしいのだが……
そういえば、あの時……
誰か窓から見ていた筈だが――」
「それは、私なのです。
しかし、私も覚えていないのです」
「そうか……フジも、あの時の記憶が……」
間違いなく何かが有り、何者かが記憶を操作したのであろうと、二人は言葉にこそしなかったが、確信した。
フジは、長老の山で起こった事や、アオ達の事も話した。
「それで、アオの封印は解けそうなのか?」
「いえ……まだ……
ですが、クロ兄様は、一瞬だけ竜の姿を見たと仰っていました」
フジは、木型の角を木槌でコンッと叩いて、押し固めた薬を抜き取り、袋に詰めると、
「薬が揃いましたので、届けて参ります」
立ち上がった。
「封印は、アオ自身が解くのか……
サクラは……私達は、護りきれるのか……」
フジを見送り、キンは、サクラの寝顔を見詰め、そう呟いた。
(アオ兄、とっても強いんだから、いくら、竜の力を封じられても、解いちゃうかも~)
「フジは飛び立った。
もう、起きても構わないだろう?」
サクラが起き上がる。
サクラは、フジが来る迄、キンに、妖狐王と会った事を話していたのだった。
「三眼の玉、集めたの……たぶん、俺じゃないよ。
三眼の魂が集めたんだと思うよ」
「そうか。
玉の力を失った岩山は、全て砂に戻ったのだな?」
「そぉみたいだね~」
「それで、砂漠の砂兎達は、全て元に戻ったのか?」
「うん……
たぶん、妖狐王様が戻してくださったんだと思うよ」
「また、お助け頂いたのだな……」
「どゆこと?
アオ兄と妖狐王様って、どゆ関係なの?」
「アオは、幼い頃から魔物に狙われていた。
魔物がハザマの森を通る為か、妖狐王様にも、何度もお助け頂いていたのだ」
「初めて聞いたよ」
「妖狐王様は、いつも私にだけ姿を見せ、気を失ったアオを置いて、ニヤリと笑うのだ。
訳を伺う事も出来ぬまま、私が礼を申し上げようとしたなら、すぐに消えてしまわれる。
言葉にはされずとも、決して口外してはならぬ、そう強く感じたのだ」
「アオ兄は、その事については?」
「何も……これは、また別に封印されているのかも知れないな」
「可能性、有るよね……」
「話は変わるが、アカが、竜宝剣の欠片を持って行ったのだが――」
「うん。蒼牙の欠片なんだって。
復元する方法を、妖狐王様から聞いたみたい」
「あの欠片は、蒼牙であったのか!?」
「うん。
蒼牙って、アオ兄の剣なんだよね?
どこで見つけたの?」
「アオの剣だ。
サクラが孵化する少し前、天界で魔獣と戦った時、粉々になって飛び散ってしまったのだ。
私が見つけた あの欠片は、東の国に落ちていた。
誰かが御守にしていたらしく、小さな布袋に入っていた。
あまりに小さく、私には何の欠片なのか判らなかったのだ」
「ふぅん……
他の欠片、見つけられるかなぁ……」
「アオの力とする為か?」
「それも あるけど……なんか……
アオ兄が元気になりそぉな気がするんだ♪」
「そうか。無理だけはしないようにな」
「うん♪」
♯♯♯♯♯♯
「あの……
踊り子さんは、竜について、どう思われますか?」
「竜……ですか?」
「あ……変な事を聞いて、すみません」
「いいえ。実は、私……竜が大好きなんです。
子供の頃、父が寝物語で、いつも竜の話をしてくれたんです。
だから……」頬を染める。
「もしも、目の前に現れたら?」紫の光だ……
「もしも……目の前に……?
見てみたいです」目を閉じ、顔を上げる。
「できるなら、乗ってみたい……」
「そうですか。なら、良かった」
アオが立ち上がり、手を大きく振った。
大きな影が留まる。
「踊り子さん、目を開けて」
「え……まあっ♪」
目の前に、藤紫の竜が降下した。
凜「フジに何を言いかけたの?」
黒「え? あ、サクラの事か?」
凜「そう」
黒「なんか……言葉には出来ねぇが……
なんだろな、ん~~、違和感?
なんか、そんなヤツだ」
凜「違和感ねぇ」
黒「な~んかなぁ、隠してる?
でもなぁ、サクラん坊が隠し事なんてなぁ
だから、言葉になんねぇんだよ」
凜「隠してたら、どうなの?」
黒「隠し事は嫌いだが……もし、そうだとしても
アオ絡みだろうからな~
責めるなんて出来ねぇよ。
それに、アイツにはヘラヘラ笑ってて
ほしいからな~」
凜「優しいのね~」
黒「えっ!? ばっ! ちげーよっ!」




